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親からの手紙
しおりを挟む聖女様との面会を終えて、卒業後はクラウと結婚し、聖女様と魔物対策に取り組むことが決まった。
伯爵様はお屋敷に帰ってから興奮ぎみだった。聖女様が共に魔物対策に取り組もう!と言ってくれたものだから、その近しい立場と想定される未来の地位に大喜び。「今日はいいワインが飲める。」と私の肩を叩き微笑んでいた。
喜んで貰えるのは素直に嬉しい。
クラウに視線を送ると、視線に気づいてからはニコッと微笑んでくれていた。でもどこかいつもと違うクラウの笑顔に見えた。
何はともあれ、婚約に就職にと色々と決まったから両親に手紙を書くことに。
「…とっても幸せ、っと。これでよし。」
筆が進み、報告一割、惚気九割の配分になってしまったけど…幸せは伝わるだろう。
そんな手紙に返ってきた返事は簡潔なもの。報告が完了した…そんな感じの気分。
ポワポワとした気分で今日も学園へと向かった。
授業が一段落し、今日もクラウと訪れる学園の食堂は、昼時の賑わいで活気に満ちている。
クラウと二人、窓際の席でランチを食べようと注文した。今日、私が選んだのはハーブ香るローストチキンと彩り野菜のサラダがメインのもの。
学食が豪華で幸せすぎる。
魔物の核を大量に売ってから、お金を気にせず好きなメニューを注文できるようになっていた。
ウキウキと席についてから、ふと思いだした。両親に報告したこと、そして返事が来たこと。
雑談の話題のひとつとしてその手紙の話題を出した。すると、温かい料理そっちのけで興味を示したクラウ。
「家族からの返事来たの!? どうだった… ボクとの婚約、反対されたりしてない?」
クラウがフォークを握ったまま、身を乗り出して聞いてくる。瞳には少しの緊張が浮かんでいる。前から私の両親に断りもなく進めたこの婚約を気にしていたみたいだ。
私は笑って、皿の上のチキンを切りながら答えた。
「まさか、反対なんてされないよ。『良かったね』って書いてあった。」
クラウは一瞬、目をぱちくりさせてから、一旦持ったフォークを置いて、じっと私を見つめる。少しの沈黙が流れるけど、続きがないと気づくと、不思議なものを見るような目をしていた。
「結婚について、他には何もなかった??」
クラウが可愛く首を傾げる。私はハッとして、チキンを口に運ぶ手を止めた。
「そうか… 貴族に嫁入りするとき、持参金とか何かしら必要なんだっけ? この前、魔物から採取した素材を売ればなんとかなる?」
少し心配そうに言うと、クラウは小さく首を振る。
「伯爵家からすれば、リーシュだけいれば問題ないよ。他に何も望まない。」
「へへ、照れるなぁ。」
その言葉に、胸のつかえがスッと取れた。ホッと息をつくと、クラウは少し考えてから、ふと真剣な顔で聞いてきた。
「婚約をこんなにあっさり認めてくれるなんて思わなかったから…驚いたってゆーか?…。激怒される覚悟もしてて。ゼインさんも、婚約発表の夜会には来なかったし。」
「ゼインは堅苦しい場が嫌いだからね。」
「…そういうもの?」
「うん。狩人は自由なの。」
フォークを手に持ったまま、こちらを眺めてくる。食べづらい。
「婚約…リーシュと婚約したんだなー。」
「うん。」
私はお皿の美味しそうな料理を眺めながら呟いた。するとクラウは私に真剣な面持ちで言う。
「大切にする。」
「今よりも?」
「今でもボクに大切にされていると思うの?何もしてないじゃん。」
不思議そうに首を傾げる彼に少し照れながら言う。
「だって、ほら。こうしていっぱい一緒にいてくれる。」
照れ隠しでチキンを頬張る私に、彼の瞳がこちらを静かに眺める。
そんな話をしていると、突然、「リーシュ君! こっち見てー!」と明るい声が響いた。呼ばれたからそちらに視線を向けると「きゃー! 」と女子生徒たちがキャッキャと騒ぎながら、笑顔でどこかへ走っていく。彼女たちの弾けるような声が、食堂の喧騒に溶けていった。
「なんだろう?」
モグモグとサラダを食べながら呟くと、クラウがジトッとした目で、フォークを軽く揺らしながら教えてくれた。
