【R18】男の娘に恋した学園生活~男装は間違いではない~

かたたな

文字の大きさ
66 / 82

親からの手紙

しおりを挟む


 聖女様との面会を終えて、卒業後はクラウと結婚し、聖女様と魔物対策に取り組むことが決まった。

 伯爵様はお屋敷に帰ってから興奮ぎみだった。聖女様が共に魔物対策に取り組もう!と言ってくれたものだから、その近しい立場と想定される未来の地位に大喜び。「今日はいいワインが飲める。」と私の肩を叩き微笑んでいた。


 喜んで貰えるのは素直に嬉しい。
 クラウに視線を送ると、視線に気づいてからはニコッと微笑んでくれていた。でもどこかいつもと違うクラウの笑顔に見えた。

 何はともあれ、婚約に就職にと色々と決まったから両親に手紙を書くことに。


「…とっても幸せ、っと。これでよし。」


 筆が進み、報告一割、惚気九割の配分になってしまったけど…幸せは伝わるだろう。
 そんな手紙に返ってきた返事は簡潔なもの。報告が完了した…そんな感じの気分。


 ポワポワとした気分で今日も学園へと向かった。


 授業が一段落し、今日もクラウと訪れる学園の食堂は、昼時の賑わいで活気に満ちている。


 クラウと二人、窓際の席でランチを食べようと注文した。今日、私が選んだのはハーブ香るローストチキンと彩り野菜のサラダがメインのもの。

 学食が豪華で幸せすぎる。

 魔物の核を大量に売ってから、お金を気にせず好きなメニューを注文できるようになっていた。

 ウキウキと席についてから、ふと思いだした。両親に報告したこと、そして返事が来たこと。
 雑談の話題のひとつとしてその手紙の話題を出した。すると、温かい料理そっちのけで興味を示したクラウ。

「家族からの返事来たの!? どうだった… ボクとの婚約、反対されたりしてない?」

  クラウがフォークを握ったまま、身を乗り出して聞いてくる。瞳には少しの緊張が浮かんでいる。前から私の両親に断りもなく進めたこの婚約を気にしていたみたいだ。

 私は笑って、皿の上のチキンを切りながら答えた。

 「まさか、反対なんてされないよ。『良かったね』って書いてあった。」

 クラウは一瞬、目をぱちくりさせてから、一旦持ったフォークを置いて、じっと私を見つめる。少しの沈黙が流れるけど、続きがないと気づくと、不思議なものを見るような目をしていた。

「結婚について、他には何もなかった??」

  クラウが可愛く首を傾げる。私はハッとして、チキンを口に運ぶ手を止めた。

「そうか… 貴族に嫁入りするとき、持参金とか何かしら必要なんだっけ? この前、魔物から採取した素材を売ればなんとかなる?」 

 少し心配そうに言うと、クラウは小さく首を振る。

「伯爵家からすれば、リーシュだけいれば問題ないよ。他に何も望まない。」
「へへ、照れるなぁ。」

 その言葉に、胸のつかえがスッと取れた。ホッと息をつくと、クラウは少し考えてから、ふと真剣な顔で聞いてきた。

「婚約をこんなにあっさり認めてくれるなんて思わなかったから…驚いたってゆーか?…。激怒される覚悟もしてて。ゼインさんも、婚約発表の夜会には来なかったし。」
「ゼインは堅苦しい場が嫌いだからね。」
「…そういうもの?」
「うん。狩人は自由なの。」

 フォークを手に持ったまま、こちらを眺めてくる。食べづらい。

「婚約…リーシュと婚約したんだなー。」
「うん。」

 私はお皿の美味しそうな料理を眺めながら呟いた。するとクラウは私に真剣な面持ちで言う。

「大切にする。」
「今よりも?」
「今でもボクに大切にされていると思うの?何もしてないじゃん。」

 不思議そうに首を傾げる彼に少し照れながら言う。

「だって、ほら。こうしていっぱい一緒にいてくれる。」

  照れ隠しでチキンを頬張る私に、彼の瞳がこちらを静かに眺める。

 そんな話をしていると、突然、「リーシュ君! こっち見てー!」と明るい声が響いた。呼ばれたからそちらに視線を向けると「きゃー! 」と女子生徒たちがキャッキャと騒ぎながら、笑顔でどこかへ走っていく。彼女たちの弾けるような声が、食堂の喧騒に溶けていった。

