地獄の日常は悲劇か喜劇か?〜誰も悪くない、だけど私たちは争いあう。それが運命だから!〜

紅芋

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明かされていくもの

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第一章 三話



 陽の様子がおかしくなった。
 つい先ほどまでは人を威圧する様な顔つきで最低限の言葉しか発さなかったのに、今は常時笑顔で、辛辣な言葉を吐くこともないうえに今朝の様な悪態をつくこともなくなった。

 気味が悪い。違和感と異様さを感じて殺は思わず後ずさる。

「如何したんだ?」

 陽が穏やかに、無邪気に訊ねる。
 その天真爛漫な姿には子供を連想させるものがあった。
 陽である筈なのに陽でないみたいだ。
 他の者は違和感を感じないのかと殺は御影たちを見る。
 だが殺の目に映ったのは陽の変化に気づくこともなく雑談を交わす皆の姿だった。
 相変わらず縄で縛ってくれと頼むMと、それを拒む御影とサトリ。
 何故、気づかないんだ?殺は、皆が陽の変わり様に気づかないことに恐怖する。

 如何して気に留めておかなかったのだろう……

 だが原因がわからない以上、如何することも出来ない。

 とにかくだ。先ずは遭難者を避難所まで送り届けなければならない。
 そして閻魔大王に指示を仰がねば。
 殺は焦りという感情から自然と駆け足になる。

「急に如何したのじゃ?!遭難者を置いていく気か?!」

 御影が殺を追いかけ問い質す。
 サトリとMは未だに恐怖で怯えている遭難者を支え、殺に追いつこうと走っている。

「陽の様子がおかしいです。急がねば。遭難者はみなさんが支えて連れて行けば大丈夫でしょう。お願いします。御影兄さん」
「う……仕方ないのぅ」

 殺は己の中の焦心をひた隠し、あくまで冷静に答えたつもりだった。
 陽が変わってしまった、その事実への焦りを……。


~~~~


 急に焦る殺を追いかけ、遭難者を支えて走っていたサトリは少し立ち止まる。それにMは何故、歩みを止めたのかと少しの疑問を持った。

「何かありましたの?」

 Mはサトリに訊ねる。

「陽の中に何か別の意識が……」

 サトリは呟く。
 己の力、心を読む力を救助などの状況の確認、そして亡者の動きを知る為に使っていたら陽に二つ目の意識が感じられたのだ。
 だが二つ目の意識といっても限りなく一つに近い意識の為に、陽が朝からの惨状に耐えきれず、トチ狂って今までとは違う人格が出来たのだろうとサトリは放って置いた。

 陽の変化について焦り、一人考え事をしている殺の駆け足に皆が慌て、ついていく。
 そして避難所に着き、その場の全員が唖然とした。

「……これは、如何いうことです?」

 そう呟く殺の口は、声は、守られる立場にいる筈の遭難者も思わず息を呑むほどに怒りに満ちていて歪んでいた。

「取り敢えず中へ入って状況を確認しましょう」

 避難所の入り口の前でそう言った殺の、冷静とは思えない地を這う様な声が、避難所内に響いた。

 殺のその言葉に皆、無言で従う。
 避難所は無残に荒れ果てていた。
 普段は天界の神との会談の場である場所。
 オペラハウス並みの広さの避難所を調べていく。
 点滴が倒れ中身が零れ、包帯が其処彼処(そこかしこ)に散乱し、携帯、懐中電灯などの避難者の私物が壊れ避難所中に転がっている。

 天井は大きく崩れ部屋の中心に瓦礫の山を作っていた。
 避難所を入って真正面に進んだ辺りの壁や床に刀でつけられた様な大きな切り傷が複数あり、それを見てみなが思わずゾッとする。
 今までの混合者は武器を使ってはいなかった。
 ならば別の何かがいるのでは?……と考え。

 殺たちは歩きながら避難所の傷などの変化を見た。
 避難所中の壁に何かがぶつかって出来たような傷があり、軽傷者と重傷者を隔てる壁には穴まで空いている。
 床に多くの深いひびが入り、それと部屋の端っこの床に水紋の様に見える痕……殴打の痕だろうか?

「この荒れようは不気味ですわね……」

 Mが少し顔を強張らせながら呟く。
 すると殺がはっとした様に口を開く。

「軽傷者の部屋がこの様な状態なら、重傷者の部屋は……?」
「見に行こう」

 軽傷者の部屋から出る。
 数時間前までは殺たちも僅かな休憩を此処で過ごしていた。
 閻魔が怪我人の手当てをしていて、避難者は閻魔に励まされて笑顔を見せていた筈なのに……。

 サトリが皆を先導し、重傷者用の部屋を見て回る。
 怪我の度合いによって部屋がわかれているのは効率良く怪我を手当てする為である。
 軽傷者の部屋の半分くらいの広さである重傷者の部屋を見て回るのは案外スムーズにいった。

 重傷者の部屋は輸血パックが破れ、血の海を作っていた。
 軽傷者の部屋同様、刀傷や、壊れた医療器具。
 凄惨な光景である。

「酷いな…………、ん?あれ、でも……」

