地獄の日常は悲劇か喜劇か?〜誰も悪くない、だけど私たちは争いあう。それが運命だから!〜

紅芋

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不穏な空気

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 第一章 二話


「そんなことがあったのか……」

 御影は全てを知り項垂れた。

 みなでサトリが救助した避難者を閻魔殿の中にある避難所に連れていった後、現在、把握していることを殺は皆に話した。
 御影には別で説明をしたが。

「御影兄さん……理解出来ましたか?」
「うむ!」
「それなら良かった……」
 
 彼はだいたい話は理解してくれるが、要点を理解出来なかったり、忘れたりしてしまうのだ。
 御影への長かった説明に殺は溜め息を吐く。
 亡者と妖の混合、謎の影、謎の呪符。今、わかりうる全てのことを説明した殺は酷く疲れた。

 亡者と妖が混合した、そのままの名前だが混合者を分離し身柄を拘束した後も、亡者の攻撃を掻い潜りそのうち数名を重要参考人として捕らえたりしながら帰って来たのでもうくたくただ。

 ようやく一段落ついて暫し休憩をとっていると殺たちの居る休憩所兼看護スペースに両腕いっぱいに包帯やガーゼ、消毒液を抱えた閻魔が入って来た。

「閻魔大王」
「ああ、殺ちゃん!」
「ただいま戻りました。如何されたのですか?こんなところで」
「皆の役に立ちたいなぁと思ってね!……それにちゃんと償わないと……」
「ん?何か言いましたか?」
「あ……、ごめん……気にしないで」

 流石は大王だ。民の為に自ら現場に赴くなんて……尊い存在だ。
 殺は一人、妄想の世界に浸る。

「ひとまずご苦労様。申し訳ないけどまだ遭難者がいると思うから救助に行ってくれないかい?病院とかにまだ動けない人がいるかもしれないし……」
「了解しました」
「早っ!!」

 殺の早い受け答えにサトリは驚きの声をあげる。
 その反面、御影は何も動じることもなくいつものことの様に笑い飛ばした。

「はっはー!相変わらず閻魔の言うことは聞くのじゃな殺!」
「殺ー、俺の言うことも聞いてよ!」
「はいはい」
「賑やかですねー!仲が宜しくて羨ましいですわ!あーん殺様!私のことも構ってください!」
「黙れM」
「もっと罵ってくださいませー!殺様~!」
「鬱陶しい!」

 陽は会話に参加しようとしたが交ざれなかった。彼は一人、立ち尽くす。



 ……いつもそうだ。僕は一人。


(僕は要るの?僕は居るの?)

