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闇に取り憑かれた光を取り戻せ
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第一章 六話
「其処の混合者もだ!」
紅い髪を揺らして怒りの声をあげた殺の振り向いた先には手を刀に置いた死神が立っていた。
にやりと口の端を釣り上げ光を灯さない目玉で此方を向いている。
殺と死神の間に誰も居らず、殺を見ながら刀を抜きかけているところを見ると、殺を攻撃するつもりであったことが窺えた。
半分抜かれた刀は蒼の光を宿しているが本当ならば今頃は紅く染まっていたのだろう。
殺以外の三人は死神が刀を半分抜いている様を見て只々驚き、騒然とした。
「あーあ、バレちゃった!」
「貴方、あの時の少女の亡者ですね」
「ご名答!どうも!少女でーす!」
男らしい低音の声で少女はふざける。
少しくるりと回ってみたり、わざとらしい笑みを見せたりしていて気味が悪い。
「いつから気づいていたの?」
少女は不思議そうに殺に問いかける。
少女はバレない様に喋らない様にしていたのだろう。
だから他三人には気づかれていなかった。
「最初は違和感を感じた程度でしたが、あの時、私をトイレの個室から締め出した時に貴方の幼い笑顔が頭の中に過ぎった。其にあの時、貴方笑ってましたよ。うふふって。男の陽があんな笑い方をするわけがない。だから貴方が取り憑いたのでは、という考えが出来ました」
「ふーん……」
少女は少しつまらなさそうな表情をする。
バレずに殺したかった、バレない様に。
そこには子供らしい悪戯心があったのだろう。
しかしそれは人を殺そうといった異常さがあるが。
だが、いつまでも落胆しているわけでもなかった。
少女は笑う。
不意打ちは失敗したが、計画自体は失敗してはいない。
そう考えてにやりと笑う。
そうして戯けながら殺たちに向かって語りかけていった。
少女が己の計画に陽を選んだわけを。
「この人が気に入ったの」
「気に入った?」
皆が訳がわからず只、呆然とする。
何故、陽を気に入った?
わからない、少女を警戒しながらも只々考えてその場で立っているだけだった。
殺以外のみなが、如何対処すべきかと焦って顔に少し汗を滲ます。
そんな皆の様子を見た少女は面白そうに笑いながら言葉を発した。
「そう!この人の悲しみや憎しみ身体の強さ!全てが完璧で私好み!後はさらに貴方たちを飲み込んで強くなったらあの偉そうにしている自称大将を超えられる!中級のハンデがなくなるの!」
中級とは妖のことかとすぐに理解する。
今まで殺たちが短い時間であまりてこずらず混合者を倒せてきていたのは、普通の亡者と中級の妖の混合であり、呪符があったからこそだ。
妖には下級、中級、上級の者がいる。
それらは安易なはかりだが、強さで決まっているのだ。
少女が混合しているのは中級の妖。
だが今は呪符が無い上に、混合者であった少女は死神に取り憑いているのだ。
死神は仕事が肉体労働ではないから地獄内で働く獄卒たちには弱いと認識されている。
だが実際は死神の標準的な強さは、妖の上級に達する。
中級どころの話じゃない。
これでは今までとは比べ物にならないくらいに手強いではないか。
それと自称大将とは恐らく最後の敵のことだ。
陽を助けた後に最後の敵の力のことも訊かねば。
少女は刀をさっと抜く。
「さあ、時は来た!私の力を見せつけてやるの!その為の犠牲となれ!」
「させるか!」
殺が叫ぶと同時に刀同士が激しくぶつかり合い、キィィィンッと耳に障る金属音が鳴る。
一瞬で殺の頭上付近まで移動し柄を握りしめ、圧を従え真っ直ぐ振り下ろした少女の刀を殺は正面から受け止めた。
「「「殺(様)!」」」
殺はその場で刀を斜めに構え、より強い力で少女の刀を押し返す。
