天狐あやかし秘譚

Kalra

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第11話:管狐

第50章:辺幅修飾(へんぷくしゅうしょく)

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♡ーーーーー♡
【辺幅修飾】体裁だけ見た目良く取り繕うこと。
ほころびはじめたところだけちょっと縫って取り繕っちゃうぞ、みたいな。
♡ーーーーー♡

「おーい、宝生前!宝生前ってば!」
耳元で大声で叫ばれ、やっと私は我に返った。
目の前に呆れ顔で自分を見下す、男がいた。

島本・・・

島本は鼻筋が通っていて、思春期の男の子にありがちなニキビもアバタもない、きれいな肌をしていた。野球部で鍛え上げた胸板は厚く、二の腕もガッシリとしている。

黒い短髪が、学ランによく似合っている。
うちの学校の野球部が丸刈り必須じゃなくて、本当に良かったと、密かに思っていた。

「なんだ?島本」
「お前、さっきから、何ぼんやりしてんだ?
 チョコ、貰えんかったの、そんなにショックだったのかよ!」

そう、高校2年生の2月14日、皆が皆、『誰からチョコを貰った』『誰にあげた』などとざわめく中、私だけは、それとは異次元の世界にいた。
確かに、お前の言うように、私はチョコレートなんてもらっていないよ。

でもね・・・。

昨日の話を思い出して、私の胸がキリリと痛んだ。

「遼子ちゃんからチョコもらえるとはなあ!」
島本が照れたように後ろ頭を掻く。

私はなんと言っていいかわからなかった。

「宝生前よ!お前も狙ってる女子の一人、二人いるんだろ?
 いっちょ、協力してやるからさ、
 一緒に青春、しちゃおうぜ!?」
イシシシ・・・と浮かれたような笑みを漏らす。
よほど嬉しかったのか、遼子ちゃんとやらからもらったチョコレートの箱をためつすがめつ眺めていた。

ぎゅっと、机の下で拳を握りしめる。
そうでもしないと、叫びだしそうだった。

「な?」

にっこりと微笑まれて、ドキリとしてしまう。
一瞬、この「な?」がどういう意味かわからなくなるが、『お前も誰かと付き合うなら協力してやるからどうだ?』の続きとしての「な?」であることにやっと思い至った。

「あ・・・ああ・・・。
 そうだな・・・でも、受験あるしな」

なんとか、絞り出すように言葉を繋いだ。

いたたまれない。
早く、ここから離れたい。

「硬えなあ、お前。青春はな?一度しかないんだぜ?
 好きな人にどーんと告白してさ、砕け散ったならそれでいいじゃねえかよ」

ああ・・・お前はいい奴だな、本当に・・・。
胸が、ズキズキと痛む。

自分が好きな人が、他の人から告白されて、
それを喜んで話している。
自分は好きになってもらえる可能性すらない。

そして、笑顔で、誰かを好きになれと言う。

一体、どんな地獄だ。

ああ・・・苦しい。
なんで、こんなに苦しいんだ。

だって、しょうがないじゃないか。
私が好きなのは・・・
 好きなのは・・・

お前なんだから・・・。
島本・・・。

☆☆☆
ああ・・・いけない、うたた寝をしていた。
車窓から見える景色が大分、都市部のそれになっていた。車内アナウンスが『三ノ宮』と次の駅の名を告げる。どうやら降車する寸前で目が目が覚めたようだった。

随分、センチメンタルな夢を見たものだ。
40を過ぎたおじさんが見るには、だ。

同窓会で顔を合わせるから、だろうか・・・。
開始まであと、30分ほどだ。

案内のはがきを見る。開始時間は17時、今は16時30分だ。
駅から会場のホテルまではほんの15分程度だったと思う。
いつも慎重な自分としては信じられないほどのギリギリの到着だ。

やっぱり、気が重いのだろうな・・・。

私が同窓会の知らせを受けたのは2ヶ月ほど前だった。品々物之比礼が奪われ、占部衆、そして噂では八咫烏までが駆り出されての大捜索が繰り広げられた。その甲斐あって1月にはその在処が特定されたものの、疱瘡神が絡んでいる可能性が示唆されたことから、陰陽寮最高戦力である土御門様、綾音さん、ダリさんらが神宝の奪還に向かうことになった。このときには私はバックアップとして大鹿島様、敷島さんと一緒に結界を張る任務にあたっていた。

結果的に疱瘡神は封印できたものの、神宝は奪われてしまった。さらに言えば十種の神宝の内、おそらく半数以上を所有する謎の男の存在が明らかになった。はっきり言って天下国家の一大事、というわけだ。

なのに、私はこんなところで休暇を取っていていいのだろうか?
やっぱり、来るべきではなかったのではないだろうか?

