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第2章 人狼さん、冒険者になる
38話 人狼さん、狩りをする
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さて、どうやって片付けていこうか。
出来るだけヒナや舞ちゃんが安全でいられるように戦いたい。これは譲れないよね。
先ずはヒナ達を中心にして、周囲のオーク達を狩ってくのが良さそうだ。
で、徐々に範囲を広げていこう。
取りあえず救援要請してきた人から助けていくのがいいのかな。
声をかけてきた冒険者へと目をやると、なかなかの接戦を繰り広げている。他は複数でオークを相手にしているのに、彼だけ一対一の戦いとなっているせいで苦戦中のようだ。
そりゃ応援を呼ぶよねと納得し、交戦中の彼の元へ歩み寄り、そのまま背後からオークの背中を貫く。
「ガァ……ッ」
一瞬声を上げかけるが、そのまま力なく地面に倒れこんでいく。
生きている気配が無くなったそれから血まみれの腕を引き抜き、周囲を見回しながら次の獲物を見繕う。
出来れば先にハイオークを倒しておきたいんだけどな。
「一撃かよ……」
唖然としたその声に目を向けると、一瞬怯んだ冒険者と目が合った。
あれ? この人、どこかで見たことがあるような?
あっ! 思い出したよ。初日に城門前で話をした冒険者の人だ。この人だけ会話してくれたんだよね。
ついガン見してしまい、明らかに警戒されてしまう。おっと、不味い。
「怪我は?」一応、敵意が無いことを示すために声をかけてみる。
「あ、ああ。無い。すまんな」
「そうか。なら良かった」
動揺しながらも礼を言う男にそう返し、そのまま次の獲物に向かって身を翻す。
のんびり話している状況でもないし、さっさと綺麗に片づけてヒナの元へ戻ろう。
ヒナの安全を確認した私としては焦る必要がなくなったので、残りは消化試合のようなものだ。
辺りを見回し、好き勝手に暴れまわっているオークの数を数えていると、自然と口が弧を描いていることに気づく。
まぁ、仕方ないよね。人狼は血の気が多いんだもん。
さあて、大好きな狩りでも始めようか。
楽しい時間の始まりだ。
◆◆◆◆◆◆◆◆
「なあ、あんた。あれはやり過ぎじゃないのか」
「そうだな、皆かなり引いていたな」
楽しい狩りの時間があっという間に終わり、何故かさっき助けた冒険者と騎士団の団長だという男性に説教を受けている私。
どうしてこうなった。
「だよな。あれじゃ、初めてあんたを見た奴らも誤解するぜ……それじゃなくても怖がられてるのによ」
「正直俺も事前に聞いていなければ、君の側には寄らなかっただろうな」
「……」
魔物を殲滅し一段落した今は、関係者全員が街の兵士の詰め所にやって来ている。
いわゆる事後処理というやつだね。
けがの治療や現場検証というやつで、外にテント迄張りだし賑わっている。
そんな中で、周囲のドン引きな視線を一気に受けている為、反論できないでいる状況だ。
……だって、しょうがないじゃん! 久しぶりの狩りだったんだもん。
狼っていうか、人狼は狩りが大好きなんだよ。目の前に獲物が沢山いたら、テンション上がっちゃう種族だから仕方ないんだよ。
なんて弁解したら更に引かれそうなので、口には出さない。
ちゃんと空気が読める私、偉い。
いや、偉かったらこんなことにはなってないね。うん。
っていうか、そんなに酷かったかなぁ……。一人でほぼ全滅させたただけなのに。