「こいつの相手は私にさせてください!」
「でも!」
御影は心配そうに言う。
だが殺は譲らない。
「私ならなんとか出来ます!」
「……ちっ、わかったわい!」
殺は一度物事を決めると最後まで、皆が止めてもやり通すことを御影は知っている。
だから今回も止められない、そう悟って戦いに一人赴く殺を止めなかった。
サトリも御影と同じ考えだ。
それはなんとなくだがMにもわかったから殺を止めるのを無駄と判断する。
だが窮地の時は殺を助けよう、そう思い皆は武器を構えていた。
「さぁ、返して貰おうか。陽を!」
「嫌だね~!貴方たちも大して役に立たない奴なんて要らないでしょう?」
少女は殺を煽る。
「陽は確かにビビりで辛党で文句も言う。
でも仲間のことは誰よりも大切に想っている良い方です!救助には真摯な姿勢で取り組み一生懸命助けようとする。そんな方が要らない訳がない!」
「なら私から取り戻してみなよ!出来るならね!きゃははは!」
「望むところだ!」
金属がぶつかり合う音が響き渡り、斬撃が繰り広げられる。
その光景は見る者を圧倒する力強さがあり、みな戦いに釘付けになる。
美しい紅き光を放つ殺の斬撃、殺の神気に満たされた刀はどこまでも荘厳な雰囲気であった。
殺にとって陽をかけたこの戦い、負ける訳にはいかないのだ。
「どうしたの!この程度?」
「……」
ヒュッ
「!?」
敵が目の前から消える。
そのことに殺は冷静に分析を巡らせた。
(敵が消えた!?いや、まさか)
「正解!後ろだよ!」
ザシュッと音が聞こえた。
殺の背中に大きな斬撃が入ったかと思えば、その直後に蹴りが入れられる。
「ガハッ!」
そのまま体育館の壁に減り込む。
壁に減り込んでしまうとは陽の脚力は並大抵のものではないことがわかってしまうものだ。
だがその瞬間に殺は体制を立て直し持ち前の瞬発力で斬りかかる。
「無駄だよ~」
殺は相手に攻撃を防がれるが、それをわかりきってたかの如く更に斬りかかる。目にも留まらぬ速さの斬撃が続いていく。
その時だった。
「だから無駄だって言ってんじゃん!」
死神の驚異的な脚力を利用した蹴りで殺は天井まで吹っ飛ばされる。一瞬のことだった。更に天井から落ちた殺を死神は攻撃する。
だが殺はそれを素手で防ぐ。
防ぎきれない攻撃はそのまま受けていてもうボロボロだ。
隙を見て攻撃を仕掛けるが避けられてしまった。
その際に足を払われかけたが、その前に床に刀を立てて防いだ。
死神は刀で足を防がれたことで足を負傷する。
「チッ!でもこの程度ならもうちょっとで……」
「殺!何故そいつに手加減するのじゃ!」
「なっ!?手加減だと!そんな馬鹿な!」
少女に取り憑かれた死神は手加減という言葉に動揺した。
何故、こいつは手加減をしているのか?
そして自分はそれなりに本気で殺そうともしていたのに手を抜かれて戦われ同等とは如何いうことかと少女は焦ってしまう。
「だって大切な仲間ですもの。無駄に怪我を増やしてほしくありません」
「じゃあ何で攻撃を!?」
「防がれることくらいわかりますよ。それに攻撃とかしないと私も殺られますし」
「うぐぐ!よそ見をするなぁぁぁぁぁぁ!!」
「「「「!?」」」」
迂闊だった。確かにこの少女が戦い慣れしてないといえどもよそ見は駄目だった。
目の前は真っ赤だ。
斬られたのだ広く深く。
意識が遠のいていく。
更に刺される。
ブスリと刀で体を刺されても何とも思わなかった。
痛みは確かに殺を襲ったがそれ以外は彼にとっては何もない。
そうして冷静にこれは死んだなと考えてしまう。
すると、ふと走馬灯の様なものが頭をよぎった。
いや、何かが違う。何かおかしい。
それは殺の記憶ではなかった。
~~~~
僕は一人だ。
何も出来ないから一人ぼっちなんだ。
なら、完璧になれば!完璧になれば誰かが居てくれる!一人じゃなくなる!
