元女子高生ですが、異世界で人狼(男)やってます! ~人狼さんと錬金術師の卵~

涼波

文字の大きさ
37 / 42
第2章 人狼さん、冒険者になる

37話 人狼さん、ヒナを助ける

しおりを挟む
 街へ続く平地の道を無言でひた走り、ようやく索敵範囲に反応が現れだす。
 今の所魔物の数は十以上。人間はその倍はいるだろうか。
 このまま進めば対峙する位置だ。
 なんて素晴らしい配置。このまま殴り込もう。

 それと同時に遠くにだが灰色の城壁が見え、目的地が視認できたことに安堵する。
 このままいけば、目的地まであと数分もかからない。
 二足歩行の狼となった今は、人型では追い付けない速さで駆けることが出来るのだ。
 そんな周囲の景色が流れるように過ぎていく中、頭の中で先程の会話を思い出す。
 
 街が魔物に襲われているのは、まぁ分かる。
 魔物が徘徊する世界だし、城壁を作って街を守るのがここでは普通らしい。ならば襲われることもあるだろう。
 が、何故そこにヒナがいるのか。
 今日は冒険者業は休みだと、確かに言っていたのだ。なのに街の外に出ているとか、意味が分からない。どうしてそうなった。
 兎に角、今まさに魔物に襲われているのは確実なので、間に合わせる為にも死ぬ気で走るしかない。

(どうか私が着くまで無事でありますように!)

 初めてこの世界の神であるイヴァリースに祈りながら、整備された道を駆け抜ける。
 これでヒナに何かあったら、絶っ対に許さん。

 そうして、ようやくたどり着いた街の城門前。
 一旦立ち止まり、少し離れた場所から現状を確認する。
 城壁を背景に、魔物相手に戦っている人間達。
 魔物は二十匹ほどのオークの群れだ。
 それに応戦する人間達が倍の数ほど見える。

「……っ!!」

 豚のような頭を乗せた二足歩行の魔物、いわゆるオークという名の魔物達が人間相手にこん棒を振り下ろし、なぎ倒している。
 盾を使い応戦している騎士や打ち合う冒険者、その間を丸腰の一般人が逃げ惑う。
 そこに漂う血の臭いが凄まじく、眉を顰める。

 ヒナ達は?
 どこ?
 
 喧騒の中耳を澄ますが、ヒナの声は聞こえない。
 カオスな戦場となっている中、城門はぴたりと閉ざされている。
 門が閉まる前に逃げ込めたのならいいけど、聞こえた内容からすると無理だったはず。
 小柄なヒナが、動けない舞ちゃんを背負えるはずが無い。
 そしてあの子の性格上、友人を見捨てるなんてことは出来ない。
 なら、この場にいるはずだ。
 生きてこの場にいるはずなのだ。

 目の前でオークに襲われる冒険者が目に入り、そのまま走り込んで後ろから勢いよく首を刎ねる。
 ついでに近場のオークの腹を裂き、心臓を抉る。
 獣化すると素手で応戦出来る為、武器自体が邪魔になる。鋭利で丈夫な爪とその怪力だけで十分だ。

「おい、オークが簡単にやられたぞ?!」

「なっ……黒い狼?! 届けのあった黒狼か!」

「ああ。多分うちのギルドに登録してるやつだ。……助かった!」

 私を指さし次々と声が上がる。
 敵認定されないのはいいけど、まだ戦いの最中だよ。みんな気を抜いたらダメだって。
 それよりヒナはどこに……あぁ、いた!

 かなり離れた城門付近で、倒れた人間を抱えようと一人苦戦している姿が視界に入る。
 どうやら抱え起こそうとしているのは、一緒に会話していた舞ちゃんっぽい。

(良かった無事、え?!)

 安否を確認し一息ついたのと同時に、ヒナの背後に迫る一匹のハイオークを視認する。
 全く気付いていないヒナに慌てて駆け付けようと走り出すが、距離的に無理過ぎる。

(ヒナ!)
 
「……っ!」

 心の中で叫ぶのと同時に声をあげるが、口から出たのは微かなうめき声。
 急すぎると人間って声が出ないもんなんだ。

 ハイオークがヒナの背後に立ち、剣を握った腕を振り上げる。
 舞ちゃんを気にしているヒナは、背後の気配に全く気付いていない。
 一部始終がスローで見えるのに、私とヒナの距離は縮まらない。少しでも届くようにと腕を伸ばすが、その距離に絶望する。

――誰か、ヒナを助けて!

