猟犬リリィは帰れない ~異世界に転移したけどパワハラがしんどい~

陸路りん

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7.女神VS吸血鬼

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「エラントドラゴンの最終目撃情報は北方へと続く山脈の内の一つ、キリ山だ」

 方位磁石らしき方位を指し示す針の浮かんだ水晶玉のようなものを片手に迷いのない足取りで歩きながらユーゴは告げる。

「だからそこの山頂をまずは目指す」
「無理です」
「無理じゃない。可能だ」

 莉々子の泣き言はすっぱりと切り捨てられた。

(血も涙もない……)

 そうだ、こいつは鬼だった。吸血鬼、あるいは悪魔。
 うんざりとしながら意外にも軽めのリュックをずり落ちないように背負い直す。
 中には水筒や地図、毛布や防寒具、雨具が詰め込まれていた。
 ちなみにユーゴはいつもの仕込みステッキを片手に、そして腰に3つほど小さな袋をコートに隠すような形でくくりつけているだけだ。

「…………」
「なんだ?」
「…………いえ」

 まぁ、莉々子も別に、年下の子どもに荷物を背負わせようとは思わない。

(私は大人だからな!)

 これまでの経緯を考えるにやっぱり背負わせても良いような気もするが、莉々子が抗議することでユーゴが大人しく言うことを聞いて背負う可能性など万に一つもないため余計な抵抗は割愛する。

(いやいや、違う。私は自主的に背負っているのだ)

 そう、これは莉々子が不満を訴えた結果が実らなかったから荷物を背負っているのではない。莉々子が大人だから背負ってやっているのだ。
 誰がなんと言おうとそれが事実だ。

「今回の下見の目的だが、実際にエラントドラゴンの位置を確認することと、立地的にどこから攻撃を仕掛けるのが良いかを検討することだ」
「え、それ私要りますか?」

 思わず誰かに確認してきて貰えれば良いのでは……、との思考が過ぎる。

「十分に必要だ。貴様は今回のドラゴン狩りの作戦担当だろう。実際に目で見なければわからないことがあるはずだ」
「作戦担当だったんだ……、私……」

 当事者なのに今始めて知ってしまった。

(出来れば知りたくなかった……)

 なんだったら永遠に知らないままでいたかったし、聞かなかったことにしてしまいたい。

「戦略? 兵法? とか……? 私全然わかりませんけど」
「そんなものは貴様には期待していない。他にいくらでも詳しい者はいるだろうしな」
「……はぁ」
「貴様には貴様にしか出来ないことがあるだろう」
「……?」

 わけがわからず首をひねる莉々子に、ユーゴは呆れたようにため息をついた。

「貴様の世界の視点と知識で、どのようにしたら倒せるかを考えるのだ。ただの思いつきでもとっかかりでもいい。それを練り込んで実現にまで持って行くのは俺の役目だ」

 その言葉を咀嚼し、吟味した上で莉々子はゆっくりと口を開く。

「最初から最後まで全部お一人でやっていただくという案は……?」
「あると思うか?」
「ありませんよねー……」

 諦観と共に遅れないようにと前方を歩くユーゴに着いていく。とはいえ、もうすでに莉々子の息は上がっており、正直非常にきつい。

(早く終われ……)

 帰ったら莉々子は風呂に入って寝るのだ。この世界の良い所は風呂があるところだけだと言っても過言ではないと莉々子は思う。さっさと終わらせてさっさと帰ってとにかくふて寝していたい。そんなことを考えていると、どこかで何かの声のようなものが聞こえた。

「…………?」

 耳を澄ます。それはライオンの咆吼のような獣の鳴き声だった。

(ライオンのものにしてはちょっと低くて鼻にかかった共鳴しているような声だけど……)

 まるで口腔や咽頭部分がライオンよりも大きな動物が発している声のようだ。

「居るな」
「何がですか?」
「エラントドラゴンだ」

 そうユーゴが告げるのと同時に、頭上を何か巨大なものが通過した。
 岩のようだと思ったそれは、岩のように固い鱗を持った灰色の何かだ。
 空を覆い尽くすほどに巨大な体躯、その身体を支える力強い翼、そしてしなやかに泳ぐ長い尾。
 飛翔するために羽ばたいた翼の風圧で周囲に砂埃が舞い上がり、木の葉が舞った。
 砂が目に入らぬように手を掲げ、転ばないように身体を踏ん張ってそれを見上げる。

「あれが……、エラントドラゴン……」

(これを倒すとか……)

「いや、無理じゃない……?」

 莉々子が呆然と呟くのと同時にドラゴンの尾が振り下ろされた。それは莉々子には当たらなかったものの、その足場を派手に崩す。

「…………えっ」
「リリィ……っ!!」

 ユーゴの手が伸ばされて莉々子の服を掴む。引き寄せられた、と思った次の瞬間には、二人の身体は切り崩された足場ごと、闇の中へと吸い込まれていった。

(うじゃうじゃいる……)

 最後に振り仰いだ空には巨大なエラントドラゴンの周囲に小さな身体をした青いドラゴンが青空に紛れてたくさん飛んでいた。
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