371 / 446
第17章 鉄血の帝国編
それぞれの帰還
―――黒龍城で連邦が締結された日の翌日
昨日は夜通しと言っていいほどに黒龍城内で締結の宴が開かれ、アクアーリオ、フィッツェのみならず各神龍勢力の料理自慢がその腕を振るって豪華な料理から家庭的な料理まで幅広い料理に舌鼓を打っていった―――
例に漏れず八雲もまた普段着に戻ってから厨房に立ち、この日のために集めておいた食材を巨大な冷蔵庫から開放し、ふんだんに使用してオーヴェストの王族達をもてなした。
その行いに八雲との関係が最近からの者達は驚き、尚且つ出て来た珍しい料理(日本の一般的な料理)のことをあれこれと訊いては、その美味さに喜びの笑い声を上げていった。
皆、酒も入ってドンチャン騒ぎに移行していく頃にはシェーナ達エルフチビッ子部隊とファンロンが欠伸をして船をこぎ出したのを見てノワールがアリエスと白雪、ダイヤモンドと共に抱き上げて寝室へと向かう。
ファンロンは勿論サジテールが抱っこして連れて行ってしまった。
そんな宴会場のノリになった会場から徐々に女性陣が休むために抜けていき、最後には八雲と男達が残って最後まで飲みながら、オーヴェストのこれからを語り合うことで夜を明かしたのだった。
そして今日―――
「―――それじゃあ俺は一旦ヴァーミリオンに戻るよ。年が明けて卒業したら戻ってくるから」
「うむ。それまでは何かあれば龍の牙の方々に『伝心』で伝えてもらうことにしよう」
黒龍城の空港エリアで発進準備に取り掛かっている天翔船黒の皇帝の前で、固い握手を交わす八雲とエドワード。
オーヴェストの各国の代表とも挨拶をして、『龍紋の乙女』達にも熱い抱擁で一旦別れを告げる。
黒龍城には以前同様にサジテール、スコーピオ、フィッツェ、ジェーヴァが残る……はずだったのだが、
「ファンロンを置いて行ってくれないかっ!!」
ファンロンを胸に抱き締めて離さないサジテールが涙目で八雲に訴える。
「ダメだ。コイツはノワールの傍に置いておけって言われてるんだ。置いていく訳にはいかない」
八雲にNOを突きつけられてサジテールがますます泣き出しそうな顔になり、ファンロンを更にギュウゥッと抱き締める。
「ぎゃぶぅ!ぎゃはうっ!?」
強く抱きしめられ過ぎてファンロンが技から抜けようとするかのように藻掻き苦しむ。
そんな様子を見たスコーピオは溜め息を吐きながら、
「御子、もうこの際だからサジテールも連れて行ってくれ。この様子では残っても使い物にならん」
ジト目をサジテールに向けながら八雲にサジテールの同行を進言する。
「えっ?でも、城の方はいいのか?」
「このサジテールを置いていかれるくらいなら、序列外のメイド部隊の方がまだ働く」
「そこまで言っちゃう!?……でも、確かにこのまま此処に置いておいても悲惨な結果になりそうだからな。サジテール、そのまま黒の皇帝に乗ってよしっ!!」
八雲の最終判断により、ヴァーミリオンに同行を許可されたサジテールは、
「やったぞっ!ファンロン!!これで明日からも一緒だぞっ♪」
満面の笑みで喜んでファンロンに頬ずりしている。
漸く落ち着いたところで、
「さあ、出発しよう!」
号令を掛けた八雲を先頭にして黒の皇帝に乗り込み、ディオネに出発の指示を出すとタラップが内部に収納され、ハッチタイプのドアが自動的に閉鎖される。
そして大空に向かって飛び立つ黒の皇帝―――
イェンリン達が乗った朱色の女皇帝は既に飛び立って黒龍城の上空に浮遊しているラーン天空基地へと入港していた。
これから黒の皇帝もラーン天空基地に入港し、来た時と同じく基地ごとヴァーミリオンに帰還するのだった―――
―――調印式を終えた八雲がヴァーミリオンに向かって出発した頃、
ヴァーミリオンからインディゴ公国に向かって帰還していたバサラとルシアは、もう国境を越えてインディゴ公国の首都ディオスタニアへと入った―――
