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当たり前だけど二年生だった。
しおりを挟むついに帰って来ましたトロルゴア!
都市の門から堂々と入って来た時はとても清々しい気持ちで、運良く案内人さんと管理人さんが居て挨拶も出来た。
約一年ぶりの町並みを楽しみながら休学扱いになっていた学園復帰の書類提出にトロルゴア王立学園へ向かった。
「確かに確認致しました。3年への進級試験も近いのでよく勉強するように。」
事務手続きの窓口で2年生と言われて気がついた。
「コハクさんと一緒に卒業できない!?ただ年相応の学年になったじゃないですか!!」
「仕方ないですね。」
「仕方ないよねぇ。」
コハクさんとまた楽しく学園生活を送りたかったのに一緒の学年でも無くなった。
これから先輩後輩のシチュエーションを楽しむしかないのか。
だけど一学年の距離は遠い・・・。
ため息を何度も吐き出しながら今度は学園長の元へ伺った。
「久しぶりですね。」
「学園長もお元気そうでなによりです。この度は休学の件と我が国の罪人受け入れにとても感謝しています。身柄の保護と手助け頂いた分の礼金は問題なく受け取られたでしょうか。」
「あぁ、とても良い働きをしているよ。こちらが感謝したいくらいさ。礼金も十分頂いた。」
罪人とは元婚約者とその共犯者の事。全員祖国の端っこの開拓の進まない地へ送ったらトロルゴアに逃げたそうだ。
私もそれを想定していて警備の兵士には無理に追わなくていいと話していた。
我が国の端っこで貧乏ながらも平和に暮らすかトロルゴアに亡命して二度と罪を犯さないと厳しく監視された上で能力相応の稼ぎを得るか。
正直どちらでも良いと思っていた。本来なら処刑だが自分の指示で人が命を落とすのは嫌だった。私はやはり王として未熟だ。罪人の扱いに長けているトロルゴアに逃げてくれたのはむしろ好都合でしかない。
「私はね、罪を擦り付ける様な輩が大嫌いでしてね。能力があると言うから一番過酷な職に入れてやりました。たまに彼らの様子を見に行くと愉快で仕方ない。良い気晴らしになっているよ。」
思ってたよりヤバイ事になってる。
秘書さんがコソッと耳打ちして教えてくれる。
「学園長の奥様、他国で悪役令嬢とか言われて無実の罪で国外追放されたらしいんです。だからそういう罪人が一番嫌いだそうです。」
学園長は学園の仕事をしながらわざわざ罪人受け入れの審査も行っている。
一般人と罪人、平等に見る人達かと思っていた。
「どんな罪人にも理解のある人なのかと思っていました。」
「まさか、そんな事ある筈がないですよ。生きる為に仕方なく罪を犯す者や無実の罪で追われる者には寛容なつもりだが、罪を犯さなくても生きていける環境に居た者が更に利益を得ようとした場合は厳しく仕付けなければ行けませんよね。監視の元、過酷な労働を押し付けるなら適任だ。見ていて清々しい気持ちになる。」
学園長は好きでこの仕事をしているらしい。
「あ、あの。メノウとガーネットと共に捕まった者達は・・・。」
「本当に君に忠誠を誓っていた者は家族も呼び寄せて元気に暮らしている。安心していい。」
「そうですか・・・」
「罪人の事より今は勉学と研究に励みなさい。今の君は枷の無い自由な身なのだから。」
良いこと言った風だけど貴方も私に手枷着けた一人です。
学園長室から出ると疲れが押し寄せる。
今回は学園寮の貴族用使用人部屋付きの部屋を借りる事になった。メノウとガーネットも隣の部屋だからとても安心できる。
「メノウ、ガーネット。貴方達はいつまで私に気を使うつもりなの?私の卒業まで子供だとか家など我慢するつもりじゃないですよね?」
「勿論ちゃんと計画的に話してるんですよぉ。」
「はい!私、アスティリーシャ様のお子様と同い年のお子を授かり一緒に育児をするのが夢なんです。アスティリーシャ様、結構お仕事好きですし侍女からお子様の乳母になんてのも素敵ですよね。」
それは長くない?
「そんなに待つのですか!?」
「結構早い気がしてますよ?」
「俺達もまだ若いしぃ、それまで恋人期間を楽しむというかぁ。」
それって計画的なの?
