九つの女神と世界の滅亡

Alisa

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崩壊の始まり

町で出会った少女

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 ガヤガヤと賑わう商店街を、一人の少女が駆けていく。
「おっ! ノン、帰りか? 気を付けろよ」
「ノンちゃん今日も元気ねぇ。」
「ノン、今日余った果物いるか?」
 商店街の人々が次々と少女に笑顔で話しかける。少女の方も、笑顔で応える。
「今日は荷物が多いから無理! ロゥ、明日までそこに置いといて~!」
「腐るぞ?!」
 そんな会話が、毎日のように行われている。皆も少女も、お互いのことが好きで、信頼しあって、誰かが困っているとみんなで助けあって、隠し事は禁止、なんて決まりまで作って、本当に仲がいい人たちだった。
 しかしそんな彼らでも気付くものはいなかった・・・・・・。少女の顔が、いつもよりも暗いことに。

「・・・・・・はぁ。」
 少女は帰り道の途中にある椅子に座り、ため息をついた。
ーーこんなことって・・・・・・。
 ついさっき、医者から告げられた真実。それは、16の少女にはあまりにも大きすぎることで・・・・・・到底、信じられる事ではなかった。
「なんで・・・・・・? どうして私なの? 怖いよ・・・・・・寂しいよ・・・・・・」
 独り、嗚咽を漏らす。少女は、小さな体をギュッと抱き締めて、震えた。
 なにかの弾みで隣に置いていた紙袋が地面に落ちてしまった。中には、大量の薬。
「なんでこんなに・・・・・・。だって要らないじゃない。こんなもの・・・・・・」
 少女は拾うのもイヤになり、そのまま目を閉じた。もしこれが夢だったならどんなにいいことだろうか?いつもどおり、服屋のおばさんや、武器屋のおじさん。それに、ロゥと一緒に話せる。笑いあえる。普段は気にもしていない『普通』が、こんなに愛おしいだなんて・・・・・・。
 このまま眠ってしまいたい。全てを忘れて。そうすれば、楽になれるんだから・・・・・・

ーーカサッ。

「?!」
 突然少女の目の前で音がした。驚いて少女が目を開けると、そこには美しい女の人がいた。
 女性は何も言わず、紙袋を持っている。中には、さっきこぼした薬が全て入っているようだった。
「え、あ・・・・・・ありがとうございます」
 少女が礼を言うと、女性はビクッと肩を揺らし、驚いたように少女を見た。
「え・・・・・・?」
 女性は信じられないとでもいうように少女をまじまじと見た。
「あ・・・・・・あの?」
 少女が話しかけると女性は少し複雑そうな顔をしつつ少女から顔を離した。
「あなた・・・・・・私の事が見えてるのね。」
「は、はぃ?」
 意味がわからない。むしろ見えない人はいるのか?少女が困惑していると、女性は淡々とはなしだした。
「私の名前はレオアリス。・・・・・・って言えばわかる?」
「あっ」
 それで少女は全てを悟った。そうか、この人はーー
「じゃあ、命の女神の・・・・・・?」
「うん、その通り。」
 
ーー説明しなくてはならない。レオアリスというのは九つの女神の内の一人、命の女神の事だ。
 この世界は、女神によって成り立っている。この世界を作った大女神はこの世界に干渉できないらしく、九つの女神が代わりに世界を守っている。例をあげると、レオアリスは命の女神であるから、全ての生物の命を守っているということになる。
 しかし、大女神と同様、神のまま、天にある大神殿では世界に干渉できない。だから彼女たちはそれぞれ決まった転生者ーー『巫女』に転生し、世界を守っているのだ。・・・・・・と誰かに聞いたことがある。
 
