大嫌いな婚約者の秘密を知ってしまいました~心読みの魔法が効いてしまった結果~

清里優月

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23話 過去5

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「レヴィ!」
 エリンは悲鳴を上げて、レヴィに手を伸ばした。
 エリンをエドワードが抱き上げた。

「エリン! レヴィはもう駄目だ。炎に呑まれてしまっている! ここから逃げよう」
 エドワードは、我が子の変わり果てた姿を見て絶望を覚えるが、親友の子を優先する。生きている者を先に逃がさねば、と。

「エドワードおじさま、だめ! エリンはレヴィを助ける!」
「エリン!」
 エドワードの腕の中からエリンはぴょんと飛び降りる。そして手を上げた。
「おみずのせいれいさん、ううんじょうおうさま! 来て!」
 エリンの呼びかけに応えて、空中に水の貴婦人が現れる。

『エリン、はもう駄目よ。炎の力の制御を失い、己の力に呑まれている』
 水の精霊の女王は、首を振った。
 その女王の台詞にエリンは必死に言い募る。
『エリン、でもあなたはまだ幼い。まだ完全に愛し子としての力が揮えないわ』
「エリンは、レヴィを助けたいの! 何でもする! エリンの大切なものあげるから!」
 澄んだ水の水面を連想させるエリンの青の瞳が潤んだ。
 精霊王たちは愛し子を誰よりも愛している、守りたいと願う存在だ。その愛し子のお願いには弱い。

『大切なもの……。それは初恋の記憶でも?』
 エリンは顔を上げて、こくんと頷いた。
『……エリン、あなたの今一番大切な存在はレヴィよ。レヴィとの想い出を全部失ってもいいの?』
 エリンは、顔を俯かせてまた上げて再び頷く。

「エリンはおぼえてる。忘れてもレヴィが一番だって。だからまたレヴィに会えたエリンは、レヴィをだいすきになる」
 凛とした態度で言い切った愛し子の言葉に水の精霊の女王はふっと笑う。幼いのに毅然とした眼差しを女王に向ける。ふっと女王は苦笑した。人間は、醜い。だが人間は美しい。幼きものが見せた美しい想いに女王は魅了された。

『わかったわ……。エリン、それでは初恋の記憶を貰うわ。それと引き換えに我が力をふるいなさい』
 ふわりと水の女王がエリンと一体化する。
 エリンの青の瞳が輝き、その身体が青に呑まれる。
 すっとエリンの手から水の力が放たれて、レヴィを吞み込んでいく。
 エリンの持つ水の力が全て放たれて、青の世界が広がる。
 
 レヴィは、深紅の世界に居た。
 熱くて動けない、そしてここから動きたくない。
 自分は母親に見捨てられた人間。
 誰も自分を必要としてくれない、愛してくれない。
 膝を抱えて蹲っていた。
 このまま、消えてしまいたい。

『レヴィ! 戻ってきて!』
 誰かの声がした。
 だけど。
 レヴィは、顔を上げない。
 放っておいてほしい、と。
 
「レヴィ、エリンだよ」
 エリンが蹲るレヴィを抱きしめた。
 温もりが広がる。

「エリン、僕を置いて戻って。もう僕は生きていたくない」
「レヴィ……」
「母様は僕を化け物と呼んだ。僕は母様に嫌われているんだ」
「レヴィ。顔を上げて」
 深紅の瞳と青の瞳が出会う。
 小さな手がレヴィの頬を包み込んだ。

「レヴィ、エリンはレヴィのことが世界で一番すき」
 エリンの紡ぐ言葉は真剣でその青の瞳は必死にレヴィを見つめていた。
「……エリン、僕でいいの?」
 レヴィは紅の双眸を濡らして、エリンを見つめ返す。
「レヴィ、だいすき」
 エリンの唇がレヴィの唇に重なる。
 レヴィは、それと同時に青の輝きに包み込まれた。
 
 青の息吹がエリンから送り込まれて、レヴィの身体が青に輝く。
 レヴィの深紅の瞳が開いた。
 エリンは、嬉しそうに笑う。
 そして、暫くしてエリンは意識を失った。
 エリンは、精霊の力を使い過ぎて、長い間眠りに着いていた。
 次に目覚めた時、彼女のひと夏の記憶は失われていた。
 そして、水の精霊を呼ぶ力も消えていた。

 エリンは、瞳を開いた。
 幼い失われた記憶と枯渇した力。
 だけど。
 エリンは、思い出した。
 それはエリンが真に水の精霊の女王の愛し子として覚醒したからだ。

「レヴィ……」
 エリンは、かつての初恋の少年の名前を呼んだ。
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