天狐あやかし秘譚

Kalra

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第17話:鬼子母神

第89章:貪愛瞋憎(どんないしんぞう)

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♡ーーーーー♡
【貪愛瞋憎】貪ること、執着すること、怒ること、憎むことの四つ煩悩を表す言葉。
こだわって、腹を立てて憎んで・・・それじゃあ救われないよ、みたいな。
♡ーーーーー♡

「こ・・・これ・・・本当に奢りで食べていいんすか!?」
田久保が、じゅるりと涎をすすらんばかりの表情で目の前の食事を見つめていた。

昼下り、仙台駅にほど近い牛タン専門店で、日暮、九条、田久保の三人はひとつのテーブルを囲んでいる。

九条と田久保の前には、この店の最高級の定食である『上撰極厚 真ん中たん定食(5枚15切れ)』が焼き立てのいい匂いを放っていた。運んできた店員によれば、牛たんの中で一番柔らかい希少部位を贅沢に厚切りにした逸品だそうだ。ちなみに、最初、日暮は『5枚15切れは多いから3枚でも・・・』などとやんわり言ったのだが、二人は強硬に『5枚!』と主張したという経緯がある。

方や日暮の前には『お得!丸たん定食』が置かれていた。もちろん美味しそうなのではあるが、他の二人の前にある肉厚でジューシーな牛タンと比べると、なんだか『ぺらっ』としており、やや・・・いや、かなり見劣りがする。

いただきまーすと食べ始めるのであるが、二人が『うまい、うまい』と食べる姿を箸を咥えて羨ましそうに見つめる日暮の表情には、切なさを通り越して、もはや無常感にも似た風情が漂っていた。

「あー!!おいしかったあ!!」

ことりと、田久保が湯呑みを置く。途中、何度も日暮が『あ・・・』とか『ちょっとは、私にも・・・』などと言ってはいたが、それは華麗にスルーされていた。最後に出されたデザートのシャーベットを平らげ、番茶で口をさっぱりさせた二人は、いたく満足そうであった。

「お会計、3人様ご一緒でよろしいですか?・・・はい、1万3千600円となります」
にこやかな店員にいじらしく財布から小銭をちょこちょこ出しつつ日暮は料金を支払う。そんな彼女を尻目に、二人は外に出て、仙台の町並みを眺めていた。

「仙台といえば七夕祭りですが・・・いささか早すぎましたか?」
「あ!九条さん・・・七夕祭りと言っても、仙台のそれは8月6日から8日なんですよ?今はまだ6月にすらなっていませんからねぇ」
「そうなんですね・・・そうか、旧暦の7月7日・・・いや、それにしては早いな」
「一説によると、お盆や稲刈りの時期に合わせたっていう説がありますね。そもそも、普通、七夕は女子が裁縫や字が上手になるようにと祈ったのが始まりですが、ここ仙台では武芸上達を願うという、いささか勇ましい意味が込められているのです」
「へえ・・・それは知らなかったなあ」
「私、こういうの詳しいんです」
「さすが暦部門ですね」
「ははは・・・」「ふふふ・・・」

なんだか楽しそうに話している二人の間をズイと割って、日暮が店から出てきた。表情はやや固く何やら『今月はタダでさえキョウキュウカタなのに・・・。ここは、少しオフセを控えるか・・・いや、カジ様の特典つきは外せない・・・アクスタもまだ手つかず・・・ううん・・・うううん・・・』などと田久保や九条には解読不能な言葉を呟いていた。

「ええっと・・・」
その発している異常なオーラを前に、九条が声をかけあぐねていると、突然日暮が顔を起こす。

「ええい!そんな事を言っている場合ではないですね!御九里さん!今、今、このミスリンが参りますから!!!」

そして、ぎゅんと二人の方に顔を向けると、
「特選牛タン、食べましたね!?美味しかったですね!?」
と詰め寄ってくる。その勢いに二人はのけぞり気味に無言で頷くことになる。
「では・・・行きますからね!?いいですね?働いてくださいね!!」