海洋産業の発展した国であるインディゴ公国だが、首都は内陸よりである丁度中心の位置辺りに開かれている。
海で発展しているイメージからリオンのように海に近い場所に首都があると思われがちだが、歴史上何度も海賊や当時の外敵に襲撃された経緯から、首都は内陸に置かれることとなったのだ。
海洋近くには海洋都市バルカスが繁栄していて、ここにインディゴ公国の最大戦力でもある海軍の本拠地も置かれており、国防を担っている。
バルカスはインディゴ公国の海の玄関口となっており、宣戦布告されるつい先日までシニストラ帝国は互いに海洋貿易を行う間柄だったのだ。
森や草原ばかりだった道も、漸く首都の街道の雰囲気が見え始めたことにルシアはホッとした気持ちになる。
「まだ安心するのは早いぞ?城に入るまでは、いや……城に入っても油断するなよ、ルシア」
ルシアの表情を見て気が抜けたことに気がついたバサラは、戦時下に入る直前の国で公爵が気を抜いていると刺客共の餌食になる可能性もあると指摘したのだ。
そんなバサラの声を聞いて、途端に不機嫌顔に変わっていくルシア。
「言われなくても分かっているわ。それよりも、陛下には貴方の逸脱した行動についてしっかりと報告させてもらうから」
ルシアも負けん気を出して言い返すが、バサラはそんな言葉、どこ吹く風といった感じでひとり物思いに耽る。
(九頭竜八雲……その名前を聞いた時にはアンゴロ大陸の出身かとも思ったが、調べさせたらキャンピング馬車だの空飛ぶ船だのって、明らかにこの世界の物じゃないって物を造り出している。間違いなく黒帝は異世界人だ)
―――龍の牙の左の牙だけではなく、各国にそれぞれの優秀な諜報員は存在する。
バサラもまたクロイツ公爵家お抱えの諜報部隊が存在した。
北部ノルドのヴァーミリオンから南方に下ったシュヴァルツ皇国にもその手の者を派遣してある。
それがここ半年余りの間に元皇国であるティーグルからの報告が増え始めたかと思うと、あっという間にシュヴァルツ皇国という四カ国が纏まった巨大国家が誕生した時には、流石のバサラも面食らって驚きを隠せなかった。
その合間に送られてきた巨大な馬車であるキャンピング馬車のことや天翔船といった空飛ぶ船の報告まで届いて、バサラの疑念は一気に確信に変わる。
「―――もうすぐ城に着くわよ、バサラ」
そこでルシアの声で正気に戻されたバサラは窓の外に見えるインディゴ公国王家の城―――オクターブ城を見つめていた。
白地の壁に、水をイメージしたような空色の装飾が施された清廉な美しい城はバサラに改めて決意を固めさせる―――
(この国はルシアが治める国になるんだ。その国をシニストラ帝国の属国なんかにしてたまるか!……そのためには、剣聖と黒帝の力が必要になる)
―――ふたりを乗せた馬車は首都の街並みを抜けて、
正面に見えてくる白磁の城へと突き進むのだった―――
―――オクターブ城の玉座の間
女王クレオニア=リアニス・インディゴは、先に到着した先触れの報告を聴いて送り出した若き公爵二名の帰国を待ちわびていた。
「ルシア……バサラ……」
もう六十に近い女王は、これまで太平の世を治めて近隣国との関係も良好だった。
良好なはずだったのだ……
だが、海を隔てた軍事力も高く、血気盛んな民族であるシニストラが自国を標的として隷属化を上からの物言いで宣告してきた。
一体シニストラに何が起こったのか、現在も王家の手の者が調べているが明確な報告はまだ届いてはいなかった。
―――いや、届かないのだ。
シニストラの中央に調査に出向いた者達は尽くシニストラの軍によって拘束されている。
まるで此方の動きを見透かしているかのような先手必勝のシニストラの動きは、歳を取った女王には余りにも酷な状況を生み出している。