任務を終え、京都支所で事後処理をしていた時、ほんの雑談のつもりで高校の同窓会の案内がきたことを言ってしまった。それを耳ざとく聞きつけたのが土門さんだった。

「宝生前さん!高校の同窓会って・・・すぐ近くですよね?確か、ご実家」

そう、占部衆筆頭、丞の一位である土門杏里は、またの名を『千里眼の土門』という。その専門が占いと情報収集であることもあってか、異様にいろいろなことを知っているからだ。その千里眼にとって、隣の係の係員の実家を把握するなど、基礎中の基礎なのだろう。

「え?そうなんですか?」
土門さんの言葉に敷島さんが反応した。

「ええ!そうなのです。確か神戸なのです!」
「先ほど、明後日とおっしゃってましたよね?だったら、ちょうど残務整理も終わるし、行かれるのではないでしょうか?」
敷島明日香・・・同じ祭部衆に属する彼女は、とても素直でいい子なのだが、若干天然気味というか、空気を読まないところがある。あまり、高校の時の友人に会いたいと思っていない私は、多分、この上なく引き気味の顔をしていたはずなのだが、それに気づかずに話がどんどんと展開していってしまう。

ちなみに、土門さんは私の心情を知っててあえて言っている。面白がっている。

「しかし、このような重大な事件があったときに休暇など・・・」
一応、抵抗を試みてみる。
「宝生前・・・ワークライフバランスは大事ですよ。休めるときにきちんと休むことが、良い仕事をする上で必要なのです。」
ここで、話に割り込んできたのが、我が衆のボス、大鹿島様だ。結局は、この鶴の一声で、私の休暇取得と同窓会行きが決定してしまった。

はあ・・・気が重い。

☆☆☆
「お!お前、宝生前か!?変わらないな~」
3年生の時、同じクラスだった山本だ。
体型は維持しているものの、やはり年相応のところもある。大分、頭髪が貧しくなっていた。話によると、建築会社に勤務しており、今では二児のパパだそうだ。
たしかに山本と比べれば、私は余り変わらないかもしれない。痩せぎすで髪の毛もまあ普通に残っている。加えて昔から老け顔だったせいか、やっと外見年齢に実年齢が追いついたくらいだ。
「なんか、噂によるとどこぞの大学で教授?らしいじゃん・・・さっすが秀才だな」
山本とは同じクラスだったけど、余り話した記憶はない。向こうは覚えているようだが、私の思い出の中にはほとんど彼のイメージは残っていなかった。
曖昧に笑ってごまかし、料理を取りに行くふりをしてその場を離れる。

周囲を見渡すと、同窓会の参加者は結構いるようで、100人は軽く超えているようだった。ホテルの宴会場を三つくらいぶち抜いての会なので、なかなかに盛況なのではないだろうか。

山本以外からも、あれこれ声を掛けられる。ある程度覚えているやつならいいのだが、やっぱり記憶の彼方に埋もれている人間もいて、そういう時は話題に困ってしまう。どういうわけか、向こうは自分のことを知っていて、『教授だって?』『何教えてるんだ?』などと聞いてくる。なぜだろう、と思ったが、どうやら『宝生前』という変わった姓と、今回の参加者名簿の職業欄に『東山大学教授』と書かれていることが原因らしいとしばらくしてから分かった。

目立って・・・しまっている。
あまり、目立ちたくないのだが。

名簿には島本の名前もあった。
会いたいような、会いたくないような。

ついつい、周囲を見渡してしまうが、もしも容貌があまりに変わっていたら・・・と思うと、思い出は思い出のままにしたい、とも考えてしまう自分がいる。

「あら!宝生前くん」
不意に後ろから声をかけられた。振り返ると、真っ赤なドレスに身を包んだ妙齢の女性が立っていた。

そして、この顔は・・・?

