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6、聖人君子の顔をした大悪党
③
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「おいおい、何やってやがんだ」
しかし、さすがは教会。救いの神は存在したらしい。
(いや、この世界に神という概念が存在するのかどうかは知らないけど……)
あまりに美少女が騒ぐので、その声を聞きつけてその人は現れてくれたらしい。
銀の混ざった白髪をきっちりと一つにまとめ、教会の制服なのだろうか、美少女と同じ装飾の白地と濃い紫の荘厳な衣装に加え、頭には教皇がかぶるような高い帽子を冠している。
老齢だが、しゃっきりと伸ばされた背筋と高い身長からは、ある種の神聖さと威厳がにじみ出ていた。
切れ長の灰色の目が、こちらを眼光鋭く睨む。
「おう、騒がしいと思ったら、ユーゴじゃねぇか。息災か」
「お久しぶりです、セス先生」
ユーゴはゆっくりと典麗な礼をした。
その仕草は堂に入っていて美しい。
思わず憎らしく思っている莉々子が見ほれてしまうほどの華麗さに、アンナは言うまでもなくうっとりと見とれている。
(ああ、そうか、この子……)
その様子を見て、ようやっと莉々子は悟る。
(ユーゴ様に惚れてるのか……)
それならば、執拗に責められたことに納得が行く。しかしだ。
(可哀想に……)
莉々子は同情を禁じ得なかった。
だって、あまりにも趣味が悪すぎる。
ユーゴに惚れるとか、自分の人生を棒に振っているとしか思えない選択だ。
(だってこいつ、絶対恋人とか妻とか大切にしないタイプだぞ)
ここ数ヶ月で悟ったが、というか、召還された当初から思っていたことではあるが、ユーゴは典型的な実利主義の人間だ。
利益を得ることに価値を置いて行動できるタイプの計算高い人間。愛や情がないわけではないのだろうが、感情的なそれらを抑えて実質的な利益を優先させられる人間だ。
一般的な情動が理解できないわけではないが、理解した上で都合良く無視できる。
おそらく、伴侶にもそれを求めるだろう。
なんらかの利益をユーゴにもたらす存在をそばに置きたがるはずだ。
ある程度の賢しさからか、あからさまに利益ばかりを追求し、その相手の感情を蔑ろにはせず、どちらかというと相手が最大限の利益をもたらすように才能を発揮しやすい環境、関係性を築こうというスタンスは評価に値するが、その姿勢そのものを莉々子が好きか嫌いかと言えば、正直嫌いなタイプだ。
取捨選択できる立場にいるのならば、友達にはならない。
(こんなに美少女なのに、もっと他にいい人いるだろう……)
何かしら代わりの利かない技能やら立場やらがあればその立場を脅かす存在が現れない限りは一生涯に渡って大切に扱ってもらえるのかも知れないが、すぐにアンナの挨拶を切り上げセスに向かうユーゴのその態度を見る限りにおいては、そこまで重要視されている存在とも思えない。
ユーゴにとっては『アンナ』よりも『セス先生』のほうが優先順位が高い存在なのだろう。
「セス先生、こちら、リリィです。俺の母と内縁関係にあった人の娘で、血のつながりはありませんが、俺にとっては義姉にあたります」
「あねぇ……?」
「初めまして、リリィと申します。ユーゴがいつも大変お世話になっております」
いぶかしげな声を上げるセスに、莉々子は慌ててまるでユーゴの保護者かのような振る舞いで深々と頭を下げた。
教会に入る直前に、セスの説明は受けていた。
セスはユーゴがこの街に引き取られてきて、この街の知識や一般教養など、それこそ一から十まで色々なことを教えてくれた『先生』なのだという。
単純に教養深い人物というだけではなく、この街の顔役的な要素もある人物であり、勘の鋭い人物のためにくれぐれもぼろを出さないようにと念を押されたのだ。