その謎の迫力に、二人はまたしても無言で頷くことしかできなかった。

☆☆☆
「鬼々夜叉神 太陰 生門 荒御魂来世!
 おいで!にゃんこーず!!」

「「にゃあああっ!!!」」

日暮がバサリとばらまいた符の一枚一枚が空中で黒猫に変わり、瞬く間にそこらじゅうが黒猫だらけになる。

ここは仙台駅から徒歩10分ほどのところにあるビジネスホテルの屋上である。メンバーをそこに導くと、日暮はおもむろに自身の式神である『猫神』を多体勧請した。

「にゃんこーず!隠密モード、起動!
 そして・・・いい!?あなた達の役割は御九里様を探すことよ!
 この街に必ずあの人はいるから、草の根分けても探し出すのよ!」

気合の入った日暮の声に、にゃんこーずがそれぞれ『にゃ!』と短く応えた。そして、普段は誰の目にも普通の黒猫として映るその姿が、すーっと薄くなり消えていく。今や屋上にひしめき合う黒猫たちは呪力のない人間には不可知の存在となっていた。

これこそ、日暮の式神『猫神』の真骨頂である。ただでさえ、猫神は自律的に活動し、かつ、針の穴ほどの隙間があればどんな空間にも侵入できる。しかも、今はその姿を消して一般人には見えない状態にしている。これならば、街中で人を探すのなど容易いことである。

「ず、随分・・・気合入っていますね・・・」

多分、日暮は一度に勧請できる最大数の猫神を呼び出したと思われる。いまだかつて見たことのない数の黒猫の群が、彼女の指令ひとつで屋上から次々に街に飛び出していく様は壮観と言っても良かった。

ただでさえ難しい多体勧請をこれだけの数こなすとは、さすが『属の一位』の位階を持つだけのことはある・・・そんな風に九条が半ば感心、半ば呆れていると・・・

「何をぼさっと見ているのです!?あなたも早く、白鷺姫しらさぎひめを出しなさい!空からも探すんです!」
「ええっ!ぼ・・・僕もやるの!?」
自らを指さして、九条は不満の声を上げる。不満なのも当然である。九条もまた式神を複数勧請できる能力を持っているが、多体勧請は通常の式神の召喚と比べて段違いに疲れるのである。

「当たり前です!いいですか?御九里さんは今、土門様さえ呪的に補足することができないほどの完璧な『八門遁甲の陣』を使っているんです。ならばどうするか?方法はひとつです!目です!物理的に、光学的に補足するんです!私のニャンコ先生、そしてあなたの白鷺姫、大地と空、2つの方向から探す・・・これが最も合理的な方法です!」

は・・・はあ・・・

あまりの日暮の剣幕に押され、九条は渋々白鷺姫を勧請する。最初遠慮がちに10羽ほど呼び出した所、日暮がギンと睨みつけてきて『九条さん・・・20羽はいけるの・・・私、知ってるんですよ!?』等と言う。上司たる土門譲りの千里眼ぶりに九条が『ひぃっ』と顔を青ざめさせる。

「わ・・・わかりましたよ・・・」

更に符を10枚使い、合計で23羽の白鷺姫を呼び出した。これが今の九条の限界である。若干顔色が悪くなった九条の周りを、純白の鳩のような見た目の式神・白鷺姫がバタバタと飛び回り、やがて仙台の空に散っていった。

「あ・・・あの・・・私は別に式神とか使えないので、これにて休憩ということで・・・」
田久保がそっと後ずさろうとすると、日暮が今度は田久保をギロリと睨みつける。

「何を言ってるんですか!あなたはその情報収集能力を買って来ていただいたんです・・・その足で、その目で、その耳で・・・情報を集めていらっしゃい!!!」

幻覚かもしれないが、田久保の目には、日暮の背後に闘気にも似た猛々しいオーラが見えていた。それに気圧され、思わずコクリと頷く。

「分かったらさっさと行く!!」
「は・・・はいぃっ!!」

脱兎の勢いで、田久保は塔屋から転がり落ちるように階段を下っていった。

日暮は、強い決意を込めた目で仙台の街を見渡す。その胸には、熱い熱い愛の炎が燃え上がっていた。

どんな困難があったとしても、この胸に滾る愛の炎があれば、私は負けることはありません!・・・待っていてくださいね・・・御九里さん・・・必ず、必ずこのミスリンがお助けいたします!

