【完結】死に戻り王女は男装したまま亡命中、同室男子にうっかり恋をした。※R18

かたたな

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花束の行方

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 今が告白の絶好のチャンス!!

 「コハクさ」
 「ラピスお姉ちゃん、コハクお兄ちゃんが綺麗なお姉ちゃんと話してて遊んでくれない。」
 「あー!アスティリーシャさん。どうしてここに?」

 ハッ!としてラピスさんを見ると子供達に手を引かれてこちらへ来ていた。
 ヒスイと呼ばせてと言われた時は距離感おかしい人かと思ったけど無理に呼ばないくらいには空気が読める人なんだな。

 だけど完全に好機を逃した。

 「たまたま通り掛かりました。もう、帰りますから。」

 さっきまでの態度を改め、背筋を伸ばし礼をする。

 「待って、ヒスイ。」
 「ラピスお姉ちゃん、コハクお兄ちゃんがラピスお姉ちゃんに花束作ってるんだよ。」
 「本当に!!とても嬉しいよ、ありがとうコハク♪」


 その会話が胸にドスッと突き刺さって痛い。


 綺麗な宝石でも輝く様な元気をくれる彼女の笑顔。コハクさんは優しくされると好きになると言っていたし、こんなあからさまな好意を向けられてるのだからきっと・・・きっと・・・コハクさんは彼女の事を・・・。


 可愛い彼女の存在が私の中で完全に高い壁として立ちはだかる。


 しかもそう言うやいなや、コハクさんに飛び付きぎゅーっと抱き締めるラピスさん。

 「はぁ、お邪魔だったみたいですね。ガーネット、メノウ。行きましょう。」

 そんな捨て台詞を吐いて、完全に嫌な奴感を出してしまう。去り際にジロリと睨み付けてからプイッと背を向けると振り返らず寮までの道を歩きだす。

 なんて嫌みな態度。本当に私って可愛くない。

 玉座で魔王の笑みを浮かべている方がお似合いだった。

 後ろから私を呼ぶ声が一度聞こえたけれど子供達に引っ張られてどこかへ行ってしまった様で。

 私の回りには街を行き交う人々の音で溢れているはずなのに、とても静かに感じた。



◆◆◆


 

 コンコンコン。

 
 寮でベッドに倒れ込み、どれくらい時間が経っただろう。ゆっくり過ごしているとドアがノックされた。
 窓の外を見れば暗く、もうすぐ寮の門限となる時間。きっとガーネットだ。

 「ガーネット、私もう学校行きたくない。国に帰る。」

 ガーネットが扉を開ける前に私は彼女に弱音を吐いた。

 「まぁまぁ、そんな事言わずに。コハク君がフロントに来ているそうです。通しますか?」
 「コハクさんが?こんな時間に女性の部屋へ来るなんてけしからん人ですね。通して下さい。」
 「ふふっアスティリーシャ様らしいですね。畏まりました。」

 簡単に迎える準備を済ませると再びドアがノックされる。

 「こんな時間にごめん、コハクだけど少しの時間で良いから話せないかな?」
 「どうぞ。」

 弱音を吐きながら読んでいた教科書を置き、ドアへ視線を向けるとコハクさんが入って来た。

 「わぁ、やっぱり俺の部屋より広い。」
 「二人で住んでた部屋より広いかも知れませんね。」
 「そうだな。」
 「それでこんな時間に何か有りましたか?」

 入り口で立ち止まるコハクさんに歩み寄ると、手元の荷物を見せてくれた。

 「復学祝いを用意したんだ。」
 「復学祝い?」
 
 復学って特別お祝いするようなものだったかな?

 「ヒスイが入学祝いを用意してくれた時、とても嬉しくて俺も君が帰ってきたらしようと思ってたんだ。君みたいに部屋に入ったらビックリ!なんて事は出来なかったけど。」

 その荷物の中には私の大好きなお菓子が沢山詰まっていた。二人でよく飲んだシュワシュワのジュースもある。

 「凄い、こんなに沢山。」
 「お祝い渡せて良かった。あっ、そろそろ寮に戻らないと門限遅れたら入れて貰う時怒られるから。」
 「もう時間になってますよ?」
 「あー・・・やっぱり。急いだんだけど仕方ないか。怒られに行くよ。」

 時計を見ると、既に門限の時間ピッタリになっていた。だけど私の為にここまで準備して来てくれたコハクさんをそのまま返すのもどうかと思った。

 「せっかくですから前みたいに一緒にお祝いしませんか?この部屋で。」

 え?と驚いた表情の彼を気にしてられない。私は燃えていた。これはコハクさんの恋ばなを聞き出すチャンスだと!どこまで進んでいるかで付け入る隙を見つけるのだ。

 「これから?本気で言ってるの?」
 「怒られるの気にしていますか?大丈夫ですよ。」

 ガーネットを呼べばすぐに現れ「任せて下さい!」と言わんばかりの笑顔を見せて去っていった。

 「貴族寮は門限にも融通を効かせてくれる仕組みがあるんです。普段からお金も沢山支払いますからね。きっとコハクさんの寮ではコハクさんが門限に間に合った事になってますよ。」
 「貴族寮の人は門限気にしなくて良いのか。一緒に遊ぶ相手も。」
 「貴族の坊っちゃん方は遊びたい盛りでしょうからね。相手に門限気にされたらイチャイチャ出来ませんよ。」
 「っ!?それって・・・そういう会瀬で使われるって事?」
 
