地獄の日常は悲劇か喜劇か?〜誰も悪くない、だけど私たちは争いあう。それが運命だから!〜

紅芋

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始まりの物語

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第一章 一話


  時は来た
  暴れよう
  見せ付けよう
  我等が力を
  解放しよう
  頭を垂れよ
  この世界は、地獄は我等が手中に……。

~~~~

   ……変な夢を見た。ただただずっと気味の悪い声が聞こえるだけで訳のわからない夢だ。
  目が覚めた今でも残響がして、頭の中に五月蝿く響いてくる様な冷たく気味の悪い声。
   少女は起き立ちの自分を見て初めて、悪夢の所為で汗に濡れていると気づく。

「少し甘いものでも食べてから風呂へ入りますか」

   少女は甘いものが好きだった。 だからこそ嫌な夢を、払拭する為に糖分を先に取ることに決めた。
  少女は手元にあるチョコレート摘んで口へ運ぶ。
 それでも勿論だが汗は消えるわけではないので、少女は体のベタつきに気持ち悪さを感じながら、さっさと風呂へ入る用意をした。

  昨日洗濯していた服を脱衣所の棚に置いて、少女は風呂に入る。
 洗濯に使った柔軟剤は花の匂いで、一般的にはおそらく良い匂いと言えるだろう。
  匂いに気を配るのも敬愛する上司、閻魔大王の為か。

  少女は体の汗をお湯で流して、湯船に肩まで浸かりながら一人、好きな上司のことを考える。

   この世界、『地獄』でもっとも好きな人。
    閻魔大王。
   閻魔は優しい。
 それに少女は閻魔に救われている。
  ならばこの命を閻魔大王の為に使いたいと思っているが、優しい彼はきっと『命を粗末にするな』などと言うだろう。
  彼はなんと優しいのだろうか。
  そう一人で考えた。

(あああ!閻魔大王!私は貴方の為ならば何でも出来るのですって!どうか私を手足にお使いください!貴方の邪魔をする者は一匹たりとも許しません!殺しますので!だから貴方は笑顔のままで!貴方の笑顔が私の幸せ!)

 すっかり盲目的な崇拝状態になり、湯船にブクブクと泡を立てながら沈んでいく。
 そして湯船から顔を出した少女は幸せそうに湯船に浮かべたアヒルの玩具を指でつつく。
 嗚呼、かなり長く入ってしまったな。
 実際に少女が風呂へ入ってから、ゆうに三十分は経っている。
 これだと仕事に間に合わない、ペース配分を間違えてしまった。
 そう思っていた時だった。

「殺ちゃぁぁぁぁぁぁん!!」

 ドタバタと音が鳴ったかと思えば、敬愛する上司の声が聞こえた。
 少女……もとい殺はまさかと思いながら、風呂場の扉の方を振り向く。
 するとその瞬間に風呂場の扉が勢いよく開いて、閻魔大王が姿を見せる。

「閻魔大王!?ちょっと!今は風呂に入っていて!というか何故風呂場に入ったのですか?!おっちょこちょいも大概にしてください!」

 殺は敬愛どころか崇拝に値する上司に自らの裸を見せれば、彼の目を腐らせる自信があった。
 だから必死に湯船に浸かる。入浴剤入れていて良かったと殺が先ほどの自分に感謝している中で、閻魔はそんなこと気にせずに叫んだ。

「今、君は男だから良いじゃないか!それより亡者が逃げ出したんだ!」
「はぁ!?」

 殺は混乱する。
 亡者が逃げ出しただと。有り得ない。厳重に管理され、刑罰を科せられていて動けない筈だ。
 殺は何が起こったのか考えていたが、長い時間湯船に浸かっていた為にのぼせてしまい、思考力が働かなくなる。

「取り敢えず今は緊急事態だから急がないと!」

 殺は閻魔に湯船から引っ張り出される。あまりの勢いに湯船からお湯が大量に溢れた。
 殺はまだ知らなかった、これから先の外の世界で見る液体がお湯ではなく真っ赤な生臭いものということを……。


~~~~

  殺は閻魔の言った緊急事態の為に自室から飛び出していった。
 殺が今いる閻魔殿は、亡者の天国逝きか地獄逝きかを判断する裁判を行う場所である。
 殺は閻魔と共に歩いていく。