 避難所の様子から何か手がかりを得られないかとサトリは部屋を見回す。
 するとサトリはあることに気づき首を傾げた。

「……なあ殺、これって……」
「ええ、妙ですね……」

 殺とサトリは何かを話し合っている。
 二人が何かについて話し合っているがそれが理解出来ない御影は、二人からもうすぐ御影にも語られるだろうことを知りたくてそわそわしている。
 そうしておとなしく二人から説明されるのを待てなくなり、獣の耳をピンっとたたせ御影は訊ねる。

「のぅ!如何したのじゃ?!何かあるのか?」

 御影は九尾の尻尾を激しく振る。
 そんな御影にサトリは「落ち着け」と尻尾を撫で、宥めた。
 サトリに宥められた御影は「了解!」と言いながらも、まだ激しく尻尾を振っている。
 そんな状況に対し、殺は御影に冷静に説明した。

「部屋がこれだけ滅茶苦茶になっているにも拘らず、ここにいた筈の避難者や負傷者は誰一人いません。それに重傷者の部屋は輸血パックの所為もあり壁や床に血飛沫の痕や血溜まりが沢山ありますが、軽傷者の部屋は血痕も僅かですし、血の臭いも薄い。閻魔殿の中で避難所だけが荒れているというのも異様で気になります」

 御影は静かに殺の話を聞く。
 殺の話に時折頷いたりしながら御影は殺の言う違和感のことを徐々に把握していく。

「成る程……それは確かに妙じゃのぅ」

 殺の説明で状況の不自然さが御影にもわかり、すると今度は御影が「うーむ」と言いながら首を傾げる。

「……まあでも、避難所には閻魔大王が居りました。それに閻魔大王の結界の気配が感じられます。それならば避難者に関しては閻魔大王がついていますし、大丈夫ですよ」
「うーむ……そうじゃな。閻魔が守っているなら大丈夫じゃろう」

 しかし油断は一切出来ない状況だ。避難所のこの荒れ方は尋常ではない。
 近くに何か得体のしれないモノが居るかもしれないんだ。
 混合者だっているかもしれない。
 コンクリートで覆われた頑丈な避難所を破壊する力、それは混合者の強大な力を頭に浮かばせる。
 皆、警戒を解くことなく周囲を探る。

「混合者の気配がない……」

 サトリのその言葉に陽を除く皆が動揺する。
 そうして御影が焦って如何いうことかとサトリに問うた。

「気配がない……?それは如何いうことなのじゃ?サトリ」
「そのままの意味だよ。気配がないってことは近くに混合者はいないってこと……はぁ、わざわざ説明させないでよ」

 サトリは救助の仕事が忙しく、今朝の亡者の襲撃の対処に当たってから今までろくに休憩も取れず疲れが溜まっている。だからこそ彼は今、余計なことは考えたくない。なのに察しの悪い御影はサトリに質問責めをした。

「混合者が近くに居ないのならば、一体誰が此処をこんな風にしたのじゃ?この荒れ様……普通の亡者には出来ぬぞ。百人単位で攻め込んで来たならばわかるが今の今まで亡者と遭遇しておらん。もしかして別の何か……「だから!それがわかれば苦労しないんだよ!」

 朝からの疲労と御影の長々とした質問責めにとうとう我慢の限界を超えたサトリは声を荒げる。
 御影、それとついでに殺と遭難者までサトリの大声にビクリと肩を震わせてしまう。
 因みにMは恍惚の表情だ。

「そ……そこまで怒らなくても良いじゃろう」

 御影はやや怯えた様子で言う。

 あのサトリ兄さんがあそこまで怒鳴るとは……。
 余程疲れているのだろう。

 サトリ兄さんの『心を読む』という能力は人だけでなく亡者や混合者の気配も思考も読み取ることが出来る優れた能力だ。
 能力はON、OFFを自在に操ることが出来、効果範囲は二三百メートル程である。
 このサトリ兄さん、範囲内の思考を全て読むことが出来るうえに、どの思考を読むかの選別も出来るのだ。
 選別前は声が沢山聞こえてくる感じだが、選別後はその声に一点集中することが出来るらしい。

 しかし能力は便利だが反面、声が全てにおいてはっきりと読み取れる為に声の大きさの調節が難しかったり、そしてサトリの意思に関わらず、頭の中に対象の個体の思考が全て流れ込んできてしまうという欠点もある。

 おそらくサトリ兄さんは任務を任された時から能力を使っていたのだろう。それは民間人の救助の為と、敵の動きを把握する為だ。

 其故に、亡者や混合者の復讐心、殺意などの悪意や害意も全て読み取ってしまい、殺たちより精神的疲労が溜まっていたのかもしれない。

「……何にせよ、此処で議論をしていても始まりませんし今は情報を集めることに専念しましょう」
「「はーい……」」

 まったくと思いながらも多少は心が穏やかになる。
 この二人は喧嘩をしてもすぐに仲直りし、騒がしい楽しげな二人に戻る。
 そのことで殺はいつも癒されてきた。
 そうだ、癒しなのだ。
 この二人がいることで殺は辛い戦況下でも日常の温かみを感じ、今までなんとかやってこられた。
 だからこの二人は殺にとって、何者にも代えられない大事な存在なのである。