メラメラと瞳に炎を宿し、ぐっと力強く拳を握りしめる。

その異様なオーラを遠目に見て、九条は『来るんじゃなかった』と心底思い、深い溜息をついていた。

☆☆☆
日暮たちが式神を放ってから、あっという間に数時間が経過した。多体勧請の負担がかなり心身に来ているのか、屋上の中央で祈りを捧げるような姿勢で両手を汲んでいる日暮の額にはじっとりと汗が滲んでおり、唇からは血の気が引いているようにも見えた。

その背後で九条もまた、20羽以上の白鷺姫からもたらされる膨大な視覚情報を処理するために、目を閉じて膝立ちで座りつつ意識を集中させていた。

・・・見つからない・・・見つからない・・・
どこ?どこにいるの御九里さん・・・

次第に焦りが募ってくる。もしかしたら疾うの昔に仙台市から出てしまっているのかもしれない・・・。そんな気持ちすら湧いてきてしまう。そんな連想をすると、胸の奥がざわざわとしてきてしまい、落ち着いて考えることができなくなってくる。

いけない・・・集中しないと・・・

日暮の猫神は術者の意識から完全に独立して自律的に動くので、術者が意識を失おうがどうなろうが活動を続けることができるが、猫神からの『返信』を受け取るためにはそれなりの集中が必要だ。今の日暮は、全身の霊覚を最大限に高め、仙台市中に散った猫神の声を聴こうとしていたのだ。

お願い・・・ニャンコ先生・・・あの人を、見つけて・・・

見つけた御九里が無事ならば良し、もしなにかピンチだったら、何が何でも助けるという気持ちだった。

日が傾き始めている。暗くなれば猫神はともかく、白鷺姫の『目』は捜索能力を大幅に減じてしまう。それに、これだけの数の式神を長時間に渡って使い続けることは術者にとってかなりの負担となる。

遅くなればなるほど、不利になっていく・・・。

日暮の最初の公算では、自らの『にゃんこーず』と九条の『白鷺姫』を駆使すれば程なくして見つかるだろうと考えていたのだ。しかし、ここまで見つからないとなると・・・。少なくとも道を普通に歩いているということはなさそうだ。外にいながらにして、機動力と知覚力に優れている白鷺姫の目をかいくぐれるとは思えない。

だとすると、建物の中に閉じこもっているのか、それとも・・・
閉じ込められている・・・?

そんな最悪の事態が頭をよぎり、背筋がブルリと震えた。

その時、塔屋の扉が開き、息せき切った田久保が屋上に上がってきた。

「はあ・・・はあ・・・
 て・・・手がかりを見、見つけましたあ!!」

そう言って、ごろりと横になった。

☆☆☆
『ん?あんたかい?俺を探してるってやつは』

暮れなずむ街、飲食店の立ち並ぶ区画の細い裏道で、御九里が一人の男と相対していた。男の名は金地大輔。奥田が死ぬ直前に連絡を取った人物だった。金地はロン毛といえば聞こえはいいが、どちらかと言うと、単純に、長らく床屋にいかず手入れの行き届いていない長い髪を無造作に後ろで束ねただけという、貧相な顔をした男だった。革ジャンを羽織ってカッコつけてはいるが、腕につけている金の鎖状のブレスレットも妙に浮いており、なんとなくチグハグな印象を与える服装でもあった。

