炎の魔女は妖精の瞳を持つ男爵に恋をする~愛の囁きは危険な恋の始まり?~

清里優月

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29話 祝福4

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 シエナは屋敷に沿って箒を飛ばしていた。ぷかぷかと浮いて、二階のリビングの窓へと辿り着く。まだ初夏なので、肌寒い。緑の木々が色濃く生い茂って、風に吹かれている。
(う~っ。私の馬鹿! ショールを羽織ってくればよかった!)
 どうでもいいことを考えていたが、はっと正気に戻った。

「二人の声を集中して。聞くのよ」
 シエナは魔法に集中すると、リビングの会話が脳裏に流れ込んできた。

「お茶が上手いな」
 ハリーは、先ほどのラブシーンを見られていないか心配で誤魔化している。対してレイモンドは、涼しい顔で言葉を続ける。
「それにしてもいつの間にあんな美人を婚約者にしていたんだ? ああ、いい所だったのに邪魔して悪かったよ」
 ハリーは飲んでいた紅茶を噴き出しかけた。

「お堅いお前がな……」
 にやにやして笑うレイモンドにハリーは顔を真っ赤にしていた。
「なっ、なっ。レイモンド、お前、わかっていてやったのか!」
「悪いな。お前をからかうのが面白くてな、つい」
 くくくと苦笑いするレイモンドはおかしくて仕方ないようだ。レイモンドはハリーにとって親友だ。頬を赤く染めているハリーだが、開き直った。

「しかし、お前は」
 レイモンドは、お堅い親友のハリーの恋愛が楽しくて仕方ないらしい。
(大変な奴にばれた)
 頭を抱えているハリーは、ため息をひとつ落とした。その時だった。目の前に見慣れた赤い服を着た小人、ビリー=ブラウニーが現れた。てててとこちらに歩いてきて、ハリーの手を引っ張った。

「?」
『ダメ、こいつ悪い奴。ハリーを利用しようとしている』
 必死に拙い言葉を紡いで、ハリーに伝えようとしていた。ビリー=ブラウニーは、善良な妖精だ。いつも家事をこなしてくれるビリー=ブラウニーにハリーはミルクを供えていた。だから、ビリー=ブラウニーはハリーに懐いていたのだ。その妖精が必死になっている。聞かないと、いけない。
「悪い。レイモンド、席を外す」
 ビリー=ブラウニーの小さな手を握り返すと、ハリーは小さな妖精の後をついていく。

「ちっ、ハリーめ。『妖精の瞳』を手に入れていたとは。もう少しだったのに……」
 ソファに座っているレイモンドの口調が貴族らしからぬ乱暴な物言いに変わった。クラバットを外し、首元を緩める。シエナは窓の外からハラハラして見守っていた。

(まずいわ。あの子、レイモンドを刺激して……)
 レイモンドは何故、ハリーの親友をしているのだろうかとシエナは疑問に感じ、不安を覚えていた。ビリー=ブラウニーは、ハリーに何を伝えようとしたのだろうか。

「シエナ。アイツが『妖精の瞳』を手に入れたのは、お前のせいか。魔法で中に入って来いよ」
 独り言のように呟くふりをして、シエナに呼びかけてきた。
「!」
 シエナはレイモンドの呼びかけに魔法の呪文を唱えて、中に入った。入った瞬間、シエナを前に不敵に笑うレイモンドが居た。

「久しぶりだな、シエナ。五十年ぶりか」
 腕を組み、その顔に冷笑を浮かべている。
「レイモンド。あなたが、何故ここに?」
 五十年前、塔で数少ない男性の魔法使いであるレイモンドとは、接触はそんなになかったが、レイモンドとシエナの関係は悪くなかった。シエナは何か理由があるのだろうと信じていた。
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