【R18】男の娘に恋した学園生活~男装は間違いではない~

かたたな

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ジンクスの花

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 今日も、朝にクラウさんの教室を訪れる。

 彼女の指が私の髪を滑る中、女子生徒たちがジンクスの話で盛り上がっていた。会話もとても盛り上がっていて、聞いているこっちも楽しくなる。 

「学園設立当初、優秀な魔術師の生徒が婚約者のために作った花が裏庭に咲くんだって。その花を好きな人に渡すと恋が叶とか!」

 私は椅子に座り、耳をそばだてる。魔術師の育てた花ってだけでも興味がある。それが婚約者へ送る花ならどんなに美しいだろう。

「へー、そんな花がほんとにあるなら、ちょっと見てみたいな。リーシュ君は、もしも見つけたら誰かに渡す?」
「見てはみたいけど、渡す相手はいないな。」
「ボクもー。恋人とかより、今は友達とワイワイの方が楽しいし!…はい、完成! 今日もカッコいい!」
「いつもありがとう。やっぱりクラウさんがやると違うね。凄い。」

 私もだいぶ上達したみたいで、クラウさんが手直しする時間も減っている。それが嬉しくもあり、少しだけ物足りない。
 そうして、いつも通りだけど、ほんの少し違うやり取りをして教室に戻った。

 その日の放課後。

 授業の後片付けで裏庭近くを歩くと、何となくジンクスの花の話を思い出した。本当にあったらロマンチックだなって素直に思う。

 すると、茂みの奥で何かが光っているように見えた。

「あれって…」

 紫と白が溶け合う花びらが、星屑を散りばめたようにキラキラ輝く。中心は淡い金色で、陽光を浴びて虹色の光が揺らめく。花びらはビロードのようで、触れれば壊れそうに繊細。そよ風に揺れるたび、微かな光が広がる。ジンクスの花だ!と見た瞬間に確信した。どう見ても他の花とは別格の雰囲気を放っていたから。

 しかし、探そうと思えばこんなにもすぐ見つかるなんて。

 少し拍子抜けな気がする。それでも今朝、クラウさんが見てみたいと言っていたことを思い出した。クラウさんに見せたら、喜ぶかな?そう思ってつい、手を伸ばしかけ…その手を引っ込める。

「摘んだら繁殖の妨げになるかも。こんなに綺麗なら裏庭いっぱいに咲いて欲しいし。」

 思い直し、ここへクラウさんを呼ぶことに決めた。まだ教室にいるかな?と、クラウさんの教室へ駆け込み姿を探す。

「クラウさん、ちょっといい?」
「ん?なにー?告白の呼び出し?」

 教室で、他の生徒たちと話していたクラウさんの姿を見つけ嬉しくなる。でも、言われた冗談になんて返せばいいか、少し困って苦笑いしてしまった。そんな顔したものだからか、他の生徒から「困ってるぞ、可哀想に。」なんて言われていた。

「少し、面白いこと…かな?」
「面白い??なになに?」

 他の生徒に聞かれたら摘まれてしまうかもしれない。だから、近寄ってきたクラウさんの耳の側でコソッと話す。

「 裏庭に、綺麗な花見つけたんだ。 ジンクスの花かも、一緒に見に行かない?」
「え!? 行く!」

 クラウさんは目をキラキラさせ、さっきまで話していた友人たちに手を振ると、バッグを引っ掴んで飛び出してきた。



 そして、花を一目見た瞬間。



「うわぁ、なにこれ! 綺麗! ほんとに星みたい!初めてこんな花見たよ。」

 クラウさんがしゃがみ込み、子供のようにはしゃぐ。私が見つけた時よりいい反応。花も誇らしかろうと勝手に思った。それに、ここまで反応してくれるなら、呼んで良かった。

「摘んでくの? ジンクスの花。」
「ううん、このままがいいかな。もっと、増えて欲しいから。」

 私はただ、その存在を目の当たりにできただけでも嬉しかった。これが魔術師が愛する婚約者の為に作り、贈った花かと思うと宝物を探し当てた気分。

「そっか。じゃあ、もう少し見ていこうよ! 夕暮れには花が閉じちゃうと思うし。目に焼き付けなきゃもったいない。」

 クラウさんが花の前に座り、膝にバッグを乗せる。私はその隣に座り、頷く。

 そよ風が頬を撫で、クラウさんの髪がふわっと揺れる。彼女の横顔は静かで、穏やかな笑みを浮かべる。時間が止まったような安らぎに包まれた。

「魔術師の恋心が詰まってるんだろうな…。恋した時ってどんな気持ちなんだろう。」

 クラウさんが、ふいに呟く。花を見つめ、ちょっと遠い目をする。

「ドキドキするって、よく聞くけど…。難しい質問だね。」
「うん、難しいんだよ。可愛い子見て、わー!可愛い!ってなるけど、恋って言葉がしっくりこないってゆーかさ。」

 クラウさんが膝を抱え、首を傾げる。すると、クラウさんがハッ!!と顔をあげて大発見のように言う。

「一緒にいたい!って思った人が現れたら恋なのかな!?」

 その言葉に、私は少し悩みながら答える。

「私は、クラウさんとならいくらでも一緒にいたいよ。楽しいし。大切な友達だと思ってる。」
「あー、ボクもリーシュ君といるの好きだな。」

 クラウさんが「ひひっ」と笑い、自分の髪を触る。

「やっば、相思相愛じゃん。」
「そうだね。」

 私は小さく微笑む。花の輝きが、私たちの言葉を祝福するみたいに揺れる。
 彼女は、男装した私でも仲良くしてくれる初めてできた女友達。相手が私を男だと思ってたとしても大切な友達。

「恋については迷宮入りだなぁ。」
「恋してる人に聞くしかないね。」

 話していたら、花びらがゆっくり閉じていく。紫と白の輝きが夕暮れのオレンジに溶け、星が夜空に消えるように閉じる。静かな笑い声が裏庭に響き、心がじんわり温まる。

 翌日。

 クラウさんの教室で、色々と教わりながら髪を結ってもらう。
 彼女の指が髪を滑るたび、くすぐったいけど心地いい。教室では女子生徒たちがまたジンクスの話を始めていた。

「昨日、祖父様に聞いたのだけれど、祖父様の時代は二人で花が閉じるのを見守ると、恋の加護があるらしいというものだったそうですわ。摘むと魔術師が怒って恋が叶わないのだとか。婚約者の為の花だから…と。」
「花が閉じるまで一緒に眺められる関係って…既にだいぶ仲が良いのではありません??」

 それを聞いて、私はハッとする。昨日、クラウさんと花が閉じるのを見守った…。つい彼女を見れば、視線が合う。互いにキョトンとした。

「え、それって…」
「う、うん…。ジンクス通りのことしちゃったかも。」
「もー、ボクら付き合っちゃうかー。」
「そんな冗談言って…その言葉は恋した時にとっておかないと、もったいないよ。」
「ははっ、ごめんてー。」

 クラウさんの声色で、だいたい冗談かどうか判断できる。それが分かる程好きだけど、彼女が女性である限り、恋愛対象に見ることはないと思う。だから、ジンクスには申し訳ないけど私達には効果が無さそう。それだけ、私の中にある価値観が根強い。


 今の私達は、こうしている話す時間さえあれば、それだけで楽しかった。



 ◇ ◇ ◇
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