『あぁ・・・なんだよ、俺は関係ねえよ?あいつ・・・奥田から電話貰ってダチ誘ってシャインに行ったら、パーティルームであいつが死んでたんだよ。逃げた理由?そりゃ、お前・・・警察沙汰に巻き込まれたくなかったからよ。・・・なんでぇ、そこまで調べてるのかよ。ああ、そうだよ、寺岡に金握らせて俺等の姿が写っている防犯カメラの映像部分だけ別の日の奴と差し替えさせたんだよ』

御九里が別に自分は警察の者ではないし、あんたに興味があるわけじゃないと告げると、金地はあからさまに安心したような顔をする。

『・・・あいつが言っていたこと?別に大したことじゃねえよ。女がいるから来い、喰いもんと酒持って・・・って。まあいつものことなんだよ。女にちょっと・・・な、あれして、ホテルに連れ込んで、俺達と遊ばせてくれる。まあ俺は喰いもんとか提供するけど、金を取られていたやつもいたな。必要経費、ってなこと言ってさ。』

俺は無関係だ、と言い残してその場を立ち去ろうとした金地の胸ぐらを御九里がぐいと掴んで、壁に押し付ける。

『や・・・やめろよ、あんちゃん・・・ちげーよ、本当に何も知らねんだよ・・・や、やめろ・・・おい・・・本当に、本当だってば・・・ぎゃ・・・いてぇいいててててて!!』

数発の殴打音とうめき声、小声での会話の後、ドサリと地面に人が倒れる音がした。裏道の陰から何食わぬ顔をした御九里が現れる。彼はそのまま夕暮れの歓楽街に繰り出す人波に飲まれて消えてしまった。

☆☆☆
「手がかりって?」

ここまですごい勢いで走ってきたのだろう。田久保は屋上に倒れ込み、顔を真赤にしてはあ、はあと肩で息をしていた。

「はあ・・・えっと・・・ですね・・・はあ、はあ・・・ふう・・」

なかなか言葉にならない。田久保と日暮の様子に気づいた九条も集まってくる。

「なにか分かったんですか?」
「九条さんの方は?」
「いえ、それがさっぱり・・・かなり広範囲に虱潰しに探しているんで、普通に移動しているなら見つかるはず・・・これは建物の中に閉じこもっているんじゃないかって気がするんですよね・・・」

それは、日暮と同じ結論だった。
日暮に手助けされ、田久保が上半身を起こす。やっと人心地ついたようだった。

「はあ・・・はあ・・・えっと、えっとですね。左前様が御九里さんを最後に見たのは会議の時だったって言ってたでしょう?その時見ていた事件資料から、こちらの仙台市に当たりをつけたんですよね?・・・だから私、まずは県警に行ってみたんです。それで、分かったんですけど、御九里さんは、今日の午前中、県警を訪ねていました・・・どうやら呪殺班の警部さんと面会をしたみたいです」
「良かった・・・少なくとも午前中は無事だったんですね!」
日暮がホッとしたような表情を浮かべる。

「それで、その警部さんのお話では、その後も、どうやらどこかに聞き込みに行くような素振りだったとか」
「一体、御九里は何をしたいんだ?」
「多分・・・調査をしているんだと思います。」
九条の疑問に田久保が答える。
「会議で配られた資料・・・仙台で起きたラブホテルでの殺人事件の?一体、何故?」
日暮が口元に手をおいて考え込む素振りを見せる。明らかに御九里の行動は『興味がある』という範疇を超えている。

「はい・・・御九里さんは、県警ではこの地域で起きている過去の犯罪・・・特に男性の行方不明事件についても調査をしていたみたいです・・・」
「そもそも、そのラブホテルの殺人事件って犯人捕まったの?」
「いいえ、まだです。」
「だとしたら、その犯人を捕まえようとしている・・・?」

うーん・・・と日暮は腕組みをして目を瞑る。
「なぜ、行方不明事件を?殺人事件ではなく・・・?なぜ?どうして?」

ブツブツと日暮が考え込んでいる横で、九条が田久保に問いかけた。
「犯人捕まえるとしたら、次に行くところって?」
「あ、それなんですが・・・御九里さんは県警に行った後、いくつかの新聞社を訪ねたみたいなんです」
「うーん・・・記者は確かに警察の知らない情報持ってることがあるからねえ・・・」