~~~~



 気を引き締め直し、病院で助けた遭難者を閻魔殿の中のなるべく安全そうな場所に連れて行き結界を張って守る。
 その際に御影が別の結界を作り、Mがそれを鞭を使って攻撃する。
 Mの大岩をも砕く威力だろう攻撃を受けてもなお壊れないあたり、結界は相当強力なものなのだろう。
 それは遭難者にもわかり、安心させるのには充分だった。

「御影兄さんの結界は強力ですから安心ですよ」
「はっ、はい」

 そう言い残して殺たちは先へ進んだ。

 殺たちは情報を集めるにあたって一先ず、地下の書物庫に行ってみることにした。

 書物庫は常に世界中の新しい情報が集っている場所だ。
 書物庫内に紙さえ用意しておけば、製本作業は紙選びから装丁に至るまでの行程全て、独りでに進んでいき、本が出来上がる。

 因みに紙を用意するのは獄卒たちの仕事で、その他にも亡者などの罪人を対象とした看守、街の見廻り、書類作成や各種申請、警察への業務指導など様々な雑務を獄卒は受け持つ。
 けっして派手な仕事ではないが、目まぐるしい地獄の毎日を支える大事な役割だ。
 今は神をも統率する役目の殺も子供時代は通った道である。

「めぼしい物はないね~」

 サトリが棚にズラリと並ぶ本を手当たり次第読み漁りながら怠そうに言う。

 此処なら何かわかると思っていたが……。
 僅かな希望が打ち砕かれた気分だった。
 しかし其が逆に殺の執念を垣間見せることになる。

「こうなれば意地でも探し出してみせましょう」

 殺は如何すれば情報を得ることが出来るのかと、必死に考える。

「とは言っても書物庫に何もなければ何処に犯人の手掛かりがあるのじゃ?」

 手掛かりがないのに質問されても知らないとしか言い様がないだろう。
 そう思い、殺は密かに苛ついていた。
 サトリに先ほど怒鳴られたばかりなのに、懲りない狐だ。
 いつもなら頼れる兄さんなのに、こういう時だけは面倒だ。