 一人一人一人一人一人一人一人。
 いつも一人。

 陽は泣きそうになる。
 苦しい、死にたい。
 何で僕は一人なんだと彼は己を呪う。
 僕だけが一人、それが当たり前。
 そう彼は考えると自嘲の笑みをこぼした。

「陽?如何しました?様子がおかしいですよ」

 殺が陽に話しかける。殺は陽のことを生意気だと思って助けないと誓っていたが、陽も救助に必要な人員であるし、仕事だから仕方ない、守らなければならない戦力的存在だ。
 殺は陽の様子を窺う。
 そんな陽は殺に声をかけられて静かに「大丈夫だ」と言った。

~~~~

 病院までの道を歩く。
 只々長い道を足早に静かに歩く。
 速く行かなければその分死者が増える、それを皆が理解しているから無言が続いた。

「長い戦いになりそうだ……」

 ふと陽は言葉を放つ。

「陽、不謹慎なことを言わないでください。反吐(へど)が出る」
「……すまない」

 陽は何か心の中で亀裂が大きく入ったのに気付いたが気にしなかった。
 その亀裂がやがて更に大きくなり手に負えなくなることも知らずに……。

「……でも間違いじゃないから気にしないでください」

 少し陽の異変に気付いた殺がすかさずフォローを入れる。
 だが殺の言葉は陽の耳には届いていなかった。
 そして、そのことに殺は気づかないでいた。

「着いたぞ!」

 そこは研究所が併設されている地獄でも有名な場所だった。
 御影が先陣をきる。
 彼が前を歩くだけで安心が出来る。
 殺は心からそう思ってしまう。
 数少ない旧知の仲で信頼できる者。

 それだけで不安が取り除かれるのだ。
 只、前を歩く彼は不安じゃないだろうかと少し様子を窺う。だが心配は要らなかったようだ。

 逆に、「心配するな!」とドヤ顔で言われる。
 頭を撫でる大きな手に敬愛の念が湧く。
 早く兄さんに追いつきたい。
 その思いが脳裏に過っている最中だった。

「きゃあああああ!誰か!誰か!」

 殺たちはいきなり聞こえてきた悲鳴の方向を向いた。
 するとそこには皮膚の腐った混合者に襲われている遭難者が居た。

「まずい!混合者だ!早く助けに行かないと!」
「待ってください!サトリ兄さん!今はまだ呪符がありません!」
「じゃあどうすれ「一般人だけ助ければいいんですよ!」

「御影兄さん!」
「了解した!」

 御影はさっと刀を抜く。
 瞬間に見るも鮮やかな斬撃を混合者の腹に与えた。
 その後直ぐに体勢を崩した混合者の足を殺が斬りその勢いで一般人を抱えあげ混合者から距離をとる。
 まさに一瞬のことだった。
 一瞬でこの二人は混合者を一時的に倒したのだ。

「ヤバイですよ~!再生が始まってます~!」

 Mの言葉に皆が混合者を見る。
 確かに腹に与えた傷が塞がり始め、足が新しく生えようとしていた。

「よし!皆、逃げるぞ!亡者が!無視するがいい!……やっぱ捕まえるのじゃ!」
「考えは一つにまとめてから言えよな!!本当に俺イラッとくるからな!」

 混合者を撒いた後に亡者が通路の影からゆらりと蠢(うごめ)きながら姿を現す。
 遭難者は顔が真っ青で恐怖に慄いている。そんな状況でも亡者を殺してはいけない。

 この場合の殺すとは只死ぬだけではなく、魂が消滅し輪廻転生の輪に乗れなくなることだ。
 それだけは避けないといけない。
 殺たちの使っている刀は特別製で、煮ても焼いても斬っても死なない亡者でさえも殺してしまう。気をつけないといけない。

 勝手に殺すと殺たちにも何かしらの処罰が下る。
 だからこそ閻魔は亡者を捕まえろと言った。
 命がかかっているときに何を呑気なことをと思うだろうが規則だから仕方ない。

「斬ってはいけないなら飛ばしちまえばいいんじゃない?」
「サトリ様、凄い発想!なら私が、え~い!」

 Mは突然、空を蹴る。
 亡者が風圧で吹き飛ぶ。
 だが一人、その凄まじい風圧を受けてもなお地に足をつけ吹き飛ばない亡者がいた。
 この亡者は危険だと脳が察知する。
 それは皆も同じだった様だ。

「ねぇ?そこの紅い髪の貴方」
「……!」

 無意識に身構える。
 見た目は子供の亡者だが憎しみや罪が他の亡者と桁違いだ。
 それはこの亡者から滲み出る覇気でわかる。
 普通の亡者は違和感程度だが、この少女は亡者特有の霊気が歪んでいるみたいだ。

「探し物をしているんだけど一緒に手伝ってくれないかしら?」

 争いを避けたい以上、絶対に断れないという状況に少女は追い込む。
 この子供は策士だ。
 純粋そうに見えるがやはり罪人なのだ。

「お母さんがくれたクッキーなんだけど、ここの変な亡者に隠されちゃって……。お願い一緒に探して!」

 少女のあどけないお願いに少女の憎しみの大きさを忘れてしまいそうになった。
 己の憎悪を隠すほどの演技力。
 それに圧倒されそうになる。

「……探してはやるが、少しでも変な行動をしてみろ。其の時は殺す」

 実際に殺すことは勿論ない。
