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ライバル出現。
しおりを挟むザワザワと周囲の声が聞こえる中でコハクさんがソワソワと私の顔色を伺いながら話し始めた。
「そうだ。何かしらの連絡方法を考えた方が良いよね。」
「そういえばそうですね。」
コハクさんがそう言って出したのは一枚のメモ。コハクさんの大体の行き先と時刻が書かれた物だった。
「これ、自分用のメモだったんだけど覚えてしまったからヒスイに。
この時間は大体ここに居る。居なくても用があれば伝言を残して。あ、でも用事無くても来てくれて大丈夫だから!寮の部屋もここに書いてあるから手紙をドアに挟んでおいてくれてもいいし。」
「ありがとうございます。」
この世界、連絡手段が手紙か緊急用に使える紙鳥の魔法しか無い。紙鳥は指定した相手に手紙を鳥の姿に変えて届ける魔法だけど緊急時意外は混雑を防ぐ為禁止とされている。そしてその紙鳥の魔法は結構高度だ。
もっと気楽に使える物があれば良いのに。思い出すのはニホンでの記憶。手のひらサイズの薄い板でやり取りしていた記憶だった。
だけどあれは複雑過ぎて構造を分かっていない。
考えて居ると「おはよう、コハク!」と話しかける可愛らしい声で我に返った。
「ラピス、おはよう。」
「今日も早いね。その方はアスティリーシャ・グレングールシア様?今学校で話題の有名人だよね。」
ヤバい可愛い子が話しかけてきた!?
「初めまして、私ラピスって言います。コハクとは同じ医療科で仲良くさせて貰ってます。」
ナチュラルに話しかけてくる所が普段からの仲良し加減が分かる。
少しの動作でフワリと髪が風に揺れ、可愛らしい彼女に活発な印象を与える。目はパッチリとしていて顔立ちの華やかさは絵本の中のお姫様みたいだ。何より目立つのが頭にある可愛らしい獣のお耳。
彼女は愛らしい姿をした獣人だった。
背筋を伸ばし。長年培った女王としての外交的な笑顔を向ける。
「アスティリーシャ・グレングールシアです。留学が決まり、これからトロルゴアの学園で皆様と勉学に励む事になります。これから宜しくお願い致します。先輩。」
「うん!分からない所があれば何でも聞いてね!」
急なため口。だけど嫌な感じはしない。ラピスさんの雰囲気がそうさせるのか。
「ありがとうございます。それでは登校初日に遅れてはいけないので先に失礼いたします。先輩方。」
「うん、バイバイ!私達も行こう、コハク。」
そう言ってコハクさんの腕に自身の腕を絡めた彼女は軽く彼を引っ張った。
そ、そそそ、そういう、関係!?腕組む様な関係!?
平静を装っているけれど嵐が来た様に心が乱されている。
「先に行ってて、俺はヒスイを教室まで送っていくから。」
「ヒスイ?グレングールシア様の事?」
「そうだよ。」
「そうなんだ!愛称か何か?私もヒスイって呼んで良いかな?」
え、急に!?少し自己紹介しただけで!?でも断りにくい!!コハクさんは良いのにラピスさんはダメって言いにくい!!
「アスティリーシャ様、お時間です。私共がいるので貴方が送る必要はございません、行きましょう。」
ガーネットの言葉は助かったけど、ガーネットがめちゃ怒っている。トロルゴアの作法通りの礼をしてその場を去った。
去り際に目に入るのはコハクさんとラピスさんが仲睦まじく話す姿。しかも最後にはラピスさんがコハクさんの手を引いて教室へ向かってしまった。
・・・私は何やってんだろう。気落ちしながらも作法を忘れず前を見てコツコツ歩く。
あの子の様に可愛げがあれば・・・。そう思う気持ちが過った。
・・・
教室に着くと自己紹介して席に着くだけかと思いきや色々と雑談があった。ヒスイの時はあっさり終わったのに先生の違いなのだろうか。
その後も・・・
「グレングールシアさん、手綺麗だね。」
と許可無く手に触れようとした男子生徒にメノウが間に入り触れる前に止めてくれる。二人の有り難みをヒシヒシと感じた。
午前の授業が終るとお昼休憩に。ご飯が楽しみだなぁと廊下に出ようとすると同級生にお昼一緒にどうかと聞かれる。もう人と話すのは疲れたけれど笑顔はギリギリ保つ。
「アスティリーシャ様は少々お疲れの様子です。ご遠慮願います。」
「えー。疲れてないよね?」
「アスティリーシャ様こちらへ。」
ガーネットが次々と断るお陰で切り抜けた。
メノウが見つけた中庭の物陰に座ると二人にお礼の気持ちが溢れてきた。
「ありがとう、本当にありがとう。二人が居無ないと私生きていけないです。」
「最高の誉め言葉だねぇ。」
「嬉しいです♪」
そんな二人も物陰で一緒にダラリと座った。疲れたよね。本業は暗殺者と諜報員だものね、本当にありがとう。
しばらくして三人で休憩してからガーネットが食堂から料理を持ってきてくれて三人でのんびり食べた。
そして午後の専攻授業。
研究開発科では改めて挨拶をしたけど、各自研究に没頭していてメノウとガーネットの出番はなかった。
研究開発科・・・居心地良すぎる!!
