炎の魔女は妖精の瞳を持つ男爵に恋をする~愛の囁きは危険な恋の始まり?~

清里優月

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24話 魔女らしくない彼女8

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 観劇に行く当日。シエナは若草色のドレスに身を包み、手袋をして髪をアップにして、若草色のドレスと友布のリボンで結い上げていた。きつい美貌の彼女が可憐に愛らしく見えた。ハリーはシエナのドレス姿にぽかんとしているようだ。じっと自分を凝視するハリーを見て、不安になる。

「あの、ハリー。ドレス、変かしら?」
 遠慮気味に声を出して、ドレスをじっと見つめた。
「い、いや。似合っている」
 ハリーがシエナに手を差し伸べた。それをきょとんとして首を傾げる。

「ほら、私たちは一応婚約者だ。手を取ってくれ」
 ハリーの耳が赤く染まっているのをシエナは見逃さない。そして、シエナを顔を赤く染めた。
「は、はい」
 ハリーの手を取ると、二人はダドリー伯爵家の箱馬車に乗り劇場へと向かう。馬車の中で向かい合う二人は頬を赤く染めていた。

 劇場に二人で入ると、二人へ視線が集中する。
「ダドリー伯爵家のハリー様が連れている女性は誰? とても綺麗な方」
 顔を見合わせて、初々しい雰囲気の二人が劇場のロビーを歩いて行き、人波が二人の歩く方向にわかれた。令嬢のひとりが声を上げた。

「あれ、誰?」
「ああ。最近ラッセル男爵が婚約した女性さ」
 とある令嬢と令嬢をエスコートしている貴族の男性が会話を繰り広げていた。

「えっ? ラッセル男爵はこの前、ナタリーを夜会にエスコートしたのよおかしくない?」
「いや、婚約者はラッセル男爵の幼なじみらしい」
 男性は社交界の噂に精通しているらしい。

「は? 初めて聞いたわ。ラッセル男爵にはそんな存在いないでしょう。最近、何回もお見合いをしているのに」
 令嬢は、ナタリーの友人だったから男性の噂話を否定した。男性は呆然とする。
「……知らない存在。まるで魔女のようだ」
 魔女という言葉自体が呪われた単語だ。令嬢はぶるりと身体を震わせた。

「止めてよ! あんな綺麗な女性がそんな存在だなんて! っと……」
 思わず叫んだ令嬢にうるさいと責める視線が飛んでくる。令嬢は口をつぐんだ。
「……アスター閣下に知らせなければ」
 男性は令嬢を置いて、走り出す。
「ちょっと! どこへ行くの! ひとりで観劇しろと?」
 再び叫ぶ令嬢に冷たい視線が注がれた。

 一方、ハリーとシエナは二階のボックス席に居た。シエナはオペラグラスを片手に興奮している。
「すごい! 二階のボックス席! 舞台が良く見えるわ!」
 シエナが座席に座り、ぴょんぴょん跳ねる。
「シエナ、少し落ち着け。ここは社交界の一端だ。君は私の婚約者として見られている」
「ご、ごめんなさい」
 ハリーに宥められて、しゅんとした。

『あらあら。はしゃぎすぎよ、シエナ。でも、シェラード座は素敵ね』
 対するラブも声が上ずっている。二階から下の座席の様子やオーケストラや緞帳が見えた。
「ラブもぬいぐるみの振りをすると言うから連れてきたんだぞ。二人とも落ち着いてくれ」
 ハリーが、注意するとシエナとラブは、
「『は~い』」
 と同時に返事をした。

「ほら。こっちの方が見える」
 シエナが持っているオペラグラスより良いオペラグラスを渡し、交換した。
「ハリー様、ありがとう!」
 シエナが嬉しそうに微笑む。ハリーはぱっと顔を逸らした。耳がほんのり赤くなっている。

 今日の演目は、悪役令嬢に仕立て上げられた純真な王女と彼女に真摯に仕える騎士の二人が、一生を添い遂げるの純愛物だ。
「うっうっ……。王女様が可哀想……」
 手に持っているハンカチをびしょびしょに濡らしながらまだ尚、泣いている。ハリーが見兼ねて、自分のハンカチを差し出す。そのハンカチもびしょびしょにしてしまった。あまりに素直なシエナにハリーは唖然とした。

「はあ~。素敵だった。王女様と騎士様が結ばれて良かった」
「ほら」
 ハリーは、ぐすぐすと泣いているシエナに呆れて、予備のハンカチを渡した。シエナがハンカチを手に取り、涙を拭う。
「ハリー様、ありがとうございます」
 いつもはニ十歳くらいに思えるシエナが、十代のあどけない少女のように見えた。

「そんなに良かったか?」
 ハリーは眼鏡の弦を押し上げて、眉間の皴を寄せている。だが、どこか優しげだった。それにシエナは嬉しくなり饒舌になる。
「はい。シェラード座の演目は、一度見て見たくて……。本当に素敵でした」
 その言葉を聞いて、ハリーはふっと破願した。それは一瞬でシエナにしか分からなかった。

「君は本当に自分の感情に素直で、魔女とは思えない。まるで人間のようだ」
 新緑の澄んだ瞳が一心にシエナに注がれる。シエナはぽかんとして、信じられない心地だ。
「え……」
 頬を朱色に染めるハリーへ金色の潤んだ瞳が視線を返す。シエナはハンカチを握りしめて、俯いたが、胸の鼓動が高鳴っていた。
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