「でもなんで、こんなところに・・・・・・?」
「それは・・・・・・」
 レオアリスは言うか言わないか迷っているようだった。本当に大事なことなのだろう。すごく悩んでいるようだった。
「あの、話したくないならーー」
「分かった。おしえてあげる。・・・・・・見たところ貴女も巫女のようだし、いつかは知ることになるでしょうから。」
「・・・・・・っ」
 レオアリスは少女をまっすぐに見つめて話し始めた。
「まず、あなたはこの世界のことをどれくらい知っているの?」
「え? うーん・・・・・・。世界を作った人が大女神様という人で、貴女たち九つの女神が世界を守っているということぐらいしか・・・・・・」
 そう言うとレオアリスはなるほど、と言って続きを話し始めた。
「じゃあ、巫女がいけにえになっていることは知ってる?」
「・・・・・・え?」
 そんな話は初耳だった。
「やっぱり知らないのね。九つの女神にはね、それぞれに巫女がいる。でもその巫女は全員贄として死んでしまうのよ。・・・・・・1つの体が持てる魂は1つだけだから・・・・・・」
「それで・・・・・・」
「その巫女を利用して、悪魔が世界をのっとろうとしているの・・・・・・」
「えぇ?!」
 レオアリスの予想外の話は少女を驚かせた。まさか、悪魔がこの世にいるとは。今までそんな話を聞いたこともなかったのに・・・・・・。
「私も最近知ったんだけど、どうやら女神を殺す方法をやつらは手に入れたらしいの。」
「それは・・・・・・どんな?」
「女神が転生する巫女。その人に、女神が転生する前に『悪』を埋め込んどくそうなの。そうすれば女神は転生後、巫女の体に染み付いた悪に蝕まれて死ぬ・・・・・・。女神の力は、そのまま巫女の体に残され、悪魔はまんまと女神の力を手に入れるわけよ」
「それで・・・・・・なんでレオアリス・・・様はここに?」
「レオアリスでいいわ。さっきも言ったけれど、私が転生する予定だった巫女・・・・・・ヒナはすでに悪に犯されていた。このままでは私は見つかり無理矢理転生させられ、死ぬ・・・・・・そう感じて、逃げてきたの」
「そう・・・・・・だったんだ」
 今、世界がそんなことになっているなんて・・・・・・
「もうすでに、光の女神フォスカーナと炎の女神フランは敵の操り人形になってしまった可能性が高い。ここで私が死ぬわけにはいかないの」
「レオアリス・・・・・・」
 なんて声をかければいいんだろう? もうすぐ命がなくなる私がーー
「・・・・・・レオアリス。私の体を使って」
 そのセリフに、レオアリスは目を見開いた。少女自身、何を言ったのか分からない。でもーー
「私は・・・・・・貴女の力になりたい」
「待って! 聞いてたの?! 巫女になると死ぬのよ?! それにあなたは別の女神のーー」
「レオアリス。レオアリスは、他の女神の巫女を知っているの?」
「え? う、うん。一応・・・・・・」
「それなのに私を知らなかったってことはきっと私は貴女のためのもう1人目の巫女だってことじゃない・・・・・・? それに・・・・・・私は、明日死ぬから同じことだよ」
 少女の言葉にレオアリスは絶句した。
「私が巫女になれば誰にも気づかれない。レオアリスは、世界を守れる」
 レオアリスの手を握りしめた。強く、握りしめた。
「・・・・・・本当に、いいの?」
「うん」
 少女はもう、死への恐怖を感じなくなっていた。ただひたすらに、嬉しくて。守りたくて・・・・・・。きっと、大丈夫だって思える。不思議。
 レオアリスが涙ぐみながら呪文を唱える。何故か聞き覚えのある台詞。あぁ、そうか、私はーー
「ねぇ、最期に、一つだけ頼みたいことがあるの。明日。ロゥのところに果物を取りに行ってくれない? そして・・・・・・これからも時々あってあげてちょうだい」
「・・・・・・分かった。私からも一つ・・・・・・。・・・・・・あなたの名前は?」
 意識が薄れていく中でききとれたレオアリスの質問は当たり前すぎて、なんでか笑っちゃう。
 バイバイ、レオアリス。それに、ノン・・・・・・。
「・・・・・・私の名前は・・・・・・」
 レオアリスに手を伸ばす。彼女もとっさに手を伸ばした。

「ノン」

 伸ばした手は触れることなく、空を切った。


 
 
 
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