ウルフカーバン帝国

紀利クルーガー

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〈第二章〉初めての依頼

2人の立場

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翌朝、うなり声で目が覚めたシェードは目を開ければ白い狼が牙をむいてこちらを睨んでいる。驚いて自分が今抱きしめている物に気づき我に返りキリから起き上がって狼を宥めた。
「悪かった。お前の主を、どうこうしようとしたわけじゃない。」
狼はハティだった。誰よりも早くキリの気配を感知し探し当てたのだ。ハティに威嚇するようにグリフィンが立ちはだかった。ハティはシェードに牙を向けながらも眠っているキリに近づき前足で起す。前足で起され耳元でキュンキュンと鳴くとキリはフフっと笑い心配性のハティを宥める。
「ふふ、なーに?くすぐったいよ。ハティ。」
起きた事に喜び尻尾を振るハティにキリは優しく撫でた。そしてどこにいるのか一瞬で理解すると近くにいたシェードに警戒する。シェードは呆れたようにため息を吐く。
「お前まで。昨日のことは覚えているか?」
「昨日?確か、魔力っていうのを使って…そこから意識がない。」
「お前全部俺に魔力を流し込んでいたぞ?それで魔力を使い切り倒れたんだ。」
「そう…なのか。治癒はできたのか?」
「あぁ、しばらく寝ていたからそれでもう楽だ。ありがとう。」
「そう…(何この変な感覚)」
キリは普段からありがとうと言われるのはむず痒く嫌いだった。変な空気に見舞われた2人の間に割って入ったのはグリフィンだった。キリに頬擦りをしてひどく懐いているようだった。
「驚いた。フェオがお前に懐くとは。」
「ふふ、この子フェオって言うの?可愛い名前ね。」
白い翼が特徴のグリフィン、フェオは嬉しそうにキリに頬擦りをまたしてきた。岸辺を見つめシェードが提案した。
「岸辺までは距離がある、嫌じゃなきゃ乗って行くか?」
「えぇ。ハティ、おいで!」
キリが声をかけるとハティは嬉しそうにキリに近づきキリはそんなハティを抱き上げグリフィンに跨がる。グリフィンは狼をいやいやながらも乗せ手いる事に気づくとシェードが宥めたおかげで落ち着きシェードが跨がると翼を広げて空へと飛び上がった。岸辺まではあっという間にたどり着きグリフィンから下りるとキリは指笛を鳴らした。
「助けてくれたことはお礼を言う。けど、騎士団と共に村へ戻ると何かと厄介だ。ここでお別れとしよう。」
「あ、あぁ。だがお前、その首飾りは…?」
「これか?昔骨董品で買った。」
「そうか。」
何か思い詰めたシェードの表情に不思議そうな顔をするキリだったが馬の足音に気づきシェードから少しずつ距離を取り始めた。
「じゃあ、これから会うなら敵同士かもね。報酬は、俺がいただくからな。」
「な、ちょっと待て!」
スレイプニルがたどり着きその馬に跨がるとシェードが待ったをかける間に駆けて去って行ってしまった。大きなため息を吐いていると後ろからグリフィンがシェードの背中に顔を擦り付けてきたのに気づいてそっとその顔に手を当てて落ち着かせるように撫でた。グリフィンの頭を撫でているとシェードの相棒であるスコルが草むらから現れ、着いてきた騎士団一行とも合流した。
「シェード、無事か?」
「あぁ。俺はな。」
「あの人は?」
「あいつは報酬目当てに村に戻った。」
「そうか。どうした?そんなに思い詰めた顔をして。」
「いや、俺の感がただしければ巫女、の可能性があると思ってな。あの娘。」
「なら、すぐ追いかけねえと。」
「大勢で行ってもどうにもならんだろう。アレル、お前が行け。」
「えぇ、仰せのままに。団長より女を口説く自信はありますから。」
「言っておくがどの女よりもあいつは手強いと思うぞ。」
「へへ、尾行がうまい俺だぜ?団長。まあ、信じて待っててくれ。」
そう言って彼は指笛で馬を呼び出して相棒と共にキリを追って行ってしまった。シェードの怪我の具合を確認したいウォルトは1度王都へ帰るよう進めることにした。
「かなりの重傷じゃ無いか。治癒は出来ているがだいぶ深い。」
「あぁ。平気だ。」
「いいや、だめだ。アーサー、シェードと帰るぞ。」
「いや、俺はまだ。」
「だめだ。もし団長のお前が今の傷で戦にでたらそれこそ王都への大打撃に繋がりかねない。」
「くそ。」
「あそこに帰りたくないのはわかるが仕方が無い。お前もわかってるだろ?」
「あぁ。」
「よし、帰ろう。馬には乗れるか?」
「乗れる。そこまで重傷じゃねえよ。」
不貞腐れたようにそう吐き捨てて指笛を吹いて馬を呼び寄せるとグリフィンは大空へと去って行く。シェードからすればこの巫女の探索は自由な世界へと行ける手段でもあったのだ。このウルフカーバン帝国の王の子息でありながら隠し子であったために忌み嫌われていた。だがそれを翻すように今の地位にたどり着いたのは自力の実力とずっと小さな頃からの共であったウォルトのおかげだった。ゆっくり歩みながら村とは反対方向の王都へと足を進めていく。その間もキリが向かっただろう村の方を見つめていたシェードであった。
村へ帰ると娘が真っ先に迎え入れてくれて喜んでくれた。キリの期間に周囲の人たちも喜んで歓声を上げてくれた。そんな歓迎に少し驚き気味のキリだったが暖かな感覚を感じて笑みをこぼした。
「こんなお嬢さんがあの沼地の魔物を倒してくれておまけに湖を浄化してくれたなんて。」
「いえ、相棒の狼がいなければなし得なかった事です。」
「まったく、あんたも大した物だよ。娘を王都の騎士団が返しに来てくれていずれあんたもこっちへ戻るだろうって伝えてくれたんだ。」
「そうか。」
「それで報酬はあんたにすべてやってくれってあの気弱な青年が言っていたよ。報酬だけじゃ感謝仕切れない、ぜひともうちの村の美味しいものを食べて帰ってくれないかい?」
「いいのか?」
「あぁ!ぜひ!うちの娘に生えていたフジツボも取れたんだ。もうなんとお礼を言っていいやら。」
「いや、いいんだ。じゃあお言葉に甘えさせてもらうとしよう。」
キリは前の雰囲気とは打って変わり笑いに満ちた暖かな光景が彼女の目の前には広がっていた。笑って踊って楽しげな雰囲気を楽しんだ後は依頼主の家でもう一晩泊めてもらい疲れた体を癒した。翌朝早く村人達が起きる前に置き手紙だけ置いて村を後にしてルナのいる次の村へと向かった。
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