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優しい罰
しおりを挟む「はぁー……」
殺は個人部屋の病室で一人、溜め息をついていた。
それは今回、皆を裏切ってしまったことで後悔をしていたからだ。
そうして殺は思った。
この事実を職場の者が知れば自分を軽蔑するのではと。
殺は軽蔑されてもおかしくないことをしたと自分でも思っている。
だから職場に帰れば、どんな罵詈雑言も受け入れるつもりだ。
だが、病室に引きこもっている今だけは許してもらいたいと願っていた。
「……痛っ」
殺は己が腹を押さえる。
そういえば自分は刀を腹に突き刺したのだなと思い出しながら。
それは帰りたいと心から願ったからか。
だが殺はそう思えば思うほど表情が暗くなる。
自分は帰るまでに手を汚しすぎた。
今更、帰っても自分が嫌いな裏切り者になってしまう。
大好きな仲間と居る資格なんてない。
私はもう仲間に戻れないんだと考えてしまう。
殺の表情がより曇っていく最中だった。
コンコン
何者かが部屋の扉をノックする。
音は次第に大きくなる。
乱雑に、急いでいるかの様な叩き方。
そうして音は複数になる。
その音に殺は思わず手で耳を覆った。
やめてくれ、まだ責められる覚悟なんてないんだ。
だが音は止まない。
外からは「まだ目覚めてないのかな?」なんて声が聞こえてくる。
ああ、そうだ。
目覚めていない、だから今だけは帰ってくれ。
殺は布団の中に潜り込み只管、音の主が去るのを待った。
だがその時だ。
病室の扉が音をたて、勢いよく開いたのだった。
殺は恐怖で布団により深く潜り込む。
だが、その布団も剥がされた。
殺は恐る恐る上を向く。
「やあ、殺ちゃん」
そこには愛してやまない閻魔が居た。
「閻魔……大王」
「殺ちゃん、起きてるなら入らせてよね。お見舞いに来たんだからー」
閻魔は唇を尖らせ、拗ねた様な態度をとる。
その姿に殺は僅かながら日常に戻れた気がした。
だがそれは戻って良いのかはわからない。
けれど自分が大好きだった日常を思い出せて、殺は安心を覚えた。
やはりこの日常が好きだと。
「皆もお見舞いに来てるよ!」
「皆……!?」
殺は日常から離れ、恐怖を思い出す。
自分は責められるべき存在なのだと。
だが、今はやめてくれ。
私は壊れやすいんだ、もう傷つけないでくれ。
それは自分が何かを傷つけたことはわかってはいるが、責められることが怖い幼子だ。
殺の部下たちが入って来る。
やめろ、今は一人にしてくれ、反省はしているから。
そうやって耳を塞ごうとした殺に、部下がかけた言葉は予想外のものだった。
「殺様!強大な敵を倒すとは流石です!」
「……は?」
殺は如何いうことかと閻魔を見る。
彼なら真実を知っている筈だ。
だが閻魔は何も言わず、ただ優しい笑顔で殺を見つめていた。
「五人の英雄が勇敢に戦って、勝利をしたと!」
部下は嬉しそうに言う。
その瞬間に殺は理解した。
嘘が出回っていると。
そうして、その嘘は閻魔が流していると。
「皆!お見舞い品を置いて一旦だけど出てって!私と殺ちゃんだけで話したいんだ」
「えー!ぶー」
皆はつまらなさそうな態度で部屋から出ていく。
そうして病室には閻魔と殺の二人が残った。
「閻魔大王……あの嘘は!?」
「私が流したよ」
「何で!?」
殺は目を見開いて閻魔を見る。
それは貴方が嘘をつかなくて良いんだということでもあり、貴方まで黒に染まるなとのことだった。
そんな殺の考えも閻魔は見抜いて言う。
「勘違いしないで。私が嘘を流したのは君への罰だ」
「罰?」
殺は自分を救おうとしている様な嘘が罰だなんて信じられずにいた。
すると閻魔は目の光をなくす。
光のない目で見つめられた殺は恐怖で動けないでいた。
「君は責められることで罪を軽くしようとするだろう。其が怖くても」
「そうですけど……」
閻魔は溜め息を吐く。
そうして罪を裁く時の光ない目で殺を見て言った。
「罪人が望む罰を与える訳ないでしょう。罪人がもっとも苦しむ罰を与えるのが私の役目だ。君の場合は変わらない日常が罰になる」
閻魔は見抜いていた。
殺にとって変わらない日常は、裏切りの後ろめたいことを常に思い出させる辛いものだ。
だから殺は責められる方を選ぼうとしていたのだ。
罪人としての自覚を持てる方を……。
閻魔は後ろを向く。
殺に背を背ける。
「殺ちゃん、罪人は監視する義務があるんだ。だから一人になんてなれないよ。一人になんてしないよ。覚悟しておいてね、これが親として言わなければならない言葉だから」
閻魔は最後に「今までごめんね」と言った。
それは殺の孤独に気づけなかったからか、気づいていても何も出来ずにいたからか。
殺は自分に与えられた罰と慈悲を理解する。
そうしてベッドから起き上がり、閻魔の袖を掴んだ。
「殺ちゃん?」
「その慈悲も、私には罰になるのですよ」
「え?」
殺は泣いていた。
閻魔は泣いている殺を見て慌てふためく。
それを見て殺は泣きながら笑った。
「罰だらけにしてくれてありがとうございます。私の監視、頑張ってください」
殺は罰よりも重い慈悲に笑うしかなかった。
もう、本当の意味で一人ではなくなるのかと。
一人で静かに本を読むことも出来なくなるかもしれないと。
すると殺に疑問が浮かぶ。
「人殺し課の皆は!?」
殺は自分が傷つけた存在を思い出し、容体を閻魔に訊ねる。
それほど殺が与えた傷は深いものだったから。
すると閻魔は笑って答える。
「四人は相部屋で仲良く喧嘩してるよ」
「そう……ですか」
殺は良かったと胸を撫で下ろす。
それを見た閻魔は殺の頭に頭突きをした。
頭突きをされた殺はベッドから吹き飛ぶ。
「痛っ!!」
「君よりも、あの子たちの方が痛かっただろうね。身体も心も!其を忘れずにいなよ!」
閻魔はそう言うと頭を抑えて帰っていった。
去り際に「相部屋になったら謝るんだよ」と言いながら。
殺は静かにお辞儀をする。
だが閻魔は振り返ることはなかった。
~~~~
「相部屋になったらか……」
その時は何と謝ろうか?
きっと彼らは「馬鹿!」とか言ってくるのだろう。
それも精一杯の悪口のつもりで。
皆は優しい、だからこそ許さないだろう。
それは殺の為に。
殺の為に殺の記憶、身体に咎を刻んでいくのだろう。
それも殺が望まない方法で。
優しく刻むのだろう。
殺はこれからの罰に向けて身体を癒すことにした。
背負うには重すぎる罰に向けて。
監視も鬱陶しいのだろう。
殺はそれを想像しながら笑った。
笑って眠りについた。
暴力の代償は優しい罰になる。
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