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光へ
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揺り籠を見てみたいとのレインの一言で外へと場所を変えた。
何もない筈の揺り籠を、彼はいたく感慨深そうに見回している。
一面に広がる草原、少し離れたところにある大きな木。
その梺には白い花が、木を囲うように生えている。
「珍しい……」
「何がですか?」
思わずと言った様子で呟かれた言葉に反応する。
何が、とは聞いたが彼の視線はしっかりとあの木を見ていたからあれであることは確かだが、何がそんなに気になったのだろうか。
「いや、世界樹が……神域には必ずあの世界樹と呼ばれる木があるんだけどね、ちょっと変わり種だったから。 世界樹自体はいろんな世界に存在するけどそれは神域に在る世界樹の分枝みたいなものなんだ。神域ごとに形状が違うから、その神域の主たる神の象徴にもなる」
「あの木が僕の象徴になるってことですね」
「そ。 君の木は小さい、でも生命力にあふれてる。 とてつもない力の塊……君も長生きできそうだな。 君がこれから作り上げる世界や、管理する世界で育つ世界樹はあの姿になるね」
彼はふわりと笑い、僕の頭を撫でた。
安堵したような、それでいてどことなく寂し気な、そんな雰囲気を醸し出しながら。
「俺の世界樹は、天まで届くほど高くそびえる枯木なんだ。 葉もつけないし実も生らない。 代わりにこれ以上朽ちゆくことも無い。 ユレイに……ああ、一の神のことなんだけど、あの子には老猾でしぶといおじいちゃんだと言われたよ」
「枯木、ですか」
「面白い子なんだ、ちょっと頭おかしいなって思う時もあるがね、あの子の世界樹もいつか見せてもらうといい。 あれは壮観だよ、始まりの神だけあって何より美しくて輝かしい。 目が痛くなるほどだ」
「あなたの世界樹も見てみたいです」
彼は眩しいものでも見るかのように目を細め僕を見て、そして嬉しそうに頬を緩ませ、じゃあまた今度彼の神域に招待するよと言ってくれた。
きっとこの人も、根は良い人なんだと思う。
少なくとも、他人を思いやる心と慈しむ心はちゃんと持ち合わせている。
それを表に出そうとしないだけのことだ。
「君は良い子だね、とても優しい子だ。 ……俺が今回君に会いに来たのは、君の人となりを見てみたかったからなんだ。 悪い人じゃなさそうで安心した」
「なんとなくそれは分かっていました。 至上の神というほどですから、きっと強大な力を持つのでしょう? それなら、その力を持つに相応しい……正確にはその力を持っても問題の無い人物であるかの確認は必要でしょうし……僕はあなたのお眼鏡にかないましたか?」
僕からの問いに、彼は満面の笑みを送ることで答えた。
きっと、今の羽化すら迎えていない状態の僕なら、容易く消すことが出来たのだろう。
僕が、彼のお眼鏡にかなわなければ。
いつの間にか世界樹のすぐそばまで、それこそ手を伸ばせばその幹に触れることが出来るほどに近くまで歩いてきていたようだ。
レインは今、木の梺に咲く白い花に夢中になってジッと観察している。
どうやら彼はこの花がいたくお気に召した様でしゃがみ込んで本当にジッと、穴が開きそうな勢いで見つめている。
この木は多分、僕が生まれたあの時の木だ。ただこの白い花は、僕がこの地に生まれた時には多分無かった。 見たことも無い筈の花なのに、どことなく懐かしさを抱かせるのは何なのだろうか。
その花弁はとても薄く、風でも吹けば千切れてしまいそうな弱弱しい花に見えるが、実際はそうではない。
触ってみればわかるのだが、この花、結晶なのだ。
葉から茎、萼に花弁、そのすべてが強固な結晶で、その上とてつもなく強大な魔力を秘めている。
無機質な石の筈なのに、生きているもの特有の温もりのようなものを感じるのだから本当に不思議だ。
一本、茎から手折ってみればパキリと小気味いい音を立てて簡単に折れてしまった。
魔石で出来た美しい花。どんなに価値のある宝石よりも希少で奇跡とも言えるようなその存在。
だが手折ったその瞬間から徐々に、半透明だった結晶の花は濁りを見せ始め、瞬く間に透明度を消した。
さらには折った時の切り口から固い結晶だったはずのものがだんだんと柔くなり、最終的には本当の花に、ただの植物としての花に成り代わっていった。
秘めた魔力も結晶だった頃の半分程度になってしまっている。
ただそれでも、かなりの魔力を持っていることには変わりないのだが。
花弁に触れる。
柔らかい、白い花びら。 ふっと、風が吹き僕の手のひらからまるで逃げるかのように花が舞い上がる。
舞い上がる花につられてあげた視線の先、こちらを心配そうに見る神官たちの姿が見えた。
先頭に立つロエナと、その傍らに佇むガラハ。
遮るように花が舞う。
花びらが散る。風に遊ばれて、金の髪が揺れていた。
僕の物より濃い金の髪、揃いの緑の瞳。
花が輝く。輝きが強くなる。やがてそれらは凝縮され一つの光の塊となった。
小さな小さな光。
驚愕に染まるロエナの瞳。
手を伸ばす。
