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未練、希望
しおりを挟む「お兄ちゃん、お疲れ様ー」
「悟未(さとみ)、お兄ちゃん漫画が読みたい」
サトリは罪との戦いで傷を負い、現在入院中である。
サトリは一人の入院が暇なのか、娯楽を求めていた。
だが妹は漫画を持ってお見舞いに来るのを忘れていた。
妹はテレビでも見ていたらと勧めてくるが、テレビのカードを買う為に千円札を払うのも惜しい。
仕方なくベッドに寝そべる。
「お兄ちゃん!台風を消すことが出来るなんて立派だよ!」
「よせやい、褒めても何も出ないぜ」
「うん、知ってる」
サトリは悟未の言葉を聞いて小さな声で文句を言う。
それにしても妹は相変わらず堂々としているな。
それは悟未が美人だからか?
ぱっちり開いた二重の瞳、緑色のさらさらな髪の毛。
身長は170㎝と高身長だ。
最近では髪を伸ばしているらしい。
長い時間化粧をして、髪を後ろで結んだら彼女の身支度は完成だ。
最近はサトリとお揃いの服を着ている。
ペアルックとは仲が良く見えるが、実際は会ったら喧嘩だらけだ。
「これで良しっと」
悟未は花を花瓶にいけていた。
大中小の花がバランス良くいけられる。
サトリはやはり相変わらずセンスが良いと思った。
殺風景な病室に色とりどりの花が飾られる。
それだけで心は癒されるものだ。
すると悟未が興味津々に訊ねごとをしてくる。
「お兄ちゃんが台風消したんだよね?でもその怪我は人から受けてない?」
悟未の興味と心配。
そんなことは気にせずサトリは、あることを問う。
「お前、心残りはあるか?」
「好きなアニメの最終回を見ることかな?」
悟未は深く考えずに発言する。
だが、それでもサトリには充分な答えだった。
「そうか、ならその心残りを残して生きろ。死に際まで死にたくないと願いながら生き残れ」
「……今日のお兄ちゃん何か変」
「戦いに身を置くからこそ、この考えに至ったんだよ」
悟未はサトリを不思議なものを見る目で見つめる。
それを見てサトリは言葉を話す。
強制はしない、あくまでお前の好きなことをしろと。
普段の横暴な態度とは違い、悲しみを含んだ笑顔で言った。
その時だった。
コン、コン、コン。
部屋の扉をノックする音が聞こえる。
今は家族以外は面会謝絶。
だから来るのは看護師か医者しかいない。
悟未は急いで扉を開ける。
開けたら驚いた。
なんとそこには殺と陽、御影とMが立っていたのだから。
「お見舞いに来ました。サトリ兄さん、台風の件はお疲れ様でした」
「殺っち!御影兄さん!久しぶり!」
「久しぶりじゃな!」
三人は久しぶりの再会に喜びを噛み締め、嬉しさを露わにする。
だが悟未には疑問があった。
それは家族以外は面会謝絶なのに、何故に殺たちがお見舞いに来ているのかと。
「家族以外は面会謝絶だよ。殺っち」
すると殺は微笑む。
「私たちは平たく言えば家族ですから問題ないですよ」
そう言って刀を見せつける。
その瞬間に陽と御影とMの顔が渋い顔になったので、病院の職員を脅したのは見てとれた。
「あー、脅したんだ。まあ、良いや。うちのお兄ちゃんと何か話してく?」
「おい!よせ!絶対に面倒なことになる!」
だが殺は無情にも「そうですね。お見舞いの品も持って来たし、ゆるりと」と言った。
~~~~
「それでお見舞いの品とは?」
サトリが子供の姿からは考えられないほどの低音ボイスで訊ねる。
すると殺はお見舞い品を差し出す。
鉢植えに根付いたシクラメンを。
「殺、俺に死んでくれって言いたいのか?」
この間、悟未は笑いを喉まで堪えている。
殺はしくしくと嘘泣きしながらシクラメンを飾る。
「サトリ兄さんに喜んでもらおうと思ったのに……」
「お見舞いに持って来たらアウトな品だぜ」