固定ロック

 え?
 頭に声が響いたのと同時に、意識の一部が影に潜る。
 戸惑う私を置いて影が勝手に地面を這い、そのままハイオークの足に黒い鎖となって絡みついた。

拘束リストレイント

 更に響いた声に反応した影が、何本も地面から躍り出てハイオークを雁字搦めにしていく。
 剣を振り上げた腕にも鎖が絡みつき、唸り声を上げながら抵抗するハイオークが黒い鎖達に拘束された。

 え。なにこれ。何が起こってるの。
 背後にようやく気づいたヒナの悲鳴を聞きながらも、体は走り続けてハイオークの間合いに入る。

(さっさととどめを刺せ。未熟者)

 呆れた声に我に返り、慌てて目の前に迫ったハイオークの喉を掻き切った。
 立ち止まり、大量の血が吹き出し痙攣する姿を確認しながら周囲を見渡すが、声の主らしき人物はいない。
 それもそのはず、頭の中に直接響いたわけだから、人がいるわけ無いのだ。

 ありえない。ありえないけど、現実だ。
 あの声のおかげで影が使えた……というか、勝手に発動した。よね。
 この感じ、覚えがあり過ぎる。
 心当たりがあるとすれば、ニケとの会話で判明したこの体のオリジナル。
 彼以外に該当する人物はいないだろう。
 
(えーと、もしかしてユーシス、さん?)

 心の中で問いかけるが、返事は返ってこない。
 ただ、呆れたかのような感情が湧き、そのまま霧散していく気配があった。
 ……そうだった。
 最初の頃から助けてくれていたよね。
 私の代わりに戦ってくれていて、徐々に私に主導権を渡してくれた。そして今も手に負えなくなった私の代わりに、手助けしてくれたんだ。

 ありがたいけど、よく考えたらこれって普通じゃない。
 この現象って、復元したせいなのかな? 
 というか、魂の無い体だってイヴァリースは言っていたけど、本当は残っているんじゃないの? ユーシスの魂。

 もう一度意識の中を探ってみるけど、さっきまでいた気配はすっかり消えてしまっている。
 魂じゃないとしたら、ユーシスの体が覚えている記憶なのかな。うーん。
 ちょっと私にはこの現象を説明するのは難しい。
 取りあえず、この体は私を助けてくれるのは間違いない。問題無いからこのままでもいいか。うん。

「おい、あんた! 余裕があるなら手伝ってくれ!」

 私にかけられた切羽詰まった声に、意識が戻る。
 おっと、不味い。まだ魔物は全滅して無かったんだ。
 次の獲物へと向かう前に、ヒナの安否を確認しようと視線を向ける。

 そこには舞ちゃんを抱え、唖然とした顔で私を見上げるヒナがいた。
 あー、そうだよね。二足歩行の狼なんて、見たこと無いよね。
 驚くのも無理ないか。
 さて、どうしよう。
 この場合、なんて声をかければいいんだ。
 取りあえずは魔物の殲滅が先か。話すのは落ち着いてからでいいよね。多分。

 声をかけて怖がられるのも何なので、無言で視線を剥がし身を翻す。
 残り一匹のハイオークを倒して、オークもさっさと殲滅させよう。
 獣化したままだと怯えられそうだから、せめて人型に戻って話かけたい。

 出来れば怖がらずに話を聞いてくれるといいんだけどな。
 でも、人型も結構な強面だからなぁ。
 引かれないといいんだけど。
 


 

しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

安全第一異世界生活

ファンタジー
異世界に転移させられた 麻生 要(幼児になった3人の孫を持つ婆ちゃん) 新たな世界で新たな家族を得て、出会った優しい人・癖の強い人・腹黒と色々な人に気にかけられて婆ちゃん節を炸裂させながら安全重視の異世界冒険生活目指します!!

クラス転移したら種族が変化してたけどとりあえず生きる

アルカス
ファンタジー
16歳になったばかりの高校2年の主人公。 でも、主人公は昔から体が弱くなかなか学校に通えなかった。 でも学校には、行っても俺に声をかけてくれる親友はいた。 その日も体の調子が良くなり、親友と久しぶりの学校に行きHRが終わり先生が出ていったとき、クラスが眩しい光に包まれた。 そして僕は一人、違う場所に飛ばされいた。

異世界で家をつくります~異世界転移したサラリーマン、念動力で街をつくってスローライフ~

ヘッドホン侍
ファンタジー
◆異世界転移したサラリーマンがサンドボックスゲームのような魔法を使って、家をつくったり街をつくったりしながら、マイペースなスローライフを送っていたらいつの間にか世界を救います◆ ーーブラック企業戦士のマコトは気が付くと異世界の森にいた。しかし、使える魔法といえば念動力のような魔法だけ。戦うことにはめっぽう向いてない。なんとか森でサバイバルしているうちに第一異世界人と出会う。それもちょうどモンスターに襲われているときに、女の子に助けられて。普通逆じゃないのー!と凹むマコトであったが、彼は知らない。守るにはめっぽう強い能力であったことを。 ※「カクヨム」「小説家になろう」にも掲載しています。

異世界あるある 転生物語  たった一つのスキルで無双する!え?【土魔法】じゃなくって【土】スキル?