頭を悩ませる女王の待つ玉座の間に、近衛兵の声が響き渡る―――
「ローゼン公爵家、ルシア=フォン・ローゼン様!クロイツ公爵家、バサラ=クロイツ様!―――ご入場っ!!!」
―――その声にハッと我に返ったクレオニアは、玉座の赤絨毯を踏みしめて接近するふたりの公爵に視線を合わせて、その報告を待ちわびる。
女王の前に立ち並び、片膝をついて頭を下げるルシアとバサラ。
「ただいまヴァーミリオン皇国より帰国致しました。陛下にはその間、ご心痛をお掛けしまして誠に申し訳ございませんでした」
ルシアから帰国の挨拶が述べられると、笑顔を浮かべるクレオニアは、
「まずはよく無事に戻りました。貴方達がこうして戻ってくれただけでも嬉しいわ。それで、首尾は如何でしたか?」
ふたりを送り出した目的―――
古き同盟ではあるが、その中にある『相互軍事条約』の履行を求めるためにヴァーミリオンに向かったふたりの結果が気になるクレオニアが問い掛ける。
「はい。かの剣聖イェンリン=ロッソ・ヴァーミリオン陛下には、この度の件、条約に基づき出陣するとのお約束を頂いて参りました」
ルシアの笑顔を浮かべての報告にクレオニアも笑みが零れる。
「そう……剣聖には頼ってしまって申し訳ないけれど、インディゴが落ちれば次はヴァーミリオンに脅威が向かうことになるかも知れない。それはヴァーミリオン陛下ほどの御方であれば、お見通しでしょうけど」
イェンリンは言い様によっては、フロンテ大陸では一番戦争経験の多い人物とも言える。
自身の国を護るため、そのために周辺諸国と長きに渡り領土戦を繰り返し、今の超大国を築き上げたイェンリンは他国の軍部では剣聖よりも『軍神』と呼ばれているほどだった。
「口にはされませんでしたがインディゴが、かの帝国の属国となれば要らぬ脅威が隣国までやってくることはご理解されているものと。なればこそ、相互軍事条約の話しが出るとすぐに『威圧』されていた空気を収められましたから」
「恐らく貴方達をお試しになったのでしょうね……あの御方は昔からそういったところがありますから」
「恐れながら、陛下は直接ヴァーミリオン皇帝陛下にお会いになったことがあるのですか?」
まるで古くからの知り合いのような言い回しのクレオニアの言葉に、ルシアは思わず問い掛ける。
「……ええ。ありますとも。遥か昔、もう四十年以上前になるかしら。その頃はまだ私もこの国の王女の地位にいる時でした。その時に外交で訪れていらっしゃったイェンリン様には随分と可愛がって頂きました」
「そうだったのですね……」
クレオニアの言葉で得心のいったルシアが、次に―――
「それと、この度の謁見の際にバサラが独断でシュヴァルツ皇国の黒帝陛下宛ての親書をヴァーミリオン皇帝陛下に預けました。そのような話、わたくしは聴いておりません。陛下もご存知なかったのであれば、この大事な時に他国と余計な波風を立てるバサラにどうぞ厳罰をお与えください」
―――言っていた通り、バサラの独断行動を咎めるようにクレオニアに報告する。
「バサラが、シュヴァルツ皇国の黒帝陛下に……バサラ?一体どういう意図があってそのような真似を?」
クレオニアも聴かされていなかったバサラの行為に、その真意を問い掛ける。
すると黙って聴いていたバサラが俯いていた顔を上げると、
「このインディゴを―――救うためでございます」
クレオニアとルシアにはっきりとした口調でそう告げるのだった―――
昨日は夜通しと言っていいほどに黒龍城内で締結の宴が開かれ、アクアーリオ、フィッツェのみならず各神龍勢力の料理自慢がその腕を振るって豪華な料理から家庭的な料理まで幅広い料理に舌鼓を打っていった―――
例に漏れず八雲もまた普段着に戻ってから厨房に立ち、この日のために集めておいた食材を巨大な冷蔵庫から開放し、ふんだんに使用してオーヴェストの王族達をもてなした。
