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第一部
お断りします
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私たちはお互いのことを知りたいというかのように質問しあった。
今までの縁談のように堅苦しい質問が出ることはなかった。
お茶はいつもどこで仕入れているのか、今話題の王都の菓子屋、紙面を飾っていた巷の幽霊騒動、縁談の話には触れずに進む会話は久しぶりに出来たの友人のように楽しかった。
「今日は時間を忘れて楽しむことが出来ました。すっかり日も傾いてしまいましたね」
「本当ですね。ところで縁談の申し込みをいただきましたが、前公爵夫人はどうお考えなのですか?」
時間を忘れて談笑していて、肝心なことを話さずに帰してしまうところだった。
「母ですか…」
先程までとトーンの違う声で、ディヴィッドは項垂れてしまう。
余程反対されているのだろうか?
私の評判は悪くはないと思うが、王宮の結界を張って魔力を無駄に消費していることが好ましく思われていないのかもしれない。
「夫人はあまり歓迎していないようですね」
「いえ、ステラからの手紙を見て、ステラの都合のいい日を伺おうとしていたら、今日の午後からでもアポを取りなさいと無理強いさせた程母は喜んでいます」
「喜んでいる反応には見えなかったのですが」
まだ帰らないようだと判断した侍女が、ディヴィッドのカップに再び紅茶を入れようとしたが、彼は片手で不要だと合図した。
「喜びすぎて悲鳴をあげていたほどです。宜しければ近いうちに我が家へもお越しください。待ちきれず母が私より先にステラを招待しそうな気がします」
「それは構いませんが、まだ縁談を受けると決めたわけでは…」
「それはまた別の話と思っていただいて構いませんよ。私を助けると思って気軽に来ていただければ」
助けると言われても、歓迎されているのならされているで、縁談を受ける気もないのに会いにいくのも失礼な話で、やはり一度断りを入れるべきかもしれない。
「すみませんが、やはり私はイシュトハンの後継者ですので、この縁談は難しいと思います」
「そう言われるとなんとなく思っていました」
少し寂しそうな顔をしながら彼はカラリと乾いた笑みを貼り付けていた。
「すみません」
昨日、私がきちんと断ればよかったのだと分かっている。
でも、本当に彼に心が傾いていたし、断った後でも、後悔するのではないか?と自分に問いかけている。
「もし、私が公爵の地位を剥奪されるようなことがあれば…私にも可能性はありますか?」
「ええっ??」
殿下の隣にいた時は、自ら後継者の地位を捨てようとしていたくせにと思っているのではないかと、そう言われたらどう言い返そうか。叩き出してしまおうか。そんなことを考えていた私に、彼は思いもしないことを尋ねるので、私は拍子抜けしてしまった。
「もしも可能性があるのなら、道を踏み外すのも検討しなければならないので」
「まさか、私がハイと言えば、イシュトハンに婿に来るつもりなのですか?」
突拍子もない話に、頭があまり働かなかった。
「例えば、ステラの名誉が回復するまで婚約だけを継続するとか、結婚してもステラが望まなければ子供を望まないとか、断られる位なら了承を得る代わりに何か差し出せるものがないかと、昨夜はずっと考えていました。その一つが私自身なのだとしたら、少しの苦労で済む簡単な話です」
「簡単な話…」
爵位というのは、この階級社会で陛下から賜った命綱ともいえるものだ。
国王陛下の承認を得て爵位の継承を行い、それは簡単に捨てられるものでもない。
剥奪出来るのは陛下しかおらず、簡単な話なんかではないのだ。
「えぇ。何か問題を起こせば処罰を受けることになる。裏で取引でもすれば爵位を誰かに譲り渡すことで許しを乞うことも出来ると考えています。まだ思いつきの域を出ませんが、不可能ではないでしょう」
「そんな危ない橋を渡っていただかなくても結構です!」
まともな人かと思っていたら、こんなに危険な考えをする人だったなんて流石の私も驚いた。
「ステラがクラーク家に来るとしても、後継者を譲り渡すという大きな決断が必要でしょう。私は母に言われて仕方なくここへ来たわけではありません。危ない橋を渡る価値があるのか、私も確かめに来たのです」
「そんな価値は私にはありませんわ…それに、夫人を敵に回すようなこと、私にメリットは一つもありません」
彼は公爵夫人となってくれる相手を求めているのかと思っていた。
これは彼の口車で、最終的に私が嫁に入ればいいと思っているのかもしれない。
そういうことまで考えなければいけないのが貴族の悲しさだ。
「成程、私が婿に入ることにメリットはありませんでしたか…それでは流石の私もお手上げです」
「分かっていただけたようで何よりですわ」
ホッと肩を撫で下ろすと、漸くまともに息が据えた気がした。
彼の言葉を思い出すと身震いがしそうだ。
「ですが、縁談を断る前に是非遊びに来てください。母が楽しみにしているのは紛れもない事実ですから」
「それはお断りしたいですわ」
「それは残念だ。気が変わったら是非連絡をください」
彼はそう言うと、執事から上着を受け取りながら席を立った。
最後にはしっかり私の手の甲に唇を落として帰って行ったのだ。
今までの縁談のように堅苦しい質問が出ることはなかった。
お茶はいつもどこで仕入れているのか、今話題の王都の菓子屋、紙面を飾っていた巷の幽霊騒動、縁談の話には触れずに進む会話は久しぶりに出来たの友人のように楽しかった。
「今日は時間を忘れて楽しむことが出来ました。すっかり日も傾いてしまいましたね」
「本当ですね。ところで縁談の申し込みをいただきましたが、前公爵夫人はどうお考えなのですか?」
時間を忘れて談笑していて、肝心なことを話さずに帰してしまうところだった。
「母ですか…」
先程までとトーンの違う声で、ディヴィッドは項垂れてしまう。
余程反対されているのだろうか?
