地獄の日常は悲劇か喜劇か?〜誰も悪くない、だけど私たちは争いあう。それが運命だから!〜

紅芋

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明かされた真実

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第一章 四話



 いつもの仕事場に行く。
 そこには閻魔大王が静かに佇んでいた。

「閻魔大王、そこで何をしているのですか?まさか死のうとしていたのではないですよね?」

 閻魔大王が此方にゆっくりと振り返る。

「……死のうとなんてしてないよ」

 閻魔大王はにこやかに笑っているが、その目は笑っておらずどこか冷たい。

「でも、貴方の後ろ姿が物語ってましたよ。私の目が悪くなったのですかね?」

「君の目は曇ってないよ。曇っていたのは私のほうさ……」

 閻魔大王の対応に殺は次第に怒りが募る。
 殺の拳は怒りで握られていて血が滲んでいる。
 それを皆は静かに眺めていた。

「そろそろ真実を言ってください。閻魔大王」

 殺は真実を知ろうとして閻魔に訊いた。
 それに対し閻魔は冷たく言葉を言い放つ。

「全部私がやったんだ。もういいでしょう?この件については私も責任を感じているんだ。私も動くから君たちも早く任務を遂行してきてよ」

 閻魔の突き離したかの様な言葉。
 この一言に殺は耐えられなかった。

「全部私がやったじゃないでしょう!私の知りたい真実はこれじゃない!私たち二人に隠し事はないって言ったのは貴方じゃないですか!……お願いだから真実を教えてください、閻魔大王」

 殺の感情がこもった言葉に閻魔はやれやれといった風に言葉を放つ。

「……君には隠し事は出来ないね。参ったなぁ、仕事を円滑にする為、獄卒たちの為と思ってやったことがまさかこんなことになるなんて……私は駄目な奴だ」

 駄目な奴。そんな発言は殺が黙っていられる訳がない。

「貴方は確かに間違っているかもしれません。
ですが、貴方の行動の原動力は優しいものでしょう。私は閻魔大王を駄目な奴とは思いません。ですからちゃんとした真実を言ってください」

 睨みあいが続く。
 すると閻魔は少し笑顔になった。
 きっと閻魔にのしかかっていた何かの重荷がおりたのだろう。

「君たちをここまで巻き込みたくなかったんだけどな……」
「やっと言う気になったのですね。本当に手間を掛けさせる。早く言ってください!」
「殺は元気だなー!閻魔大王にだけ態度が違う!ずるい!」

 サトリが騒ぐ。

「うるさいですよ!サトリ兄さん!」

 殺がサトリを叱った時だけは日常に戻った気がした。

「真実を言うよ……。勿論、混合者は私たちが作ったものだ。低級の妖と精神力の強い亡者を混ぜて出来る筈だった。だが奴が被験者として連れてきた亡者はみな精神力は強けれども極刑に近い亡者だった」

 閻魔は誰かを憎むかの様に語る。
 憎悪に満ちた目つき、それはいつもの閻魔からは考えられないものだった。

「更に妖も中級から上級で考えていたものとは違うものが出来たんだ。それに気づかず私は従順に従う混合者を疑いもしなかった。そして、次第に言うことを聞かなくなってきた混合者に違和感を持った頃には既に遅かった……。全ては奴の遊びだったんだ……。そしてこの避難所も奴が創った最高傑作に……」

 皆が息を呑む。
 閻魔の口から語られようとする真実を緊張しながら聞こうとした。
 だがその時に笑い声が聞こえてきた。

「……閻魔大王。奴とは一体?」
「あははー!こんなので終わる訳ないじゃん!」

 みな後ろを向く。
 そこには誰しもが知っている姿があった。
 とても有名な姿、地獄では知らない者などいない程だ。
 平等王、閻魔と同じ立場の王が笑いながら立っていたのである。

「……平等王!?」

 皆が身構える。
 だがそんなことは気にしないかの様に平等王は戯(おど)けて喋り始めた。

「酷いよねー!地獄をこんなことにして犠牲者までだした癖に同情を得ようとするなんて!本当にこんな奴について何がしたいのー!?」

 平等王は茶化すかの如く言葉を重ねていく。
 其も軽い若者のような言葉で閻魔を責め立てた。

「ねぇ?今どんな気分?自分の管轄内で死人が出たんだよー!辛いー?ウける!最初は良くしようと思っていたのにまさかこんなことになるなんて!あはははは!」

 閻魔はその発言に対し顔を歪ませ反論をした。

「事の発端には貴方もいたでしょう!」
「あっははは!責任転嫁か?だけど証拠がないよー!閻魔様は証拠もないのに疑うのー?」

 その一言で、ある人物が平等王と閻魔の会話に割って入った。
 怒りに満ち、拳を握り締めた殺が平等王に反論する。

「何を言っているんですか?閻魔大王は立派な方ですよ!それに証拠なら浄玻璃鏡が……!?映らない!?」

 鏡は何故か黒い世界を映し出すだけで、殺たちが得ようとした真実を映しはしなかった。
 唯一無二の頼れる存在が使えない。
 そんな極地に立たされる。
 証拠がない以上は誰も平等王を責められない。