「ああ・・・霧島さん」
「うれしい、私のこと覚えていてくれたんだ!」

そうですね、あなたのことは、別の意味で忘れないです。
霧島遼子さん・・・。

あの時、島本にチョコを渡した女性。その後、島本と付き合った、というところまでは聞いたけど、結末を見届けることはなかった。

あの高2のバレンタインから、島本と私の間には微妙な距離感が生まれてしまった。正確に言えば、島本自身は別に何ら変わることはなかった。私が、彼を避けたのだ。

『今度、彼女と遊園地に行くんだ』
『わりい、今日は、彼女と図書館で勉強するって』
『週末か・・・彼女どうかな?』

事あるごとに目に映る、耳に障る『彼女』という言葉。
それに、私は耐えることができなかった。

そして、そのまま高3の夏休みが過ぎ、文理でクラスが別れてからはなおさら交流がなくなった。彼は地元の大学に進学し、私は東京の大学を選んだ。

彼女と島本が、どうなったのか・・・、私はそれを知ろうともしなかった。

そう、私は逃げたのだ。

今、その、当の霧島遼子自身が目の前にいる。踵を返して逃げたい衝動に駆られるが、そういうわけにはいかない。そうなると今度は、職業病でつい、観察してしまう。プラチナ製だろうか、白銀に輝く長さの違うスティックが4本、楽器のウィンドチャイムのように下がっている大振りなイヤリングが目に付く。髪は少し茶がかかっていて、ふんわりとしたハーフアップに仕上げている。そして、目を強調するようなメイク。
嫌味ではないが、なんとなく派手な印象は否めない。
・・・左手に指輪はなかった。
『霧島』と呼んでも、それを訂正しなかったところを見ると、独身なのだろうと、推測できた。

そんな事を考えて少しホッとしている自分が、とても嫌になってしまう。
霧島遼子が結婚していないからと言って、島本がどういう状態か、なんてわからないではないか。

霧島は一通り社交辞令的に話をしていくと、すぐに私の傍を去っていった。少し観察してると、輸入雑貨か何かを扱っている小さい会社を経営しているようで、その経営にプラスになるような人脈を探しているらしかった。あちこち声をかけて、仕事を聞いては、役立つと思った人に名刺を配っていた。

高校時代の彼女はもっと高飛車というか、そんなイメージがあったが、随分世渡り上手になったものだ。歳月は、人を変える。

変わらないのは、私くらいかもしれない・・・。

同窓会の時間も後半に差し掛かってくる。
余りこういった場所でのコミュニケーションが得意ではない私は、ほとんどの時間を黙々と料理を食べているか、ぼんやりとウィスキーを飲んでいるかだった。

壁の花、というやつだ。

やはり、来るべきではなかったかもしれないですね。
このまま早々に帰ってしまおうか・・・。

そう思った矢先に、「宝生前!」と覚えのある声が飛んできた。

顔を上げると、気取らないジャケット姿、ガッシリとした体格は昔のままの、懐かしい顔。
島本優希、その人が立っていた。

☆☆☆
「いやあ!20年・・・もっとか・・・25年くらい経ったか?お前、変わらないな!」
高校生の頃そのままの笑顔だった。

やはり、つい、観察をしてしまう。
身なりはすごく整っている。靴もきれいに手入れがされている。
ただ、口調は明るいが、若干、顔色が悪いような・・・疲れているような感じがした。

島本は、高校の教師をしていると言っていた。そこで、野球部の顧問をしていて、生徒と一緒に汗を流しているという。
島本らしいし、そのガタイの良さ、若々しさにも納得がいくというものだ。

「お前は相変わらず学者肌・・・っていうか、本当に学者だっけか?」
「ああ、東山大学で民俗学を教えている」
「すごいな、お前、昔から民話とか伝説とか、そういうの好きだったもんな」

他愛のない話。
壁にもたれ、グラスを傾け、互いの近況を伝え合う。

さり気なく指先に目をやると、結婚指輪の類はしていない。だけど、更に良く見ると、指輪の跡だけがあって、指輪本体がないようだった。

島本に限って、ワンナイトラブ目当てで結婚指輪を外す、なんていうことは考えられない。どういうことだろう。
そんな私の視線が気取ったのか、島本が『ああ、これな』と左手を振ってみせた。