「はぁー」

 殺は溜め息を吐く。
 無理もない、朝から今の今まで無情で残酷な光景を見てきたうえに、御影が追い打ちをかけるかの如く焦る心をより焦らす方向へ持っていくのだから。

 殺の溜め息を聞いてしまった御影は、それを察して謝る。

「すまん!犯人の手掛かりは簡単には手に入らないよな、困らせてしまってすまん!」

 嗚呼、御影兄さんに気を使わせてしまった……。
 亡者の襲撃や、病院での出来事、精神が消耗しきっている中で閻魔殿に帰れば避難所が滅茶苦茶になっていて、閻魔や避難者が姿を消している。
 そんな不安が募る状況で誰かに気を使い続けることなんて出来る筈がない。
 自分だって誰かに気を使っていられる様な余裕などないのに……。

「御影兄さん、謝らないでください。兄さんは悪くないのですから。寧ろ謝らなければならないのは私の方です。勝手に苛ついて気を使わせてしまうなんて……本当に申し訳ありません」

 殺は誠心誠意こめて謝る。

「そんな!殺は頑張ってるのじゃから謝るな!」

 また気を使わせた……。はぁ、もう鬱だと殺は頭を抱える。

「さあさあ!もうそんなことはいいですから探索しましょうよ!」

 Mの発言をきっかけに行動を再開する。
 殺は場の雰囲気を察して流れを変えてくれたMに「礼を言います」と言った。

 およそ数百人が働く広い閻魔殿の各部署を探索する。
 今回は混合者はいない様だが、もしもの場合の為に呪符も探さねば。
 隅から隅まで探したが呪符の欠片は今のところはない。



(混合者が居ないと呪符の欠片も無いのかなぁ?)

 サトリが考える。
 呪符を用意しているのはおそらくは影だろう。
 影は自分のことを味方だと言っていたが、それを完全には信じられない。かといって、影を今回の事件の犯人だとも思ってはいない。
 だって不自然だ。影が犯人なら、混合者を亡者と妖に分離することの出来る呪符を自ら進んで撒き散らしたりするわけがない。

 これまでに起こったことをまとめよう。
 先ず最初に亡者の襲撃があった。そして亡者と妖が混ざった混合者が現れた。そして謎の呪符と影。
 妖や亡者が自然に混合者になったのか、それとも誰かが人為的に混合者にしたのか?

 もし第三者が混合者を創るのだとしたら、それは技術、財力、其ら全てを持っている裁判を行う十王たちくらいしか出来ないだろう。

 十王、それは亡者の裁判を全て担っている者。
 十人の王で構成されていて、閻魔はその一員であり、また地獄における最高責任者でもある。そしてそのことからわかる様に、地獄内で十王たちの地位は勿論高い。
 そんな方たちがこんな事件に関係しているかもしれないなんて……。

 だがしかし、とサトリは思う。亡者や妖が自ら進んで混合者になったのならば、自分を混合者にした者を覚えている筈。

 亡者はともかく妖は十王の顔を知っている。けれどサトリは亡者や妖の意識からは第三者についての情報を読み取れなかった。
 妖はおそらく全ての記憶を消されたか、意識がない状態で操られていたのだろう。一方、亡者は意識があったのにそれが読めなかったのは、そいつの姿を見ても誰かわからなかったのか、あるいは記憶に細工されたのだろうか?

 この事件は亡者の復讐?いや、何かおかしい。
 突如現れる強大な敵、それを倒す為の呪符探し、呪符の欠片を渡す黒い影。都合が良すぎる。
 まるでゲームみたいだ。

 そしてやはり違和感を覚えるのは影……今回の事件の中で黒い影の存在だけが異様だ。
 何故、呪符の欠片を渡す?何故、現れる?
 味方なら呪符のことをもっと教えてくれてもいいのではないか?
 正体も明かせばいいのでは?
 本当に味方なのか?