 長い閻魔殿の廊下を歩く殺は少女とは思えない格好をしていて、周りからは変人として知られていた。
 短い紅い髪に紅く鋭い目、そして男物の服。
 殺はいわゆる男装をしているのだ。
 因みに身長は妖術で誤魔化している。

(はぁ……もっと時間をかけて男装するつもりでしたのに……)

 殺は溜め息を吐く。
 すると閻魔は悲しそうな顔で殺を見つめ、言葉をかけた。

「殺ちゃん……、さっきは男とか言ってごめんね。男装は嫌じゃない?ごめんね、未だにこのままで……。その名前も……」

 閻魔は下を向く。
 そんな閻魔に「前を向かなければ壁にぶつかりますよ」と殺は言った。
 だがそれ以外を殺は呟いた。

「私はこのままなのでしょうね……私は人を殺めるから……だから罰を……」

 殺は自分が何故男装をしているかを自ら話す気が無いのであまり理由は知られていない。


~~~~

 裁判所へつけば閻魔殿で働く皆が慌てふためいていた。
 それを見て殺は漸く、ただごとではない何かが起こっているとわかった。

「閻魔大王、今の地獄の様子は?」
「流石殺ちゃん。話が早くて助かるよ」

  閻魔が浄玻璃鏡を使い、現在の地獄を映し出す。
 殺は目を疑った。
  何故なら地獄の様子を映した鏡は亡者による襲撃を受けている地獄の惨状を現していたのだ。

「嘘でしょう……」

   逃げ惑う人々に悲鳴、これが現実だなんて信じたくない。

「残念ながら嘘じゃないんだ……。君には任務として逃げ遅れた人々を避難所まで送り届けてほしいんだ。そして厄介な亡者を殺さずに捕まえてきてほし……「わかりました」
「相変わらず即答だね!そして無論、避難者優先で!でも無理はしないでね!怪我しないようにね!絆創膏いる?」
「私のことはいいので寧ろ怪我人の為に包帯をください」

  殺は閻魔の持つ救急箱の中から包帯を奪い取り部屋から飛び出そうとする。だが閻魔はそんな殺に待ったをかけた。

「ちょっと待ったーー!殺ちゃん一人じゃ大変でしょ!もう一人特別に派遣したから好きに使ってね!」
「そんな者は要りません」

 殺は閻魔の制止を振り切ろうとする。
 それほど早く現場へ駆けつけて救助をしたいのだ。
 だが直ぐさま閻魔が派遣したという者が姿を現す。

「待たせたな。僕が派遣されてきた死神の陽だ。宜しく。まぁ、精々足を引っ張らないようにしてくれ」

  上から下まで真っ黒な洋服を着た眼鏡の男が、上から目線で名乗る。
 この緊急の時に人を待たせておいたうえでの暴言、これから任務を共に果たしに行く相手によく言えたものだ。
 殺はこいつに如何接すれば良いのかと悩む。

「何をしている?早く行くぞ愚図」

  あまりの横暴な態度に殺はこいつだけは絶対に何があっても助けないと固く誓った。

  外に出れば既に血の臭いがする。
 殺はその事実に頭を悩ます。
 普段の街は商人や買い物客で賑わう、人通りの多い商店街のような場所だ。

 それが今は如何したことか、往来の石畳が剥がれ血に染まり、木造の建物は骨組みが剥き出しになっていたり、中には燃えているものもある。
 半壊などまだ優しい方だ。
 ほとんどの建物が全壊している。
 殺が贔屓にしていた甘味屋まで壊れている。

「甘味屋さんがぁぁぁぁぁぁ!!」
「どうした?早速怖気付いたか?」 

  五月蝿い。
 そう言い返そうとしたときであった。

「殺ー!!」

  その声は朝、悪夢で聞いた声とは違って何処かほっとする聞きなれた声だった。

「御影兄さん!」

  御影。
 実の兄ではないが兄みたいな存在。
 九尾の狐だが人の様な姿をしている。
 とても強く、普段から稽古をつけてもらっているが殺は未だに勝った例しが無い。
   黄金色の尾や髪、瞳が美しく殺の憧れだ。

「なんだこの獣……「兄さんどうしたんですか?」

  陽の言葉を殺は遮る。

「一時間前に公園で避難者をサトリに預けたのじゃが、まだ避難所にたどり着いてないらしいのじゃ!殺、お主は何か知らんか!?」

  殺にとってもう一人の兄貴分の現状が報告される。