「それなら貴方達が私の元で相応の賃金を貰いながら生きれる方法も考えます。嫌になったらすぐに言うように。」
「アスティリーシャ様に永久就職ですねぇ。」
「ありがとうございます!」
二人は多分知らないのだけど【王家の印章】での契約は無効にしてある。
とても仲睦まじい二人をずっと縛るつもりは無かった。
きっと近い内に離れて行くだろうと思っていたけど、解約しても変わらず寄り添って居てくれる。
ずっと私と共に居ると言うなら私もこの二人を大切にしたい。
それにいつか裏切られる日が来たとしても、それでいいと思う。
◆◆◆
次に王立学園の寮に荷物を置く。
ヒスイの時とは違い貴族用の寮で使用人の部屋も隣に有る。広めで落ち着いた雰囲気がとても良い。
一般の寮に入りたかったけど、防犯の面でメノウとガーネットに止められてしまった。
二人の心労を考えると貴族用を選ぶしかなかった。
その後、1年前の記憶を頼りに学園を散策する。後ろには二人が2歩下がり着いてくるけど威圧感がすごい。
貴族やぞ!貴族様やぞ!感がすごい。
大丈夫だと言ったのだけど「第一印象が大切なんです!」と譲ってくれなかった。
普段ダルダルのメノウですらキリッとしてる。
そしてそんなメノウを時折うっとりとガーネットが見つめる。
友達は諦めよう。
「アスティリーシャ・グレングールシアだ。ここに入学してたって本当だったんだな。」
「あぁ、強大な魔力で1日で国を取り返したんだよな。」
「それで裏切った者は一人残らず国外追放らしいね、こわっ。」
私有名人。ヒスイだった時の方がお金は無くても自由だったな。
また明日から始まる高校生活。
前はコハクさんが居たから困る事はなかった。だけど今度は彼と共には居られないと思うと少し緊張する。
◆◆◆
次の日。
制服に袖を通して鏡で確認。
ガーネットがいつも通り綺麗に髪を纏めてくれる。
「今日も素敵です。」
「ありがとう、ガーネット。」
背筋を伸ばし、廊下に出るとメノウが待機していてくれる。
「こんなに守られる意味あるんでしょうか?トロルゴアだし、今は女王じゃないですよ?」
「それがあるんですよねぇ。」
「あります!」
「そう。」
ヒスイの時はコハクさんと二人、気楽だったな。
寮の門を出て学園の教室を目指す。
朝の爽やかな風と登校する生徒達の歩く風景がとても懐かしいと思える。
所々で生徒達が集まってお喋りを楽しむ姿が見られる。
私は早速コハクさんを探す為に三年の教室へ・・・と思っていると。
「ヒスイ!」
私を呼ぶ声が聞こえた。
振り返ると男女数人集まるグループの中からコハクさんが現れる。
手紙でも友達が出来たとあったけど、多くの人の輪に居る彼の姿にとても嬉しくなる。
呪印の影響が無くなった彼の人柄に惹かれた人は多いのかも知れない。
早速出会えた事が嬉しくてたまらなくて。
私は大きな声で彼を呼ぶと走り出していた。
「コハクさん!」
威圧感たっぷりの私が駆け寄るので周囲の生徒はギョッとして後ずさっていた。ごめん。
コハクさんはちょっとごめんね、と周囲の人に断りを入れてから笑顔で迎えてくれた。
パッと花開く笑顔で駆け寄って来る姿は大型犬を思わせる可愛さ。
久しぶりに見る彼は最後に会った時よりも少しあか抜けていて更にかっこよくなっていた。
体つきも少し逞しくなったかな?
「本当に本物のアスティリーシャさんだ・・・会えて嬉しい。
昨日の夜、トロルゴアにアスティリーシャ・グレングールシアが訪れてるって噂を聞いて、来るかも分からないのにここで君を待ってたんだ。」
コハクさんも私を待っていた。
それがとても嬉しかった。
「会えて嬉しいです。とてもとても嬉しいです。またヒスイって呼んでくれますか?」
正直に言えば、この感動の再会で飛び付きたい衝動を必死に抑えていた。
元とはいえ国のイメージを背負う事になるから背筋を伸ばし、作法は優雅にと心がけながら動く事しか出来ないのがもどかしい。
ヒスイの頃と動作は違うだろうけど手首でシャラリと揺れるの手枷ではなく、お祭りで買って貰ったコハクさんとお揃いのブレスレット。今でも大切にしている。
「いいのかな、ヒスイって呼んでしまって。」
「良いんですよ私の愛称だと思って下さい。それともドロッピーにしますか?」
「ははは、ドロッピーと呼んでも怒らないのはヒスイくらいだよ。」
会話の中でコハクさんも同じブレスレットをしている事に気がついて飛び上がる程嬉しくなる。
これって、両思いですよね!!完全に両思いですよね!!
和やかな雰囲気でお互いを見つめると周囲の生徒がザワザワし始める。
「あれ、コハクさんと元女王のアスティリーシャ・グレングールシアだろ?護衛も止めずに見守ってるし、二人って結構仲良かったんだ・・・。」
「どんな出会いなのか気になる。呪印もそうだけどコハクさん苦労人だからな、幸せ掴んで欲しいんだけど・・・女王様の厄介事に巻き込まれなきゃ良いな。」
「ねぇねえ、二人の手首に付いてるのってお揃いのブレスレット!?もしかして良い雰囲気だったりするのかな?格差恋愛って夢ある!」
「でもラピスさんの事は良いのかな?仲良さそうだったけど。」
コハクさんは冤罪で村を追い出され、トロルゴアに来てからも呪印のせいで苦労した上に家族を呼び寄せて住んで居る家の借金返済中。
確かに苦労人。
周囲の反応から呪印の事も知れ渡って居るようだ。
そうやって隠さない所、コハクさんらしい。
・・・ん?ラピスさん?
・・ラピスさんって誰??
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