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小さな遺物を握り込む。ほんのりと温かさを感じながらその小石を口元へ移し、ゆっくりと飲み込んだ。
どくん、と心臓が跳ねるような感覚を覚えると同時にそこにないはずの光景が見え始める。
暗い闇の中に浮かび上がる白い花々。そしてそれに囲まれるようにして立っている私を見ていた。
ああ、懐かしい、これは……そうだ、これは光の大陸に来る直前のことだ。
月明かりが花を照らしてその白い花が輝いているように見えた。
その花畑をベットにして黒髪の少年が寝ている。
記憶の中の私ははひどく穏やかな表情で、慈しみに満ちた瞳で彼を見ていた。
彼の元へ歩む私を気配で感じ取ったのか、瞼が開いて隠されていた漆黒の強い瞳がこちらを見た。
じっとりと見つめる深い深い闇を纏った瞳。
この子の、この目が苦手だった。
羨望の眼差し……いや、わかっている。
恋慕の眼差しだ。じっとりとして重い、ともすれば憎悪にすら変わりそうな、そんな感情を孕んだ、この目が。
月の光に照らされて輝く瞳の中に映る私の顔が見えて、直視できずに目を逸らしたことを覚えている。
「先生」
少年の声はどこか寂しげで、それでいて悲壮感に満ちているわけでもなくどこまでも穏やかだ。
私を呼ぶ彼の声から逃げるように、そこにいる私は目を瞑った。
「魔法陣の書き取りを命じたはずだ、こんなところで何をしている」
努めて発した冷たい言葉。
この時私は後ろめたかった。 というよりこの弟子に、ライルに対してはずっと。
出来ることなら、彼には私を恨んで欲しいと、憎んで欲しいと思っていた。
だからこの子に対してだけ冷たい態度をとってみたり、突き放すようなことを行ってきた。
……のだったのだけれど、改めて第三者目線で見てみると、思ったより私は感情を隠せていないことに驚いた。
目が、何よりも目がすべてを語っている。
どんなに冷たく突き放しても、ライルが絶対に私の元を離れないのも納得だった。
よくもまあこんな、慈愛に満ちた目をして、可愛くてかわいくてしょうがないみたいな目をして、隠しきれていると思い込めたものだ。
いや、ちょっと、恥ずかしくなってきた。
「先生」
ライルは私の言葉に応えずにもう一度呼び掛けてきた。
彼はいつの間にか立ち上がり、近くまで寄って覗き込むように当時の私を、私の目を見ている。
思えばライルは常に私の目を見ていた。
ライルの方へ視線を向けるといつだって目が合っていたから。
おそらく、私の目だけを見て本心を探ろうとしていたのだろう。
そこに私の本当の心が隠されているのを知っていて。
離れていく人に怯えていた奥底の本音も、あの子はきっと気付いていたんだろうなぁ。
「どうして、行くんですか?」
これを問われた時、私はなにを思って何を考えていただろうか。
真っ直ぐ向けられるその瞳が、恐ろしいほど鮮明で、熱烈で。
ただ、相変わらずこの子は痛いところをストレートについてくるなと思ったのは確かだ。
今の私も、同じことを思ったから。
触れずにいれば、この子を見ずにいればいつかは自然と消えるだろうと思っていた恋慕というその感情は、決してその通りになりはしなかった。
むしろ年月を経るにつれてなお重く、一層深く、なっていったような、そんな気がする。
私は、私に向けられるその感情を知りたくなかった。 見たくなかった。
その思いまで、感情まで否定したくは、拒絶したくは無かったから。
結局、私は何も答えられなかった。何も答えることが出来ないまま、私はこの大陸に旅立ってしまった。
いろんな人に言われた。なぜ行くのかと。放っておけと、自業自得で窮地に陥った者などのために死ぬつもりかと。頼むから行かないでくれと、懇願までされて。
でも、それでも私には出来なかった。それを諦めてしまえば、私が本当に大事にしていたものが、思いが、遺志が、失われてしまう気がして。
分かっていた。ちゃんとわかっていたさ。私は間違っていた。
全部、間違っていた。
消えた幻影に手を伸ばして、そのまま静かに下した。
今、私のすべきことは幻影に、過去に思いを馳せることじゃない。
ひとまず、これでもうこの地に心残りは無いのだ。