「まあまあ。彼のおかげで被害は最低限で済みましたし、良かったじゃないですか」
「そうですよ。クロウさん……でしたか? 貴方が彼女をすぐに運んでくださったので、一命を取り留めることが出来ました。本当に感謝しております」
鈴を転がすような軽やかな声で、若い女性二人が微笑みながら取り成してくれる。
ついでに周囲の野次馬もさり気なく追い払ってくれ、素晴らしく気が利く女性達だと感激する。
話によると、彼女達は街の神殿の回復師で、今回の収拾に手を貸すために出向いてきたのだそうだ。
私を見ても怯まず治療を優先した彼女達を見て、本物のプロだと内心感嘆したのだ。
「確かに君が気づいてくれたから良かったものの、まさか魔力枯渇とは……」
難しい顔をした団長がそう呟く。
そうなのだ。舞ちゃんが倒れていた原因は魔力枯渇。
魔物を殲滅したあとにヒナの元に戻ると、意識を失った舞ちゃんに必死に声をかけるヒナがいた。
その時に舞ちゃんが回復師で、倒れるまで怪我人に回復をかけていたと聞き、慌てて鑑定すると魔力枯渇で死にかけていることが判明。
そのままヒナに説明し半狂乱になったのを宥め、舞ちゃんをお姫様抱っこして詰め所にヒナと共に駆け込んだのだった。
「あいつら、ここに来てまだひと月だからな。魔力の配分が分からなかったんだろうな。まぁ、間に合ったからいいけどよ」
やれやれと冒険者の男性が首を振る。
うん、本当に間に合って良かったよ。
詰め所に駆け込んだら偶然到着したばかりの彼女達と出会い、そのまま診てもらうことが出来た。
そして魔力回復の薬を処方してもらったのだ。
もう大丈夫ですよと言われ、そのまま緊張の糸が切れたのか、ヒナまで気を失ってしまったけどね。
今は二人とも、隣の部屋のベットで仲良く眠っている状態だ。
「さて、それでは次は、外の仮設テントへ治療に行きましょうか。皆さんはお怪我はありませんか?」
「俺達は問題無い。外のやつらの手足をくっつけてやってくれ」
私と冒険者の男をざっと見、確認したあと団長が口を開く。
「わかりました。では失礼させていただきますね」
そう言って、回復師の二人が頷き外へと出て行く。
どうやら彼女達は、欠損部位を治せるほどの回復師らしい。どちらも二十代半ばに見えるけど、若いのに凄いよね。
これからが、彼女達の本腰入れた仕事になるんだろう。大変だ。
「? そういえば血まみれだが、大丈夫なのか?」
黒い制服の為気づかなかったが、団長の男性から濃厚な血の臭いが漂っているのに気づく。
周辺が血まみれなので、血の臭いに鈍感になってしまっているようだ。今更気づくとは、随分と鼻が馬鹿になってるらしい。
「ああ、俺は回復ポーションで完治させたからな。問題無いぞ」
そう言って、にかりと笑いながら右腕を叩く。
そこに目をやると、肘から下の袖が綺麗に切れているのが見えた。どうやら一度、腕を切り落とされたらしい。
……本当にくっつくんだね。ポーション凄いな。
「さて、俺も残りの仕事をしてくるか。今回は協力ありがとうな。おかげで最小限で抑えられた。次も頼む」
そう言いながら肩を軽く叩かれる。
おぉ、騎士団の団長さんにお礼を言われちゃったよ。
代替えしたばかりなのかまだ若いとは言え、そんなに気さくでいいのかな。見た感じ、冒険者とは協力関係にあるようだから、ある程度仲がいいのかもね。
「それじゃ、俺達もギルドに戻ろうぜ」
団長を見送った後、当たり前のように促され、思わず「そうだな」と素で返してしまう。
あれ? 私達って、知り合いでも何でもないよね?