 殺が言うには呪符の欠片は最初は公園までの道のりに落ちていて、次は陽が呪符の欠片を和服屋の中で見つけた。その後に黒い影が店の前に現れ、呪符の欠片を落としていった。
 俺の時は公園で混合者と戦っていた時に見つかる。
 混合者が出てきた時に呪符の欠片が見つかるのって都合良すぎないか?
 死体から呪符の欠片が出てくるのもおかしい。
 影は二回目では呪符の欠片を手渡ししてきた。
 それは何故なのだろう?
 枕の中やトイレもおかしい。

 いや、ちょっと待て。
 おかしい。
 影が呪符を様々な場所に置いて来たのだとして、それをわざわざまた取って殺たちに渡すか?
 そんな面倒なことは普通はしない。
 ならば影も呪符を探している?
 呪符を置いているのは影ではない?

 では背後に別の誰かが?そんな奴がいるのならば、そもそも其奴が混合者のことだってなんとか出来たのではないのか?呪符を作るのにも時間がかかるだろうし、最早(もはや)予測していたのでは?

 色々考えを巡らせてみたがどれも推測の話だ。
 そしてこれまでの推理からサトリは調査を優先する対象を定めた。
 黒い影。

 呪符をばら撒いた黒幕の存在より黒い影の目的を知る、又は黒い影そのものを調べる、黒い影を探すことを最優先にする。それが結論だった。

「殺ー!」
「ん?何ですか、サトリ兄さん」
「他のことは一旦置いといて、一先ず黒い影のことを調べない?影を調べることで閻魔や避難者の所在がわかるかもしれないし、それに呪符を創っているのは誰かとか、今回の事件……混合者の出現についても新しい情報が得られるかもしれない。ひたすら広い閻魔殿を当てもなく探すより良いだろう?」
「……奇遇ですね、私も同じことを考えてました」

 殺はにやりと笑う。
 あの黒い影が本当に味方なら、閻魔大王と避難者たちが消えた非常事態、黙って見過ごす訳がない。

 目標は決まった。
 黒い影探しだ。
 探索を続けよう真実を得る為に。

「殺様ー!こっちから物音しません?」
「物音?どれどれ……」

 そこにはお目当ての者が居た。
 黒い影、間違いない。

「おい!そこのか……!?」

 影と言い切る前に黒い影は消えてしまった。
 様子的にこちらには気づいてなかった様だ。

 黒い影が味方なら影がいたところに何かあるのではと思い、影が現れたところを重点的に探すが何もない。

「なんだよー!味方なら何か残していけよ!」

 サトリはもはやご立腹だ。
 しかしサトリは腹を立てるのと同時に、黒い影が見つかるのが早すぎると違和感を覚えていた。

「まあまあサトリ、落ち着くのじゃ。後で影を捕まえて身包み剥がして使えるものを奪えば良いだけじゃろう?」
「良くないですねー!」

 珍しく殺が声を荒げる。
 この状況に苛ついているのはサトリだけじゃないのだ。

 Mも既に苛ついてきている。
 小さくだが舌打ちをしているあたり苛ついているのだろう。
 こんな状況でも陽は笑っている。
 そのことにまた心がすり減ってしまう。

 だが、それでも進むしかない。
 みんな此れでも地獄の獄卒だ、獄卒は刑を執行する役目を背負っている分、精神の強さは強固だ。

 探索の為に廊下を進んでいると突然サトリが叫んだ。

「何か来るぞ!」

 すると遠方から雄叫びがあがる。
 何かに囲まれる。

「うぁぁぁぁぁぁ!」

 それは亡者の群れだった。
 虚ろな表情の亡者が、此方へ走って向かってくる。
 Mは亡者の攻撃を避け、一瞬のうちに数人の亡者の鳩尾に蹴りを入れる。
 亡者は攻撃をくらった瞬間に意識を手放すこととなった。
 どうやらここから先は亡者が居るらしい。

