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一九四四年十二月
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密林を彷徨い続けてだいぶ時間がたった。正確な日時は分からない。密林の中は相変わらず生き物のものかどうか分からない奇妙な音が鳴り続けていた。
私はあちらこちらに転がっている兵士の死体から銃器を拝借しながら、密林の中を歩んでいた。死体の殆どが日本兵のものだった。恐らく連合軍兵士の死体は味方らが回収しているのだろう。我らが日本軍にそんな余裕はない。死体どころか戦傷者を癒やし、養うことすら出来ないのに、死体に気を遣うことなど出来るわけがない。
不時着してからこっち、ロクなものを食べていない。口にしたのは腐った獣肉や虫といったものばかりだ。
誰でもいいから、友軍の兵士と出会いたかった。恐らく彼らも食料が欠乏しているのには変わりないだろうが、それでも密林の中を一人で彷徨い続けるのに比べればだいぶマシだ。
やがて私は密林の中で、異質な音を聞いた。何かの生き物が草を踏みしめるような、そんな音だった。
私は銃剣のついた銃を持ち、中腰の姿勢で静かに歩き出した。銃弾こそ込められていないが、この銃剣付き歩兵銃こそ今の私が持ち得る最強の武器だった。
瞬間、音が鳴る。何らかの物体が私の顔の右横を通り過ぎた。右耳がきいんと鳴って、頬に熱が走る。私は即座にその場に伏せた。相手は誰だ。米兵か、どれほどの規模か。私は自身の履く黄ばんだ褌をどのようにして白旗として認識させようかと考えていたが、この思考はすぐに無駄だったことが分かる。
「くたばれ!」
相手の叫び声。それはまさしく日本軍兵士のものだった。
私は叫び返した。
「馬鹿野郎!俺は日本人だ!」
その言葉と同時に、もう一発銃弾が私の頭上を掠め、飛んでいった。相手に自分の声が届いたのかも分からなかった。
私はあちらこちらに転がっている兵士の死体から銃器を拝借しながら、密林の中を歩んでいた。死体の殆どが日本兵のものだった。恐らく連合軍兵士の死体は味方らが回収しているのだろう。我らが日本軍にそんな余裕はない。死体どころか戦傷者を癒やし、養うことすら出来ないのに、死体に気を遣うことなど出来るわけがない。
不時着してからこっち、ロクなものを食べていない。口にしたのは腐った獣肉や虫といったものばかりだ。
誰でもいいから、友軍の兵士と出会いたかった。恐らく彼らも食料が欠乏しているのには変わりないだろうが、それでも密林の中を一人で彷徨い続けるのに比べればだいぶマシだ。
やがて私は密林の中で、異質な音を聞いた。何かの生き物が草を踏みしめるような、そんな音だった。
私は銃剣のついた銃を持ち、中腰の姿勢で静かに歩き出した。銃弾こそ込められていないが、この銃剣付き歩兵銃こそ今の私が持ち得る最強の武器だった。
瞬間、音が鳴る。何らかの物体が私の顔の右横を通り過ぎた。右耳がきいんと鳴って、頬に熱が走る。私は即座にその場に伏せた。相手は誰だ。米兵か、どれほどの規模か。私は自身の履く黄ばんだ褌をどのようにして白旗として認識させようかと考えていたが、この思考はすぐに無駄だったことが分かる。
「くたばれ!」
相手の叫び声。それはまさしく日本軍兵士のものだった。
私は叫び返した。
「馬鹿野郎!俺は日本人だ!」
その言葉と同時に、もう一発銃弾が私の頭上を掠め、飛んでいった。相手に自分の声が届いたのかも分からなかった。
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