  その兄は強い。それを知っている殺はその事実に驚愕を隠せないでいた。

「サトリ兄さんが!?すみません、私もわかりません。……すぐに探してきます。こちらもちょうど避難者を救助する任務を任されています。サトリ兄さんの下に避難者が居るのなら兄さんの現状も確認出来ますし、避難者も助けられます。一石二鳥でしょう?」
「それはそうじゃが……良いのか?」
「はい。私より御影兄さんが自由に動けた方が多くの避難者を救助出来るでしょう。この方が効率が良いです」
「そうじゃな……。では任せたぞ、殺!」
「はっ!行って参ります!」



 亡者とは人間の死後の姿だ。
 見た目や大きさは普通の人間と変わりない、服は皆が白装束と決まっている。
 地獄に堕ちた亡者は罪を重ねてきた罪人であり、今回の亡者による街の襲撃は地獄に復讐したくて起こしたのだろう。
 だが殺や御影たちにしてみれば亡者は弱い。
 しかしあちらはそんなこと関係なしに襲いかかってくる。

「はぁ……かなりの難題ですね」
「何がだ?」
「貴方には関係のない話です」

 殺は陽からそっぽ向く。
 だが、そんなことは気にしない陽は殺にあることを訊ねた。

「お前、名は?朝に訊いてなかった。行動を共にする者として訊いておかねば」

 如何やら名前が訊きたかった様だ。
 殺は名前くらいなら答えてやっても良いと思い名乗る。

「私は殺、人を殺めると書いて殺」

 絶対に引かれた。
 そう少し心を傷ませて、陽の方を見る。
 だが彼は目を輝かせて興奮していた。

「殺める……良い名じゃないか!」
「……は?」
「だって殺すことは人生を現す!僕たちは何かを殺しながら生きているんだ!お前は生きている名前なんだ!」
「は……はぁ」

 星が目の中にあるのではないかと錯覚してしまうほど輝いていた陽。
 昔、この名を陽と同じ理由で良い名前だと言ってくれた者が居る。
 その者とは今でも友人だ。
 陽も名前を良いものとしてくれた、この汚れた名前を。
 だが何故だろうか、旧くの友には抱かなかった高揚感が包み込む。心が踊る。
 
 だが、殺はそんな高揚感を何かの勘違いと振り切り注意点を陽に説明する。

「亡者は絶対に殺してはなりませんよ」
「わかってる」
「亡者は見た目や大きさは普通の人間と一緒です。つまり人型の妖と間違える可能性もあります」
「だが亡者は死装束だろ?」
「服を変えていたら如何するのです?それに彼方は弱い。のに襲いかかってくる」
「面倒だな」
「はい」

 そうだ、面倒臭いのである。
  そんな敵を殺さずに捕まえるというのはかなり厄介なことだ。
 それならいっそ一人が良かった。
 それが声に出ていたのだろう。
 すかさず陽が言葉を挟む。

「そう言うな……。死神の仕事は六文銭を受け取り、亡者を地獄に運ぶだけで楽だから弱いと思っているだろうが……実際の強さは上級の妖と同等だぞ」

「へー」

 殺のあっさりした返事に陽はギャーギャー騒ぎ出す。
 良い情報を与え、一人よりも心強くしただろう?!
 そう怒って訊ねる。
 だが殺は真顔で言葉を返した。

「死神は力は強くても戦い慣れしていないので、実戦では負傷したり、命を落としたりすることがあるから嫌なのです」

「そ……そうか」

 陽は、はっきり嫌と言われたことで少し落ち込む。

 仲間が傷つくところを見たくないんだ。
 そう殺は思いながら公園までの道を進む。すると光る丸い物が落ちていた。

  不審に思いながら慎重に拾うと紙になる。
 謎だ。
 少し道草をしたが、再び公園へ向かう。
 ふと辺りを見るとまだ比較的に壊れていない建物が少し並んでいた。
 その店のうち、一つの和服屋に入ってみる。
 中に居た客や店員は御影などの獄卒たちが救助済みかもしれないが一応確認だ。

 けれどもやはり店内には誰も居ない。
 荒れはてた店の壁には何かの大きな爪痕があった。
 それを見て不意にゾッとする。
 この先に何か亡者とは違った別の、得体の知れない何かが居るのではないかと。
 サトリが既にもう……。

