目が覚めたらαのアイドルだった

アシタカ

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第二幕

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事務所の社長には説明をしておくからと、送ってもらったのは俺が住んでいるというマンション。

1402号室だと言われ、渡されたカードキーでエントランスを抜け1人エレベーターに乗り込む。

帽子を深く被りマスクで顔を隠し、いかにも芸能人のお忍びコーデ。「ポーンッ」と到着音が鳴り、俺は14階へと足を踏み入れる。2号室と聞いてはいたが、1つの階に2部屋しか設置されていないようだ。

部屋番号が書かれたプレートを確認して、カードキーをかざして玄関のドアを開錠する。一緒に住んでいるという鮫島遊星は仕事中でいないと聞いてはいたが、一応「お邪魔します」と小さな声で呟いてから中へ入る。

玄関から伸びた廊下の先にあるドアをゆっくり開けると、そこに広がっていたのは綺麗に整頓された広いリビング。75V型はあるだろう大きなテレビ。その前に設置されたロングソファやオープンキッチンがある。

食器の数を見ると同じ柄の皿などが2つずつあり、本当に2人で生活しているのだと分かる。

マネージャーからは、「鮫島遊星を連れて帰宅するまで部屋で待機しておくこと」と言われたが、初めての部屋に家主不在で待機とは居た堪れない。

妙にそわそわしてしまい、どこに座ろうかなんて考えているとテレビボードの中にDVDがあるのを見つけた。何か見れば気が紛れるかなと思い手を伸ばすと、OperaのライブDVDだった。

「すげぇ……めっちゃアイドルじゃん。」

パッケージの裏に載っているライブの一部を切り取ったであろう4人の写真。汗がキラキラと輝き、笑顔で手を振っている4人の背景にファンが掲げているペンライトが4色に輝いている。

教えてもらったメンバーカラー。俺が橙、鮫島遊星が青、日暮貴文が黄色で日向綾人が緑だったはず。

情報を手に入れるには手っ取り早い物だと思った俺は、プレイヤーにディスクを挿れテレビを点けた。
初めはソファを背もたれに見ていたが、熱中して見ていたせいで身体が痛くなり、結局ソファで横になっての鑑賞になる。

『みんなー!まだまだ声出せるよなーー!!』
『潤太を悲しませるんじゃねーぞ!!もっと腹から声出せ!!!』
『キャァァァアアア!!!』

耳にピアスをいっぱいつけた男が2人。俺と鮫島遊星だ。そういえば、鏡で顔を確認した時耳に穴があった。
(これがピアス穴か!!)

知識がなさすぎて気にも留めてなかったが、無痛でピアスができるとなれば最高だ!ずっとやりたかった念願のピアス!

そうと決まれば家探しだ。何もつけていない寂しい耳のためにピアスを探す。リビングにはないし、一部屋丸ごと服だけという部屋を見つけたが、無かった。
残るは、なぜか一つしかない寝室。

そろ~っとドアを開け中を覗くが、そこには大きなキングサイズのベッドが窓際に置かれてあり、枕が2つ。
……もしかして一緒に寝てるのか?

そんな考えが頭をよぎるが、今はピアスだ。さっきのライブ映像でつけていたチェーンのやつとかつけて見たいし、オーソドックスに差すだけのもつけてみたい。

寝室のドレッサーやクローゼットの中を探してみるが、ピアスはどこにも見当たらない。広い部屋を歩き回って見つからないピアスに不完全燃焼を抱きながら、疲れてしまった俺はそのままベッドへと沈み込む__

これは夢だとはっきりわかる。

俯瞰視点の状態で、さっきまで見ていたようなOperaのライブが目の前に広がっている。
舞台袖に捌けるメンバーを上からついて行くと、機材がいっぱいある場所で、足元のコードに引っかかったスタッフさんがいた。その横には機材が置かれている鉄製の棚があり、スタッフさんがよろけた拍子に咄嗟に叩いたせいか、棚がぐらりと安定を無くす。その倒れる先にいたのはこの身体、吉良潤太の姿があった。

潤太はそのまま棚の下敷きに……棚の角の部分が当たったのか、次第に血の海が広がってきた。

すぐ横で尻餅をついていた青い髪の男、鮫島遊星はハッと我に返り潤太に駆け寄る。棚を持ち上げようとする遊星に、事態を把握したスタッフたちも駆け寄り、なんとか救出に成功。既に意識のない潤太をメンバーが囲み、必死な表情で呼びかける。

別の場所にいたマネージャーが到着し、スタッフの中にいた現場監督に事情を聞き救急車を待つ。この後ライブは途中で終わるという事態になり、ファンにチケット代の返金が行われたらしい。

