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24話 優しい雨
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十三年前は、幼かった。五歳のエリンは、精霊が好む『綺麗な記憶』と引き換えにレヴィを助けた。そして、魔力も枯渇した。
十年後に魔力が満ちて、水の精霊の女王の愛し子として国に認定された。力を失くした間に『外れのエリン』と揶揄されて、義母親子に嫌がらせを受けた。そんな日々の中、記憶を失くしたエリンの傍にレヴィは居続けてくれたのだ。そして、彼は怯えていた。自分の力が暴走するのを。
エリンの傍に居たくて、でも自分の力が傷つけるのが怖くて。
エリンに塩対応を取ってきたのも、「迷惑だ」と言ったのも。
彼の優しさ、故だ。
(レヴィ、レヴィ。ごめんなさい。忘れてしまって……)
レヴィは八歳からずっとエリンを待ち続けていてくれたのに。
エリンの青の瞳が潤む。
誘拐されたエリンを助けに来てくれて、炎に包まれたレヴィ。
「レヴィ、あなたを助けるわ……。水の精霊の女王! 我が声に応えよ!」
エリンは手を伸ばして、水の精霊の女王を召喚する。空中に青の色彩の貴婦人が現れる。
『おや、エリン。私を呼ぶのは十三年ぶりね』
小鳥のような声で謡うように女王はエリンに話しかける。
「女王、再会できて嬉しいわ。だけど今は話している余裕はないの。レヴィを助けて!」
エリンは必死に助けを求めるが、女王は余裕だ。
『おやまあ、炎の精霊王の愛しい坊やは、また炎の力を暴走させたのかい』
ころころと笑い出した。
「女王!」
エリンが怒り出す。
『本当に世話の焼ける坊やだこと』
女王は嘆息すると、ふわりとエリンの身体に溶け込む。
女王と一体化したエリンは、十三年前と同じように青の瞳を輝かせた。そして世界は青く染まった。冷たい水が結界を潤して、炎が止まる。優しい慈雨が降り、世界を癒した。
レヴィの深紅の瞳が開いた。
エリンは、炎から解放されたレヴィの元へと走る。
「レヴィ!」
現在のエリンと五歳のエリンが重なってレヴィには見えた。
「エリン……?」
いつもならレヴィ様と呼ぶ筈の彼の婚約者が自分をレヴィと呼ぶのだ。
「エリン、記憶が……」
炎の力を使い果たしたレヴィは身体をふらりとさせ、それをエリンが支える。
「レヴィ、失くした記憶も力も取り戻したわ。もうレヴィが力を暴走させても私が止められるわ」
エリンがふふっと笑い、一転レヴィを睨みつける。
「だから迷惑なんて嘘つかないで!」
エリンの言葉にレヴィはぷっと苦笑する。
「レヴィ!」
笑うレヴィにエリンは、むっとする。
「まったくエリンには負けたよ……。こっちが必死に距離を取り続けていたのに」
「私を傷つけたくないから?」
「本当にお見通しだな」
レヴィは、くらりと眩暈がして額を右手で押さえた。炎の力を放出しすぎたのだろう、エリンの身体にもたれかかった。
殺気を感じて、レヴィは閉じていた目を開いた。
右の頬に傷がある男がエリンの頬にナイフを突き付けていたのだ。
「……随分と舐めた真似をしてくれるな。俺たちを無視かい? 愛し子さんよ」
「……」
レヴィは、深紅の瞳を輝かせる。その瞬間、ばりんとナイフが粉々に砕かれる。
「エリン!」
レヴィの呼びかけに動こうとするが、動けない。男がエリンの首を絞めたのだ。
「王の愛し子というだけで……。精霊の慈愛を受けやがって……俺は認めない!」
男は憎々しげにレヴィとエリンを見、叫んだ。
「せめて、この女だけでもあの世へ道連れにしてやる!」
男の身体が透明に輝き、風の力が男の身体から行使される。
だけど。