  考えてはいけない。この先は考えてはいけない。

「おい!赤髪!この光る物はなんだ?」
「紅髪ってなんだ!!さっき名前言ったでしょう?!私は殺だ!って、ん?」

  陽の発言により殺は現実に引き戻される。
  陽の指差すところを見ると、そこにはさっきの光る物があった。
 拾い上げるとまた只の紙になるだけだと思っていたが違った。
  それは紙になった後さっき拾った紙と独りでに合体したのだ。
  合体した紙を見ると何かの呪符のように見える。

  これは今回の亡者の脱走と何か関係があるのか?何にせよ少しの可能性も見逃してはいけない状況だ。
 殺は呪符の欠片を探すことも視野に入れる。
 だが広大な街でこんな小さな光を探し出すことが出来るのかと不安にもなってしまうものだ。

  暫くしてから外に出た。
  すると人の形をした黒い小さな影がトコトコと音をたてながら店の前を横切っていった。
 亡者の一種だろうと殺は追おうとするが黒い影が落としていった物に目がいく。
 それは呪符の欠片だった。
 こんな都合の良いことがあって良いのか?それにあの黒い影は何なんだ?殺は考える。

「この呪符は一体?」

  少し不安そうに陽は訊ねる。
 だがそんなこと知っている訳がない。
 更なる情報を取り入れる為に街を探索する。
 既に犠牲者が沢山出ており、もっと早く起きていればと後悔した。

  それにしても人間とはよくわからない生き物だ。
 罪を重ねたくないのに重ねていく。
 重ねても良いことなどないのに重ねていく。
 そして奈落に堕ちて逝く……。
 そんな人間の不可思議さに興味が湧いて私は日頃から人間の感情などを研究していた。

  そんなことを考えて今の凄惨な現実から目をそらそうとするが、眼前に転がるぐちゃぐちゃの死体が意識を街の惨状へと引き戻させる。
 ごめんなさい私がもっと早く来ていれば、と自責の念に駆られた。

 引き続き街での避難者の救助と情報収集を行う。
 これだけ被害が出たならばさぞ疫病も流行るだろう。
 復興作業は如何しようと呆然と考える。

  そんな時だった。
 死体が光っていた。
 もしかしてと原形をとどめていない死体に手を合わせてから腹部であろう場所を探る。
  するとやはり中から欠片が出てきた。
 集めてきた欠片と近づけると断面同士でぴったり合わさる。
  これが役に立つかどうかはわからない。

 だが何か意味があるとするならば、この事態を解決する手立てを得られるのなら何でも試さなければならない。

  ズギャァアアアアアア!

「「何だ!?」」

  突然、辺りに轟音が響く。
  そしてほどなくして悲鳴が聞こえてくる。

「うわあああああ!」

  この声も聞き慣れている。
 昔馴染みのサトリの声だ。
 けれども今はそんなこと考えている場合じゃない。

「サトリ兄さん!」
「あ!殺ーー!!」

  音の方向を見るとそこには今までとは違い人間離れした姿と大きさの亡者がサトリの前に立ちはだかっていた。
 目が無数にあり、鮮やかな青い色をした、体長が二十メートルもあろう亡者のような何か。

「これは……いったい?!」

  殺はその亡者の悍ましき姿に驚く。
  陽はもはや絶句していた。

「こいつだけはなんとかしないといけないと思って応戦してるんだけど、斬っても再生されて……!」

  ズシャリと音が鳴る。
  殺は亡者ようなものの攻撃に直ぐさま気づき避ける。
  その瞬間に先ほどまで殺たちがいた地面が抉れて土煙が舞った。
  如何やらあの敵は巨大な拳で殴りつけてきたみたいだ。
  陽も間一髪で避けられた様だ。
  殺は即座に攻撃の構えを取るが、サトリがそれを言葉で制す。

「殺!それは只の亡者じゃない!何かと混ざってる!」
「なんですって!?」

  サトリが避難者を庇いながら亡者のような何かの攻撃を受け流しつつ時折だが刀で斬りつける。
  その攻撃に亡者は体勢を崩すが、すぐに立ち直ってしまった。

  この亡者には通常の攻撃は一切効かない。
  なら如何すればと殺は必死に考える。