「県警の後・・・新聞社?いくつか・・・?」
ぶつぶつ・・・ぶつぶつ・・・日暮はなおも呟く。

「そこで何を聞いたの?」
「そこまでは・・・何人かの記者に接触をしたってことくらいで。そっちから探るのはもう少し時間が・・・」

「記者?・・・接触・・・?調査・・・行方不明じゃなくて・・・殺人?殺人
・・・死体・・・証拠・・・もしかして・・・!」
はっと気がついたように日暮が顔を上げる。ガバっと田久保の両肩を掴んだ。

「美玖!・・・ぜひ調べてほしいことがあるんです!」
日暮は、田久保に2つのことについて調査を依頼する。

「多分・・・私の予想が正しければ・・・」
日暮が見上げた、空は夕焼けの茜色から宵闇の紫を帯び始めている。白く瞬く一等星が夕暮れの訪れを伝えていた。

☆☆☆
「少し、酔っちゃったみたい・・・」
夜の歓楽街を歩く男女。少しネクタイを緩めたスーツ姿の男性にしなだれかかるようにセミロングヘアの女性がもたれかかるようにしている。男性は、女が倒れないように必死に支えながら歩いている。必然的に、身体を密着させざるをえない状況だった。

彼女が身に纏っていたのは、シャンパンベージュのドレスだった。身体のラインに吸い付くようにフィットし、ウエストから腰にかけて寄せられた細やかなドレープが、少し歩みを進めるたびにゆらゆらと妖しく揺れていた。
その白い腕は淡いシフォンで作らた、ふわりとした袖で覆われている。シアーな素材で少し透けているところがかえって女性の色気を際立たせるようだった。

「と、十和子さん・・・大丈夫ですか?飲みすぎたんじゃ・・・」
「う・・・ん・・・そうかも・・・」

十和子の真っ赤にルージュを引かれた唇が男の首にふれんばかりの距離にある。男はゴクリと息を呑む。その股間が少しひくりと動いたのを悟られないようにと思っていた。
飲みすぎたせいだろうか、彼女は顔を少し上げ悩ましげに息を吐く。先程まで一緒に飲んでいた甘いカクテルの匂いが、熱い吐息とともに、ふわり男の鼻腔をくすぐった。

「少し・・・公園で休んでいきますか?」
「うん・・・ごめんね・・・あっち、あっちにあるから・・・」
十和子が顔を向けた方向は、歓楽街から住宅街に向かう道だった。人通りの少ない道の先に確かに公園のようなものがある。
男が引きずるようにして十和子を担いで歩いていく。顔をうつむけ、力が入らない様子の十和子は足をもつれさせながらなんとか歩みを進めていた。

しかし、この時、男は決して気づくことはなかった。
十和子が顔を伏せながらも、その唇に歪んだ笑みを浮かべていることに・・・。

公園につくと、男はベンチに十和子を座らせる。少し周囲を見て、人がいないことにやや不安を覚えたが、とにかく今は水でも飲まさねばと思っていた。
「十和子さん、ここ、座っててください。俺、水買ってくるんで」
そう言って離れようとした男性のスーツの裾を十和子が掴む。

「いいの・・・ね?せっかく二人っきりになれたんだから・・・」
潤んだ瞳、濡れた唇、全身から立ち上る甘い香りに男はまるで魔法にかかったかのように彼女の隣にストン、と腰を下ろした。

その首に十和子が腕を回す。そして貪るように男の唇を吸った。くちゅくちゅと舌を差し入れて、男の舌をなぞり、絡ませ、たっぷりと唾液を注ぎ込む。

唇を離すと、つつーっと粘っこい唾液が糸を引き、中空で切れて垂れた。少し口の端についた唾液を十和子は親指で拭う。

「あなたと二人きりになりたかったのよ・・・?」
男性の腕を自らの豊かな胸に導く。先程のキスで口が半開きになったままの男性は、その胸の感触を感じ、ゴクリとまたひとつ息を呑んだ。

女は口を耳元に寄せて、そっと囁く。

「もっと・・・人のいないところに・・・ほら、あっちの茂み・・・私、もう、こんなになっちゃってるのよ・・・」
男の手をゆっくりとスカートの中に、その奥へと導く。

!?