「なんだろう?」

  モグモグとサラダを食べながら呟くと、クラウがジトッとした目で、フォークを軽く揺らしながら教えてくれた。

「あー、あれさ。聖女様不在の時に、赤いマントを身につけた生徒たちがかっこよ過ぎるって話題になってんの。功績者として名前が張り出されてたっしょ?『あれは格好いい学生名簿だ!』って女の子の間で話題になってる。」

 ってことは、先輩もキャーキャー言われてるのかな?と考えたら、困ってる顔が容易に想像できて面白かった。婚約者一筋の先輩だけど、きっと婚約者も気が気じゃない。
 彼はパクリとサラダを口に運び、どこか呆れたように言葉を続けた。

「ボクは…ずっと不安でたまらなかった。君が怪我しないかって。」
「ふふっ、心配してくれる婚約者がいるなんて…幸せだな。」 

 食堂の喧騒の中、二人だけの甘い時間が静かに流れた。クラウの指が、テーブルの上で私の手にそっと触れ、その温もりに心が溶けそうになる。

「でも、私が女だってみんな知ってると思っていたけど…今でも『リーシュ君』って言われるのが不思議…」

「それね。可愛い姿は1日だけで、次の日から男装に戻したじゃん?だから、『クラウの仕掛けたドッキリの可能性がある。』とか言われてんの。」
「はははっ」
「ボクが実は女説まで出回ってる。」
「クラウは可愛いからね。」
「まーね!」

 私達の姿が、思っている以上に周囲に混乱を与えているようだった。そんな面白い話の後なのにクラウの表情は浮かない。

「ボクは…何が出来るのかな?」
「なんでもできるよ?」
「…できないよ。君ほど凄い人間にはなれない。それなのに君の隣を陣取ってる。」

 私から見たらクラウは凄いのに、それが伝わらない。

「私がもっと魔物を狩ってくる必要ある?」
「なんでそーなるのさ。リーシュが危険な目に遭うのは嫌なんだけど。」
「クラウは凄い!って伝えたい。山ほどの魔物の素材や核より価値あるって。狩人のプロポーズにもあったでしょ?役に立つって。」
「もー。それじゃどんどんリーシュが凄くなっちゃうじゃん。ボクは、胸はって君の隣に立てる人間になりたい。」

 はぁ、とため息をついて真剣な眼差しで私を見た。

「ねぇ、リーシュ。君はボクに何か求めるものはある?」

「ずっと一緒にいたい。」

「それは決まってることだから、他でお願いしまーす。」


 私達がずっと一緒なのは決まっていること。そう簡単に言ってくれるのがどれ程私を喜ばせて、元気にして、やる気を出させるか。彼はその凄さに気づいてない。

   「難しいな…私は魔物を仕留めれば核の数や大きさで頑張ったよ!褒めて!ってクラウに言えるけど、クラウの凄さは目に見えるそれがないから。伝わらないのが残念に思える。こんなに凄いのに…。」

 悩みながら美味しいチキンをパクりと食べる。

「このチキンが、どんなに美味しいって言っても、食べてない人には私の感動が伝わらない。それと同じ。」

 ひと噛みひと噛みを味わって食べる。その美味しいチキンはサラダにも合う。一緒に食べたら別の美味しさがある。

「このチキンの凄さをどう伝えたらいいのかって言ったら。一緒に食べるくらいしか方法がない。でも、クラウと一緒にいる時間は、私だけが独り占めしたい。誰にも分けたくない。」

「チキンが美味しいって。それ普通のチキンっしょ。」

 チキンを注文していないクラウに、私はチキンを切ってフォークに刺すとクラウの口元までビシッ!と差し出す。

「分かってない!ほら、食べてみて。」
「…うん。」

 小さく頷いて、私のフォークからチキンを食べたクラウ。するとパッ!と表情を明るくした。

「ん!?美味しー♪」
「だよね!ハーブの香りが絶妙なの!」

 クラウは、私の差し出した一口のチキンを美味しそうに食べてから、丁寧に自分の料理を切り分けて一口分を私のお皿に乗せてくれる。その所作は同じ学生とは思えないほど優雅だ。

