白花の君

キイ子

文字の大きさ
14 / 25

追憶3

しおりを挟む
 今更ながら自分の愚かさに笑えてくる。
この道を選んだことにではない。今さら、今際の際になってそんなことを思っていることに。
自嘲気味に笑う。
嗤うことしか、出来ない。

 迫る足音が、大分近づいてきている。

 もう、時間がない。
渡された手紙を握り潰す勢いで掴み泣きじゃくりながら首を振るルカの頭を優しく撫でる。
この柔らかい髪の毛を撫でた人間がいたことを、自分が愛された人間だということを忘れないで欲しい。
どうか、幸せであってほしい。私のようには、ならないで欲しい。私のことを心の傷に、自らを責める心の傷にしないで欲しい。
そう願いを込めて微笑む。
きっと、この子は、生きていける。

 「お願い、ルカ。君にしか頼めないことなんです。……聞いてくれない?」

 言葉を発することが出来ない程、ぼろぼろと涙を流しながらも頷いたルカの頭を撫で、もう一度しっかりと抱きしめる。
額に口づけをして、かけていたペンダントをルカの首に移した。肌身離さず身に着けていたものだから、見る人が見れば私のものだと、すぐにわかるはずだ。
ルカはもう、その場で蹲りそうな勢いで泣いていた。

 「お守りです、どうか大切に持っていてくださいね」

 抱き留めていたルカを離す。
涙の止まらない顔で何度も頷くルカの元から赤い目が一層真っ赤になって、痛々しい。
それでも、最後に見せたのは、私を安心させるための笑みだった。

 「カインドは私の兄弟子にあたる人なんですが、喧嘩別れをしてしまったの」
 
 立ち上がってルカを抱き上げながら、一人呟く。

 「私も彼も、幼かったから……お互いに落としどころの付け方が分からなかった……」

 私は結局彼を救えなかったし、彼は私を救うことが出来なかった。
お互いを思いやる気持ちはきっとあったはずなのに、それがすれ違ってしまった結果がこれだ。
その結果、私たちは兄弟弟子では無くなって、私たちの妹弟子を失った。
ルカの、母親を。

 「謝れば、良かったんだよなぁ」
きっと、彼もそれを待っていたはずなんだ。
ぽつりと呟く声をルカが聞いていたかはわからないが、私は微笑んだ。

 ルカに守護の魔法と祝福の魔法をかければ、全身がきしむように痛んだ。
もうほとんど残っていない魔力を無理やり動かしたのだから当然か。
足りない魔力を生命力で賄っていて、それをこの大陸に来てから繰り返しているから、私の体はもうズタズタなのだ。
魔力は生命力で補えるけど生命力は魔力で代用できない。一方的に魂を削っていくしかない。

 足音が背後に迫る。
後はもう、やることは一つだ。
あの塔を壊して、兵士たちの意識を私の方へ釘付けにする。
派手にやろう。船の方へ意識が向けられない程、派手に鮮烈に。その隙に船が出てしまえばこちらの勝ちだ。

 そっと、ルカを船へと飛ばす。
風魔法を使って、ルカと同じ赤い髪をした女の元へ。多分、同族のよしみで助けになってくれるだろうという期待は正しかったようで、女はすぐさまルカを抱え上げて船の奥へ消えた。
その姿を見送って、一人。

 揺らぐ。
心が、揺らぐ。
死んでもいいと思っていた幼少期。生きていていいのだと知った少年期。生きなくてはいけないのだと、悟った青年期。
そして、死にたくないと、思っている、今。

 私にまだできること。
私がまだ、捨てたくない、心。思い。
まだ、少しだけ、時間がある。少しだけ、命が、ある。

 「そこの船員さん」

 近場にいた暗い顔をしている船員に声をかける。
莫大な金銭を取るこの密航船だが、ただ金儲けのためだけにこんな危険な橋を渡る人間はそういない。
死と隣り合わせの、危険を、わざわざ取らねばならない程、この大陸に住む普通の人間は貧しくは無いから。
きっと……きっと彼らの根本にあるのは正義感だと、思う。そう、信じていたい。