これは……陽の記憶?
これじゃ駄目なのかなぁ……。
もっと完璧に!!
完璧?彼は何を求めているんだ?
何もかも完璧になった!!これで皆が僕を見てくれる!一人じゃなくなる!
一人だった?陽……?
何で?何で!完璧になったのに!どうして皆は僕を見てくれないんだ!!どうして、どうして……。
……。
そうか……僕は永遠に一人なんだ。
だったら傷つかないように、何も求めずに……
ふざけるな……ふざけるな……。
「ふざけるなぁぁぁぁぁ!!」
バキッ!
周りは何が起こったかわからない様子だ。
只わかることは殺が死神を殴ったことだけだ。
少女が取り憑いている死神は焦って叫ぶ。
「何故だ!あれだけ斬ったのに何故動ける!?」
殺はその目に紅い鋭い光を灯す。
その姿は誰が見ても強く勇ましい絶対的な王者の姿だ。
殺は大声を死神に向ける。
「傷つかないように?求めずに?……馬鹿か貴方は!傷つかない生き方が何処にある!?求めない生が何処にある!?甘ったれんな!」
「こいつに言っているのか?無駄だこいつにはもう自我は無い!」
「うるさい!」
今まで一人だったのなら欲しいものはもうわかる、やるべきことはもうわかる。
だから殺は覚束ない足を運びながらも……。
陽を抱きしめた。
そして己の妖力を限界まで出した。
「ぎゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!?」
少女が叫ぶ。紅い光が包む。
殺はわかっていた、呪符の力の再現の仕方を。
あれは桁外れな強力な妖力で強制的に混合者を分離しているのだ。
ならば自分の妖力を最大限に活用すれば呪符は必要ない。
「呪符が無いからって強行手段にでた!?でもあんなことしたら命が危ないぞ!助けよう!」
サトリが慌てて殺の方へ行こうとする。
実際、サトリが慌てるくらい殺のやっていることは危険だった。
妖力は自身の命の塊。
それを限界まで使うということは、死ぬ可能性もあるということだった。
だが御影はサトリを止める。
「待つのじゃ!」
「御影!?でもこれじゃあ殺が!」
「もう手出しは無用じゃ。見よ、あれを」
「ぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!?」
死神の断末魔は続く。
だが殺は穏やかに死神に語りかけていく。
「陽……私たちは傷つくように産まれてきたのですよ。ですがその先も在ります。傷つくことだけが人生じゃない。その先を見せてあげますから。戻ってきてください。私は貴方に興味があるし、喧嘩相手が居ないと寂しいんですよ。だから一緒に居てください、陽……」
「ぁぁぁぁぁぁ……」
「分離されていくだと!?そんな馬鹿な!?」
少女は己が体と陽の体が分離されていくことに戸惑って何も出来なかった。
「一人じゃない……?僕は一人じゃない?」
「ええ、一人じゃありません。みんな付いてます」
「本当?」
「はい、それはもう煩いほどに」
「ははは……良かった。僕はもう一人じゃないんだ」
微かだったが、陽は少し殺に腕をまわした。
其のことに殺は微笑みを浮かべた。
紅い光が消える。
二人は抱きしめあったまま倒れこんでいた。
殺に至っては妖力を限界ギリギリまで使っていたから男装が崩れてしまっていた。
「大丈夫か!二人共!」
サトリが必死に呼びかける。
それに応えるかの如く殺は手をひらひらさせる。
「良かった!生きてた!みんな妖力を二人に分けるのじゃ!」
「あいよー!」
「了解ですわ!」
~~~~
