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箱庭
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木のうろの中で目が覚めた。
ふかふかの木の葉が集まって良いベッドになっていたようで体に痛みとかは今のところ感じない。
小さな木の裂けめから入り込んでくる光に目を荒めながら、ゆっくりと這い出る。
柔らかい土を踏みしめ立ち上がり周りを見回せど何もない。 本当に何もない。 今出てきた木が唯一後ろにあるだけだ。
ここはどこだろう。
どうしてここにいるのか、どうやってここに来たのか。
何も思い出せない。
僕はここで何をしていたんだろう。
そっと視線を動かして自身を見る。
黒い。
人の形をした何か。 靄の様な、もの。
ふわふわと、僕の一部が大気に溶けて少なくなっていく。
もう一度周りを見回した時、遠くの方に煌めく金色があることに気づいた。
それはおそらく人間で、こちらを振り返ったと思うと一瞬立ち止まり、慌てたように何か叫んだ。
瞬きを一つ。
目を開いた時にはさっき見ていたはずの人影は無く、どこに行ったのかと視線を動かそうとしたその時、突然目の前に人が現れた。
その人は女性で、彼女はその手に持っていた布で僕をくるむと安心したかの様に息をつく。
「ようございました、こんなところにいらしたのですね、ああ、心配いたしました」
「だあれ?」
「ああ、これは失礼いたしました、主様、私はロエナと申します。 しがない一神官に過ぎません、主様が気に掛けるような存在ではございませんよ」
膝を土につけて、彼女は僕の目があるだろう位置に目線を合わせると優しく笑いながらそういった。
綺麗な緑色の瞳が、キラキラしている。
不思議なことに、その白い布で覆われたところは靄の密度が高くなって、人の形になっていった。
言葉の合間に僕の髪らしきものになった靄を手櫛で整え、土がついていたところを着ている服で拭いながら、腕や体をくまなく見て、欠けがどこにも存在していないことを確認して立ち上がり、私の手を引いて歩き出す。
「どこに行くの? ここはどこ?」
「籠り家でございます、主神様がおつくりになられた神々の卵を守り慈しむこの世で最も安全な場所でございますよ。 この地自体は神々の揺り籠とも称されます」
「神様?」
「はい、この揺り籠は新しく生まれる神を主君として、その方を世話するためにわたくしたちのような神官がいるのです」
「ふーん……分かった! これからそのえらい神様にあいさつに行くんだ!」
会話の果てにそんな結論を出し元気よく言った僕の言葉を聞いて、ロエナはきょとんとし、そして耐え切れずといったように笑みをこぼす。
その顔はとても優しく何か愛おしくてたまらないとでも言いたいような、そんな笑顔だった。
「ふふ……ああ、申し訳ございません、そのようなすねた顔をなさらないで下さいませ、うふふ」
「なんで笑うのー?」
「主様」
「なあに」
「主様ですよ。 わたくしたちの主君は貴方様でいらっしゃいます」
そう、言われて。
少し考えてようやくピンときた。
ロエナに主と呼ばれることになんの違和感も無かったのに、どうして気付かなかったんだろう。
ロエナの主が僕であるなら、彼女たちの存在がこの揺り籠とやらの主君の世話であるのなら、その主君は彼女の主たる僕でしかない。
この揺り籠でまどろむ新たな神とは、僕のことなんだ。
「そっか、そうだねぇ」
「はい、主様」
「……ねえロエナ、僕がここの偉い人なら、僕がロエナに名前を呼んで欲しいと言ったらその我儘を叶えてくれる?」
「まあ、召使いのわたくしに主君の名を呼ぶ誉を頂けるのですか?」
「僕はね、フェルガって言うの……呼んでくれる?」
何故急にこんな要望が出てきたのか自分でもわからない。
でも、彼女が僕の願いを跳ね除けることは無いだろうという、確信はあった。 それは僕を主と言うロエナの態度から来るものかも知れないし、ただの勘みたいなものかもしれない。
どちらにしてもその考え通りに、彼女はすんなり僕の名を呼んだ。
とても嬉しそうに。
「フェルガ様」
「ねえロエナ、これから行く籠り家には他にも人がいる?」
「神官はたくさん居りますよ。 主君たる神はフェルガ様お一人でございます。 神官はいくらでも増えますが神が増えることはありません。 一つの揺り籠に存在できる神の卵は一つのみでございますから」
「じゃあこの揺り籠にいる人は全部僕のためにいる人なの?」