場面が変わり集中治療室。頭を何針か縫った潤太が酸素マスクがついた状態で眠っている。その様子を心配そうに見つめるガラスの向こうのメンバーたち。

そして麻酔を切れ、呼吸が落ち着いている状態になり、個室に移動させる。酸素マスクは外されて、いつ目が覚めてもおかしくないくらい正常な数値の潤太。
この後俺が入れ代わったのか……

予想だが、潤太はここで死んだのではないだろうか。そして何故か俺がこの体に入った……なんて漫画や小説じゃあるまいし。それに俺自身は死んだ覚えがない。たかが立ちくらみで倒れたくらい……

これからどうすればいいんだ?

そんな疑問の中、目を覚ますと部屋は薄暗いままだった。寝室からリビングに戻るが人の気配はなく静まりかえっている。

マネージャーも鮫島も、まだ仕事が終わってないんだろう。部屋の電気を点けながら、冷蔵庫から500mlのペットボトルのお茶を拝借し、テレビを流す。

『明日の天気です。』
『大きな魚!これを今から捌きます!』
『人気アイドルグループOperaの……』
『憧れのあの人は今……』
『クレジットカードの申し込み……』
『貴方が私の運命の番!……』

ザッピングしていると気になる内容のニュースを聞き、慌ててチャンネルを戻す。

『無事退院したとの公式発表から、2時間ほどでSNSには#吉良潤太退院のタグがトレンドに上がりました。』

『事故から2週間と3日。その間もメンバーの方々はメディアの前に姿を現していましたが、吉良さんの状態については触れていませんでした。しかし今回、各々のSNSにて退院を祝うメッセージを上げています。紹介しますね。』

『えーまず、リーダーの日暮貴文さん。【潤太が退院しました。暫くは怪我の後遺症で体調が優れないと思うので、もし見かけてもそっとしてあげてください。】
次に日向綾人さん。【退院おめでとう潤太。ファンのみんな、これからもOperaの応援をよろしくお願いします。潤太が無茶しないように見守ってください。】
最後に鮫島遊星さん。【帰ったら潤太を抱きしめて、本当に無事か確認したい。】
など、メンバー全員が吉良さんを気遣うメッセージを投稿していました。吉良さん本人からはまだ何もメッセージはありませんが、回復し次第本人と話し合い、仕事の再開も検討していると事務所から発表がありました。』

夕方の報道が終わり、CMが流れる。

俺のこと……なんだよな、これ……

「待ってくれてる人がいるのか……」

アイドルだもんな…そりゃそうか。

メンバーにファン、周りの人から退院を喜ぶ声をもらう度に申し訳なさでいっぱいになる。俺は吉良潤太であってそうじゃない。
鏡を見てもどこか他人事のように思ってしまう。

__元の体に戻りたい。

そう考えるが、現実問題恐らく無理だろう。

__これは全部夢だ。

この世界は夢なんかじゃない。

痛みもあるし、人間の欲求も湧き上がる。

ぐぅ~~。

タイミングよくお腹が鳴り、開けたばかりの水を胃に流し込む。
中身は半分まで減った。

多少食欲は満たされたが、まだ小さくきゅると鳴る。

「……腹が減っては、だよな?」

スッと立ち上がり400Lはある大型冷蔵庫へと向かう。中を確認すると意外にも自炊をしているようだ。小分けにされたタッパーがいくつもある。

まあ確かに、身体が資本みたいなもんだもんな。

そう思いながら期限が近そうな食材をピックアップする。流石に作り置きを勝手に食べるのはなぁと思ったから簡単に作れそうなものを頭の中に思い浮かべる。

なんちゃって茶碗蒸しと豚バラレタスチャーハンを鼻歌混じりに作り、いざ実食というタイミングで玄関のドアが開いた。

「ただいま!潤太!どこ?!」

焦がれるような声で潤太の名前を呼ぶ声と共に、壊れるんじゃないかってくらい勢いよく開かれたリビングのドア。

額に汗を浮かべて、現れたのは青い髪の男。
サングラスや黒マスクを外しながら、部屋をキョロキョロと見渡して、俺を見つけた途端パァッと表情明るくする。

キリリとした眉に印象的な両目の下の黒子、ぽっちりした二重のイケメンだ……

両耳バチバチにピアスを着けているその男は感極まった様子で瞳を潤ませ、俺に近寄る。

さっきまでの予習が正しければこいつが鮫島遊星。

つまり、吉良潤太の従兄弟でありルームメイト。

そんなの……記憶喪失ってだけで納得するか?!
別人だって気付かれたらどうしよう!!
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