女性の部分がしっとりと湿っているのが、下着越しにも分かり、男性は目を見開いた。

ふふ・・・ね?お願い・・・
あなたのを・・・頂戴・・・

十和子が立ち上がり、男性の手を引く。男は熱病に浮かされたようにふらりと立ち上がって、導かれるがままに歩き出していた。

そう・・・そのまま・・・そのままいらっしゃい・・・
私を愉しませて
そして、そして・・・空腹も満たしてちょうだい・・・

ふふふ
 ふふふ・・・・

暗がりへ、公園の陰に、人の目の届かない闇へと誘っていく。そのまま男を公園の茂みの中、太い木に押し付けるようにすると、ズボンの股間部分に顔を近づけ、大きく息を吸う。

「はあ♡・・・すごいわ・・・ここ・・・もうこんなにオスの臭いがする・・・ほら、わかるでしょう?」

グリグリと指でズボンの一点を擦り上げる。男のそこは、すでに大きく張り出している。その中では、十和子の言う通り、ペニスがすでに固く隆起しており、鈴口からは彼女の色香によって興奮した男の先走りが滲んで下着にシミを作っていた。

十和子は大きく口を開けてズボンの上からペニスを咥えようとする。まるで口で直接その形を確かめようとしているかのようだった。

「はあぁ・・・すごい匂い・・・男の人の・・・これ・・・これ頂戴・・・ほら、早く・・・早く脱いじゃいなさい・・・」

鼻や頬で服の上からそこを刺激され、男の息はますます荒くなっていく。震える手でガチャガチャとベルトを外すとズボンの前を開けた。十和子はそこに手をかけ、一気にパンツもろとも脱がしてしまう。

ぶるんと血管の浮いた怒張が跳ね上がり、円弧を描く先走りが十和子の顔にかかる。唇についたそれを十和子の舌がぺろりと舐め取った。

「ふふ・・・元気ね・・・これならいっぱい愉しめそう・・・う・・あむ・・・ちゅ・・・じゅ・・・」

ペニスに手を添えると、ゆっくりとその先に舌を這わせ、口に含み、ねっとりと舐めあげていく。右手で睾丸を優しく撫で、時折頬の内側で亀頭を刺激する。じゅぶじゅぶといやらしい水音が口元から響き、飲み込みきれない涎とペニスからの分泌液が口の端から糸を引いて垂れていた。

「はあ・・・じゅぶ・・・ちゅ・・・美味しい・・・すごい濃い匂い・・・あ・・あ、美味しい・・・ねえ、ほら・・・じゅぶ、ちゅ・・・ぐちゅ・・・あん♡・・・精子、出しちゃいなさいよ・・・じゅぶちゅちゅ・・・じゅう・・・」

口をすぼめて陰茎を吸い上げ、ついには、ぐいと喉奥までにそれを飲み込む。これまで生きてて、ディープ・スロートをされた経験などない男性は、ペニス全体を生暖かい口腔内に包まれ、まるで性交をしているかのような刺激に、ぐうう・・・と喘ぎ声を我慢することしかできなかった。十和子の頭に手を添えて、背中に感じる樹により掛かることでかろうじて体制を保ってはいるが、その足は興奮と快感で、ガクガクと震えていた。

