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3話 大嫌いな婚約者3
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朝、エリンは魔法院で師匠ステラや水の魔法院の魔法使いたちと共に水の精霊の女王への祈りを捧げていた。自然と共に在る魔法使いたちは生活のリズムが整っている。エリンもそうだ。なのに貴族たちが行う舞踏会は、夜遅くに始まり早朝に終わる。貴族たちは自然の摂理から離れすぎている。
だから。
エリンは貴族という存在が嫌いだ。
(早く心読みの薬を生成しないと……)
スペンサー王国の女性の成人の年齢は十八歳。エリンも十八歳の誕生日を迎えていた。エリンが十八歳になってからレヴィと結婚するようにという圧力がダグラス伯爵家を始め、自分の実家スミス家からもかかってくるようになった。エリンは焦っていた。
神聖な精霊王への祈りの時間にエリンはふわーと欠伸をした。途端に頭をすぱーんと叩かれる。
「いったーい」
あまりの痛さに自分の頭を押さえながら声を出してしまう。
「祈りの時間に不謹慎な!」
ハリセンを持ったエリンの師匠ステラが怒っている。銀色の長い髪。水色のアーモンド形の瞳に整った鼻筋。桜色の小さな唇に小さな顔。細い肢体の神秘的な美貌の主。肩に纏う蒼のマントがスペンサー王国に三人しかいない最高位の魔導師の証だ。
「そのハリセンをどこから取り出したのですか!」
「魔法です。魔法」
ちっちっとステラは人差し指を振る。
「どこがですか!」
エリンは顔を真っ赤にして、師匠のボケにツッコミで返す。神聖なる水の精霊の女王へ捧げる祈りの時間にこの師弟は漫才を始めた。いつものことなので他の魔導士や魔法使いたちはスルーしている。
(まったく……。師匠は本当に変人なのよね。あれでスペンサー王国に三人しかいない最高位の魔導師なのだから)
エリンはその現実に眩暈を覚えた。自分に賢者の石をくれた炎の魔法院の蒼の魔導師イーサン、その人は常識人なのになあと思い出して我に返る。この年齢不詳の美魔女であるエリンの師匠ステラはかなり大人げない。ステラはエリンの魔法院での親代わりのような存在だ。そんなステラが育てたエリンではあるが、十五歳という成人に近い年齢で魔法院に入ったお陰で常識だけは身につけていた。ステラの数少ない弟子の中でエリンは、唯一の常識人である。
だけど。
エリンは魔法オタクである。何もないと思っていた自分に魔法という特技が加わった。
唯一のとりえ。
ならば、自分の得意分野にしてしまおうと魔法の勉強を一生懸命始めた。
その結果が見た目に全く気を使わない現在のエリンの出来上がりだ。
元々、深い青の色合いの瞳が気持ち悪いと義母や義理妹に言われ、前髪で瞳を隠していた。
スミス家の外れと呼ばれ、婚約者であるレヴィはエリンに無頓着だ。
余計見た目に気を使くなった。
「それにしても。エリン、あなた自分の見た目に気を遣わなすぎです。元はいいのだからきちんとすれば……。その前髪だけでも切って、瞳を出せば」
ステラが心配そうにエリンを見る。エリンはいつものことだと受け流す。ステラは、破天荒な性格だが面倒見はいいのだ。
「ありがとうございます。師匠だけですよ、私の見た目を誉めてくれるのは」
ふふっと苦笑する。
実の父親ベンと血の繋がった弟ハリーは、エリンを大事にしてくれる。しかし、今現在は実家を離れている。そんな中、ステラだけがエリンを気にかけてくれている。そんな気配りが嬉しくてエリンは微笑んだ。
そう笑ってはいたが、午後からいつものレヴィとのお茶会だと思い出して気が重くなった。いつもお茶の時間の十五時に間に合うようにダグラス伯爵家の馬車がご丁寧に魔法院まで迎えに来るのだ。嫌なことは忘れてしまおうと首を振り、魔法院の自分の部屋へと戻る。そして時間が過ぎて、エリンの大嫌いな時間となる。
ダグラス伯爵家の箱馬車に乗せられて、エリンはレヴィとのお茶会に向かった。魔法院の服装ではなく、外出用のドレスに着替えている。エリンはレヴィに会うのが嫌で溜息をひとつ、吐いた。
ダグラス伯爵家の綺麗な庭園の中にあるガゼボへ設置されたテーブルと椅子。先に座っていたのはレヴィだ。
「こ、こんにちは」
エリンが、挨拶をする。
レヴィは綺麗な深紅の瞳をエリンに向けて、無言で頷いた。
エリンは頭の中できーっとなる。
(挨拶くらい口にしなさいよ! ああ、そう! お互いに大嫌いな婚約者だものね! 挨拶もしたくないって訳!)