ちなみに、その説明の中にアンナのことは特に含まれていなかった。この辺りにも二人に対するユーゴの認識の差が如実に現れている。
しかし、さすがは教会。救いの神は存在したらしい。
(いや、この世界に神という概念が存在するのかどうかは知らないけど……)
あまりに美少女が騒ぐので、その声を聞きつけてその人は現れてくれたらしい。
銀の混ざった白髪をきっちりと一つにまとめ、教会の制服なのだろうか、美少女と同じ装飾の白地と濃い紫の荘厳な衣装に加え、頭には教皇がかぶるような高い帽子を冠している。
老齢だが、しゃっきりと伸ばされた背筋と高い身長からは、ある種の神聖さと威厳がにじみ出ていた。
切れ長の灰色の目が、こちらを眼光鋭く睨む。
「おう、騒がしいと思ったら、ユーゴじゃねぇか。息災か」
「お久しぶりです、セス先生」
ユーゴはゆっくりと典麗な礼をした。
その仕草は堂に入っていて美しい。
思わず憎らしく思っている莉々子が見ほれてしまうほどの華麗さに、アンナは言うまでもなくうっとりと見とれている。
(ああ、そうか、この子……)
その様子を見て、ようやっと莉々子は悟る。
(ユーゴ様に惚れてるのか……)
それならば、執拗に責められたことに納得が行く。しかしだ。
(可哀想に……)
莉々子は同情を禁じ得なかった。
だって、あまりにも趣味が悪すぎる。
ユーゴに惚れるとか、自分の人生を棒に振っているとしか思えない選択だ。
(だってこいつ、絶対恋人とか妻とか大切にしないタイプだぞ)
ここ数ヶ月で悟ったが、というか、召還された当初から思っていたことではあるが、ユーゴは典型的な実利主義の人間だ。
利益を得ることに価値を置いて行動できるタイプの計算高い人間。愛や情がないわけではないのだろうが、感情的なそれらを抑えて実質的な利益を優先させられる人間だ。
一般的な情動が理解できないわけではないが、理解した上で都合良く無視できる。
おそらく、伴侶にもそれを求めるだろう。
なんらかの利益をユーゴにもたらす存在をそばに置きたがるはずだ。
ある程度の賢しさからか、あからさまに利益ばかりを追求し、その相手の感情を蔑ろにはせず、どちらかというと相手が最大限の利益をもたらすように才能を発揮しやすい環境、関係性を築こうというスタンスは評価に値するが、その姿勢そのものを莉々子が好きか嫌いかと言えば、正直嫌いなタイプだ。
取捨選択できる立場にいるのならば、友達にはならない。
(こんなに美少女なのに、もっと他にいい人いるだろう……)
何かしら代わりの利かない技能やら立場やらがあればその立場を脅かす存在が現れない限りは一生涯に渡って大切に扱ってもらえるのかも知れないが、すぐにアンナの挨拶を切り上げセスに向かうユーゴのその態度を見る限りにおいては、そこまで重要視されている存在とも思えない。
ユーゴにとっては『アンナ』よりも『セス先生』のほうが優先順位が高い存在なのだろう。
「セス先生、こちら、リリィです。俺の母と内縁関係にあった人の娘で、血のつながりはありませんが、俺にとっては義姉にあたります」
「あねぇ……?」
「初めまして、リリィと申します。ユーゴがいつも大変お世話になっております」
いぶかしげな声を上げるセスに、莉々子は慌ててまるでユーゴの保護者かのような振る舞いで深々と頭を下げた。
教会に入る直前に、セスの説明は受けていた。
セスはユーゴがこの街に引き取られてきて、この街の知識や一般教養など、それこそ一から十まで色々なことを教えてくれた『先生』なのだという。
単純に教養深い人物というだけではなく、この街の顔役的な要素もある人物であり、勘の鋭い人物のためにくれぐれもぼろを出さないようにと念を押されたのだ。
ちなみに、その説明の中にアンナのことは特に含まれていなかった。この辺りにも二人に対するユーゴの認識の差が如実に現れている。
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