「鏡は壊したよー!勿論君たちが居ない間に!
閻魔様ー、駄目じゃないか鏡から離れるなんて!笑えるねー!」
「……あ……は……なに……や……た……だ?」
「何?小さすぎて聞こえなーい!」
「貴方は何がやりたいんだ!?」

 殺は心の底から叫んだ。
 それに平等王は笑いながら答える。
 だが、その笑いはどこか狂って歪んでいる風に見えた。

「うーん。君のやってみたそうなことをやっただけだよ?」
「私のやってみたそうなこと……?」

 殺はこんなことをやりたいとは思わない。
 殺の中で疑問符が出る。

「人間研究!」
「は?」
「人間に力を与えたらどうなるか見てみたかったんだ!妖の力を与えて!妖には命令して混合者になってもらったさ!でも自分の管轄内でやったら駄目だから閻魔様にしたんだ、誰でも良かったんだよ!」

 ふざけるな。人間をそんなことに使うな。
 地獄を巻き込むな。
 そう思いながら殺は平等王を睨みつける。

「まあ、取り敢えず君たちは俺の掌の上でまんまと踊らされてただけなんだよ!ここまで聞いたらもう定番として死ぬしかないよねー!最期は見届けてあげるから全員死んじゃえよ!!」

 バキャ!

 吹き飛んだのは平等王のほうだった。
 拳を振り上げたのはその場でただ黙っていた筈の御影であった。
 御影は怒り、怒号をあげる。

「お主の遊びの所為で何人死んだと思っとるんじゃ!最期?最期を迎えるのはお主のほうじゃ!!」

 御影は刀を抜いて、その場の感情に任せ、平等王を斬ろうとした。
 だがその時に鈴の音の様な可憐な声が響いた。

「待ちなさい」

 声が聞こえた方を振り向く。するとそこには閻魔や平等王と同じ立場、十王の一人、秦広王が佇んでいた。
 銀髪の艶めく髪が揺れる。美を体現した女性に見惚れてしまうとはこのことだ。
 秦広王はあくまで静かに語る。

「証拠ならあります。鏡は私たちがすり替えておきました。御影殿、その様な者に拳を振るう価値はありません。この者は私たちがしっかり裁きます。ただ……閻魔大王、貴方にも参考人としてきてもらいます。そこをしっかり理解してください」

「はい……」

 閻魔は下を向いている。
 秦広王の部下に「此方へ」と言われ、素直について行こうとしている。

「そんな!閻魔大王まで!閻魔大王!」

 騒ぐ殺は秦広王の部下に取り押さえられながらも閻魔に向かって手を伸ばして叫ぶ。
 だが閻魔はその手を掴むこともせず、閻魔は殺に頼む。

「殺ちゃん……この件は君に託すよ」

 閻魔の小さな声、責任を感じているのに何も出来ないことが悔しいのだろう。
 殺はそんな閻魔の心境を察して頷いた。

「大王……わかりました!この殺、命に代えても成し遂げてみせます!」
「うるせぇ!なんでこうなるんだよぉぉぉぉ!」

 平等王は叫ぶ。
 だがその様子はどこかわざとらしい。
 まるで何かを知られたくないかのように思えた。

「平等王お黙りなさい。敵の場所はもうわかっています。さぁ早くこの事件を終わらせるのです!」
「はいっ!」

 殺たちは敵の居場所を秦広王に訊き、その場を去ろうとした。

「ちょっと待った!」

 秦広王の部下に連れられていた閻魔大王は立ち止まり、何かを思い出したかの様な顔をして殺たちをとめる。

「何ですか?」
「これを君に……間に合わせの物だけど。私の起こしてしまった事態だけど、頼む」

 閻魔は殺に真紅の色をした刀を渡そうとする。
 そして殺は、その真紅の刀を手に取った。
 殺は軽く頷き、閻魔に背を向け進むべき道へ進む。

「呪符の本当の使い方を助けてくれる刀だよ……。
絶対に最後の敵に使ってね、奴は他の混合者とは違うから……」

 殺はわかっていると言うかの如く手をひらひらと振り、皆と共に倒すべき敵の下へと向かっていった。
 この事態を全て終わらせるのだ。
 殺はそう静かに、そして凛とした面持ちで、閻魔に託された思い、それを成し遂げることを信念をもって誓った。





「無事を祈る。信じてるからちゃんと帰ってきてね。そしたら……」



 また、いつもみたいに笑いあおう。
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