その行いに八雲との関係が最近からの者達は驚き、尚且つ出て来た珍しい料理(日本の一般的な料理)のことをあれこれと訊いては、その美味さに喜びの笑い声を上げていった。
皆、酒も入ってドンチャン騒ぎに移行していく頃にはシェーナ達エルフチビッ子部隊とファンロンが欠伸をして船をこぎ出したのを見てノワールがアリエスと白雪、ダイヤモンドと共に抱き上げて寝室へと向かう。
ファンロンは勿論サジテールが抱っこして連れて行ってしまった。
そんな宴会場のノリになった会場から徐々に女性陣が休むために抜けていき、最後には八雲と男達が残って最後まで飲みながら、オーヴェストのこれからを語り合うことで夜を明かしたのだった。
そして今日―――
「―――それじゃあ俺は一旦ヴァーミリオンに戻るよ。年が明けて卒業したら戻ってくるから」
「うむ。それまでは何かあれば龍の牙の方々に『伝心』で伝えてもらうことにしよう」
黒龍城の空港エリアで発進準備に取り掛かっている天翔船黒の皇帝の前で、固い握手を交わす八雲とエドワード。
オーヴェストの各国の代表とも挨拶をして、『龍紋の乙女』達にも熱い抱擁で一旦別れを告げる。
黒龍城には以前同様にサジテール、スコーピオ、フィッツェ、ジェーヴァが残る……はずだったのだが、
「ファンロンを置いて行ってくれないかっ!!」
ファンロンを胸に抱き締めて離さないサジテールが涙目で八雲に訴える。
「ダメだ。コイツはノワールの傍に置いておけって言われてるんだ。置いていく訳にはいかない」
八雲にNOを突きつけられてサジテールがますます泣き出しそうな顔になり、ファンロンを更にギュウゥッと抱き締める。
「ぎゃぶぅ!ぎゃはうっ!?」
強く抱きしめられ過ぎてファンロンが技から抜けようとするかのように藻掻き苦しむ。
そんな様子を見たスコーピオは溜め息を吐きながら、
「御子、もうこの際だからサジテールも連れて行ってくれ。この様子では残っても使い物にならん」
ジト目をサジテールに向けながら八雲にサジテールの同行を進言する。
「えっ?でも、城の方はいいのか?」
「このサジテールを置いていかれるくらいなら、序列外のメイド部隊の方がまだ働く」
「そこまで言っちゃう!?……でも、確かにこのまま此処に置いておいても悲惨な結果になりそうだからな。サジテール、そのまま黒の皇帝に乗ってよしっ!!」
八雲の最終判断により、ヴァーミリオンに同行を許可されたサジテールは、
「やったぞっ!ファンロン!!これで明日からも一緒だぞっ♪」
満面の笑みで喜んでファンロンに頬ずりしている。
漸く落ち着いたところで、
「さあ、出発しよう!」
号令を掛けた八雲を先頭にして黒の皇帝に乗り込み、ディオネに出発の指示を出すとタラップが内部に収納され、ハッチタイプのドアが自動的に閉鎖される。
そして大空に向かって飛び立つ黒の皇帝―――
イェンリン達が乗った朱色の女皇帝は既に飛び立って黒龍城の上空に浮遊しているラーン天空基地へと入港していた。
これから黒の皇帝もラーン天空基地に入港し、来た時と同じく基地ごとヴァーミリオンに帰還するのだった―――
―――調印式を終えた八雲がヴァーミリオンに向かって出発した頃、
ヴァーミリオンからインディゴ公国に向かって帰還していたバサラとルシアは、もう国境を越えてインディゴ公国の首都ディオスタニアへと入った―――
海洋産業の発展した国であるインディゴ公国だが、首都は内陸よりである丁度中心の位置辺りに開かれている。
海で発展しているイメージからリオンのように海に近い場所に首都があると思われがちだが、歴史上何度も海賊や当時の外敵に襲撃された経緯から、首都は内陸に置かれることとなったのだ。
海洋近くには海洋都市バルカスが繁栄していて、ここにインディゴ公国の最大戦力でもある海軍の本拠地も置かれており、国防を担っている。