 纏っていたフード付きの外套を脱いで姿を示せば、その場に小さくないざわめきが起きた。
驚きと、隠し切れないささやかな希望。
外套に包んだずっしりと重い小袋を渡せば彼は絶句したのちに、それを私に帰そうとする。

 「無理だ……見ればわかるだろう……この小さい船に、そんなに人は乗せられないんだ!」

 この光の大陸でも大分名が通ったものだな、と笑う。
あれだけ派手に暴れまわっていれば当然なのかもしれないが。
この行動だけで見ず知らずの人間にすら頼みたいことが察せられるくらいには、私は迫害される者たちを救えて来たのかと、少しうれしくもなった。
魔法を使えるというだけで迫害の対象になり、魔法使いや希少な民族の血を引くものを非道な研究の対象にしている光の大陸で、あちこちにある魔封じの塔を圧倒的な魔力によって壊しまわった私の存在が、救いになったのなら、あちこちで起こったらしい反乱の力に、なれたのなら。

 
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

強制悪役劣等生、レベル99の超人達の激重愛に逃げられない

砂糖犬
BL
悪名高い乙女ゲームの悪役令息に生まれ変わった主人公。 自分の未来は自分で変えると強制力に抗う事に。 ただ平穏に暮らしたい、それだけだった。 とあるきっかけフラグのせいで、友情ルートは崩れ去っていく。 恋愛ルートを認めない弱々キャラにわからせ愛を仕掛ける攻略キャラクター達。 ヒロインは?悪役令嬢は?それどころではない。 落第が掛かっている大事な時に、主人公は及第点を取れるのか!? 最強の力を内に憑依する時、その力は目覚める。 12人の攻略キャラクター×強制力に苦しむ悪役劣等生

苗床になった元騎士

鵜飼かいゆ
BL
引退した元騎士の老人が触手に寄生されて若返って苗床になるラブラブハッピーエンド話です。

クールな義兄の愛が重すぎる ~有能なおにいさまに次期当主の座を譲ったら、求婚されてしまいました~

槿 資紀
BL
イェント公爵令息のリエル・シャイデンは、生まれたときから虚弱体質を抱えていた。 公爵家の当主を継ぐ日まで生きていられるか分からないと、どの医師も口を揃えて言うほどだった。 そのため、リエルの代わりに当主を継ぐべく、分家筋から養子をとることになった。そうしてリエルの前に表れたのがアウレールだった。 アウレールはリエルに献身的に寄り添い、懸命の看病にあたった。 その甲斐あって、リエルは奇跡の回復を果たした。 そして、リエルは、誰よりも自分の生存を諦めなかった義兄の虜になった。 義兄は容姿も能力も完全無欠で、公爵家の次期当主として文句のつけようがない逸材だった。 そんな義兄に憧れ、その後を追って、難関の王立学院に合格を果たしたリエルだったが、入学直前のある日、現公爵の父に「跡継ぎをアウレールからお前に戻す」と告げられ――――。 完璧な義兄×虚弱受け すれ違いラブロマンス

男子高校に入学したらハーレムでした!

はやしかわともえ
BL
閲覧ありがとうございます。 ゆっくり書いていきます。 毎日19時更新です。 よろしくお願い致します。 2022.04.28 お気に入り、栞ありがとうございます。 とても励みになります。 引き続き宜しくお願いします。 2022.05.01 近々番外編SSをあげます。 よければ覗いてみてください。 2022.05.10 お気に入りしてくれてる方、閲覧くださってる方、ありがとうございます。 精一杯書いていきます。 2022.05.15 閲覧、お気に入り、ありがとうございます。 読んでいただけてとても嬉しいです。 近々番外編をあげます。 良ければ覗いてみてください。 2022.05.28 今日で完結です。閲覧、お気に入り本当にありがとうございました。 次作も頑張って書きます。 よろしくおねがいします。