 顔を赤くしてソワソワするコハクさん。懐かしい反応につい頬が緩む。

 「門限の心配も無くなりましたし、お祝いしてくれるんですよね?」
 「ぅ、ん。」

 そう言って無理に招き入れたものの、すぐに昔の通りに話す雰囲気は作れなかった。
 どうしたら話を聞き出しやすい雰囲気になるのか・・・。
 お菓子とジュースを二人でテーブルに並べながら考える。

 「私が好きだったお菓子もジュースも覚えていてくれてたんですね。」

 そう切り出すとコハクさんが苦笑いしながら話してくれた。

 「君が帰ってから、不思議なんだけどヒスイの姿を思い出せなくて。ヒスイが居たって事は覚えていたんだ、勿論会話も。クラスの人に聞いても答えは同じでさ、どんなだったっけ?って。」
 「あのチョーカーの効果なのでしょうね。」

 さすが国宝の変装チョーカー。認識の阻害もできる。

 「それがとても辛くて、本当に辛くて。だからヒスイが好きな物とか覚えている物は絶対忘れない様にメモしたり、たまに買って部屋に置いてたんだ。そしたら美味しそうに食べてる君が居た事や会話を思い出せたから。
 手紙をやり取り出来たお陰で寂しさも少し紛れた。」

 やっと出来た親友が居なくなり、姿を思い出せない。それは消えてしまった様で辛かっただろうな。

 「養護施設にヒスイが顔を出した時。君が自分の事を僕って言って話しただろ?それが記憶の中にあるヒスイそっくりそのままでとても嬉しかった。帰ってきたって実感できた。」
 「帰って来ましたよ、ちゃんとここに。」

 お互いのグラスにジュースを入れる。
 シュワシュワと泡が弾けるこの飲み物を見て、懐かしい何気ない光景が思い出させた。
 この飲み物は甘酸っぱくて美味しい上に光に照らされると泡がシュワシュワと綺麗でつい飲む前に覗いてしまう。

 「それ、懐かしい。ヒスイは飲む前に覗いてから飲んでたね。」

 そうやってしみじみと嬉しそうに笑うコハクさんを見て胸が高鳴る。
 
 「ただいま、コハクさん。僕が居なくて寂しかったでしょう?」

 冗談混じりにヒスイだった時と同じように言いニッと笑って見せる。

 「お帰り、ヒスイ。・・・寂しかった。」

 コハクさんの表情が涙を堪える様に変わる。
 おもむろに近づいて来たコハクさんは顔を隠したかったのか私の頭を固定する様に抱き締める。

 きゅ、急展開!!

 少し苦しいけど嫌じゃない。
 身長差のせいで少し屈むコハクさん。
 頬に当たるサラサラだけど少し硬い髪の毛がくすぐったい。
 今は暑さが落ち着いた頃の季節なのにやっぱり春風の様な香りかする。懐かしい香りを今のうち堪能しておこう。

 自然と手を背中に回すとトントンと落ち着かせる様に撫でる。
 今は顔が見えない。だからこそヒスイだと実感して欲しくてそのまま会話を続けた。

 「僕も寂しかったです、早く会いたくて仕方なかったんですからね。」
 「同じだ。」
 「その割に好きな女の子に花束作って僕に会いに来るの遅くなかったですか?」

 その言葉に抱き締める手を緩めて顔を上げたコハクさん。

 「少しだけお話聴こえました。ラピスさんに花束プレゼントしたんでしょう?」
 「あの流れで仕方なく・・・。」

 仕方なくなんて隠さなくてもいいのに。

 「そうですかー仕方なくですかー。子供達はコハクさんが好きなのはラピスお姉ちゃんだと知っていたみたいですけどね。親友の僕には隠すんですか。そうですか。」

 抱き締められた腕からそろそろ離れようとコハクさんの胸を押すけど全く動かなかった。
 どうしたんだろうと見上げると真剣な目と視線が合う。

 「ラピスはただの友達だから。いつも学校から一緒に施設へ手伝いに行くから子供達が勘違いしているだけだよ。」
 「いつも一緒に学校から施設へ行く友達・・・」

 ほほう。
 これはまだ恋人では無いと。学校から施設へ一緒に行く関係止まりだと。
 良い事が聞けた、それならまだ私の入る隙が有りそうだ。

 「ここに来るのが遅れたのはラピスに買い出しに付き合ってって引っ張って行かれて。それで荷物持ちさせられてた。」
 「それで家に荷物置いたら、今から料理作るから一緒にどう?とか聞かれた訳ですか。」
 「何で分かるの?」

 適当な事言ったら当たってた。
 狙われてる!!!!脈あり過ぎる!コハクさんは好きなの?どうなの?
 
 「それって、デートじゃないですか。」
 「デートじゃないよ。荷物持ち。」

 少し緩んでいた腕に再び力が加わり、腕の中に閉じ込められてしまった。
 ぬくぬくして気持ちよくて良い香り、再会した今だからこそ味わえる物だ堪能しよう。

 「もう少し抵抗してくれないかな?離せなくなる。」

 コハクさんの呟く声。

 「無理矢理抱き締めるのがお好みですか?」
 「・・・そうやってすぐからかう。」

 二人しか居ない私の部屋で、お菓子とジュースそっちのけでお互いを確かめ合いながら笑った。
 
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