バルカスはインディゴ公国の海の玄関口となっており、宣戦布告されるつい先日までシニストラ帝国は互いに海洋貿易を行う間柄だったのだ。
森や草原ばかりだった道も、漸く首都の街道の雰囲気が見え始めたことにルシアはホッとした気持ちになる。
「まだ安心するのは早いぞ?城に入るまでは、いや……城に入っても油断するなよ、ルシア」
ルシアの表情を見て気が抜けたことに気がついたバサラは、戦時下に入る直前の国で公爵が気を抜いていると刺客共の餌食になる可能性もあると指摘したのだ。
そんなバサラの声を聞いて、途端に不機嫌顔に変わっていくルシア。
「言われなくても分かっているわ。それよりも、陛下には貴方の逸脱した行動についてしっかりと報告させてもらうから」
ルシアも負けん気を出して言い返すが、バサラはそんな言葉、どこ吹く風といった感じでひとり物思いに耽る。
(九頭竜八雲……その名前を聞いた時にはアンゴロ大陸の出身かとも思ったが、調べさせたらキャンピング馬車だの空飛ぶ船だのって、明らかにこの世界の物じゃないって物を造り出している。間違いなく黒帝は異世界人だ)
―――龍の牙の左の牙だけではなく、各国にそれぞれの優秀な諜報員は存在する。
バサラもまたクロイツ公爵家お抱えの諜報部隊が存在した。
北部ノルドのヴァーミリオンから南方に下ったシュヴァルツ皇国にもその手の者を派遣してある。
それがここ半年余りの間に元皇国であるティーグルからの報告が増え始めたかと思うと、あっという間にシュヴァルツ皇国という四カ国が纏まった巨大国家が誕生した時には、流石のバサラも面食らって驚きを隠せなかった。
その合間に送られてきた巨大な馬車であるキャンピング馬車のことや天翔船といった空飛ぶ船の報告まで届いて、バサラの疑念は一気に確信に変わる。
「―――もうすぐ城に着くわよ、バサラ」
そこでルシアの声で正気に戻されたバサラは窓の外に見えるインディゴ公国王家の城―――オクターブ城を見つめていた。
白地の壁に、水をイメージしたような空色の装飾が施された清廉な美しい城はバサラに改めて決意を固めさせる―――
(この国はルシアが治める国になるんだ。その国をシニストラ帝国の属国なんかにしてたまるか!……そのためには、剣聖と黒帝の力が必要になる)
―――ふたりを乗せた馬車は首都の街並みを抜けて、
正面に見えてくる白磁の城へと突き進むのだった―――
―――オクターブ城の玉座の間
女王クレオニア=リアニス・インディゴは、先に到着した先触れの報告を聴いて送り出した若き公爵二名の帰国を待ちわびていた。
「ルシア……バサラ……」
もう六十に近い女王は、これまで太平の世を治めて近隣国との関係も良好だった。
良好なはずだったのだ……
だが、海を隔てた軍事力も高く、血気盛んな民族であるシニストラが自国を標的として隷属化を上からの物言いで宣告してきた。
一体シニストラに何が起こったのか、現在も王家の手の者が調べているが明確な報告はまだ届いてはいなかった。
―――いや、届かないのだ。
シニストラの中央に調査に出向いた者達は尽くシニストラの軍によって拘束されている。
まるで此方の動きを見透かしているかのような先手必勝のシニストラの動きは、歳を取った女王には余りにも酷な状況を生み出している。
頭を悩ませる女王の待つ玉座の間に、近衛兵の声が響き渡る―――
「ローゼン公爵家、ルシア=フォン・ローゼン様!クロイツ公爵家、バサラ=クロイツ様!―――ご入場っ!!!」
―――その声にハッと我に返ったクレオニアは、玉座の赤絨毯を踏みしめて接近するふたりの公爵に視線を合わせて、その報告を待ちわびる。
女王の前に立ち並び、片膝をついて頭を下げるルシアとバサラ。
「ただいまヴァーミリオン皇国より帰国致しました。陛下にはその間、ご心痛をお掛けしまして誠に申し訳ございませんでした」