触れたいと思った。触れなくてはいけないと思った。
僕はその光に魅入られていた。
何もない筈の揺り籠を、彼はいたく感慨深そうに見回している。
一面に広がる草原、少し離れたところにある大きな木。
その梺には白い花が、木を囲うように生えている。
「珍しい……」
「何がですか?」
思わずと言った様子で呟かれた言葉に反応する。
何が、とは聞いたが彼の視線はしっかりとあの木を見ていたからあれであることは確かだが、何がそんなに気になったのだろうか。
「いや、世界樹が……神域には必ずあの世界樹と呼ばれる木があるんだけどね、ちょっと変わり種だったから。 世界樹自体はいろんな世界に存在するけどそれは神域に在る世界樹の分枝みたいなものなんだ。神域ごとに形状が違うから、その神域の主たる神の象徴にもなる」
「あの木が僕の象徴になるってことですね」
「そ。 君の木は小さい、でも生命力にあふれてる。 とてつもない力の塊……君も長生きできそうだな。 君がこれから作り上げる世界や、管理する世界で育つ世界樹はあの姿になるね」
彼はふわりと笑い、僕の頭を撫でた。
安堵したような、それでいてどことなく寂し気な、そんな雰囲気を醸し出しながら。
「俺の世界樹は、天まで届くほど高くそびえる枯木なんだ。 葉もつけないし実も生らない。 代わりにこれ以上朽ちゆくことも無い。 ユレイに……ああ、一の神のことなんだけど、あの子には老猾でしぶといおじいちゃんだと言われたよ」
「枯木、ですか」
「面白い子なんだ、ちょっと頭おかしいなって思う時もあるがね、あの子の世界樹もいつか見せてもらうといい。 あれは壮観だよ、始まりの神だけあって何より美しくて輝かしい。 目が痛くなるほどだ」
「あなたの世界樹も見てみたいです」
彼は眩しいものでも見るかのように目を細め僕を見て、そして嬉しそうに頬を緩ませ、じゃあまた今度彼の神域に招待するよと言ってくれた。
きっとこの人も、根は良い人なんだと思う。
少なくとも、他人を思いやる心と慈しむ心はちゃんと持ち合わせている。
それを表に出そうとしないだけのことだ。
「君は良い子だね、とても優しい子だ。 ……俺が今回君に会いに来たのは、君の人となりを見てみたかったからなんだ。 悪い人じゃなさそうで安心した」
「なんとなくそれは分かっていました。 至上の神というほどですから、きっと強大な力を持つのでしょう? それなら、その力を持つに相応しい……正確にはその力を持っても問題の無い人物であるかの確認は必要でしょうし……僕はあなたのお眼鏡にかないましたか?」
僕からの問いに、彼は満面の笑みを送ることで答えた。
きっと、今の羽化すら迎えていない状態の僕なら、容易く消すことが出来たのだろう。
僕が、彼のお眼鏡にかなわなければ。
いつの間にか世界樹のすぐそばまで、それこそ手を伸ばせばその幹に触れることが出来るほどに近くまで歩いてきていたようだ。
レインは今、木の梺に咲く白い花に夢中になってジッと観察している。
どうやら彼はこの花がいたくお気に召した様でしゃがみ込んで本当にジッと、穴が開きそうな勢いで見つめている。
この木は多分、僕が生まれたあの時の木だ。ただこの白い花は、僕がこの地に生まれた時には多分無かった。 見たことも無い筈の花なのに、どことなく懐かしさを抱かせるのは何なのだろうか。
その花弁はとても薄く、風でも吹けば千切れてしまいそうな弱弱しい花に見えるが、実際はそうではない。
触ってみればわかるのだが、この花、結晶なのだ。
葉から茎、萼に花弁、そのすべてが強固な結晶で、その上とてつもなく強大な魔力を秘めている。
無機質な石の筈なのに、生きているもの特有の温もりのようなものを感じるのだから本当に不思議だ。
一本、茎から手折ってみればパキリと小気味いい音を立てて簡単に折れてしまった。
魔石で出来た美しい花。どんなに価値のある宝石よりも希少で奇跡とも言えるようなその存在。
だが手折ったその瞬間から徐々に、半透明だった結晶の花は濁りを見せ始め、瞬く間に透明度を消した。
さらには折った時の切り口から固い結晶だったはずのものがだんだんと柔くなり、最終的には本当の花に、ただの植物としての花に成り代わっていった。
秘めた魔力も結晶だった頃の半分程度になってしまっている。
ただそれでも、かなりの魔力を持っていることには変わりないのだが。
花弁に触れる。
柔らかい、白い花びら。 ふっと、風が吹き僕の手のひらからまるで逃げるかのように花が舞い上がる。
舞い上がる花につられてあげた視線の先、こちらを心配そうに見る神官たちの姿が見えた。
先頭に立つロエナと、その傍らに佇むガラハ。
遮るように花が舞う。
花びらが散る。風に遊ばれて、金の髪が揺れていた。
僕の物より濃い金の髪、揃いの緑の瞳。
花が輝く。輝きが強くなる。やがてそれらは凝縮され一つの光の塊となった。
小さな小さな光。
驚愕に染まるロエナの瞳。
手を伸ばす。
触れたいと思った。触れなくてはいけないと思った。
僕はその光に魅入られていた。
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