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災厄同士の過去
しおりを挟む不幸の鬼と翠は昔は仲が良かった。
否、翠はずっと幸のことを信じていた。
昔は仲が良かったと言ったが彼らはお互いを信じすぎて話を交わさなかったのだろう。
これは鬼と翠の過去の物語。
二人が幸せだった頃の物語。
~~~~
「兄様!」
「何だ?幸」
翠は自分の膝の上で丸まって寝ている幼い妹の声に反応する。
いきなり自分を呼ぶとは如何したのだろうかなどと幸の頭を撫でながら考えた。
この妹はいつも活発で、何事も突然なのだ。
しかも無理難題まで頼んでくる。
翠は何を頼まれるのだろうかと少しびくびくしながら身構えた。
すると幸は笑顔で小さな口を開く。
「兄様は今、欲しい物はありますか?」
欲しい物。
翠はきっといつものように無理難題がくると思っていたので欲しい物という言葉にきょとんとした。
そして幸の言葉を理解すると同時に翠は少し微笑む。
それも愛しい者にしか見せない優しい笑みだ。
「我は欲しい物はこれ以上ない。我にとってお前が一番大切なのだから。敢えて言うならお前の幸せな未来を見せてくれ。お前が幸せなのが良いんだ」
翠はそう言い切ると同時に、また幸の頭を撫でる作業を続行する。
すると翠の言葉を聞いた幸は勢いよく飛び上がり、翠に頭突きを食らわせた。
「あ痛っ!!」
「兄様の馬鹿!」
幸は真剣な眼差しで翠を見つめ、いきなり罵る。
何故か罵られた翠は取り敢えず正座をして幸の話を聞いた。
「兄様は無欲すぎます!欲がないと人生は楽しくないのですよ!こうなれば兄様が喉から手が出るほど欲しいだろう物を意地でも作ってきます!」
「あ……ああ……」
翠は話についていけずちょっとした返事しか返せないでいた。
幸はそんな兄の返事を聞いた瞬間に「じゃあ早速取り掛かります!」などと言い部屋から飛び出していった。
「幸……我の為に……!」
翠は一人、自身の部屋で嬉し泣きをして幸を見送っていった。
因みに幸は後ろを振り返っていないので翠の嬉し泣きは見えていない。
~~~~
「さあ!始まりました!兄様への贈り物作りが!」
幸は早速だが何を作ろうか悩んでいた。
幸が悩む理由はただ一つ。
翠が無欲すぎることの所為なのだ。
翠は無欲である。
だからこそ何を贈れば良いのかわからないのだ。
幸はうーんと言いながら頭を悩ます。
今回は敬愛する兄の為のことなのだ。
だから失敗は許されない。
まあ、実際は翠は既に部屋で嬉し泣きをしていることを考えると失敗しても問題はないのだが。
「よーし!決めた!」
幸はそう言うと台所へと向かう。
最初は料理をしようと思ったのだ。
そう……最初は……。
「あ……」
そこで幸は第一難関に気づく。
実は幸は翠の好きな食べ物を知らなかったのだ。
それに嫌いな食べ物もわからない。
思えばあの兄、何でも文句を言わずに残さず食べている。
これではもし作っても残さず食べてくれるだろうが、翠の好みに合わない可能性が高い。
そう考えて幸は料理作りを断念した。
「では次。うーん……」
幸はまた頭を悩ます。
一旦はお酒を贈ろうと思ったが、翠がちょっとのお酒で酔い潰れていたのを思い出して幸はそれをやめた。
では如何すればとなる。
すると幸にまたもや結構良いだろうアイデアが浮かんだ。
「そうだ!服を作りましょう!」
そう思い、浮かんだ時に取り掛かるのが吉だろうと幸は服を作る用意をする。
だがそれもある考えで没となることになった。
「兄様……どんな色が好きなのでしょうか?」
またもや好みがわからない問題だ。
いつもは黒の服を纏ってはいるが、黒だけでは飽きているかもしれない。
かといって雰囲気を変える為に、いつもと違う色の服を贈っても困惑するかもしれない。
兄を困らせるという発想に至った時にこのアイデアは捨てることとした。
「また駄目ですか……。では如何しましょう?……そうだ!」
幸は今度は犬を贈ろうと思いついた。
翠にも時には癒しが必要だろうと思ってのことの筈だった。
だがしかし途中で幸は気づいた。
「あー、犬ー!絶対に可愛くて良いですよね!……ん?」
やっと幸は気づく。
犬が欲しいのは翠ではなく自分だということに。
そのことに気づいた瞬間に、幸は翠に迷惑をかけるのではと思いやめた。
だって今は自分の為のことではなくて兄の為だもの。
翠を優先すべきだ。
「では如何しましょう?あれは……いや無理でしょうね。ではこれは?」
幸は必死に考える。
だが良いアイデアが浮かばない。
幸はその時に酷く嘆いた。
兄は自分の為にいつも何かをしてくれているのに自分は何も知らないんだと。
だが次に良いことを思い出す。
翠は一度だけ自分にお面を作っていたのだ。
その時の光景は確かに覚えている。
翠が黒いお面を格好良いと言っていたことも覚えている。
「よし!これなら!」
だが普通のお面を作るのは少し味気ない。
ならばと幸は笑った。
~~~~
「兄様!」
「幸!」
夕方の橙色の光が包む頃、幸は笑顔で翠の元へ向かっていた。
翠は幸が何を用意してくれたのか興味津々だ。
「これは如何です?」
「これは……鬼の面」
翠は差し出された鬼の面に笑顔を見せた。
そしてすぐさまそれがただの面ではないことに気づく。
「これは……半分の面?」
「はい、ただの面では味気ないと思って半分にしました。如何です?お洒落でしょう?欲しいでしょう?」
翠は幸の必死そうな表情を見て、また泣きそうになる。
自分の為に妹が頑張ってくれたことが嬉しくて泣きそうになる。
そうして翠は幸の頭を撫でて笑った。
「ああ、喉から手が出るほど欲しいな」
それを聞いて幸は喜んだ。
やっと兄が欲しい物を手に入れたんだと喜んだ。
すると翠は「そうだ」と何かを思い出したかのように踵を返す。
「如何したのです?兄様?」
「幸、ちょっと待ってろ」
翠は自室の棚を漁って何かを取り出す。
取り出されたものは白く、桜の模様が美しい鞘に収まった守り刀だった。
「これをやる。今日の礼だ」
「良いのですか!?やったー!」
幸が喜んでいる姿を見て翠は笑う。
今日は良い一日だったと笑った。
それから毎日、翠は幸がくれた面をつけるようになった。
~~~~
翠は今でも幸が贈った面をつけている。
幸に裏切られた今でも。
それでも信じた。
優しい、純粋な自慢の妹を。
二人はお互いを理解しあっている気でいた。
だからこそ招いた悲劇。
あの時のまま笑顔でいられたら……。
なんてことはもう叶わない。
さあ、続けよう。
争いの生を……。
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