私の評判は悪くはないと思うが、王宮の結界を張って魔力を無駄に消費していることが好ましく思われていないのかもしれない。
「夫人はあまり歓迎していないようですね」
「いえ、ステラからの手紙を見て、ステラの都合のいい日を伺おうとしていたら、今日の午後からでもアポを取りなさいと無理強いさせた程母は喜んでいます」
「喜んでいる反応には見えなかったのですが」
まだ帰らないようだと判断した侍女が、ディヴィッドのカップに再び紅茶を入れようとしたが、彼は片手で不要だと合図した。
「喜びすぎて悲鳴をあげていたほどです。宜しければ近いうちに我が家へもお越しください。待ちきれず母が私より先にステラを招待しそうな気がします」
「それは構いませんが、まだ縁談を受けると決めたわけでは…」
「それはまた別の話と思っていただいて構いませんよ。私を助けると思って気軽に来ていただければ」
助けると言われても、歓迎されているのならされているで、縁談を受ける気もないのに会いにいくのも失礼な話で、やはり一度断りを入れるべきかもしれない。
「すみませんが、やはり私はイシュトハンの後継者ですので、この縁談は難しいと思います」
「そう言われるとなんとなく思っていました」
少し寂しそうな顔をしながら彼はカラリと乾いた笑みを貼り付けていた。
「すみません」
昨日、私がきちんと断ればよかったのだと分かっている。
でも、本当に彼に心が傾いていたし、断った後でも、後悔するのではないか?と自分に問いかけている。
「もし、私が公爵の地位を剥奪されるようなことがあれば…私にも可能性はありますか?」
「ええっ??」
殿下の隣にいた時は、自ら後継者の地位を捨てようとしていたくせにと思っているのではないかと、そう言われたらどう言い返そうか。叩き出してしまおうか。そんなことを考えていた私に、彼は思いもしないことを尋ねるので、私は拍子抜けしてしまった。
「もしも可能性があるのなら、道を踏み外すのも検討しなければならないので」
「まさか、私がハイと言えば、イシュトハンに婿に来るつもりなのですか?」
突拍子もない話に、頭があまり働かなかった。
「例えば、ステラの名誉が回復するまで婚約だけを継続するとか、結婚してもステラが望まなければ子供を望まないとか、断られる位なら了承を得る代わりに何か差し出せるものがないかと、昨夜はずっと考えていました。その一つが私自身なのだとしたら、少しの苦労で済む簡単な話です」
「簡単な話…」
爵位というのは、この階級社会で陛下から賜った命綱ともいえるものだ。
国王陛下の承認を得て爵位の継承を行い、それは簡単に捨てられるものでもない。
剥奪出来るのは陛下しかおらず、簡単な話なんかではないのだ。
「えぇ。何か問題を起こせば処罰を受けることになる。裏で取引でもすれば爵位を誰かに譲り渡すことで許しを乞うことも出来ると考えています。まだ思いつきの域を出ませんが、不可能ではないでしょう」
「そんな危ない橋を渡っていただかなくても結構です!」
まともな人かと思っていたら、こんなに危険な考えをする人だったなんて流石の私も驚いた。
「ステラがクラーク家に来るとしても、後継者を譲り渡すという大きな決断が必要でしょう。私は母に言われて仕方なくここへ来たわけではありません。危ない橋を渡る価値があるのか、私も確かめに来たのです」
「そんな価値は私にはありませんわ…それに、夫人を敵に回すようなこと、私にメリットは一つもありません」
彼は公爵夫人となってくれる相手を求めているのかと思っていた。
これは彼の口車で、最終的に私が嫁に入ればいいと思っているのかもしれない。
そういうことまで考えなければいけないのが貴族の悲しさだ。
「成程、私が婿に入ることにメリットはありませんでしたか…それでは流石の私もお手上げです」
「分かっていただけたようで何よりですわ」
ホッと肩を撫で下ろすと、漸くまともに息が据えた気がした。
彼の言葉を思い出すと身震いがしそうだ。
「ですが、縁談を断る前に是非遊びに来てください。母が楽しみにしているのは紛れもない事実ですから」
「それはお断りしたいですわ」
「それは残念だ。気が変わったら是非連絡をください」
彼はそう言うと、執事から上着を受け取りながら席を立った。
最後にはしっかり私の手の甲に唇を落として帰って行ったのだ。
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