「その通りでございます。 ……ああ、ご覧くださいフェルガ様、あれが籠り家です」
ふかふかの木の葉が集まって良いベッドになっていたようで体に痛みとかは今のところ感じない。
小さな木の裂けめから入り込んでくる光に目を荒めながら、ゆっくりと這い出る。
柔らかい土を踏みしめ立ち上がり周りを見回せど何もない。 本当に何もない。 今出てきた木が唯一後ろにあるだけだ。
ここはどこだろう。
どうしてここにいるのか、どうやってここに来たのか。
何も思い出せない。
僕はここで何をしていたんだろう。
そっと視線を動かして自身を見る。
黒い。
人の形をした何か。 靄の様な、もの。
ふわふわと、僕の一部が大気に溶けて少なくなっていく。
もう一度周りを見回した時、遠くの方に煌めく金色があることに気づいた。
それはおそらく人間で、こちらを振り返ったと思うと一瞬立ち止まり、慌てたように何か叫んだ。
瞬きを一つ。
目を開いた時にはさっき見ていたはずの人影は無く、どこに行ったのかと視線を動かそうとしたその時、突然目の前に人が現れた。
その人は女性で、彼女はその手に持っていた布で僕をくるむと安心したかの様に息をつく。
「ようございました、こんなところにいらしたのですね、ああ、心配いたしました」
「だあれ?」
「ああ、これは失礼いたしました、主様、私はロエナと申します。 しがない一神官に過ぎません、主様が気に掛けるような存在ではございませんよ」
膝を土につけて、彼女は僕の目があるだろう位置に目線を合わせると優しく笑いながらそういった。
綺麗な緑色の瞳が、キラキラしている。
不思議なことに、その白い布で覆われたところは靄の密度が高くなって、人の形になっていった。
言葉の合間に僕の髪らしきものになった靄を手櫛で整え、土がついていたところを着ている服で拭いながら、腕や体をくまなく見て、欠けがどこにも存在していないことを確認して立ち上がり、私の手を引いて歩き出す。
「どこに行くの? ここはどこ?」
「籠り家でございます、主神様がおつくりになられた神々の卵を守り慈しむこの世で最も安全な場所でございますよ。 この地自体は神々の揺り籠とも称されます」
「神様?」
「はい、この揺り籠は新しく生まれる神を主君として、その方を世話するためにわたくしたちのような神官がいるのです」
「ふーん……分かった! これからそのえらい神様にあいさつに行くんだ!」
会話の果てにそんな結論を出し元気よく言った僕の言葉を聞いて、ロエナはきょとんとし、そして耐え切れずといったように笑みをこぼす。
その顔はとても優しく何か愛おしくてたまらないとでも言いたいような、そんな笑顔だった。
「ふふ……ああ、申し訳ございません、そのようなすねた顔をなさらないで下さいませ、うふふ」
「なんで笑うのー?」
「主様」
「なあに」
「主様ですよ。 わたくしたちの主君は貴方様でいらっしゃいます」
そう、言われて。
少し考えてようやくピンときた。
ロエナに主と呼ばれることになんの違和感も無かったのに、どうして気付かなかったんだろう。
ロエナの主が僕であるなら、彼女たちの存在がこの揺り籠とやらの主君の世話であるのなら、その主君は彼女の主たる僕でしかない。
この揺り籠でまどろむ新たな神とは、僕のことなんだ。
「そっか、そうだねぇ」
「はい、主様」
「……ねえロエナ、僕がここの偉い人なら、僕がロエナに名前を呼んで欲しいと言ったらその我儘を叶えてくれる?」
「まあ、召使いのわたくしに主君の名を呼ぶ誉を頂けるのですか?」
「僕はね、フェルガって言うの……呼んでくれる?」
何故急にこんな要望が出てきたのか自分でもわからない。
でも、彼女が僕の願いを跳ね除けることは無いだろうという、確信はあった。 それは僕を主と言うロエナの態度から来るものかも知れないし、ただの勘みたいなものかもしれない。
どちらにしてもその考え通りに、彼女はすんなり僕の名を呼んだ。
とても嬉しそうに。
「フェルガ様」
「ねえロエナ、これから行く籠り家には他にも人がいる?」
「神官はたくさん居りますよ。 主君たる神はフェルガ様お一人でございます。 神官はいくらでも増えますが神が増えることはありません。 一つの揺り籠に存在できる神の卵は一つのみでございますから」
「じゃあこの揺り籠にいる人は全部僕のためにいる人なの?」
「その通りでございます。 ……ああ、ご覧くださいフェルガ様、あれが籠り家です」
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