地獄の日常は悲劇か喜劇か?〜誰も悪くない、だけど私たちは争いあう。それが運命だから!〜

紅芋

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側に居たい

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 騒がしく、何故かボロボロな病室に静かな声が響く。

「この度は誠に申し訳ありませんでした」

 枕投げをしている手を止め、声の方を向けば土下座をしている殺が居た。
 殺の隣に居る看護師は、何故に彼が土下座をしているのかとギョッとし、若干だが引き気味である。
 そうして看護師は思った。
 殺が来たとわかった瞬間に、いつもは騒がしい病室が打って変わり静かになったと。

 これは彼らに何かがあったのでは?
 少し気になるも、患者の話だ。
 無闇に立ち入ってはならない。
 そう思った直後だった。

「殺!!待ってたぞ!枕投げ参加せんか?!」

「殺様ー!!回復なされたのですね!良かった!」

 五月蝿い声が病室に響く。
 その様子に看護師はいつも通りかと何故だか少し落胆した。
 看護師は殺をベッドまで連れて行く。
 そうして殺に注意事項を言った。

「病室では、くれぐれも静かにしてくださいね」

 看護師はそれを言うと「御用がある時はナースコールで」と、手を軽く振って出て行った。

 殺が来て、五人の英雄が病室に揃う。
 殺はまた何か謝罪の言葉を言わなければ、反省しているという態度を見せなければと緊張している為に動きが若干だがぎこちない。
 だが皆はそんなことは如何でもいいと言わんばかりに殺のベッドへ駆け寄る。

「枕投げしようぜ!」

「サトリ兄さん……」

 殺は持たされた枕に目をやる。
 これをやれば許されるのか?いや、許されない。
 寧ろ看護師にも怒られるだろう。
 閻魔は変わらない日常を生きることを罰にした。
 だから殺は枕投げに参加するより怒らなければならない。

「皆さん!病室ではおとなしく!」

「殺は不参加だってー、俺らだけでやるか」

「僕もやらないぞ」

 三人は枕投げ不参加の殺と陽に文句を言う。
 だが殺の鋭い睨みに三人は文句を言うことをやめた。
 そうして勝手に三人で枕投げを始めようとする。
 殺はもはやこの三人に呆れていた。
 そうしてずっと気になっていたことを陽に訊く。

「陽……」

「何だ?」

 陽は首を傾げる。
 その仕草に殺は萌えながらも疑問に思ったことは訊ねる。

「何故、この病室はボロボロなのですか?」

 そうだ、この病室は所々にある大きな穴らしき箇所を木の板で釘を打って塞いでいる。
 それも急ごしらえの様に。
 その疑問を聞いた陽は何とも言えない、疲れたかの様な笑顔を浮かべ答えた。

「それは見てればわかる。僕にはもう止められない……」

「は?」

 するとMが「えーい!」と声をあげる。
 それは枕投げ開始の声だ。
 その開始の声を聞いた瞬間に、殺の後ろの壁が轟音を立て壊れる。
 殺は思わず後ろを向き、何があったんだと混乱する。
 後ろを向いた際に隣の病室の患者と目が合う。
 患者はどこか怯えている様に見えた。

 そりゃそうだ。
 いきなり後ろから何かが来れば驚く。
 そして隣の病室から何かが渡された。
 それは枕だった。
 殺は一人でなるほどと言った風に頭を悩ます。

 部屋がボロボロなのは、常人離れした馬鹿力で行われていた枕投げの所為だと。
 此処が閻魔殿なら建物が丈夫だから問題ないだろう。
 だがここはそこまで大きくない病院だ。
 閻魔殿の丈夫さとは比べ物にならない程に脆い。

 殺がこのままだと怒られてしまうと悩んでいたその時だった。
 扉の外からドスンと音が響いた。
 そうして扉をバンッと開ける音。
 まだナースコールは押してませんよと言いたくなる。