ルシアから帰国の挨拶が述べられると、笑顔を浮かべるクレオニアは、
「まずはよく無事に戻りました。貴方達がこうして戻ってくれただけでも嬉しいわ。それで、首尾は如何でしたか?」
ふたりを送り出した目的―――
古き同盟ではあるが、その中にある『相互軍事条約』の履行を求めるためにヴァーミリオンに向かったふたりの結果が気になるクレオニアが問い掛ける。
「はい。かの剣聖イェンリン=ロッソ・ヴァーミリオン陛下には、この度の件、条約に基づき出陣するとのお約束を頂いて参りました」
ルシアの笑顔を浮かべての報告にクレオニアも笑みが零れる。
「そう……剣聖には頼ってしまって申し訳ないけれど、インディゴが落ちれば次はヴァーミリオンに脅威が向かうことになるかも知れない。それはヴァーミリオン陛下ほどの御方であれば、お見通しでしょうけど」
イェンリンは言い様によっては、フロンテ大陸では一番戦争経験の多い人物とも言える。
自身の国を護るため、そのために周辺諸国と長きに渡り領土戦を繰り返し、今の超大国を築き上げたイェンリンは他国の軍部では剣聖よりも『軍神』と呼ばれているほどだった。
「口にはされませんでしたがインディゴが、かの帝国の属国となれば要らぬ脅威が隣国までやってくることはご理解されているものと。なればこそ、相互軍事条約の話しが出るとすぐに『威圧』されていた空気を収められましたから」
「恐らく貴方達をお試しになったのでしょうね……あの御方は昔からそういったところがありますから」
「恐れながら、陛下は直接ヴァーミリオン皇帝陛下にお会いになったことがあるのですか?」
まるで古くからの知り合いのような言い回しのクレオニアの言葉に、ルシアは思わず問い掛ける。
「……ええ。ありますとも。遥か昔、もう四十年以上前になるかしら。その頃はまだ私もこの国の王女の地位にいる時でした。その時に外交で訪れていらっしゃったイェンリン様には随分と可愛がって頂きました」
「そうだったのですね……」
クレオニアの言葉で得心のいったルシアが、次に―――
「それと、この度の謁見の際にバサラが独断でシュヴァルツ皇国の黒帝陛下宛ての親書をヴァーミリオン皇帝陛下に預けました。そのような話、わたくしは聴いておりません。陛下もご存知なかったのであれば、この大事な時に他国と余計な波風を立てるバサラにどうぞ厳罰をお与えください」
―――言っていた通り、バサラの独断行動を咎めるようにクレオニアに報告する。
「バサラが、シュヴァルツ皇国の黒帝陛下に……バサラ?一体どういう意図があってそのような真似を?」
クレオニアも聴かされていなかったバサラの行為に、その真意を問い掛ける。
すると黙って聴いていたバサラが俯いていた顔を上げると、
「このインディゴを―――救うためでございます」
クレオニアとルシアにはっきりとした口調でそう告げるのだった―――
あなたにおすすめの小説
神様の手違いで異世界転生した俺の魅了チートが、勇者のハーレムを根こそぎ奪って溺愛ハーレム作りました!
まさき
恋愛
ブラック企業で働き続けた俺、佐藤誠が過労で倒れ、気づけば異界の地。
「手違いで死なせちゃってごめん!」という神様から、お詫びに貰ったのは規格外の【魅了】スキル——。
だが、元社畜の俺にはその自覚が微塵もない!
ただ誠実に、普通に生きようとしているだけなのに、エルフの賢者、獣人の少女、最強の聖女、さらには魔王の娘までもが、俺の「社畜仕込みの優しさ」に絆されて居座り始める。
一方で、10年かけて仲間を集めたはずの「勇者・勝利」は、自身の傲慢さゆえに、誠へとなびく仲間たちを一人、また一人と失っていく。
「俺は勇者だぞ! なぜ手違い転生者に負けるんだあああ!?」
人界から天界、そして宇宙の創造へ——。
無自覚な誠実さで世界を塗り替えてしまう、元社畜の究極溺愛ハーレムファンタジー、ここに開幕!