 呪符のことが過ぎるが如何すれば良いかがわからない。陽はその間、攻撃を避けては文句みたいなことを叫んでいる。

「殺ー!これ使える?!」

  サトリの手からポーンと投げられた物を掴むと未完成の呪符が光った。
 どうやら投げられたのは呪符の欠片だった様でそして漸く呪符が完成した。
 だがこれを如何使えばいいのかわからない。

「それを取り敢えずあいつに貼れ!赤髪!」

  陽が叫んだその瞬間だった。
 鞘から抜いていた殺の刀に呪符が当たってしまったのだ。
 これはあれだ破れた、終わった。 そう思った。
  だがその考えを裏切ることが起こった。刀に呪符が張り付いたのだ。
 呪符が貼りついた刀が燃え上がる。
 その様に殺は驚いた。

「もういい!赤髪!それであいつをぶった斬れ!」
「私は……紅髪じゃない!!!」

  陽が叫び、殺も叫ぶ。
 殺は地面を踏みしめて一飛びで敵の頭上に現れ、真っ直ぐに刀を構え謎の亡者を燃え盛る刀で思いっ切り叩き斬る。
  すると混合していた亡者が光り二つに分かれた。
 そして、そのおかげで亡者と混ざっていたものの正体が明らかになった。

  妖。

  地獄の獄卒で拷問官をしていた妖だった。
 妖は人の形をとっていて種族によって細かく見た目は変わる。
  何ということだ……よりによって亡者と混ざって地獄を襲撃していたのが地獄の関係者だなんて。
 こんなことが出来るのは裁判を行う王達の内の誰かくらいだろう。
 しかしいったい誰が何の為にこんなことを……。

 
  ひとまずサトリに亡者を拘束してもらい、殺は妖に話を聞くことにした。
 だが、どうやら妖は自分が亡者と混ぜられていた記憶がないらしい。
 サトリいわく記憶にも細工をされているようだ。

 亡者は叫ぶ。

「ちきしょう!後一歩で皆殺しに出来たのに!」

 そんな叫びに殺は若干怒りを示しながらも無視をすることにした。

「皆ー!大丈夫か!?」
「「御影(兄さん)」」
「心配になって来てみたのじゃが……。これは如何いうことじゃ?その妖はいったい?」
「御影兄さん。今回の事件はただの亡者の脱走ではないです!
妖と亡者が混ざった者がいて、そいつは力が増強されているうえに此方の攻撃が効かず手に負えませんでした。ですが、謎の呪符と謎の影が現れなんとか妖と亡者を分離することが出来たのですが……取り敢えず一言で説明出来ませんので詳しい話は一旦避難所に戻ってから」

「そうか……。それと紹介しなければいけない人物が出来たぞ」

「どうもー!私は罵られるのが好きな普通の女子、葛葉でーす。新しく救助メンバーに加わりましたー!クズとお呼びくださいませ!」

 殺は亀甲縛りが施されていて、髪と瞳や服装が桃色の女の前で思ったことを口にする。
 これが殺にとって最大の不幸となった。

「気持ち悪い女だな……」

「私が気持ち悪い……?私罵られてる!嬉しい!
もっと罵ってくださいませ!!」

  ……面倒臭いのに懐かれた。
  クズは流石に抵抗があるのでMと呼ぶことにする。
 こうやって人数が増えると昔馴染みが居ても落ち着かない。
  この混乱はいつ終息するのだろうか?
  殺は遂に頭を抱えた。



 ~~~~


 殺が外で忙しく働いている頃、閻魔は自室で一人の男と向かい合っていた。
 閻魔が憎しみの目を送る相手は、彼と同じ立場の十王の一人、平等王であった。

「閻魔大王、この事件は貴方の管轄内での事件でしょ~」
「……平等王さん茶化しに来たなら帰ってください。じゃないと殺しますよ」
「茶化してないよ~!それにしても随分派手なことをしちゃったね~」
「……平等王さん、それ以上喋ると本当に殺しますよ」
「ははは!そう怒りなさんな!じゃーね、罪人さん」




 閻魔は下を向き、呟く。

「私は……私は……こんなことを招く為にやったんじゃないんだ。誰か、タスケテ」

 その声は涙声にも聞こえた。
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