 扉を開けたのは丸っこい体のシルエットが特徴的な目が鋭い看護師……否、婦長だった。
 婦長はズカズカと病室に入って息を吸う。
 そうして目を見開いて口を開けた。

「枕投げはやめなさぁぁぁぁぁぁい!!!」

「うおっ!?」

 殺は思わず耳を塞ぐ。
 それほどまでに甲高い大きな声に恐怖を感じたのだ。

「貴方たちはいつもそう!!」

 そこからは婦長の独壇場だった。
 長い説教が始まってしまった。
 Mは言葉攻めと恍惚の表情を浮かべていたが、他二人は説教に嫌気がさしていた様だ。
 というか説教が嫌なら、やらなければ良いのにと殺は思う。
 その後に長かった説教が終わる。

「わかりましたか?!」

「はーい!」
「はーい!」
「はーい!」

 すると婦長はやれやれといった態度で病室から去ろうとする。

「あー、五月蝿かったです」

 バリっとお菓子の袋を開ける音が殺の方から響いた。
 すると婦長の目が光り、振り返って歩みの方向転換をした。
 豊満な体を揺らし、ずしずしと音を立てながら婦長は殺に近づいていく。
 そうして殺に顔を近づけて、大きな口を開けた。

「殺様!貴方は内臓を負傷してるでしょう!貴方は病院のご飯しか食べたらいけません!お菓子は没取です!」

「え……でも、もう治りましたよ」

 殺は出来るだけ怒られているという動揺を隠し、笑顔で答えた。
 すると婦長の顔は真顔になる。
 そうして殺の腹を少し押した。

「いっだぁぁぁぁぁぁぁぁ!!?」

 婦長はニヤリと笑う。

「この傷だらけの内臓にお菓子を流しこもうとしていたのですか?この内臓に?」

 婦長は再び殺の腹を押す。
 それに殺は悶絶した。

「痛い!痛い!わかりました!食べませんから!」

「それでよろしい」

 殺がゼェゼェと息を乱しているのを放って置いて婦長は病室から去る。
 殺は痛む腹を抑え、なかなか強烈な婦長だったなと呆然と考えた。

「殺まで怒られるとはなー」

「五月蝿いですよ。サトリ兄さん」

 殺は三人から笑いを送られる。
 それを殺は鬱陶しいと思い、三人に拳骨を下した。
 殺の拳骨を受けた三人は痛がりながらも嬉しそうにする。

「Mはともかく、サトリ兄さんや御影兄さんまで何を嬉しそうにしているのですか?」

 殺は二人の態度を気色悪いと思っていた。
 すると御影は泣き笑いを見せ、言葉を出す。

「お主が帰って来たのじゃ!嬉しくて仕方ないのじゃ!」

 殺は御影の涙を見て、自分はどれだけ心配をかけたのかとよくよく思い知らされる。
 すると陽も幸せそうに口を開いた。

「お前が戻ってきてくれて良かったよ。お前を連れ戻せなかったと後悔しなくて良かった」

 後悔はしてはいけない。
 それはいつかの夢の日に聞いた言葉。
 だが自分は如何だ?
 自分は己を大切にしてくれるかけがえのない仲間を裏切って……後悔してしまった。

 自分は最低なことをしただろう。
 だが皆はそれを優しく許し、許さない。
 それが己が罪。

「殺、悪いのはお前だけじゃない。お前の孤独に気づけなかった俺たちも悪い。罰なら俺たちも受ける」

 やめてくれ。
 優しい言葉にこれ以上は甘えたくないんだ。
 殺は下を向いて唇を噛む。
 だが甘えたいと思うと同時に湧き上がる怒りもあった。

『そうだ!貴方たちが気づかなかったのが悪いんだ!』

 そう思うと自分が嫌になる。
 これは自分が言わずにいた我儘だ。
 それも言っても周囲を呆れさせる我儘。
 殺はもう皆に迷惑をかけたくなかった。
 大切な仲間を困らせるのも嫌である。

 殺は自分たちも咎を背負うという仲間を見る。
 やはり優しいんだ。
 とても甘いんだ、それは罪を背負う殺には荷が重すぎるほどに。
 だからこそ愛おしい。
 自分と共に生きてくれると誓ってくれた仲間が。
 だからこそ殺は言う。

「私を一生裁いて、側に居てください」

 優しい世界は残酷だ。
 自分は優しい世界で裁かれる。
 甘く、甘く。
 嗚呼、この日常は幸せだ。

 幸せすぎて……死にたくなる。
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