「今、離婚調停中なんだ。指輪、いたたまれなくてな」

一体何が・・・と聞きかけて、聞いたところで何もできないだろうし、そもそも、聞いた時、自分がどんな反応をしてしまうか、想像がつかなかったので、「そうか、大変だな」という当たり障りのない言葉でお茶を濁す。
「お前は結婚してないんだな」
それでも、そんな言葉をかけられて、ズキンと胸が痛んだ。
やっぱり、高校時代のこと、未だに引きずってしまっている。

そんな自分が滑稽ですらあった。

「ああ・・・なかなかうまくいかなくてな」
やはり、当たり障りなく。
「でも、まあ、こうして調停してっと、結婚しないってのもいいかもって思っちまうよ」
そう言って笑った島本の顔はやはりどこか弱々しかった。
疲れていると思ったのは、これが原因だったのだろう。

「あ!島本くん」
違うクラスだった女子・・・確か種崎と言ったと思うが、が声をかけてきて、そのまま島本は違うグループにいってしまう。後ろ姿を見て、またウィスキーを傾けた。

やっぱり、帰ろうか。

会うべき人には会った、と思えたからだ。
小さく嘆息したとき、島本の足元に、ちょろっと黒い影が蠢くのが見えた。

一瞬ネズミかと思った。だが、他の人が騒いでない。ネズミが会場を駆け回っていたらもっと大きな騒ぎになるだろう。

なんだ?

黒い影はちょろちょろと島本の足にまとわりつくように走っていた。集中すると、ほんのり邪気が見えた。そして、他の人が全くそれに注意を払っていないところからも、それが厭魅、妖怪の類だと知れる。
その影は島本の足を駆け上がり肩まで一気に登っていった。肩口に乗ると、静止し、こちらをじっと見てきた。どうやら、向こうも私に気づいたようだ。

耳が尖り、鼻面が出ている、子ねずみほどの大きさの黒い獣・・・。

『なんてことだ。あれは・・・管狐くだぎつねだ』

それは、誰かが島本を悪意を持って呪っていることを示していた。

☆☆☆
管狐とは、一種の使い魔である。その名前の起源は、術者に酔って細い管の中で飼育されることに由来する。使い魔や式神の類なので、伝達や呪法の媒体などにも使われるが、最も多い用途は『呪殺』である。呪いたい相手の元に管狐を送り込み、その邪気で対象者を弱らせたり、不運を起こさせたりする。
日本全国で管狐に関する伝承は多く存在し、その呼び名もオサキギツネ、シロギツネ、イヅナなど様々であるが、全て同じモノだ。使い魔の中では比較的弱い部類に属するため、管狐をプロの呪殺師が使うことは稀である。その使用者の多くは、呪術を少しかじっただけの素人か、もしくは『狐憑きの家系』と言われる、代々管狐を子孫に伝えている家柄の人間である。

ただし、弱い部類、と言っても使い魔であることは間違いないので、明確な悪意のもとに送り込まれれば、通常の人間は影響を受け、病気になったり事故に遭遇し、下手すれば命を落としかねない。
そんなモノが島本にまとわりついている。もしかしたら、先程言っていた離婚調停などは呪いの影響かもしれない。

祓うか?

そう考え、懐に手を入れる。そこにはいつも常備している石針の入った金属ケースの感触があった。
しかし、ケースの感触を確かめただけで、私はその手を戻した。

ダメだ。

今、管狐を祓うのは簡単だが、術者を見つけないことには同じことが繰り返されることになる。
しかし、どうやって見つけようか。一番いいのは、島本自身に恨みを買うような覚えがないかどうか尋ね、動機の面から術者を洗い出すことだ。しかし、何となくそれはためらわれた。
気のいい島本に、誰かに恨まれている可能性を示唆する事など、あまりしたいことではなかった。

残りの手段は、管狐を捕獲して呪力の痕跡を辿るか・・・・だ。

素人が使っている術なら、呪力痕跡を消したり、『逆凪さかなぎ』と言われる呪力の逆流を防ぐような措置もしていないだろうから、意外と簡単に辿れるかもしれない。

それでいくか・・・

そう思って島本に近づこうとした矢先、会場の舞台側から大きな歓声が上がった。何事かと見ると、舞台に赤いドレスの女とパリッとしたスーツ姿の男が上がり、マイクを取っていた。