 それでも脅しをきかせてみるが、少女はその言葉に怖気付くこともなく、やったーと喜んだ。

「じゃあ行きましょう」

 少女について行く。
 少女は病院の間取りに詳しく道案内をしてくれた。
 少女曰く地図があるからわかるらしい。
 ナースステーションに着くと血塗られた呪符の欠片があった。
 次に来たのは精神科だ。すると少女は楽しそうに語る。

「私はここに入院していたの」

 その発言に皆が動揺する。
 この精神科は極刑レベルの亡者を研究する施設でもあった。
 極刑レベルとは大量殺人を犯した者がなるものだ。
 この少女は何者なんだ……?

「ん?そこの獣!怪我をしているぞ」
「儂は獣じゃない!御影という!糞眼鏡」
「糞眼鏡じゃない!陽だ!……まぁいい。ちょっと見せてみろ」

 陽は御影の腕をとり治療を施す。
 鮮やかな手つきに魅入ってしまいそうだ。

「これでいいだろう」
「……まぁ礼は言うぞ」
「そうか、そこの目玉妖怪!お前も街の襲撃の件で疲れてるだろう。おぶってやるから来い」
「これでも歳はとってるんだけど……」

 サトリは己が歳上であり、自分の方が偉いんだと示そうとする。
 だが陽はそんなことは関係ないという様に如何でもよさげにサトリを呼ぶ。

「いいから来い。外見小学生」

 その失礼な物言いとあからさまな子供扱いにサトリは少しむっとするが、すぐさまいつもの緩い態度に戻った。

「ムカつくなぁ~!まぁいっか!」

 ……気遣いが凄い。
 あんなに冷たく見えたのに今では癒しにも思える。
 一言で言えば良いお嫁さんになりそうだ。
 いや、寧ろお嫁さんに来てほしい。
 生意気だがそこが唆るものだ。
 それに可愛くて意外と優しいことも要因だ。

「……何を見ている」
「なっ!べっ別に何も見てませんが」

 己の考えている馬鹿らしいことがバレたら大変だと思い、焦った殺は白々しい態度をとる。
 初めての感情、恋みたいなもの、そのことが今バレたら恥ずかしい。

「……そうか。何も見てないか。何も……」
「ん?」

 殺は陽がどういう意味でそう言ったのかわからなかった。

「何でもない。取り敢えずお前に怪我はなさそうだな。……安心した」
「最後何か言いました?」
「何でもない」

 陽のおかしな態度と最後の言葉が気になったが、今はそれどころではないと殺は判断した。
 混合者が迫って来ている。
 それに気づいたのは殺だけではなかった様だ。

「変な考え事がよぎってくるぜ!なんか来る!!」

 サトリが叫んだ瞬間に混合者が壁を突き破ってきた。
 先ほど殺たちを取り逃がし苛ついていた混合者は殺たちに気づくと猛スピードで近づき、至近距離で拳を振り上げる。

「急ぎますわよー!逃げましょう!」

 だが遭難者は腰が抜けて倒れこんでしまった。
 御影が遭難者を引きずり、その間Mと殺で混合者の足止めをする。

 ある程度混合者の動きを止めて、皆の下(もと)に戻る。
 バラバラに行動したらいけないと判断したからだ。

 酷い目にあった。朝から悪いことだらけだ。
 変な夢は見るし、混合者やらなんやらで街はパニックになっている。

 それに……朝から甘味をとっていない。
 これは由々しき事態だ。
 そう思っていると……。

「なんだ?喉が渇いているのか?」
「渇く……ある意味そうですね」

 殺は甘味に飢え、疲れはてた顔で答える。
 殺は甘味がないと一日の集中力が少し下がるのだ。

「……要らなくなったからやるよ」
「えっ?水?でもそれだと貴方が……」
「戦力が減ったら困るからな。だからやる」

 ……案外良い奴だな。
 そう考え水を飲んだは良かった。だが……。

「ブッフォォォォォ!」
「どうした!?噎せたのか!?」
「噎せるどころじゃないですよ!なんですかこれは!?」
「水だが?」
「これが水!?こんな辛い水は飲んだことありませんよ!これが普通って頭で天変地異でも起きたのですか!?糞眼鏡!!」

 水は辛かった。尋常じゃない程に……。

「辛党なら先に言え!糞眼鏡!というか何を入れたのですか?!」
「唐辛子の粉末だ。それにしても水を分けたのに何だ其の言い様は!返せ!」
「はーい!返しますよ、こんな物」
「お前等!落ち着け!!ここで体力を使うな!」
「深呼吸じゃぞ!」
「ウルセェ!獣風情が!」
「誰が獣じゃあ!糞眼鏡!」
「お前までのってどうする!?」
「そうですよ!それと罵るなら私を罵ってくださりませー!」
「「「「うるさい!!」」」」
「ああん!」


 今日はなんという厄日なのか……。
 夢だと言ってほしい。

 ……普通の水だと思っていたのに……。

 殺たちは、ひたすら呪符と少女のクッキーの探索を続ける。
 すると、「何あれ!?」とサトリが声を上げる。
 サトリの指差すその先には街で見た黒い影が在(あ)ったのだ。

「追いますよ!」
「あっ!待て殺!危険じゃ……行ってしもうた……」