内心首を傾げながら肩を並べてギルドへ向かう。
「そういや、あんたにちゃんと礼を言ってなかったな」
「礼? 何かあったか?」
「俺を助けたろーが。ったく」
「そういえばそんなこともあったな」
「おう。まあなんだ、あの時はありがとうな」
若干赤くなった顔を逸らしながら男が口にする。
え、なにコレ。なんか凄い嬉しいんだけど。
「当たり前のことをしただけだ。が、礼はありがたく受け取っておこう」
「そうしてくれ。あのままだったらどうなってたか分からないからな。礼でいいならいくらでも言えるぜ」
「そうか」
そう言われると、張り切ってオーク達を狩ったのも悪くなかったかな。
ヒナ達や街も無事だったし、ついでにイヴァリースの計画にも添えたんじゃないだろうか。
結局ヒナには名乗れなかったけど、こうやって街の住人に歩み寄って貰えたのは本当に嬉しい。
特に怖がられていた冒険者に、という所が大きいよね。
こうやって、これからも色々と改善していけるといいんだけどな。
出来るだけヒナや舞ちゃんが安全でいられるように戦いたい。これは譲れないよね。
先ずはヒナ達を中心にして、周囲のオーク達を狩ってくのが良さそうだ。
で、徐々に範囲を広げていこう。
取りあえず救援要請してきた人から助けていくのがいいのかな。
声をかけてきた冒険者へと目をやると、なかなかの接戦を繰り広げている。他は複数でオークを相手にしているのに、彼だけ一対一の戦いとなっているせいで苦戦中のようだ。
そりゃ応援を呼ぶよねと納得し、交戦中の彼の元へ歩み寄り、そのまま背後からオークの背中を貫く。
「ガァ……ッ」
一瞬声を上げかけるが、そのまま力なく地面に倒れこんでいく。
生きている気配が無くなったそれから血まみれの腕を引き抜き、周囲を見回しながら次の獲物を見繕う。
出来れば先にハイオークを倒しておきたいんだけどな。
「一撃かよ……」
唖然としたその声に目を向けると、一瞬怯んだ冒険者と目が合った。
あれ? この人、どこかで見たことがあるような?
あっ! 思い出したよ。初日に城門前で話をした冒険者の人だ。この人だけ会話してくれたんだよね。
ついガン見してしまい、明らかに警戒されてしまう。おっと、不味い。
「怪我は?」一応、敵意が無いことを示すために声をかけてみる。
「あ、ああ。無い。すまんな」
「そうか。なら良かった」
動揺しながらも礼を言う男にそう返し、そのまま次の獲物に向かって身を翻す。
のんびり話している状況でもないし、さっさと綺麗に片づけてヒナの元へ戻ろう。
ヒナの安全を確認した私としては焦る必要がなくなったので、残りは消化試合のようなものだ。
辺りを見回し、好き勝手に暴れまわっているオークの数を数えていると、自然と口が弧を描いていることに気づく。
まぁ、仕方ないよね。人狼は血の気が多いんだもん。
さあて、大好きな狩りでも始めようか。
楽しい時間の始まりだ。
◆◆◆◆◆◆◆◆
「なあ、あんた。あれはやり過ぎじゃないのか」
「そうだな、皆かなり引いていたな」
楽しい狩りの時間があっという間に終わり、何故かさっき助けた冒険者と騎士団の団長だという男性に説教を受けている私。
どうしてこうなった。
「だよな。あれじゃ、初めてあんたを見た奴らも誤解するぜ……それじゃなくても怖がられてるのによ」
「正直俺も事前に聞いていなければ、君の側には寄らなかっただろうな」
「……」
魔物を殲滅し一段落した今は、関係者全員が街の兵士の詰め所にやって来ている。
いわゆる事後処理というやつだね。
けがの治療や現場検証というやつで、外にテント迄張りだし賑わっている。
そんな中で、周囲のドン引きな視線を一気に受けている為、反論できないでいる状況だ。
……だって、しょうがないじゃん! 久しぶりの狩りだったんだもん。
狼っていうか、人狼は狩りが大好きなんだよ。目の前に獲物が沢山いたら、テンション上がっちゃう種族だから仕方ないんだよ。
なんて弁解したら更に引かれそうなので、口には出さない。
ちゃんと空気が読める私、偉い。
いや、偉かったらこんなことにはなってないね。うん。
っていうか、そんなに酷かったかなぁ……。一人でほぼ全滅させたただけなのに。
「まあまあ。彼のおかげで被害は最低限で済みましたし、良かったじゃないですか」
「そうですよ。クロウさん……でしたか? 貴方が彼女をすぐに運んでくださったので、一命を取り留めることが出来ました。本当に感謝しております」