そうサトリは言う。
すると殺は「それはさておき、もう一つ持って来ました」と述べる。
サトリは正直に言うと期待はしていないが、もう一つを見ることにした。
殺はカゴを漁る。
そして何かを手に取った。
「桃源郷で作られた万能薬ー!」
「それ病にしか効かないやつだろ」
「頭の病にも効きますよ」
「なら、お前に必要だな」
この会話を聞いて悟未はとうとう笑いが堪えられなくなる。
大きな声で、腹をおさえて笑う。
それを見たサトリは更に不機嫌になった。
「何を笑ってんだよ!!」
「いやー、昔は殺っちに優しかったのに!時の流れは残酷だなって!」
悟未はもはや涙目にまでなっている。
まったく、この妹は……。
サトリがそう思っている時だった。
「すいません、サトリ兄さん。力になれなくて。あの時、私たちが動けたら……サトリ兄さんにここまでの大怪我は……」
殺は拳を握りしめ、下を向く。
それは今回、戦うことが出来なかったからか。
悔しくてただその場に立ち尽くす。
するとサトリはベッドから起き上がり、殺の前まで歩く。
殺はサトリが罵倒したいのならと目を瞑る。
するとサトリは笑って殺の手を握った。
「お前たちがいたから俺は強く在れたんだ。お前たちが力を分け与えてくれたんだ。じゃなければ今、俺はこの世にいない。皆が助けてくれたんだぜ。守るものがあったからこそ未練が出来た。その未練は俺を生かすには充分だ」
「サトリ兄さん……!」
殺は役立たずと言われることを覚悟していた分、泣かずにはいられなかった。
頬に伝う雫を袖で拭う。
すると扉を激しく叩く音が聞こえてきた。
悟未は扉を開ける。
するとそこには閻魔が立っていた。
「やあ!サトリくん!今回の敵の撃破は見事だったよ!君が守ったものは大きい。誇りに思うんだね!」
病室に入ってくるなりマシンガントークを繰り広げる閻魔。
だが殺が閻魔を言葉で制す。
「貴方、記者会見があるでしょう」
「そうだった!……言わないとね、世界が危機に瀕していると。民が残りの生を謳歌出来るように警告を促さないといけないんだ」
「知ったら絶望でしょうね」
殺は空っぽの感情で言霊を放つ。
絶望なんて知りたくなかった。
だが世の中は絶望まみれ、世界中を絶望が覆う。
そんな中で、希望を見出せる者はいるのだろうか。
希望の存在でさえ絶望を覚えたのに……。
「世界が危機に瀕しているってどういうこと?」
悟未は何を話しているのか理解出来ていない様子だ。
だが殺は空虚な瞳で悟未に静かに囁く。
「もうすぐわかりますよ」
「……?」
悟未は相変わらずキョトンとしている。
すると閻魔は記者会見があるからと、お見舞い品のお菓子だけ置いて去っていった。
暗い空気が流れ込んでくる。
それを変えたのはサトリだった。
「皆でお菓子を食べようぜ!」
彼は一人で食べる気はないという。
やはりサトリは生粋のお兄さんだ。
御影とMはお菓子を食べられることに喜んでいる。
陽は、遠慮が邪魔しているようだ。
だがサトリにお菓子を口に突っ込まれ、結局は食べることになった。
緩やかな時間が流れる。
「お兄ちゃん、良い仲間を持ったね!」
「悪い仲間だぜ」
悟未は笑う。
お兄ちゃんの心は読んだんだ!
そう言いながら笑う。
「ほう、俺の心が?ならお前は一人前だな。一人前なお前は俺の仕事が出来る筈だ。ファイト!」
「お兄ちゃんの仕事はお兄ちゃんにしか出来ないでしょ?ちょっと私はこの後に用事があるから帰るね」
「そうか、いってらー」
いってきます。
彼女はそう言って病室を後にした。
陽が当たらない、少し暗い廊下。
カツ、カツ。
ブーツのヒールの音を響かせながら歩く。
少女は口を隠し笑う。
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