~~~~


 病院の奥の奥、入り交じった道。

「行き止まりだ。さぁ、お前は一体何だ?」

 影はこちらを窺っている様に見えた。

「……ミカタ」
「は?」

 影は話を続ける。

「コレをアげル」

 其の手には呪符の欠片が握られていた。
 殺は影から手渡される呪符の欠片を慎重に掴む。

「これは?呪符の欠片?」

 すると影は薄くなって消えていった。

「おい!待て!」

 だがそんな叫びは虚しく病院に響く。
 何故、影は自分に呪符の欠片を渡したのだろうか?
 それにしてもかなり入り組んだ所まで来てしまった。そう後悔する。

 なにせ一人だ。
 実のところは不安で仕方ない。
 一人で突っ走った罰だと殺は自分に言い聞かせて歩く。 不安を自覚すると殺は笑ってしまった。

 一般人は普通に死んでしまっても、獄卒は死なないじゃないか。
 ぐちゃぐちゃになっても何時間かで再生する。
 それを考えたら不安なんて感じなくていいじゃないか。

 それとも不安なのは一度死の恐怖を味わったことがあるからなのか……。

 ふと、目の前が真っ暗になった気がした。
 何だ?私は気絶するほど疲れてたのか?すると、前からサトリが走ってきて何かに気づいたかのように叫んだ。

「殺ー!伏せろ!」

 突然そう言われ殺は驚くが歳下の性(さが)で従ってしまう。
 サトリは助走をつけて飛び蹴りの体勢をとる。
 そうして殺の上を飛び越したかと思うと殺の背後で何かが潰れる音がした。

「ぎしゃぁぁぁぁぁぁ!?」

 後ろから叫び声が聞こえる。
 なんとそこには混合者が居たのだ。

「殺!行くぞ!」

 いつの間にか皆が来ていて、御影に手を引かれる。

 その後は安全な場所まで必死に逃げた。
 この間に殺は御影やサトリに衝動的に行動を起こすなと少し叱(しか)られた。
 暫(しば)し休憩していると……

「殺様!殺様が居ない間にこのM、呪符の欠片を獲得してきました」

 役に立つMだなぁと感心してしまう。
 思わず「そうですか、ならご褒美にその頭を踏んであげましょう」と言ってしまう程だ。

 本当に思わずだ。
 殺にそっちの気はない。
 因みにMは「ぁぁぁぁぁぁん!!」という反応だ。

 黒い影がくれた呪符を見せる。
 これで呪符の欠片は三つだ。
 それにしても味方とは一体……?