「あー、あれさ。聖女様不在の時に、赤いマントを身につけた生徒たちがかっこよ過ぎるって話題になってんの。功績者として名前が張り出されてたっしょ?『あれは格好いい学生名簿だ!』って女の子の間で話題になってる。」
ってことは、先輩もキャーキャー言われてるのかな?と考えたら、困ってる顔が容易に想像できて面白かった。婚約者一筋の先輩だけど、きっと婚約者も気が気じゃない。
彼はパクリとサラダを口に運び、どこか呆れたように言葉を続けた。
「ボクは…ずっと不安でたまらなかった。君が怪我しないかって。」
「ふふっ、心配してくれる婚約者がいるなんて…幸せだな。」
食堂の喧騒の中、二人だけの甘い時間が静かに流れた。クラウの指が、テーブルの上で私の手にそっと触れ、その温もりに心が溶けそうになる。
「でも、私が女だってみんな知ってると思っていたけど…今でも『リーシュ君』って言われるのが不思議…」
「それね。可愛い姿は1日だけで、次の日から男装に戻したじゃん?だから、『クラウの仕掛けたドッキリの可能性がある。』とか言われてんの。」
「はははっ」
「ボクが実は女説まで出回ってる。」
「クラウは可愛いからね。」
「まーね!」
私達の姿が、思っている以上に周囲に混乱を与えているようだった。そんな面白い話の後なのにクラウの表情は浮かない。
「ボクは…何が出来るのかな?」
「なんでもできるよ?」
「…できないよ。君ほど凄い人間にはなれない。それなのに君の隣を陣取ってる。」
私から見たらクラウは凄いのに、それが伝わらない。
「私がもっと魔物を狩ってくる必要ある?」
「なんでそーなるのさ。リーシュが危険な目に遭うのは嫌なんだけど。」
「クラウは凄い!って伝えたい。山ほどの魔物の素材や核より価値あるって。狩人のプロポーズにもあったでしょ?役に立つって。」
「もー。それじゃどんどんリーシュが凄くなっちゃうじゃん。ボクは、胸はって君の隣に立てる人間になりたい。」
はぁ、とため息をついて真剣な眼差しで私を見た。
「ねぇ、リーシュ。君はボクに何か求めるものはある?」
「ずっと一緒にいたい。」
「それは決まってることだから、他でお願いしまーす。」
私達がずっと一緒なのは決まっていること。そう簡単に言ってくれるのがどれ程私を喜ばせて、元気にして、やる気を出させるか。彼はその凄さに気づいてない。
「難しいな…私は魔物を仕留めれば核の数や大きさで頑張ったよ!褒めて!ってクラウに言えるけど、クラウの凄さは目に見えるそれがないから。伝わらないのが残念に思える。こんなに凄いのに…。」
悩みながら美味しいチキンをパクりと食べる。
「このチキンが、どんなに美味しいって言っても、食べてない人には私の感動が伝わらない。それと同じ。」
ひと噛みひと噛みを味わって食べる。その美味しいチキンはサラダにも合う。一緒に食べたら別の美味しさがある。
「このチキンの凄さをどう伝えたらいいのかって言ったら。一緒に食べるくらいしか方法がない。でも、クラウと一緒にいる時間は、私だけが独り占めしたい。誰にも分けたくない。」
「チキンが美味しいって。それ普通のチキンっしょ。」
チキンを注文していないクラウに、私はチキンを切ってフォークに刺すとクラウの口元までビシッ!と差し出す。
「分かってない!ほら、食べてみて。」
「…うん。」
小さく頷いて、私のフォークからチキンを食べたクラウ。するとパッ!と表情を明るくした。
「ん!?美味しー♪」
「だよね!ハーブの香りが絶妙なの!」
クラウは、私の差し出した一口のチキンを美味しそうに食べてから、丁寧に自分の料理を切り分けて一口分を私のお皿に乗せてくれる。その所作は同じ学生とは思えないほど優雅だ。
「クラウは食べ方も綺麗。」
「まーね。幼い頃から習ってきたから…。」
すると、クラウは手を止めた。そしてフォークとナイフをそっとお皿に置く。
「クラウ?」
「ボク、少し…見えたかもしれない。まだ確信は持てないけど。」
そうして考えを巡らせるクラウを、美味しいチキンを食べながら見守った。
◇ ◇ ◇
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