転生したら世界一の御曹司だった〜巨乳エルフメイド10人と美少女騎士に溺愛されています〜
まさき
ファンタジー
異世界転生した最強の金持ち嫡男、
専属エルフメイドと美少女騎士に囲まれて至福のハーレム生活
現代日本で「地味だが実は超大富豪」という特殊な人生を送っていた青年は、ある日事故で命を落とす。
しかし目を覚ますと、そこは魔法と様々な種族が存在する異世界だった。
彼は大陸一の富を誇る名門貴族――
ヴァン・バレンティン家の嫡男カイルとして転生していたのだ。
カイルに与えられたのは
・世界一とも言える圧倒的な財力
・財力に比例して増大する規格外の魔力
そして何より彼を驚かせたのは――
彼に仕える十人の専属メイド全員が、巨乳美少女だったことである。
献身的なエルフのメイド長リリア。
護衛騎士でありながら隙あらば誘惑してくる女騎士シルヴィア。
さらに個性豊かな巨乳メイドたち。
カイルは持ち前の財力で彼女たちの願いを叶え、最高級の装備や生活を与えていく。
すると彼女たちの忠誠心と愛情はどんどん加速していき――
「カイル様……今日は私が、お世話をさせてください」
領地を狙う貴族を金と魔力で圧倒し、
時にはメイドたちの愛が暴走して甘すぎる時間に巻き込まれながらも、
最強の御曹司カイルは
世界一幸せなハーレムを築いていく。
最後までお読みいただきありがとうございました。よろしければ応援をお願いいたします。
ジョブ「魔王」による魔王ライフ!~クラス転移で異世界に行ったらカーストが逆になったので異世界を満喫します!~
山椒
ファンタジー
二年B組はトップカーストが力を強くしていた。
まるで王様のように陰キャたちからお金を奪い、自分らの行いを正しいものだと当然のようにクラスに君臨した。
その二年B組が突如としてクラス転移した。
トップカーストの連中は意気揚々と成果に応じての報酬目当てに張り切るが、トップカーストの連中は全くの無能だった。
一方、搾取される側はとんでもないステータスを持っており、立場が逆転することになった。
搾取される側は勇者として優遇され、トップカーストの連中は城から追い出された。
ダンジョン攻略をしなければ元の世界に帰ることができず、しかも手伝わなければ帰す契約も破棄されるというトップカーストの連中にとっては地獄の展開だった。
搾取されながらも反逆を続けていた代表と呼ばれていた|大万《おおま》|璃央《りおう》はジョブ「魔王」となったことで、異世界で好きに生きられる力を持ち合わせていた。
召喚したテリオ王国にも少し問題を抱えていたが、魔王としての力で国を強化し、魔王ムーブをかますことでトップカーストの連中にやり返していく。
少しの間、家から追い出されたら芸能界デビューしてハーレム作ってました。コスプレのせいで。
昼寝部
キャラ文芸
俺、日向真白は義妹と幼馴染の策略により、10月31日のハロウィンの日にコスプレをすることとなった。
その日、コスプレの格好をしたまま少しの間、家を追い出された俺は、仕方なく街を歩いていると読者モデルの出版社で働く人に声をかけられる。
とても困っているようだったので、俺の写真を一枚だけ『読者モデル』に掲載することを了承する。
まさか、その写真がキッカケで芸能界デビューすることになるとは思いもせず……。
これは真白が芸能活動をしながら、義妹や幼馴染、アイドル、女優etcからモテモテとなり、全国の女性たちを魅了するだけのお話し。
天才物理学者の異世界実験録 〜神の奇跡が非効率すぎるので、物理学で最適化したら世界最強になってしまった件〜
あとりえむ
ファンタジー
地球の天才物理学者・湯川連は、自身の理論を証明するためブラックホールに飛び込み、魔法が存在する異世界へと転生した。
辺境伯の息子「レイ」として生まれ変わった彼は、この世界の魔法を見て呆れ果てる。
「エネルギー効率が悪すぎる。ただの不完全燃焼じゃないか」
魔法とは神の奇跡などではなく、未解明の物理現象に過ぎない。
レイは地球の圧倒的な物理学の知識を駆使し、異世界の常識を次々と破壊していく。
・太陽光を集めただけの『大気レンズ』で超高火力を叩き出し、試験官を驚愕させる。
・『共振現象』で絶対防御の壁を指一本で粉砕。
・根性論を語る筆頭魔法教官を『熱力学』で完全論破!
圧倒的な知識チートで、エリート魔法使いや教団の奇跡を次々と数式でねじ伏せていくレイ。
彼の目的はただ一つ。異世界に巨大な加速器を建造し、地球に自らの「論文」を送ること!