 皆に黒い影のことを話す。
 皆の反応は微妙だった。

「味方か……。一体何だろうのぉ?」
「僕たちの味方?味方なら閻魔大王が普通に派遣する筈(はず)だし……。ならあの影は?」

 陽は顎に手を置き、自問自答の様に呟く。

「閻魔大王の他にも味方がいる?」
「めっちゃラッキーですね!」

 閻魔の他にも味方が居るという発言にMはお気楽な対応を見せた。
 だがしかしそれはサトリによって崩される。

「お気楽でいいなあ。味方が自分から正体を明かさないなんて不自然に思わないのか?」
「エェ~!」

 本当にそうだ。正体を明かさないなんて不自然すぎる。 
 隠密に徹してるのか?ただ動けないのか?
 わからない。

「んっ?なぁ!あそこ何か光ってる!」
「何!?呪符の欠片か!?」
「かもしれない!!ちょっと行って来る!!」

 サトリが走る。

「んっ?何だー!ゴミかぁ!」

 その時だった。

「逃げろ!目玉妖怪!」
「フシュゥゥゥゥゥ!」

 混合者だ。
 最悪のタイミングだった。
 まずい、これでは混合者の攻撃がサトリに直撃してしまう。
 殺はもう間に合わないと目を伏せたその時……。

「させませんわよ……」

 ヒュンと鞭がしなる。
 混合者は、いとも簡単に払いのけられてしまった。

「ガァッ!」
「お仕置きして差しあげますわよ」

「M……お前は一体?」
「葛葉ことMめは地獄の拷問の指導をしています。このくらいのことは造作もないです」

 拷問指導者の名前は知っていたが、本能でこいつは嫌だと思い結びつかなかった。
 なるほどと殺は納得する。

「さぁ、みなさん!呪符はあと二つですよ!張り切っていきましょう!」

 正直寝不足だからテンションついていけないんだよと苛つきながら呪符探しを再開した。

「私のクッキー探しも忘れないでね~」
「はいはい……」

 この少女にも苛ついてしまう。

「あっ!」
「どうしました?」

 少女に尋ねる。

「クッキーの場所305号室かもしれない!今思い出した!」
「それならさっき通りすぎたばかりじゃな。すぐ辿り着くな」
「金庫の暗証番号は37564よ」
「何で金庫?てか物騒な数字だな!」
「……仕方ないじゃない、金庫には触れられないんだから」