レヴィは深紅の瞳を輝かせて、男目掛けて力を揮った。
レヴィの炎の力が男を包み込み、男は熱さに耐え切れず転がる。
エリンが投げ出されたのを、レヴィは抱き止める。
それと同時に地下牢に王都の警備隊が踏み込んできた。
十年後に魔力が満ちて、水の精霊の女王の愛し子として国に認定された。力を失くした間に『外れのエリン』と揶揄されて、義母親子に嫌がらせを受けた。そんな日々の中、記憶を失くしたエリンの傍にレヴィは居続けてくれたのだ。そして、彼は怯えていた。自分の力が暴走するのを。
エリンの傍に居たくて、でも自分の力が傷つけるのが怖くて。
エリンに塩対応を取ってきたのも、「迷惑だ」と言ったのも。
彼の優しさ、故だ。
(レヴィ、レヴィ。ごめんなさい。忘れてしまって……)
レヴィは八歳からずっとエリンを待ち続けていてくれたのに。
エリンの青の瞳が潤む。
誘拐されたエリンを助けに来てくれて、炎に包まれたレヴィ。
「レヴィ、あなたを助けるわ……。水の精霊の女王! 我が声に応えよ!」
エリンは手を伸ばして、水の精霊の女王を召喚する。空中に青の色彩の貴婦人が現れる。
『おや、エリン。私を呼ぶのは十三年ぶりね』
小鳥のような声で謡うように女王はエリンに話しかける。
「女王、再会できて嬉しいわ。だけど今は話している余裕はないの。レヴィを助けて!」
エリンは必死に助けを求めるが、女王は余裕だ。
『おやまあ、炎の精霊王の愛しい坊やは、また炎の力を暴走させたのかい』
ころころと笑い出した。
「女王!」
エリンが怒り出す。
『本当に世話の焼ける坊やだこと』
女王は嘆息すると、ふわりとエリンの身体に溶け込む。
女王と一体化したエリンは、十三年前と同じように青の瞳を輝かせた。そして世界は青く染まった。冷たい水が結界を潤して、炎が止まる。優しい慈雨が降り、世界を癒した。
レヴィの深紅の瞳が開いた。
エリンは、炎から解放されたレヴィの元へと走る。
「レヴィ!」
現在のエリンと五歳のエリンが重なってレヴィには見えた。
「エリン……?」
いつもならレヴィ様と呼ぶ筈の彼の婚約者が自分をレヴィと呼ぶのだ。
「エリン、記憶が……」
炎の力を使い果たしたレヴィは身体をふらりとさせ、それをエリンが支える。
「レヴィ、失くした記憶も力も取り戻したわ。もうレヴィが力を暴走させても私が止められるわ」
エリンがふふっと笑い、一転レヴィを睨みつける。
「だから迷惑なんて嘘つかないで!」
エリンの言葉にレヴィはぷっと苦笑する。
「レヴィ!」
笑うレヴィにエリンは、むっとする。
「まったくエリンには負けたよ……。こっちが必死に距離を取り続けていたのに」
「私を傷つけたくないから?」
「本当にお見通しだな」
レヴィは、くらりと眩暈がして額を右手で押さえた。炎の力を放出しすぎたのだろう、エリンの身体にもたれかかった。
殺気を感じて、レヴィは閉じていた目を開いた。
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「……随分と舐めた真似をしてくれるな。俺たちを無視かい? 愛し子さんよ」
「……」
レヴィは、深紅の瞳を輝かせる。その瞬間、ばりんとナイフが粉々に砕かれる。
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だけど。
レヴィは深紅の瞳を輝かせて、男目掛けて力を揮った。
レヴィの炎の力が男を包み込み、男は熱さに耐え切れず転がる。
エリンが投げ出されたのを、レヴィは抱き止める。
それと同時に地下牢に王都の警備隊が踏み込んできた。
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