よっしぃ
ファンタジー
農民が土魔法を使って何が悪い?異世界あるある?前世の謎知識で無双する! 土砂 剛史(どしゃ つよし)24歳、独身。自宅のパソコンでネットをしていた所、突然轟音がしたと思うと窓が破壊され何かがぶつかってきた。 自宅付近で高所作業車が電線付近を作業中、トラックが高所作業車に突っ込み運悪く剛史の部屋に高所作業車のアームの先端がぶつかり、そのまま窓から剛史に一直線。 『あ、やべ!』 そして・・・・ 【あれ?ここは何処だ?】 気が付けば真っ白な世界。 気を失ったのか?だがなんか聞こえた気がしたんだが何だったんだ? ・・・・ ・・・ ・・ ・ 【ふう・・・・何とか間に合ったか。たった一つのスキルか・・・・しかもあ奴の元の名からすれば土関連になりそうじゃが。済まぬが異世界あるあるのチートはない。】 こうして剛史は新た生を異世界で受けた。 そして何も思い出す事なく10歳に。 そしてこの世界は10歳でスキルを確認する。 スキルによって一生が決まるからだ。 最低1、最高でも10。平均すると概ね5。 そんな中剛史はたった1しかスキルがなかった。 しかも土木魔法と揶揄される【土魔法】のみ、と思い込んでいたが【土魔法】ですらない【土】スキルと言う謎スキルだった。 そんな中頑張って開拓を手伝っていたらどうやら領主の意に添わなかったようで ゴウツク領主によって領地を追放されてしまう。 追放先でも土魔法は土木魔法とバカにされる。 だがここで剛史は前世の記憶を徐々に取り戻す。 『土魔法を土木魔法ってバカにすんなよ?異世界あるあるな前世の謎知識で無双する!』 不屈の精神で土魔法を極めていく剛史。 そしてそんな剛史に同じような境遇の人々が集い、やがて大きなうねりとなってこの世界を席巻していく。 その中には同じく一つスキルしか得られず、公爵家や侯爵家を追放された令嬢も。 前世の記憶を活用しつつ、やがて土木魔法と揶揄されていた土魔法を世界一のスキルに押し上げていく。 但し剛史のスキルは【土魔法】ですらない【土】スキル。 転生時にチートはなかったと思われたが、努力の末にチートと言われるほどスキルを活用していく事になる。 これは所持スキルの少なさから世間から見放された人々が集い、ギルド『ワンチャンス』を結成、努力の末に世界一と言われる事となる物語・・・・だよな? 何故か追放された公爵令嬢や他の貴族の令嬢が集まってくるんだが? 俺は農家の4男だぞ?

アリエッタ幼女、スラムからの華麗なる転身

にゃんすき
ファンタジー
冒頭からいきなり主人公のアリエッタが大きな男に攫われて、前世の記憶を思い出し、逃げる所から物語が始まります。  姉妹で力を合わせて幸せを掴み取るストーリーになる、予定です。

神様!スローライフには準備が多すぎる!

わか
ファンタジー
超超超ご都合主義 人に興味が無い社会人の唯一の趣味が な〇う系やアルファポリスでファンタジー物語を、ピッ〇マやLIN〇漫画で異世界漫画を読み漁る事。 寝る前にはあるはずないのに 「もし異世界に転生するならこのスキルは絶対いるしこれもこれも大事だよね」 とシュミレーションして一日が終わる。 そんなどこでもいる厨二病社会人の ご都合主義異世界ファンタジー! 異世界ファンタジー系物語読みまくってる私はスローライフがどれだけ危険で大変か知ってます。

出来損ない貴族の三男は、謎スキル【サブスク】で世界最強へと成り上がる〜今日も僕は、無能を演じながら能力を徴収する〜

シマセイ
ファンタジー
実力至上主義の貴族家に転生したものの、何の才能も持たない三男のルキウスは、「出来損ない」として優秀な兄たちから虐げられる日々を送っていた。 起死回生を願った五歳の「スキルの儀」で彼が授かったのは、【サブスクリプション】という誰も聞いたことのない謎のスキル。 その結果、彼の立場はさらに悪化。完全な「クズ」の烙印を押され、家族から存在しない者として扱われるようになってしまう。 絶望の淵で彼に寄り添うのは、心優しき専属メイドただ一人。 役立たずと蔑まれたこの謎のスキルが、やがて少年の運命を、そして世界を静かに揺るがしていくことを、まだ誰も知らない。

勝手に召喚され捨てられた聖女さま。~よっしゃここから本当のセカンドライフの始まりだ!~

楠ノ木雫
ファンタジー
 IT企業に勤めていた25歳独身彼氏無しの立花菫は、勝手に異世界に召喚され勝手に聖女として称えられた。確かにステータスには一応〈聖女〉と記されているのだが、しばらくして偽物扱いされ国を追放される。まぁ仕方ない、と森に移り住み神様の助けの元セカンドライフを満喫するのだった。だが、彼女を追いだした国はその日を境に天気が大荒れになり始めていき…… ※他の投稿サイトにも掲載しています。

処理中です...