「皆さん!亡者だからといって油断しないでくださいよ!」

 殺は戦闘体勢を整えつつ皆に注意を促す。
 それにサトリは返事を返す。

「分かってるぜ!」

 皆の前に立ちはだかる亡者は弱い、攻撃は簡単に避けられる。
 だが黒い影を探すのには少し面倒だ。

 殺は溜め息をまた溢しそうになる。
 群れをなす亡者を殺さない様に捌き、廊下の奥へ進む。
 すると壁にぶつかってしまう、だがその壁には違和感があった。

「なんだ……?此処の壁は。他の壁と違う」

 殺はこの建物には詳しいのだ。
 いつも仕事で寝泊まりしている分この建物の構造にはよく精通しているのだ。
 通常なら、この建物は鉄と木材で地震にも対応する様に組み立てられ、頑丈に作られている。
 だがここの場所の壁はどこか脆い様に見える。
 この建物を壁でも床でも天井でも何でも調べながら歩いてきたのだ。少しの違いも見逃さない。

「薄い……中が空洞ということか!?」

 そう判断し殺がコンクリートで出来た壁を刀で突き破る。
 するとそこには想像を遥かに超える景色が広がっていた。

「な……んだ……これは?」

 殺はその光景に恐怖を覚え、言葉も途切れ途切れになる。
 閻魔殿に絶対にあってはならない施設が拡がっていたのだから。

 金色の眩く丸い光の中で妖と亡者が合わさり、一体化していた。この施設は如何見ても混合者を作る為の施設だ。信じたくない。これを見た御影たちは焦りを感じ混合者の動きを封じる為に結界とMが持っていた縄で拘束する。

「嘘で……しょう?」

 嫌な考えが頭を過る。
 あの方に限ってまさか。

(でもまぁ理由があるでしょう。大丈夫だ。閻魔大王は閻魔大王だ)

「何でそうなる!?」

 サトリが殺に怒鳴る。
 殺は心を読まれていた様だった。
 心を勝手に読まれていたのだと殺はむっとする。

「読んでたよ!そして何でそんな考えに至る!?」
「閻魔大王だから」
「即答を今は使わないで!本当に何なの!?」
「信用出来る方だから信用しているんですよ。ただ……相談されなかった事と真実がまだわからない事はちょっと問い詰めないと」

(何でこんなに閻魔を信用してるんだ?こいつ……)

 サトリは閻魔に盲目的な信頼を寄せる殺を少し気味悪く思う。

 しかしそんな考えが如何でもよくなることが起こる。
 黒い影がこの場にいたのだ。

「皆さん早く!」
「わかってるぞ!」

 殺が壁を突き破った際に出来た瓦礫を御影が妖術で浮かび上がらせ、施設の入り口を一瞬で塞ぐ。

「さぁ、もう逃げられませんよ。先ず何を聞きましょうか……?」

 その時だった。影が不意に口を開いたのだ。

「ご……めん。じゅ……ふ、みつか……らな……かった。まだ……ことば、うま……く、はな……せない」

 まだ上手く話せない?
 如何いうことだと不審に思う。

「わた……しの、しゅ……じん。じゅふ、つく……った。あなた……き……に……なる……らし……い」

 そう言って殺を指差す。
 殺が気になるとは?

「この……じ……けん。はん……にん。ふた……り。
え……んまと…………」

 影が少しずつ薄まっていく。
 その様子を見た殺は影に向かって急いで手を伸ばす。

「おい!待て、消えるな!!」

 しかし殺は影に触れることが出来ず、影は無情にも消えていく。

「え……んま、いつ……もの、しご……とば。
はや……く、いっ……て…あげ……て…………」

 影が姿を消す。

「チッ、消えましたか……だが……」

 影の残した言葉に殺は覚悟を決めた。

 閻魔はいつもの場所に居る。
 早く問い詰めなければ。
 そして、止めてあげなければ。
 でなければあの方はきっと……。


~~~~


 バキ
 バキ
 バキ

 忌まわしき者の周りに破片が散らばる。
 破片はその者を歪に映した。
 忌まわしき者は狂気を現し笑う。

「あははー!やっぱ面白いね!人間は!!
それに……あの紅髪も。クククッ」

 やっぱり非日常は面白いよねー!
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