「クラウは食べ方も綺麗。」
「まーね。幼い頃から習ってきたから…。」

 すると、クラウは手を止めた。そしてフォークとナイフをそっとお皿に置く。

「クラウ?」
「ボク、少し…見えたかもしれない。まだ確信は持てないけど。」


 そうして考えを巡らせるクラウを、美味しいチキンを食べながら見守った。



 ◇ ◇ ◇
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

【完結】異世界に転移しましたら、四人の夫に溺愛されることになりました(笑)

かのん
恋愛
 気が付けば、喧騒など全く聞こえない、鳥のさえずりが穏やかに聞こえる森にいました。  わぁ、こんな静かなところ初めて~なんて、のんびりしていたら、目の前に麗しの美形達が現れて・・・  これは、女性が少ない世界に転移した二十九歳独身女性が、あれよあれよという間に精霊の愛し子として囲われ、いつのまにか四人の男性と結婚し、あれよあれよという間に溺愛される物語。 あっさりめのお話です。それでもよろしければどうぞ! 本日だけ、二話更新。毎日朝10時に更新します。 完結しておりますので、安心してお読みください。

婚約解消されたら隣にいた男に攫われて、強請るまで抱かれたんですけど?〜暴君の暴君が暴君過ぎた話〜

紬あおい
恋愛
婚約解消された瞬間「俺が貰う」と連れ去られ、もっとしてと強請るまで抱き潰されたお話。 連れ去った強引な男は、実は一途で高貴な人だった。

ヤンデレにデレてみた

果桃しろくろ
恋愛
母が、ヤンデレな義父と再婚した。 もれなく、ヤンデレな義弟がついてきた。

【R18】純粋無垢なプリンセスは、婚礼した冷徹と噂される美麗国王に三日三晩の初夜で蕩かされるほど溺愛される

奏音 美都
恋愛
数々の困難を乗り越えて、ようやく誓約の儀を交わしたグレートブルタン国のプリンセスであるルチアとシュタート王国、国王のクロード。 けれど、それぞれの執務に追われ、誓約の儀から二ヶ月経っても夫婦の時間を過ごせずにいた。 そんなある日、ルチアの元にクロードから別邸への招待状が届けられる。そこで三日三晩の甘い蕩かされるような初夜を過ごしながら、クロードの過去を知ることになる。 2人の出会いを描いた作品はこちら 「純粋無垢なプリンセスを野盗から助け出したのは、冷徹と噂される美麗国王でした」https://www.alphapolis.co.jp/novel/702276663/443443630 2人の誓約の儀を描いた作品はこちら 「純粋無垢なプリンセスは、冷徹と噂される美麗国王と誓約の儀を結ぶ」 https://www.alphapolis.co.jp/novel/702276663/183445041

わたしのヤンデレ吸引力が強すぎる件

こいなだ陽日
恋愛
病んだ男を引き寄せる凶相を持って生まれてしまったメーシャ。ある日、暴漢に襲われた彼女はアルと名乗る祭司の青年に助けられる。この事件と彼の言葉をきっかけにメーシャは祭司を目指した。そうして二年後、試験に合格した彼女は実家を離れ研修生活をはじめる。しかし、そこでも彼女はやはり病んだ麗しい青年たちに淫らに愛され、二人の恋人を持つことに……。しかも、そんな中でかつての恩人アルとも予想だにせぬ再会を果たして――!?

【完結・おまけ追加】期間限定の妻は夫にとろっとろに蕩けさせられて大変困惑しております

紬あおい
恋愛
病弱な妹リリスの代わりに嫁いだミルゼは、夫のラディアスと期間限定の夫婦となる。 二年後にはリリスと交代しなければならない。 そんなミルゼを閨で蕩かすラディアス。 普段も優しい良き夫に困惑を隠せないミルゼだった…

JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――

のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」 高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。 そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。 でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。 昼間は生徒会長、夜は…ご主人様? しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。 「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」 手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。 なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。 怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。 だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって―― 「…ほんとは、ずっと前から、私…」 ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。 恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。

敗戦国の姫は、敵国将軍に掠奪される

clayclay
恋愛
架空の国アルバ国は、ブリタニア国に侵略され、国は壊滅状態となる。 状況を打破するため、アルバ国王は娘のソフィアに、ブリタニア国使者への「接待」を命じたが……。

処理中です...