「みなさま、本日は同窓会に集っていただきありがとうございます。本日の発起人のひとり、3年E組の霧島遼子です」
「同じく、3年A組の山中慎一です」
「皆様、実に25年ぶりの再会かと思います。
 変わっている人、余り変わっていない人、様々ですよね。
 大分旧交を温められたのではないでしょうか?」
霧島が皆を見回す。
「そう、実は、今日のこの会が実現したのは、
 この霧島遼子さんの発案なんですよ」
山中が霧島を見ると、彼女は照れたように少し顔をうつむかせるような仕草をする。
「やだ!それは内緒って言ったでしょ!
 ま、その・・・言いだしたのは私ですが、実際にここまでの準備等は、山中くんを初め、四人の方のお手伝いあってこそでした」
霧島が自分と山中以外の四人の発起人の名を挙げる。名前を呼ばれた者が次々に舞台に上がっていく。最後の一人の名が呼ばれた時、会場から拍手が沸き起こった。

「さあ、まだまだ時間はあります。思いっきり歓談を・・・と言いたいところですが、ここでひとつ、余興を行いたいと思います。
 ビンゴゲームです!」

わーっと、再び盛大に拍手が鳴り響いた。
ビンゴカードが配られ、舞台上で霧島がビンゴマシーンを回し始める。出てきた数を山中や他の発起人がホワイトボードに書き出していった。

「次は・・・3です!・・・どうですか?そろそろリーチが出ますか?」

ビンゴが進んでいく。この状況では、島本は人の輪から離れることがない。近づいていって誰にも見られずに足元をチョロチョロしている管狐を捕獲するのはなかなかに難しい。

仕方がない。目には目を・・・だ。
こちらも、式神を使うとしよう。

私は持ってきたアタッシュケースの中から式神を召喚するための呪符を取り出す。細長い和紙に『ドーマン』と呼ばれる格子状の模様と、『識神荒御魂』と墨字で書かれている。こっそりと後ろ手にそれを持ち、呪を唱える。

『陰陽五行 魔王天王 大自在 荒魂勧請』

符が震えているのを感じる。見えてはいないが、徐々にその形状を薄緑色にぼんやりと光るヘビのそれに変えていることだろう。このヘビが、私の使う式神『野づ霊のづち』だ。土御門様の使う十二天将には遠く及ばないが、多少の範囲を独自に移動し、情報の収拾や呪力の運搬、視覚共有などが可能だ。あまり強くないが、土の術式を用いての防御や攻撃に使えなくもない。

もちろん、素人が使う管狐の捕獲くらいならわけない。

管狐と同じく、野づ霊も普通の人の目に映ることはない。ぽたりと床に落ちた野づ霊はシュルシュルと蛇行しながら島本に近づいていく。管狐は島本の肩口に乗ったまま舞台の方をじっと見つめていた。

まさか、ビンゴの行方に興味があるわけじゃないでしょうけどね。
今が・・・チャンスです。

「はーい!次は57番です!」
舞台上では霧島が次々とビンゴマシーンから数字の玉を取り出していた。野づ霊がついに島本の足元に到達する。そのまま不可知のヘビは島本の足をスルスルと這い上がっていく。

よし・・・もう少しだ。

背中を這い上がり、そこから二の腕にわたる。上腕のあたりにくるりと巻き付き、肩口で、なおもじっと舞台上を見つめている管狐に向かって鎌首を持ち上げた。

野づ霊の顎が管狐を捉えようとしたその時・・・

っ!?

するりと管狐はその顎を躱し、肩を蹴って宙空に舞った。
そして、そのまますーっと空間に溶けるように消えていった。

誰かが管狐を呼び戻した!?
馬鹿な・・・

「はーい!22番!・・・あ!リーチですか!?では、前に出てきてください!」
私の驚きとは無関係に舞台上ではビンゴゲームが進行していた。

こんなジャストタイミングで呼び戻すなど、実際に目視でもしていない限りは・・・

そこまで考えて私ははたと気づき、周囲を見渡した。

術者が・・・この会場にいる・・・ということか?

この旧友の中に、島本を呪うために使い魔を放った人間がいる。

一体、誰が?

島本に悪意を持っている人間が、全く見ず知らずの人ではない、という事実が、私の背筋をゾクリと冷たくした。
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