鈴を転がすような軽やかな声で、若い女性二人が微笑みながら取り成してくれる。
ついでに周囲の野次馬もさり気なく追い払ってくれ、素晴らしく気が利く女性達だと感激する。
話によると、彼女達は街の神殿の回復師で、今回の収拾に手を貸すために出向いてきたのだそうだ。
私を見ても怯まず治療を優先した彼女達を見て、本物のプロだと内心感嘆したのだ。
「確かに君が気づいてくれたから良かったものの、まさか魔力枯渇とは……」
難しい顔をした団長がそう呟く。
そうなのだ。舞ちゃんが倒れていた原因は魔力枯渇。
魔物を殲滅したあとにヒナの元に戻ると、意識を失った舞ちゃんに必死に声をかけるヒナがいた。
その時に舞ちゃんが回復師で、倒れるまで怪我人に回復をかけていたと聞き、慌てて鑑定すると魔力枯渇で死にかけていることが判明。
そのままヒナに説明し半狂乱になったのを宥め、舞ちゃんをお姫様抱っこして詰め所にヒナと共に駆け込んだのだった。
「あいつら、ここに来てまだひと月だからな。魔力の配分が分からなかったんだろうな。まぁ、間に合ったからいいけどよ」
やれやれと冒険者の男性が首を振る。
うん、本当に間に合って良かったよ。
詰め所に駆け込んだら偶然到着したばかりの彼女達と出会い、そのまま診てもらうことが出来た。
そして魔力回復の薬を処方してもらったのだ。
もう大丈夫ですよと言われ、そのまま緊張の糸が切れたのか、ヒナまで気を失ってしまったけどね。
今は二人とも、隣の部屋のベットで仲良く眠っている状態だ。
「さて、それでは次は、外の仮設テントへ治療に行きましょうか。皆さんはお怪我はありませんか?」
「俺達は問題無い。外のやつらの手足をくっつけてやってくれ」
私と冒険者の男をざっと見、確認したあと団長が口を開く。
「わかりました。では失礼させていただきますね」
そう言って、回復師の二人が頷き外へと出て行く。
どうやら彼女達は、欠損部位を治せるほどの回復師らしい。どちらも二十代半ばに見えるけど、若いのに凄いよね。
これからが、彼女達の本腰入れた仕事になるんだろう。大変だ。
「? そういえば血まみれだが、大丈夫なのか?」
黒い制服の為気づかなかったが、団長の男性から濃厚な血の臭いが漂っているのに気づく。
周辺が血まみれなので、血の臭いに鈍感になってしまっているようだ。今更気づくとは、随分と鼻が馬鹿になってるらしい。
「ああ、俺は回復ポーションで完治させたからな。問題無いぞ」
そう言って、にかりと笑いながら右腕を叩く。
そこに目をやると、肘から下の袖が綺麗に切れているのが見えた。どうやら一度、腕を切り落とされたらしい。
……本当にくっつくんだね。ポーション凄いな。
「さて、俺も残りの仕事をしてくるか。今回は協力ありがとうな。おかげで最小限で抑えられた。次も頼む」
そう言いながら肩を軽く叩かれる。
おぉ、騎士団の団長さんにお礼を言われちゃったよ。
代替えしたばかりなのかまだ若いとは言え、そんなに気さくでいいのかな。見た感じ、冒険者とは協力関係にあるようだから、ある程度仲がいいのかもね。
「それじゃ、俺達もギルドに戻ろうぜ」
団長を見送った後、当たり前のように促され、思わず「そうだな」と素で返してしまう。
あれ? 私達って、知り合いでも何でもないよね?
内心首を傾げながら肩を並べてギルドへ向かう。
「そういや、あんたにちゃんと礼を言ってなかったな」
「礼? 何かあったか?」
「俺を助けたろーが。ったく」
「そういえばそんなこともあったな」
「おう。まあなんだ、あの時はありがとうな」
若干赤くなった顔を逸らしながら男が口にする。
え、なにコレ。なんか凄い嬉しいんだけど。
「当たり前のことをしただけだ。が、礼はありがたく受け取っておこう」
「そうしてくれ。あのままだったらどうなってたか分からないからな。礼でいいならいくらでも言えるぜ」
「そうか」
そう言われると、張り切ってオーク達を狩ったのも悪くなかったかな。
ヒナ達や街も無事だったし、ついでにイヴァリースの計画にも添えたんじゃないだろうか。
結局ヒナには名乗れなかったけど、こうやって街の住人に歩み寄って貰えたのは本当に嬉しい。
特に怖がられていた冒険者に、という所が大きいよね。
こうやって、これからも色々と改善していけるといいんだけどな。
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