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騒ぎの理由。
しおりを挟む急ぎ、広場へ向かうと先生と見慣れない大人達。
そしてそこには、武術の授業で顔を合わせる生徒たちの緊張した面持ちがあった。その中から、面倒見のいい先輩が私の姿を見つけ、軽く手を振って近づいてきてくれる。
「リーシュ、来たか。 聖女様が加護の範囲を広げるために、国境あたりまで魔物を鎮めに行くそうだ。 その間、王都の加護が少し弱まるから、念のため戦えない住民は学園に避難して、先生と学生で守るそうだ。」
「それでこの状況ですか…。」
加護が弱まると、当たり前だけど魔物が王都に迫る可能性がある。大きな魔物は入れないだろうが、加護の乱れた隙間から小さな魔物が入る可能性はあるそうだ。
広場の隅では、先生が地図を広げ、真剣な表情で話し合っている。その声は風にかき消され、断片的にしか聞こえてこなかった。
「王都付近の魔物ってどんなのがいるか、楽しみですね。」
「緊急事態に何言ってるんだよ。頼もしいけど。」
どこかワクワクする高揚感が湧き上がる。こうした気持ちになるところは、狩人の本能みたいな物を自分の中に感じる。自然と微笑んでいたらしく、先輩が呆れながら笑った。
王都を出る聖女様を守るため、騎士の精鋭部隊はそちらに同行し。
王族や、王都に住まう貴族、重要人物は王城に集められ…現役騎士達が守る。王都内も彼らが見回りをするそうだ。
逃げ遅れる可能性がある住民は学園に集め、先生と生徒達で守ると決まった。その学園の指揮に1人王家に仕える騎士様が来てくれるとか。
王家に仕える騎士様か…
ギラギラしてムキムキで格好いいんだろうな。
そうして期待する中で現れた騎士様は、背が高く、白髪交じりの髪を撫でつけ、深い皺の刻まれた鋭い眼光の伯爵様だった。体格もゴリゴリに良い。
この人には、絶対に怒られたくない…と思う気迫だった。
広場に集まった私たち学生を圧倒するその姿。伯爵様の声は低く、広場全体に響き渡る。
「魔物を討伐した経験のある者は前に出よ。」
日頃から武術を学ぶ生徒達に、そう呼び掛ける伯爵様。
私は素直に前に出ると、授業で教わった騎士の礼をする。この礼をする日がこんなに早く来るとは思わなかった。
そうして前に出た生徒達は、目立つ赤いマントが手渡された。受け取ったのは、集まった中の半数くらいだろうか。
かっこいい!物語の騎士様みたいだ!
と気分が高まったのも束の間。
「これを身につければ、魔物はお前達を標的に定めるだろう。多くの魔物の血を浴びたものだ。それを身に纏う覚悟はあるか。」
手渡された者に最終確認のように伝えられた事実。
それは魔物が現れた際、弱者から魔物の目をそらし、囮になる。率先して戦う事になるということ。
…臭かったら嫌だな。
羽織ってから香りを確認してみると意外と嫌な香りはしなかった。洗濯された石鹸の香りで安心する。香りを確認する私の様子を見た伯爵様は何故か少し笑っていた。
そうして一人一人の反応を見た伯爵様は、返事はなくとも、怯えが見えた者からマントを取り上げていく。しかし、それは失望や呆れではなかった。
「怯えるのは当たり前だ、まだ学生なのだから。学園に残り、この場と避難民を守りなさい。」
戦うことは強要しないその姿勢に安心する。
マントを羽織った者達に手渡された本物の剣は、木剣とは違うずっしりとした重みと冷たい柄の感触。握りしめると、故郷での思い出が懐かしく、胸が高鳴る感覚に思わず笑みがこぼれた。
「君達の勇気を認める。しかし、危険だと判断したその時、マントを遠くへ投げ捨てよ。マントが魔物の気を引き、一瞬の隙が必ずできる。生き延びる事を優先しなさい。」
私たちは一斉に返事をすると剣を手に、学園の敷地より外側を警備することが決まった。マントを受け取らなかった生徒達は、このまま教官の指揮のもとで学園の壁より内側を警備するそうだ。
学園の外周警備なら範囲も狭い。
高い壁に守られたここなら、一人だったとしても守る自信がある。それに、現役騎士が王都全体を警備してる。私達はほとんど出番はないだろう。
校舎前の広場で準備を整えながら、校舎へ視線を向けた。親友のことが、どうしても気になって…。すると、学園に残る生徒たちと避難民の支援物資を運ぶクラウの姿がチラリと見えた。
(学園に残るんだ。怖いだろうに…クラウらしい。)
他にも、学園に残り支援をする多くの学生達が見えた。マルーナさんも緊急事態とは思えない優雅な立ち振舞いで物資の確認をしている。
ここには優しい人達が集まってる。
優しい彼らを守りたい。
最後にもう一度だけ、クラウを目で追うとパッとこちらを見た。「行ってくるねー」の気持ちを込めて手を振ると、拠点へ移動するように声がかけられる。
すぐに気持ちを切り替えて、歩き出した。
伯爵様に続き、赤いマントを羽織る私達は、まるで戦場にでも行くかのように避難してきた街の人達に見送られる。
それが少し恥ずかしかった。
◇ ◇ ◇
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