告白代行

左ケラトプス

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告白代行

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「本当にありがとうございました」

「いやはや、僕が好きでやっていることなので」

「それにしても本当に……その、すごいですね、鏡と話しているみたい」

「外から見える人達からしたら、双子かドッペルゲンガーかと思うでしょうね」
 
 窓の外を見ると、通りすぎる人々は度々僕らの事を横目に見てぎょっとしたように視線を外し、また歩き出す。

「不思議な感じです。失礼ながら、疑い半分で依頼させていただいたものですから。でもお陰様で明日からまた普通に働けそうです。なんだか憑き物が落ちたみたいにすっとしました」

「それは良かったです。あなたの職場の方は、あなたが謝罪に来たと信じ込んでいるでしょう。本当は違う人間が謝罪をしていたなんて、微塵も思わない。そこに疑いの余地はありません、安心して明日からの暮らしを送ってください」

「ありがとうございます…その、お礼は本当にここのお代だけでいいのでしょうか?」

「はは、いりませんよ。僕からしてもこうして誰かに代わる事で自分を確かめられているところがあるのでね」

「自分を確かめる?」

「ああ……いや、気にしないでください。さぁさ、もうお時間でしょう、行ってください」

「?わかりました、改めて本当に、ありがとうございました」

 失礼しますとお辞儀をしてから、依頼人は喫茶店のドアを開き出ていった。カランコロンと店に鳴り響いた鐘は、依頼人が去って一人の客になった自分にどこか空虚に響く。

「終わったのか」

 店の奥から喫茶店のマスター、僕にとってのじいちゃん代わりの白髭の男がやってきた。

「ん…はぁ、終わったよ。じいちゃん、トイレ借りるね」

 喫茶店のトイレに入り、ふと、鏡に自分が映る。

 自分、か。

 長い髪、白い肌、筋の通った鼻に、はっきりとした二重幅。これは自分では無く、先ほどの依頼人の物だ。 
 
 カツラを外す、メイクを落とす、鼻は高さ調整の詰め物を取る。アイテープを取り、顔を洗う。

 再び、鏡。
 
 そこには本来の自分の姿。
 
 一変、視界がぼやけるようにつかみ処の無い自分の容姿がそこにはあった。

 死んだような目、標準的な輪郭、高くも低くもない鼻筋、厚くも薄くもない唇。

 変装を説くたびに、自分に戻ったというより、この世の誰でもなくなんでもない存在になってしまったと、毎度のことながら思う。

 空っぽな精神、真っ白な入れ物。誰かに成り代わった時だけ自分に色がついた様に思えて、その色彩に焦がれて、憧れて、こんな活動を始めてからもう二年にもなる。

「浸るなよ、空っぽが」

 そう言い聞かせ、トイレを後にした。

「じいちゃん、珈琲ブラック」

「わかっとる、もう出しとるからそこ座れ」

 先ほど座っていた席には新しく珈琲がおいてあり、立ち上る湯気が淹れたばかりだという事を教えてくれる。
 
「さっすがじいちゃんだな、わかってるう~」

「何言うか、お前のことなんざわしにもわからん、ただでさえよくわからん生業しとるんじゃから。お前さん、いつかとんでもないヘマをしでかすぞ」

「ヘマなんかしないって、今までもこれからも」

 ずずず。ん、じいちゃんの珈琲はやっぱしうまいな、と言おうと振り返ると、じいちゃんはこちらをじっと見つめていた。

「わしにはさっぱりなにが起きとるのかわからんが、人様の代わりなんて務まるはずがないだろう」

「それが務まっちゃうんだよ、俺にはさ。俺のはそうだな、変装というより変身に近い」

「変身?似ることは出来ても変わることは出来ん」

「あぁ、完璧は無理。だけど例えば五年ぶりにとある友達から久しぶりに連絡が来て飯に行くことになったとするじゃん。メールでやり取りをして、待ち合わせ場所と時間を決める。そこへ向かうと久しぶり~と声をかけてくるその友達の姿がある。五年ぶりに会ったその友達はどこか懐かしさもありながら、会っていない間に少しばかり雰囲気が変わっているように感じたとする。けれどもそれで、こいつは友達じゃ無い!なんていう人間はいないだろ?こんな感じだったっけと思いながらもそいつと約束した飯屋に向かうはずだ。なんたってそいつと連絡をとってそいつと待ち合わせた場所にそいつがいるんだから。そりゃ五年ぶりだから多少は変わるだろう、と済ませるはずだ。それぐらいの事なんだよ、俺が変身して紛れ込んでも、周囲に感じさせる違和感っていうのは」

「ほう……まぁ気付けばお前さんがここを拠点にしてそこの席でやり取りしてるのをわしも見るからな、まぁ信じはせんが、なにも言うまいよ」

「ん、そゆこと!ありがたくいつもお世話になっております」

 わざとらしく礼儀正しくお礼をしてみた。

「わざとらしいわ!」

 まんまとバレた。じいちゃんは食器を拭きながら後ろの棚に戻している。

「……人様に深入りするなよ」

「え?」

 食器のぶつかる音で良く聞こえなかったけれど、じいちゃんは言い直してはくれなかった。


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