【R18】男の娘に恋した学園生活~男装は間違いではない~

かたたな

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クラウとリーシュの三年生の悩み。

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 三年生となったクラウの生活もガラリと変わった。

 彼は貴族の子供たちに勉強やマナーを教える家庭教師を目指し、学園での学びを続けながら、幼い弟や妹を持つクラスメイトに積極的に声をかけていた。試しに短時間の家庭教師をやれないか?と。

 もともと成績優秀で、気さくに誰とでも話せる彼だから「クラウだったら安心」とばかりに行き先はすぐに決まった。

 遠慮もあり大変そうだったけれど、子供に対する接し方のコツを掴んでからの彼は凄かった。
 
 最初は、剣術の指導が厳しすぎたあまり、大人の男性が怖くなってしまったご子息。別の家庭教師を探しているところだった。見た目が可愛い彼だから、その子と打ち解けるのは早かった。交流を重ね「クラウ先生の指導なら…」と剣術も徐々に始めたらしい。

 もう一人は幼いご令嬢。
 全く勉強をしなかったそうで、家庭教師は全員拒否。見かけた途端にかくれんぼが始まるらしい。
 しかし、男性と聞いて現れた可愛い見た目のクラウに興味津々になったその子。女の子の好きなお洒落の話題からマナーに上手く結びつけ、徐々に勉強もしてくれるようになった。


 そこから話題になり、次は我が家にも!と待ち予約が入るようになったそうだ。


 最近のクラウは、更にイキイキと輝きを増した気がする。


 その結果…


 女子生徒に呼び止められるクラウの姿をよく見かけるようになった。

 この日も、学園の中庭を歩いていると、ふと視界の端に彼の姿が映った。相手の女の子は、頬をほんのり染め、恥ずかしそうに髪を指でくるくると巻きながらクラウに近づいていた。距離が近い。あまりにも近い。彼女の手がクラウの袖を軽くつまみ可愛らしい声で語りかける。

 クラウの剣術は話題になったし、実際に家庭教師として伺った先の家族と仲良くなって帰ってくる。彼の誠実な態度と指導力を見たら、好感を持つのは仕方ない。可愛い見た目だし…。伯爵家のご子息だし。剣を指導する姿はカッコいい。
 
「ちょっと、近いんだけど。離れて。婚約者いるから距離には気をつけて欲しいんだけど?変な噂立つと困るんだよね。」
「私、クラウ君と仲良くなりたくて…」
「や、め、て。」

 クラウの声は穏やかだが、はっきりと線を引いていた。
 対応に感動…したのもつかの間。


「でも、家の為の婚約なのでしょう?」

 背中がヒヤリとした。

「家のために、騎士になれる人を探してたのでしょう?それに、公開プロポーズで断りにくい状況を作られたとも聞きました。」
「そんな噂信じてんの?」
「だって、貴族なら仕方ないことですから。そういう結婚も。それに、リーシュ君はクラウ君の好きな可愛い系でもないですから信憑性はあると…。」
「馬鹿馬鹿しい。」

 クラウは吐き捨てるように言って、彼女から一歩下がった。そのやり取りを見ながら、私は安心するはずだった。クラウの態度は揺るぎなく、思わせぶりな素振りなど一切ない。それは安心できる。

 …でも、なんだか、気持ちがしゅんと縮んでいくのを感じる。私は静かにその場を離れた。

 …

 …騎士になれる可能性があったから得た婚約。


 それは、ほんとその通り…。


「はぁ…」


 そんな気持ちで歩いていたからか、自然とたどり着いたのはクラウに初めて話しかけられた場所。私が膝を抱えていた中庭の片隅だった。

 ここは良い感じに日陰で、木々に囲まれているから周囲から見えにくく安心感がある。試しに同じ場所に膝を抱えて座ってみる。

 暗くて狭いけど木漏れ日の心地良い場所。
 暫くの間、目を閉じて風の音を聞いていた。
 

 …



 三年生になってから。
 本音を言ってしまうと…あまり楽しくない。
 クラスが違うから、クラウに会える時間は激減。
 私の腕は、だんだん傷だらけで逞しくなっていく。

 魔力切れを起こして以来、ある程度鍛えるようにしている。何かあった時に、全力でクラウを守りたいから。今となっては伯爵様も、夫人も、クラウの妹も。マルーナさんも。私に優しくしてくれる人達を守りたい。