落ちこぼれの不確定少女、守銭奴の商人、未来予測の秀才を仲間に加え、天才物理学者の常識破壊の実験が今、幕を開ける。
神様、あなたの奇跡は私が物理学で証明してあげましょう。
限界突破の無双サバイバル〜鑑定スキルと無限レベルアップで未開の島を制覇し、助けた美女たちと最高の村を作ります〜
仙道
ファンタジー
異世界の島に転移した駆(かける)は、与えられた『鑑定』スキルと、上限なく上昇し続けるステータスを手に入れた。
魔獣がうごめく島で、俺は圧倒的な物理攻撃と鑑定スキルを活用して安全な水や食料を確保し、サバイバルを始める。
探索を続ける中で、魔獣に襲われる人間の少女リアナ、主人の毒に怯えるメイドのサリア、強敵に追い詰められたエルフの戦士リーファ、素材不足で困窮するエルフの治癒士フィリアを発見する。俺は限界を突破したステータスと的確な指示で、彼女たちの脅威や問題を次々と物理的に排除していく。
命や生活の基盤を確実に救済された美女たちは、俺の実力に圧倒され、激しく溺愛してくるようになる。
やがて集落の村長を引き受けた俺は、鑑定スキルで見つけた豊富な資源を使い、村を快適に作り変えていく。
男女比がおかしい世界の貴族に転生してしまった件
美鈴
ファンタジー
転生したのは男性が少ない世界!?貴族に生まれたのはいいけど、どういう風に生きていこう…?
最新章の第五章も夕方18時に更新予定です!
☆の話は苦手な人は飛ばしても問題無い様に物語を紡いでおります。
※ホットランキング1位、ファンタジーランキング3位ありがとうございます!
※カクヨム様にも投稿しております。内容が大幅に異なり改稿しております。
※各種ランキング1位を頂いた事がある作品です!
幻影魔法で毎回仲間を庇い死に掛けるフリをしていたら、ヒロイン達がヤンデレ化した。バレたら殺されるので、今日も俺は震えながら幻影魔法を使う
お餅ミトコンドリア
ファンタジー
現代日本から赤ん坊として異世界転生したシスコン少年ライは、五歳の時に一念発起、七年間我流で剣技を鍛えた上で冒険者登録し、年上の美少女たちの冒険者パーティに入れて欲しいと下心満載で頼む。
が、冷たく断られた。
彼女たちは、美少女(&美女)ばかりという珍しいパーティで、今までも散々軽薄な男たちから言い寄られていたため、心底うんざりしていたのだ。
ライは諦めずに懇願し続け、ようやく加入を許されたが、冒険者になりたての彼は、それまでの剣技の訓練の成果を全く発揮出来ず、美少女たちから見限られてしまいそうになる。
焦った彼は、奥の手を使うことにした。
それは、剣士の彼が何故か持っていた固有スキル、幻影魔法だった。
それから三年。
最近は、幻影魔法を用いて、毎回仲間を庇って瀕死の重傷を負う〝フリ〟をするようになった。
そのおかげで、モンスターを欺き、その隙に仲間たちが攻撃して倒すという流れが出来て、やっとライは彼女たちに貢献出来るようになった。
しかし、ある日。
どうやら限界が訪れたようで。
「……ライ君、ごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさい本当にごめんなさい……」
「……ああああ! もしあんたが死んじまったら、あたいは……あたいはああああああああ! ……そうだ……あんたが死なないようにすれば良いんだ……そうすれば、ずっと一緒にいられる……ライ。あたいの肉を食べておくれ。ハイエルフの肉にも、人魚みたいに不老不死の効果があるんじゃないかい?」
「ファラのせいで、ライライは酷い目に遭っちゃったの……本当にごめんなさい……本当に……本当に……本当に……。……お詫びと言ってはなんだけど、ファラの血をあげるの。ファラは精霊の血を受け継いでるから。これできっとライライの身体の痛みも消えるの。あと、先日ファラに発現した固有スキル〝超知覚〟で、ライライの内臓の状態を常に知覚してあげるの! 脳も、心臓も、肺も、胃も、膀胱も、小腸も、大腸も、全部の健康をファラが管理してあげるの!」
……あれ? おかしいな……
何か、みんな……ヤンデレ化してない?
……もしかして、これ……
『全部幻(うそ)でした』ってバレたら……殺されるんじゃね?
(※現在、第6回次世代ファンタジーカップに参加しています。
もし宜しければお気に入りに追加して応援して頂けましたら嬉しいです。何卒宜しくお願いいたします)