私達のオアシスとして体を休めつつ、研究に没頭できた。
初日で疲れもあり寄り道せず学園から帰る事に。
ぐーっと伸びをすると気持ちよくて少しスッキリする。そんな気の抜けた姿にも「お疲れ様です。」と優しいメノウとガーネット。
そう言えば・・・と大切に持っていたメモを取り出す。今の時間帯にコハクさんが居るところは・・・と確認すると街にある養護施設だった。
疲れているから施設そのものを訪れるのは気が引けるけれど、街へ買い物のついでに前を通って様子を見るくらいは良いかもしれない。
そう思って軽い気持ちで街を目指す。
◆◆◆
ついでと思ってたのに早速やって来ました、トロルゴア養護施設の前。
「コハクお兄ちゃんーこっちー!」
「今いくよ。あぁ、その花も綺麗だね。」
「こっちも綺麗な花があるの!」
「ラピスお姉ちゃん遊ぼー。」
「勿論だよ、遊びましょう♪」
花が綺麗な施設の庭でコハクさんとラピスさんが子供達と遊んであげていた。
二人共とても子供慣れしている。コハクさんは弟と妹もいるから慣れたものだ。
「コハクお兄ちゃん、この花束誰にあげるの?」
「俺の大切な人。今日は大切な日だから。」
大切な人の大切な日・・・。
誰だろう、少なくとも私ではない。誕生日は寒い季節から暖かさが戻った頃だし・・・。コハクさんとの記念日とかも無い。そうだ、きっと家族に・・・。
「分かった!好きな人でしょー!」
「分かる?」
「好きな人ってラピスお姉ちゃん?」
・・・
・・・・・・
「ガーネット、メノウ大変です。コハクさんに好きな人が!!親友として応援すべきなのでしょうか!?私には無理です!!」
「アスティリーシャ様、落ち着いて下さい。」
「あ、綺麗なお姉ちゃんがこっち見てるー。」
ヤバい。取り乱したせいで施設の子供に見つかった。コハクさんも花束作りの手を休めこちらを振り返る。
「あ、ヒスイ!来てくれたんだ。」
「僕は絶対応援なんてしませんからね!恋にうつつを抜かして久々に再会できた親友放ったらかしですか!!帰ってきたら遊んでくれるって言ったのに薄情もの!!」
ヒスイと呼ばれた事に反応してつい「僕」と言ってしまう程度には混乱していた。
コハクさんに好きな人。
しかも自分には無い可愛らしさを持つラピスさん。固い石を出すことなら負けないのに。可愛らしさは出せる自信がない。
だけど、ポカンとした表情のコハクさんが作りかけの花束を持ってこちらに歩いてくる。
「その話し方だと本当にヒスイだったんだなって実感する。さっきまで凄く礼儀正しい態度だったから。」
「今実感しましたか。」
ふん、と腕を組んで胸を張るとコハクさんが懐かしそうに笑う。
「って、さりげなく普段の私は礼儀正しくないみたいな言い方しましたね。」
少し睨むと何故か嬉しそうに目を細めるコハクさん。
「見た目は美人だけど性格がヒスイなのに違和感が無いのはヒスイが元から可愛かったからだな。」
「それ褒めてます?」
「褒めてる、美人と可愛いって言葉がはいっているじゃないか。」
「性格がヒスイなのに、って所が引っ掛かるんですよ。何が不満ですか。」
「不満なんて何も無いよ。もう一度会えるとは分かってたけど、どれだけ心配した事か。1日で国を取り返すとは思わなかったけど。新聞見て驚いた。」
「優秀な仲間が二人もいましたから。」
心配させた事に急に罪悪感がわいて来た所でコハクさんが悲しそうに視線を下げる。
「今でも思うんだ。俺も一緒に行きたかった、役に立ちたかったのに一緒に行くとトロルゴアに帰ってくる流れが見えない。ただの足手まといになるって事だから。」
「言ったでしょう。来るって言っても連れてかないって。それに貴方が来ると足手まといになるからトロルゴアに戻れない訳では無いんです。」
コハクさんが不思議そうに首を傾げている。凛々しい顔立ちなのに仕草が可愛い。相変わらず私の好みのお顔をしている。
「貴方が国に来たら、トロルゴアに戻る目的が無いからトロルゴアに帰る流れが見えないだけです。」
「・・・俺がいるからトロルゴアに帰ってきたってこと?」
「・・・」
よく考えたら、コハクさんが居るから無理にでも留学して戻ってくるって私の方が恋にうつつを抜かしてないか?何の為の学校か。
顎に手を当てて彼の顔を見ながら考えてしまった。
すると彼の顔をまじまじと見すぎたのか瞳は潤いを増しお顔がポッと赤く染まっていく。
何その顔。可愛い。
お互い見つめ合い妙な空気が漂った。これは・・・告白のやり直しチャンス到来!?
急にドキドキしてきた!!
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