 昔と違い、鍛えることには納得してる。
 もう、モテる必要はないのだし。
 クラウにだけ好いて貰えれば…それでいい。
 でも、どうしても逞しくなる自分の体を見ると不安になる。

 クラウは可愛いものが好きだから。

 それでいて、クラウの周囲には可愛らしい優雅な女の子が常にいて…。ああしてアピールされる。

 裏で親密な関係を作れれば、それだけ彼女達自身の安定に繋がる。…というのもあるだろうけれど。

 ほんの少しだけ目を開けて、恐る恐る自分の手を見る。すると薄目で見たってわかる程、傷が目立っていた。

 そんな痛む心に寄り添うように柔らかい風に包まれ、葉の揺れる音に癒された。

「ここに…住んじゃおうかな。」

 できることなら、このまま木々の葉に隠れて姿を見せなくて済めばいいのに。そうしたらクラウにも失望されない。

 また、目を閉じて、このまま寝てしまおうか…と考えた。


「それは困るんだけど?」


 しかし、今一番見つかりたくない人に見つかってしまった。その声にビクリと震える。抱えていた膝を離して慌ててしまった。

 クラウはなんで、こんな見つけにくい所にいる私を見つけてしまうのだろう。

「少し姿が見えて、リーシュかな?って思ったら気になって見にきたんだ。」

 そうして不思議そうな顔をして近づいてきたクラウは日の光を浴びて余計に輝いて見える。

「眩しい。」
「ははっ、まーね。最近のボクはかっこよく輝いちゃうんだなぁ!」

 冗談っぽく言う彼だけど、それが私にとって本当だから困ってしまう。そのまま眩しいフリをして視線を逸らすと、クラウは私の顔を覗き込んできた。

「リーシュ…なんか落ち込んでる?」
「っ…。」

 うまく返事をできないでいると、両頬をむぎゅっと強めに挟まれてクラウと視線が合うように無理矢理顔を上げられる。

「何、誰かに意地悪でもされた?誰?言ってみ。」
「そういうわけじゃ…ない。」

 圧が凄い。
 なんだかこの圧、婚約迫られた時に似てる。

「じゃー、どうしたの?ここで膝抱えてるとかデジャヴ過ぎるんだけど。」
「ごめん…なんて言葉にして良いかわからなくて。少し気持ちが落ち込んでるのは認める。」

 自分の女の子らしさが薄れていくこと。彼の側に可愛い女の子がいる不安。それぞれがフワッとした不安で、どう言葉にして良いかわからない。言葉にしたところで、解決しないし困らせるだけだとも思ってしまう。

 だって、彼は最善の行動を取ってくれている。

 これ以上、求められることがない。

 クラウの手から解放されると、その温もりの残った頬を擦ってからその自分の手を見た。

「ね、リーシュ。」
「?…なに?」

 名前を呼ばれ、手を後ろに隠すとクラウを見る。するとクラウはにこりと笑っている。

 すると、クラウが私の髪に触れて言った。

「リーシュ、久々に髪を結ってもいい?」
「いいの?」
「うん、ボクがしたいから。」
「でも、今日は仕事がある日なんじゃないの?」

 そう聞くと、既に私の後ろへ回った彼からクスクスと笑い声が聞こえる。

「さっき、家庭教師として呼ばれたご子息の、お姉様に会って少しお話したんだ。けどさ、やっぱり来なくて良いらしーよ?連絡しておいてくれるって。」

 それって…あんな断り方したから?と心のなかで呟く。するとその答えが帰ってきたように話が続いた。

「結果だけ見れば『もめて断られた』ってことなんだけどさ。ボクは君の隣に胸張って立ちたいって思う。だからそれに悪影響がありそうな訪問先なんて、こっちがお断りだし!こうして落ち込んだリーシュの側にいられるならラッキーだったかも。」

 彼の言葉には落ち込みも後悔も感じなかった。少し怒っているようにも聞こえたけれど、それはそれで前向きに捉える彼の強さが伝わってくる。私はその言葉に、胸の奥が温かくなるのを感じた。

 クラウは強いな…。

 私は目を閉じ、その温もりに身を委ねた。


 ◇ ◇ ◇
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