エリンは、引き攣った笑顔を顔に張り付けて必死に取り繕う。
「失礼します」
椅子を引こうとした。
「何もいちいち言うことはないだろう」
そう口にすると、レヴィは顔を明後日の方向へ向けた。ご丁寧にエリンとは反対の方向に。
エリンはひくひくと口をひきつらせた。
そして、レヴィは無言のままだ。
いつもは必死に声をかけるエリンもぷちんと切れて、黙り込んでお茶を啜る。
沈黙だけが二人を包み込んだ。
そして、きちっと一時間後レヴィは立ち上がり、
「帰る」
その単語だけ口にしてエリンの前から立ち去った。
エリンは呆気に取られて、口をぽかんと開いたままだった。
だから。
エリンは貴族という存在が嫌いだ。
(早く心読みの薬を生成しないと……)
スペンサー王国の女性の成人の年齢は十八歳。エリンも十八歳の誕生日を迎えていた。エリンが十八歳になってからレヴィと結婚するようにという圧力がダグラス伯爵家を始め、自分の実家スミス家からもかかってくるようになった。エリンは焦っていた。
神聖な精霊王への祈りの時間にエリンはふわーと欠伸をした。途端に頭をすぱーんと叩かれる。
「いったーい」
あまりの痛さに自分の頭を押さえながら声を出してしまう。
「祈りの時間に不謹慎な!」
ハリセンを持ったエリンの師匠ステラが怒っている。銀色の長い髪。水色のアーモンド形の瞳に整った鼻筋。桜色の小さな唇に小さな顔。細い肢体の神秘的な美貌の主。肩に纏う蒼のマントがスペンサー王国に三人しかいない最高位の魔導師の証だ。
「そのハリセンをどこから取り出したのですか!」
「魔法です。魔法」
ちっちっとステラは人差し指を振る。
「どこがですか!」
エリンは顔を真っ赤にして、師匠のボケにツッコミで返す。神聖なる水の精霊の女王へ捧げる祈りの時間にこの師弟は漫才を始めた。いつものことなので他の魔導士や魔法使いたちはスルーしている。
(まったく……。師匠は本当に変人なのよね。あれでスペンサー王国に三人しかいない最高位の魔導師なのだから)
エリンはその現実に眩暈を覚えた。自分に賢者の石をくれた炎の魔法院の蒼の魔導師イーサン、その人は常識人なのになあと思い出して我に返る。この年齢不詳の美魔女であるエリンの師匠ステラはかなり大人げない。ステラはエリンの魔法院での親代わりのような存在だ。そんなステラが育てたエリンではあるが、十五歳という成人に近い年齢で魔法院に入ったお陰で常識だけは身につけていた。ステラの数少ない弟子の中でエリンは、唯一の常識人である。
だけど。
エリンは魔法オタクである。何もないと思っていた自分に魔法という特技が加わった。
唯一のとりえ。
ならば、自分の得意分野にしてしまおうと魔法の勉強を一生懸命始めた。
その結果が見た目に全く気を使わない現在のエリンの出来上がりだ。
元々、深い青の色合いの瞳が気持ち悪いと義母や義理妹に言われ、前髪で瞳を隠していた。
スミス家の外れと呼ばれ、婚約者であるレヴィはエリンに無頓着だ。
余計見た目に気を使くなった。
「それにしても。エリン、あなた自分の見た目に気を遣わなすぎです。元はいいのだからきちんとすれば……。その前髪だけでも切って、瞳を出せば」
ステラが心配そうにエリンを見る。エリンはいつものことだと受け流す。ステラは、破天荒な性格だが面倒見はいいのだ。
「ありがとうございます。師匠だけですよ、私の見た目を誉めてくれるのは」
ふふっと苦笑する。
実の父親ベンと血の繋がった弟ハリーは、エリンを大事にしてくれる。しかし、今現在は実家を離れている。そんな中、ステラだけがエリンを気にかけてくれている。そんな気配りが嬉しくてエリンは微笑んだ。
そう笑ってはいたが、午後からいつものレヴィとのお茶会だと思い出して気が重くなった。いつもお茶の時間の十五時に間に合うようにダグラス伯爵家の馬車がご丁寧に魔法院まで迎えに来るのだ。嫌なことは忘れてしまおうと首を振り、魔法院の自分の部屋へと戻る。そして時間が過ぎて、エリンの大嫌いな時間となる。
ダグラス伯爵家の箱馬車に乗せられて、エリンはレヴィとのお茶会に向かった。魔法院の服装ではなく、外出用のドレスに着替えている。エリンはレヴィに会うのが嫌で溜息をひとつ、吐いた。
ダグラス伯爵家の綺麗な庭園の中にあるガゼボへ設置されたテーブルと椅子。先に座っていたのはレヴィだ。
「こ、こんにちは」
エリンが、挨拶をする。
レヴィは綺麗な深紅の瞳をエリンに向けて、無言で頷いた。
エリンは頭の中できーっとなる。
(挨拶くらい口にしなさいよ! ああ、そう! お互いに大嫌いな婚約者だものね! 挨拶もしたくないって訳!)
エリンは、引き攣った笑顔を顔に張り付けて必死に取り繕う。
「失礼します」
椅子を引こうとした。
「何もいちいち言うことはないだろう」
そう口にすると、レヴィは顔を明後日の方向へ向けた。ご丁寧にエリンとは反対の方向に。
エリンはひくひくと口をひきつらせた。
そして、レヴィは無言のままだ。
いつもは必死に声をかけるエリンもぷちんと切れて、黙り込んでお茶を啜る。
沈黙だけが二人を包み込んだ。
そして、きちっと一時間後レヴィは立ち上がり、
「帰る」
その単語だけ口にしてエリンの前から立ち去った。
エリンは呆気に取られて、口をぽかんと開いたままだった。
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