白花の君

キイ子

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 その場所の光景に勝るものはきっとこの世に……いや、どんな世界にも存在はしないだろう。
背景にあるのは正しく宙。
数多の世界が輝いて、そして朽ちていく。
天からは花が降り注ぎ、外殻には流れ落ちる清らかな水が。
魔石の柱にはツタが伸び、より神秘的な雰囲気を醸し出している。

 この空間には影など見あたらなかった。
ただ、扉にあった六人の彫刻と同じ顔をした彫刻……こちらは魔石を用いて作られた巨大な人型の物だ、が存在していた。

 歩き出す。
最奥に在り手を広げて微笑みながら前を見つめるその像の足元まで。
私は、その足元で頽れる。
そう、わかっていた。

 一つ、一つ彫像を越えるたび、まるで祝福するかのように私の頭上へ光が舞う。
そしてその祝福に対する返しのように、私の体からも彫像たちの元へ光が舞い、その頭に花冠を落とした。

 その、足元へ。
私の何倍もある巨大な像の足元へ。
これ以上は、もう進みようがない。
一歩ですら、進むことは無い。
ただただ自然に足から力が抜け、その場に跪く。
そうして、恭しく頭を下げた。

 『このめでたき日に言祝きを。新たなる貴き神の行く先に幸多からんことを』

 初めて聞く声。
威厳に満ちた、美しい声。何をしようと敵うことがないと解らせるような、そんな気持ちすら抱かせないような、そんな声。

 今だ額づき動かない私の周りで身じろぐ気配があった。
それは一つではなく私を囲うように、おそらく五人。
そのうちの二人が手をかざす。

 「六の身より二の神へ祝福を奉ります」
 『絶望を。 深淵の底まで落ち行くその辛酸は染まり壊れるその心に死の救済を許すでしょう』

 「五の身より二の神へ祝福を奉ります」
 『希望を。 猛き光のその優しさは繰り返し繰り返し砕けるその心に生の渇望を与え続けるでしょう』

 ……いろいろと言いたいことも聞きたいこともあるが、何よりまず祝福されている気が一切しない。
その祝福らしき内容に不穏なものしか感じないのは気のせいだろうか。

 そんなことを考えながらも、この身を取り巻く光には確かな温もりを感じた。
優しさしか感じない暖かな光。
そんな祝福はなお続く。

 「四の身より二の神へ祝福を奉ります」
 『停滞と進展を。 停滞は変わりようのないことへの救いを、進展は進み続けることへの恐怖を』

 「では三の身より二の神へ祝福を!」
 『破壊と再生を。 運命を定めるのは己が意志のみ、全てを破壊し尽くそうが、すべてを救うことを選ぼうが、何者にも縛られることは無い』

 この声……。

 『生命は等しく廻る。 私より出でて私に還る。 あなたもまた、私の愛しき子。 主神たるこの身よりは二つ、祝福を授けよう』

 『善と悪を。 多くの意思がぶつかり生まれる悪意と善意を、あなたは貴方の意思で見極め行きなさい。 必ずしも悪を滅さなくても構いません、必ずしも善へ導かなくても構いません。あなたは貴方の意思で、動く』

 『命の循環を。 生きとし生けるもの全てにそれはある』

 その言葉を贈られた途端、眩い光がこの場に満ちた。
何も見えなくなるほどの強烈な光。
熱くて冷たい、光。



 ぐるりと、脳裏を駆け抜けた記憶。
忘れていた、そして、これからまた消えていく、私の生きた記憶。 証。
師に拾われ、見送り、自らがその立場になって生きた、私の記憶。

 三人の子供の後ろ姿が見える。
私のかわいい子供たち。 愛弟子たち。
それぞれ深い傷を持って、小さくなって震えていた、私の子。

 何もしてあげられなかった。
御師さまから受けただけの愛を、ただただ嬉しかったその愛を少しでも分けてあげたくて、御師さまのようになりたくて。
御師さまから愛を受けて、それでようやく生きていていいのだと気づくことた出来た私のように、ただそれをあの子たちにも分かって欲しくて。

 けれど、私は結局うまく出来なかった。
何も成せぬまま、無為に死んでしまった。
御師さまの様には、出来なかった。

 「マスタ……」

 ぴったりくっついて不安げに私を呼ぶ少女、苦しみに満ちた生活のせいで心が壊れてしまっていた幼子。
過去の自分を見ているようで辛かった。
どうなっただろう、生きて、生きて皆の元に辿りつけただろうか。

 「師匠!」

 屈託のない笑顔で唯一純粋に私に懐いていてくれた少年、一見闇など抱えていなそうに見えるこの子は、その実誰よりも自身の才能の無さに卑屈な思いを抱いていた。
他人の才能に激しい嫉妬の焔を燃やしながら、それをけっして表に出さない子だった。
大切なのは生まれ持っての特別な才能ではなく、持った才能を磨く努力が出来るかどうかだと言い聞かせ続けたが、それがあの子の心に届いたかはわからない。

 中途半端に放り出して自分の目の前から消えた挙句死んだ人間の言葉が、心になど届くだろうか。

 「先生」

 ライル。
才能に恵まれた、特別な子ども。
御師さまの、忘れ形見。

 さっきの人物は、本当にライルだったのだろうか?
そうだとしたら、立派な大人に成長したのだな。
何もしてやることは出来なかったが、さっきの様子を見るに私の死はあの子に少なくない影響を与えたのかもしれない。
あれが私の願望が見せた幻でないのであれば。

 光がどんどん強くなっている。
シルエットしかわからない三人が強く手を握り合っているのが見えた。
私が観たかった姿。 実際には無かった、有り得る筈が無かった光景。


 「私を父と思うと良い。 ここにいるのは皆君と同じ家族が無い子供たちだ。 だから、だからこそ私たちは皆家族なんだよ……あそこにいる兄弟子と姉弟子たちは君の兄と姉で、この先来る弟弟子と妹弟子はみんな君の弟妹なんだ。 みんなで力を合わせて、生きてゆくんだよ」

 御師さまの言葉、何もなかった私に家族が出来た日。
繋いでいきたかった、いけなかった御師さまのやさしさ。

 光が、強まっている。

 私は、あの子たちと家族になりたかった。







 なれなかった。
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