鎖に繋がれた騎士は、敵国で皇帝の愛に囚われる

結衣可
BL
戦場で捕らえられた若き騎士エリアスは、牢に繋がれながらも誇りを折らず、帝国の皇帝オルフェンの瞳を惹きつける。 冷酷と畏怖で人を遠ざけてきた皇帝は、彼を望み、夜ごと逢瀬を重ねていく。 憎しみと抗いのはずが、いつしか芽生える心の揺らぎ。 誇り高き騎士が囚われたのは、冷徹な皇帝の愛。 鎖に繋がれた誇りと、独占欲に満ちた溺愛の行方は――。

囚われた元王は逃げ出せない

スノウ
BL
異世界からひょっこり召喚されてまさか国王!?でも人柄が良く周りに助けられながら10年もの間、国王に準じていた そうあの日までは 忠誠を誓ったはずの仲間に王位を剥奪され次々と手篭めに なんで俺にこんな事を 「国王でないならもう俺のものだ」 「僕をあなたの側にずっといさせて」 「君のいない人生は生きられない」 「私の国の王妃にならないか」 いやいや、みんな何いってんの?

公爵家の末っ子に転生しました〜出来損ないなので潔く退場しようとしたらうっかり溺愛されてしまった件について〜

上総啓
BL
公爵家の末っ子に転生したシルビオ。 体が弱く生まれて早々ぶっ倒れ、家族は見事に過保護ルートへと突き進んでしまった。 両親はめちゃくちゃ溺愛してくるし、超強い兄様はブラコンに育ち弟絶対守るマンに……。 せっかくファンタジーの世界に転生したんだから魔法も使えたり?と思ったら、我が家に代々伝わる上位氷魔法が俺にだけ使えない? しかも俺に使える魔法は氷魔法じゃなく『神聖魔法』?というか『神聖魔法』を操れるのは神に選ばれた愛し子だけ……? どうせ余命幾ばくもない出来損ないなら仕方ない、お荷物の僕はさっさと今世からも退場しよう……と思ってたのに? 偶然騎士たちを神聖魔法で救って、何故か天使と呼ばれて崇められたり。終いには帝国最強の狂血皇子に溺愛されて囲われちゃったり……いやいやちょっと待て。魔王様、主神様、まさかアンタらも? ……ってあれ、なんかめちゃくちゃ囲われてない?? ――― 病弱ならどうせすぐ死ぬかー。ならちょっとばかし遊んでもいいよね?と自由にやってたら無駄に最強な奴らに溺愛されちゃってた受けの話。 ※別名義で連載していた作品になります。 (名義を統合しこちらに移動することになりました)

人族は一人で生きられないらしい――獣人公爵に拾われ、溺愛されて家族になりました

よっちゃん
BL
人族がほとんど存在しない世界に、 前世の記憶を持ったまま転生した少年・レオン。 獣人が支配する貴族社会。 魔力こそが価値とされ、 「弱い人族」は守られるべき存在として扱われる世界で、 レオンは常識の違いに戸惑いながらも必死に生きようとする。 そんな彼を拾ったのは、 辺境を治める獣人公爵アルト。 寡黙で冷静、しかし一度守ると決めたものは決して手放さない男だった。 溺愛され、守られ、育てられる日々。 だが、レオンはただ守られるだけの存在で終わることを選ばない。 学院での出会い。 貴族社会に潜む差別と陰謀。 そして「番」という、深く重い絆。 レオンは学び、考え、 自分にしかできない魔法理論を武器に、 少しずつ“並び立つ覚悟”を身につけていく。 獣人と人族。 価値観も、立場も、すべてが違う二人が、 それでも選び合い、家族になるまでの物語。 溺愛×成長×異世界BL。 読後に残るのは、 「ここに居場所があっていい」と思える、あたたかな幸福。

処理中です...