 少女は一人で何かを呟いたが誰にも聞こえてはいなかった。

「辿り着いたぞ!!金庫は……あった!37564と……」

 金庫が開く。
 金庫の中にはとても美味しそうなクッキーがあった。
 殺は少しそれを食べたそうにするが、理性をフル稼働させて食べるのを止める。

「ありがとう。これで帰れるわ!」
「それは良かったですね」
「じゃあね~」

 少女は闇に消えていった。
 その時は消えたとみんな思っていた。
 その時は……。

「あれ?これ呪符の欠片じゃん!」

 盲点だった。まさか枕の中にあるなんて。
 光が目立たず気づかなかったのだ。
 これで呪符の欠片は四つだ。
 最後の一欠片を探す。
 最後はどこに?


~~~~

 トイレへ向かう。
 本日はいくつ嫌なことが訪れるんだと殺は一人で呆然としながら考えた。

 便器の中が光っている。

 するとMが「私が直接手で取りますぅ!」などとふざけたことを言うので殺は思いっ切り手刀を喰らわせてやる。喘ぎ声には無視をする。

 結局の所は便所ブラシがあったのでそれで取った。でも結局一つになるのなら意味が無いのでは?と議論になり呪符の押し付け合いをして負けられない戦いという名のじゃんけんに負けた殺は呪符を手に取った。

 殺は怒りに満ち溢れていた。
 汚い呪符を手にして殺は静かに刀を抜き出す。

「なんだろう……。殺が凄く怖い」
「そりゃそうじゃろう。便所の神様に呪われたんじゃからのぉ……」

「混合者は何処じゃぁぁぁぁぁぁ!」
「なんか叫んでるが大丈夫なのか!?」
「責任は全て便所の神様にある。儂等は悪くなーい」

 殺は刀に呪符を貼っている。
 燃え盛る刀を見る限り準備万端すぎる。
 更にそこにタイミング良く混合者が現れた。

 もう結果はわかっている。
 殺の殺意の圧勝だった。

 みごとに混合者の攻撃を捌き攻撃がこれまたみごとに混合者の心の臓にあたり、燃やしたのだ。
 もはや便所の神様の呪いどころか、便所の神様の恩恵だ。
 混合者は妖と分離され、元の亡者に戻る。
 呪符を貼り付けた刀で斬られると混合していた亡者と妖は分離するだけで死にはしない。
 分離後もダメージは残らない様だ。

「おい……」
「「「「はい!」」」」
「帰るぞ。……もう遭難者はいなさそうです」
「そうだな……帰ろうか」

 サトリは殺に返事を返す。
 殺の後ろ姿を見ての感想は男性陣は怖かった、女性のMは萌えただった。



~~~~





 陽は呟く。

「はぁ、散々な一日だ……」
『今日だけが?』
「!?」

 先ほど消えたと思っていた少女の声が響き渡る。
 少女はなんと陽にだけ姿を見せていたのだ。
 少女は語る。

『今日だけじゃなくていつもでしょう?要らない子だもんね』
「誰が要らない子だ!」
「ん?何か言ったか?眼鏡男」

 サトリは陽の方を少し向いて訊ねる。

「あっ……、何でもない」
「そうかー」

 サトリは陽の変化を気にせずに殺の方へ行き雑談を交わしていた。
 早く今回の異変を終結させてゲームをしたいななどと話している。
 それを見た少女は意地の悪い笑みを浮かべた。

『ほらぁ~貴方は興味が持たれてないでしょ!すなわち要らない子なの!』
「僕は要らない子じゃない!」
『なら、何で今まで一人で生きてきたの?助けてくれる存在が最初から居なかったからでしょう?』
「それは……!」
『堕ちちゃおうよ!闇に、私と一緒に!』

 少女は愉快とでもいうように笑う。
 それに対して陽は必死に叫ぶ。

「嫌だ!僕は必要なんだ!」
『なら何で役に立たなかったんだろうね?何も出来ないからじゃない?』
「っ……!」
『私は貴方を必要としてあげる。私と一緒に来なよ』

 少女の甘い言葉に惑わされる。

『勝って嬉しい花一匁!貴方が欲しい』
「僕が必要?」

 陽はもはや求められることに恍惚としていた。
 だが最後の理性でそれは駄目だと判断する。
 判断は下すが感情が少女に惑わされていく。
 如何しよう。
 弱い心で考え、作って貼り付けた偽物の強さで少女を否定しようとする。

「僕は必要な存在なんだ!」
『そうだね!私が必要としてるもんね!』

『だから私が大事にしてあげる。私の下に堕ちて来なよ』

 嫌だ。嫌なのに必要とされていて嬉しい。
 陽は泣きそうな顔をして恍惚に身を委(ゆだ)ねる。
 少女を受け入れてしまう。

『堕ちちゃったね』

 嫌だ。嫌だ。嫌なのに。みんなと一緒に居たいのに。

 誰か僕を救ってよ……。


「陽?如何しました?」

「何でもないよ……」

 陽はにこやかな笑顔で答える。
 こうして闇に堕ちて逝く。
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