進もう。進まなくちゃ。そうしないといつまでも停滞したままだ。
どくん、と心臓が跳ねるような感覚を覚えると同時にそこにないはずの光景が見え始める。
暗い闇の中に浮かび上がる白い花々。そしてそれに囲まれるようにして立っている私を見ていた。
ああ、懐かしい、これは……そうだ、これは光の大陸に来る直前のことだ。
月明かりが花を照らしてその白い花が輝いているように見えた。
その花畑をベットにして黒髪の少年が寝ている。
記憶の中の私ははひどく穏やかな表情で、慈しみに満ちた瞳で彼を見ていた。
彼の元へ歩む私を気配で感じ取ったのか、瞼が開いて隠されていた漆黒の強い瞳がこちらを見た。
じっとりと見つめる深い深い闇を纏った瞳。
この子の、この目が苦手だった。
羨望の眼差し……いや、わかっている。
恋慕の眼差しだ。じっとりとして重い、ともすれば憎悪にすら変わりそうな、そんな感情を孕んだ、この目が。
月の光に照らされて輝く瞳の中に映る私の顔が見えて、直視できずに目を逸らしたことを覚えている。
「先生」
少年の声はどこか寂しげで、それでいて悲壮感に満ちているわけでもなくどこまでも穏やかだ。
私を呼ぶ彼の声から逃げるように、そこにいる私は目を瞑った。
「魔法陣の書き取りを命じたはずだ、こんなところで何をしている」
努めて発した冷たい言葉。
この時私は後ろめたかった。 というよりこの弟子に、ライルに対してはずっと。
出来ることなら、彼には私を恨んで欲しいと、憎んで欲しいと思っていた。
だからこの子に対してだけ冷たい態度をとってみたり、突き放すようなことを行ってきた。
……のだったのだけれど、改めて第三者目線で見てみると、思ったより私は感情を隠せていないことに驚いた。
目が、何よりも目がすべてを語っている。
どんなに冷たく突き放しても、ライルが絶対に私の元を離れないのも納得だった。
よくもまあこんな、慈愛に満ちた目をして、可愛くてかわいくてしょうがないみたいな目をして、隠しきれていると思い込めたものだ。
いや、ちょっと、恥ずかしくなってきた。
「先生」
ライルは私の言葉に応えずにもう一度呼び掛けてきた。
彼はいつの間にか立ち上がり、近くまで寄って覗き込むように当時の私を、私の目を見ている。
思えばライルは常に私の目を見ていた。
ライルの方へ視線を向けるといつだって目が合っていたから。
おそらく、私の目だけを見て本心を探ろうとしていたのだろう。
そこに私の本当の心が隠されているのを知っていて。
離れていく人に怯えていた奥底の本音も、あの子はきっと気付いていたんだろうなぁ。
「どうして、行くんですか?」
これを問われた時、私はなにを思って何を考えていただろうか。
真っ直ぐ向けられるその瞳が、恐ろしいほど鮮明で、熱烈で。
ただ、相変わらずこの子は痛いところをストレートについてくるなと思ったのは確かだ。
今の私も、同じことを思ったから。
触れずにいれば、この子を見ずにいればいつかは自然と消えるだろうと思っていた恋慕というその感情は、決してその通りになりはしなかった。
むしろ年月を経るにつれてなお重く、一層深く、なっていったような、そんな気がする。
私は、私に向けられるその感情を知りたくなかった。 見たくなかった。
その思いまで、感情まで否定したくは、拒絶したくは無かったから。
結局、私は何も答えられなかった。何も答えることが出来ないまま、私はこの大陸に旅立ってしまった。
いろんな人に言われた。なぜ行くのかと。放っておけと、自業自得で窮地に陥った者などのために死ぬつもりかと。頼むから行かないでくれと、懇願までされて。
でも、それでも私には出来なかった。それを諦めてしまえば、私が本当に大事にしていたものが、思いが、遺志が、失われてしまう気がして。
分かっていた。ちゃんとわかっていたさ。私は間違っていた。
全部、間違っていた。
消えた幻影に手を伸ばして、そのまま静かに下した。
今、私のすべきことは幻影に、過去に思いを馳せることじゃない。
ひとまず、これでもうこの地に心残りは無いのだ。
進もう。進まなくちゃ。そうしないといつまでも停滞したままだ。
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