告白代行

左ケラトプス

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新しい依頼人

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 じいちゃんの店を出ると、空の青は深くなりつつあった。

 いつのまにか冬になっていた。白い息は余韻を残しながらこの世界に消えていく。

 冬は呼吸が目に見える。自分が息をして吐いているのが目に見えてちゃんと生きている事が実感できる。

 キンとする冷たさが、静けさが、どこか清々しく感じられるから、冬は好きだった。

 「ただいま、っと」

 独り暮らしを始めてからも帰ると決まってただいまというのは欠かしていない。それに反応する者がいないのは、実家にいる時から変わってはいないのだけれど。

 コートをハンガーにかけると、布団に寝ころびながら乱雑に置いてあるパソコンを開き、サイトをチェックする。

『告白代行サービス』

 そう銘打ち自分で立ち上げたこのサイト。
『あなたの告白、代行致します。性別・年齢・要件を選びません。謝罪から罪の告白、愛の告白まで承ります』

 トップページにはたったそれだけ。あとは専用の連絡先のフォームを添付している。
 
 先ほどのじいちゃんとの会話で自分のこれまでしてきた事を思い出す。

◇◇◇

 二年ほど前から始めたものの、依頼は意外にも10件以上はあった。最初はみな疑心暗鬼で連絡をしてくる。
 
「まぁ、普通怪しいよなこんなもの。俺だったら依頼しない」

 代行する、という事がイメージが出来ないのだ。

 これまでも代行サービスという物は横行していたらしい。従来のこの手の代行の限界は「姿を見せられない」という縛りがあった。そのため手紙で筆跡を真似たり、ネットで口調、言葉選びや配置、句読点の使い方などをそっくりトレースし、誰かの代わりに事を成す。

 高校生の初めそんな世界を知った俺は、確かに高揚したのだ。

『---自分なら姿も真似られるのではないか?』

 そう思った自分はなんとなく、当時流行っていた映画俳優の姿を真似てみる。
 
 自分にはまるで特徴が無いことを自覚していた。だからこそ何にでもなれるのでは無いか。

 次の日にはカツラと化粧道具一式、洋服を揃えた。自分に関心の無い母親だけれどお金だけは毎月他の子よりも多くもらっていたと思う。

 髪型を真似、肌の色を変え、二重の幅、眉毛、鼻筋。ガタイは肩パッド入りのジャケットを選び、身長はブーツでかさましした。

 変装をして街に出る。

 歩き方は、こんなだったっけ?少し肩を左右に触れながら、片手をポケットに突っ込んだ。

 どきどきした。何をしているんだ自分は。変装をして化粧をして、、、

 我に返ったその時ーーー悲鳴があがった。すれ違った女子高生から発せられた音らしい。すると買い物かごを持ったおばさん、部活帰りの中学生。

 どわっと押し寄せてきて、握手やサインをせがまれた。

 「う、うわぁっ!!!」

 いけるとは思っていたものの、まさか、本当に、出来ちゃった、!

 動揺して逃げるように家に帰った。鼓動が早い。体が熱い。

 なんだろうか、なんだこの、胸の高鳴りは。

 何にも期待せず、依存せず、選ばず、没頭せず、熱中せず、感動せず。

 どこか空っぽな群像劇を送っているような感覚が付きまとっていた自分。

 鏡に映る自分の目に、初めて光が宿っているのを感じた。

 自分の輪郭が、変装をして他者と関わる事で初めてわかった気がした。

 真っ白だった自分に、初めて色が宿った気がした。

◇◇◇

 あれから今日まで、幾つかの代行をしてきた。

 最初は成り代われない人もいたけれど、今はほとんどの人間に成り代われる。

 それだけ自分の自分を消す能力が付いてきてしまったという事だろう。

 自分を確認するために自分を消す……最初は熱をもってやっていたけれど、慣れてきてしまった。

 滑稽だ。それでいて満たされなくて、空っぽなままだった。

 それでも続けているのは、辞める理由が無いからだけなのだろう。

「ん?」

 サイトを見ていると、一件メッセージが入っている事に気が付いた。

 ハンドルネーム『ゆめひつじ』件名には『依頼のご相談』と書かれていた。

 慣れた手つきで返信をする。

『ゆめひつじさん。メッセージありがとうございます。簡単にで構いませんので、どのようなご依頼でしょうか?』

『あ、わ、本当に返信がきた、、あの、なんでもできるんですか?』

『内容によりますが、大抵の事ならできますよ』

『あの、そしたら…私の代わりに、私になって告白とか…はわわ、』

 はわわ。その一文でこの依頼人の属性キャラが察せてしまった。

『可能です。学生ですか?』

『はいい。くらすめいとの男の子です。かっこういいんです~』

『は、はぁ。それはそれは、かっこういいのは良いことですね』

『はわ!すみません、、、なれなれしかったです!』

 完全にわかった、この子はロリ属性だ。

『いえいえ。それでご依頼の件ですが、一度詳しいお話は直接会ってお話したいんですが可能でしょうか?
ゆめひつじさんの特徴、容姿はもちろん仕草や歩き方などを詳しく知りたいので』

『うわ~それっぽいですねえ!だいじょうぶですう』

『わかりました、それではまた明日、日時や場所の提案などさせていただきます』

 気が付くともう23時を過ぎていた。明日は学校がある。どっと疲れたし早めに眠りたいので詳しいやりとりは明日にすることにした。

『はいですぅ!おやすみなさい!』

 なんだこのフランクさ……もう少し怪しむとか無いのかなこの子。

 まぁいいか。次に変わる人も見つかったみたいだ。

 明日の学校に備えて、今日はもう寝ることにした。

 


 


 
 
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