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息子を紹介??
しおりを挟む伯爵様のご子息を!?
私に紹介!?
魔物より怖いとか言われた私に、差し出される伯爵様のご子息…の想像が頭に浮かんだ。
突然の提案に、表に出さないが心臓がバクバクとする。伯爵様は穏やかに、どこか含みのある笑みを浮かべていた。
「私の息子は剣の才はないが、心根は優しい。…はずだ。よき伴侶になれる。」
「私は庶民ですが…いいのですか?」
「『国境の狩人』を庶民だとは思っていない。学園から提供された君の資料を見たが、女性でこの技量は素晴らしい。」
心根は優しい…はず。という所に不安を感じる。…しかし、私の頭にはクラウの姿が浮かび、知らないご子息との縁談を喜んで受ける気持ちにはなれなかった。
「好意を寄せる人はいるのですが…。」
「そうか、…いや、しかし…。君を逃すのは惜しい。聖女様からも、君を近い内に連れてくるように言われている。大層気に入った様子でな。」
ああ、私の男装を気に入った聖女様ですね?
「あの様子なら卒業後、聖女様の護衛になるのも夢ではない。」
「そう…なのですか?」
伯爵様から期待の眼差しを浴びる。男装を気に入られただけとは言えない。
「あぁ。しかし、明確な爵位の無い今のままでは文句を言う者が出るだろう。聖女様が現れたのは幸運なことだが、国境の狩人を軽視する者が現れ始めたのは問題だ。しかし、伯爵家の後ろ盾があれば文句など言わせない。」
伯爵様は私を説得するように話を続ける。伯爵様は貴族なのに私を受け入れることを悪く思わないらしい。もし、嫁ぐなら…やはり自分を大切にしてくれる人達に囲まれたい。悪い話ではないと分かる。
「息子は騎士にはなれない。しかし、君が伴侶となり、聖女様の護衛となれば伯爵家としても立場は安定し、君も名誉ある立場を得る。」
「聖女様の護衛って…稼げるのでしょうか?」
「名誉より、稼ぎの問題なのか?稼ぎは良いが。」
「お休みは、どれ程貰えるのでしょう?」
「ふむ。護衛任務は日中、夜間、深夜の交代制で3日勤務し一日の休みを得る。」
「午前と午後、夜間の交代制で3日勤務後…一日の休暇。給料よし…」
「魅力的だろう!」
伯爵様は笑顔で頷き、肩を軽く叩いた。
きっと、私がいつまでもクラウに想いを寄せていても爵位の関係で進展は無理なんだ。うーん、と深く考えた私の仕草を伯爵様は見逃さなかった。
「悩む気持ちがあるのなら、ぜひ一度息子に会ってみないか?」
「…少し考えて」
その直後。
学園の方から強く地面を蹴り、走る足音が聞こえてきた。何気なく振り返ると、ピンクの長い髪を一纏めにしたクラウが息を切らして走ってくる。
髪が乱れるのも気にせず、走る彼と視線が合った瞬間、彼の表情が安堵するように歪む。
「っ、リーシュ!」
彼の目指す先は自分なんだと察して、胸には温かく、言葉では表せない喜びで満たされていった。
「よかった、本当に生きてた!!」
「生きてるよ。」
彼の中で死んでる可能性も考えられていたのか、と思ったら笑ってしまった。
勢いがつきすぎたのか、私に飛び込んでくる彼の体を受け止めると、その嬉しい重みを大切に両手で包む。クラウも私の背中をぎゅうぎゅうと締め付ける。その腕が、必死に私を確かめるみたい。なんとなく、幼い頃の自分を思い出して愛しくてたまらない。
あったかい。
幸せ。
少しだけ私の胸に埋めた顔を上げた彼の瞳には、涙が滲み、いつもの笑顔はなくて疲れた顔をしていた。避難者対応も大変だったと思う。
そんな私達のやり取りを見て、伯爵様が穏やかな笑みを深めた。
さっきまで息子を勧めてきたというのに、この優しい笑顔は??と不思議な気分になる。
息をついた彼の指が、私の腕をぎゅっと握ったまま体を離すのだけど、仕草が可愛すぎてたまらない。
「手が汚れるよ?戻ってきたばかりだから臭いと思うし。」
「そんなの今はいーから。ホント心配したんだから!ボロッボロのマントだけ何回も帰ってきて。その度に死んだかと思ったじゃん!!」
「たくさん投げたから。」
その時の気持ちを思い出したのか、ポロポロと涙を流すクラウに申し訳ない気持ちになった。危険と判断したら投げるように言われたマントだから、マントだけ帰ってきて心配になったんだと思う。
先輩に手紙だけでも託しとけば良かった。
「ちょうどいい。リーシュにお前との婚約をと話していた。こんなに仲も良いなら問題ないだろう?」
「「…え?」」
伯爵様の言葉が頭の中で反響する。
クラウに。
「お前との縁談」って言った!?
まさか、伯爵様の息子って…クラウなの!? 伯爵様の息子だなんて、まったく想像していなかった。
伯爵様みたいにゴリゴリの感じを想像していた。
この伯爵様の遺伝子がクラウに…
不思議なものだ。
そう思いながら伯爵様とクラウさんを見比べた。クラウがゴリゴリに鍛えたら伯爵様みたいになるのだろうか。お母様の遺伝子が強いのだろうか。
えと、じゃあ…クラウと婚約できるの?
そう思って彼を見ると、その瞳に困惑が浮かび、私から手を離さず少し後ずさった。
「な、な!!」
「?」
わなわなと震えるクラウ。
それをニコニコと見つめる伯爵様。
温度差がすごい。
「なに余計なことしてくれてるのさ!!」
「っ!」
クラウの大きな声が広場に響く。その言葉に伯爵様は不服そうに目を細めた。あ、その仕草クラウに似てる。
「余計なこととはなんだ!お前が婚約者も決めずフラフラとしているから親である私もだな…」
「それが余計だって言ってるんだよ!ボクの気持ちをもっと考えてよ!」
「縁談の話をすれば、話もろくに聞かず『嫌だ』と言うだけだろう!」
「嫌だから嫌って言うのは当たり前じゃないか。押し付けないで欲しいな。」
「嫌だ、嫌だと言うだけでは何も進まんだろ。いつまでも可愛いままではないのだぞ。」
すぐ目の前で勃発した親子喧嘩。
強い意思を持った眼差しで伯爵様を睨むクラウ。この伯爵様にこんなにも反抗できるのは凄い。さすが息子。
そして、伯爵様はクラウが可愛いんだなってのが分かる。
しかし、長引く親子喧嘩の中で、縁談を拒否された私はいたたまれなかった…。
◇ ◇ ◇
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