じゅっぼ、じゅっぼ、じゅっぼ・・・

喉奥がペニスに突き上げられ、ぐちゅぐちゅといやらしく鳴っている。女性の身体がこんなに奥深くまでペニスを咥え込めるのか・・・そう思うほど深いものだった。

そして、ついに男はせり上がってきた精を止めることができなくなり、十和子の喉奥に射精をする。

びくん、びくん、びくん・・・

数回に渡って温かな喉の肉に包まれたペニスが跳ね上がるのを感じる。普段、自慰でするよりも、そして、下手するとセックスでする射精よりも長く精を吐き出していた。

ぐぽぉ・・・

口からペニス抜き、十和子は口に残っていた精液を飲み下す。唇から溢れたそれを指で拭いってそれもまた愛おしそうに舐め取っていた。

両手をベタベタにして舌でチロチロと舐め取るその姿は、男がこれまで見たどんな女よりも淫らで妖しい魅力を持っていた。

「ふふふ・・・まだ、いけるでしょ?今度は、オマンコに・・・頂戴・・・ね?」

十和子が立ち上がり、スカートをたくし上げる。どういうわけかすでに下着は脱ぎ去られており、拡げられた足の間から垣間見える恥毛は、女の蜜で濡れそぼっていた。

「頂戴・・・ああ・・・早くぅ・・・ここ・・・オマンコにぃ・・・」

細い樹に寄りかかり、くねくねと腰を振る十和子の白い肌や濡れそぼった秘所から流れ落ちる愛液で濡れそぼる太ももから、男は目を離すことができなかった。ふらふらとそこに近づき、両手で腰を掴む。対面立位の要領で、タラタラと精液を垂れ流すその怒張を挿入しようとする。

「おい!もう止めろ」
男のペニスが十和子の陰裂をなぞりかけた時、10メートルほど離れた茂みの外から、それを制止する男の声がした。

ビクリと体を震わせて、男がそちらを見ると、街灯の下に男がひとり立っていた。
黒尽くめのパンクファッションに背中からは白の剣袋が顔をのぞかせている。やや伏せ気味にしているため、その表情は陰になってよく見えなかった。

「お前・・・その女の顔をよく見てみろ」
黒尽くめの男に促され、男は自分が犯そうとしていた女の顔を見た。

「ひぃ!」

その口は耳元まで裂け、人のものとは思えない牙が口腔内にちらりと見える。眼光は炎を宿したようにおどろおどろしく、その顔貌は一言で言えば・・・

「お・・・鬼っ!!」

男性は腰を抜かしたようにその場に崩れ落ち、座り込んでしまう。それでも少しでもその異形から距離を取るべく、ズリズリと手で身体を引きずるようにして後ずさった。ズボンを脱ぎかけていたのが災いし、うまく動くことができないでいる。

「ちっ・・・世話の焼ける!」

黒尽くめの男は、背中にくくった剣袋を素早く取り出すと、中から長剣を取り出した。いわゆる反りのある日本刀である。

「兄ちゃん、さっさと逃げろ!」

刀を下段に構え、強烈な脚力で地面を蹴ると、一気に十和子との距離を縮める。十和子は一瞬目を見開いたが、すぐに気を取り直し、彼の下からすくい上げるような剣戟を後ろ飛びに跳んで避けた。

「何だ・・・お前は!」
十和子の声だった。しかし、それは先程までの色気のある女の声ではもはやなかった。嗄れている、男性とも女性ともつかない不気味な音となっていた。

「覚えてもいねえだろうし・・・覚えてても・・・もう、わからねえだろうよ・・・」
背後で襲われそうになっていた男性がやっと起き上がって公園から逃げ出したのを感じると、刀を正眼に構え、名乗りを上げる。

「宮内庁・・・陰陽寮陰陽部門・・・祓衆属の三位。御九里牙城・・・」
「ほう・・・陰陽師か・・・何年ぶりかの・・・」

闇の中、女が笑う。真っ赤な口を開き、目を紅の炎に染めて。

「覚えておいてくれ。あんたを祓う・・・男の名だ」
「は!青二才が・・・!」

文字通り鬼の形相をした十和子が、大地を蹴って、御九里に迫る。
鋭い爪が光る腕を振りかざし襲いかかってきた。
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