少女の亡者はまた別に避難者を救助することを任されていた警察に捕まり妖も無事で廃校の件は何とかなったと殺は自負する。
警察は本来なら非番だった者も居たのだろう。
青の制服ではなく私服の者も多数いた。
殺はぼーっとしながら隣の陽を見る。
すると陽は殺の方を見て己の疑問を投げかけた。
「何でお前が僕を助けたんだ?絶対に助けないと思ってた」
「失礼ですね。大切な仲間を助けない馬鹿が何処にいますか。それに貴方と私は似てる様な気がして……」
「それはどういう意味で?」
「いつも冷たい態度を人前でとっては素直になれない。これ以上の親近感はありません」
「それだけかよ」
「それだけです」
「……」
「……」
「プッ……あははは!」
「しょうもない理由で悪かったですね!」
彼らは笑いあう。
それも幸せそうに。
陽はきっと大事なモノを手に入れたのだろう。
もう一人ではない。
それに殺が一人になんて絶対にさせない。
「うるさいなぁー」
「賑やかで良いじゃないかのぅ!ははは!」
「良いでございますー!」
「俺も……」
「儂も……」
「私も……」
「「「話に混ぜろーー!!」」」
あぁ幸せだ。
ありがとう、皆。
本当にありがとう。
「其処の混合者もだ!」
紅い髪を揺らして怒りの声をあげた殺の振り向いた先には手を刀に置いた死神が立っていた。
にやりと口の端を釣り上げ光を灯さない目玉で此方を向いている。
殺と死神の間に誰も居らず、殺を見ながら刀を抜きかけているところを見ると、殺を攻撃するつもりであったことが窺えた。
半分抜かれた刀は蒼の光を宿しているが本当ならば今頃は紅く染まっていたのだろう。
殺以外の三人は死神が刀を半分抜いている様を見て只々驚き、騒然とした。
「あーあ、バレちゃった!」
「貴方、あの時の少女の亡者ですね」
「ご名答!どうも!少女でーす!」
男らしい低音の声で少女はふざける。
少しくるりと回ってみたり、わざとらしい笑みを見せたりしていて気味が悪い。
「いつから気づいていたの?」
少女は不思議そうに殺に問いかける。
少女はバレない様に喋らない様にしていたのだろう。
だから他三人には気づかれていなかった。
「最初は違和感を感じた程度でしたが、あの時、私をトイレの個室から締め出した時に貴方の幼い笑顔が頭の中に過ぎった。其にあの時、貴方笑ってましたよ。うふふって。男の陽があんな笑い方をするわけがない。だから貴方が取り憑いたのでは、という考えが出来ました」
「ふーん……」
少女は少しつまらなさそうな表情をする。
バレずに殺したかった、バレない様に。
そこには子供らしい悪戯心があったのだろう。
しかしそれは人を殺そうといった異常さがあるが。
だが、いつまでも落胆しているわけでもなかった。
少女は笑う。
不意打ちは失敗したが、計画自体は失敗してはいない。
そう考えてにやりと笑う。
そうして戯けながら殺たちに向かって語りかけていった。
少女が己の計画に陽を選んだわけを。
「この人が気に入ったの」
「気に入った?」
皆が訳がわからず只、呆然とする。
何故、陽を気に入った?
わからない、少女を警戒しながらも只々考えてその場で立っているだけだった。
殺以外のみなが、如何対処すべきかと焦って顔に少し汗を滲ます。
そんな皆の様子を見た少女は面白そうに笑いながら言葉を発した。
「そう!この人の悲しみや憎しみ身体の強さ!全てが完璧で私好み!後はさらに貴方たちを飲み込んで強くなったらあの偉そうにしている自称大将を超えられる!中級のハンデがなくなるの!」
中級とは妖のことかとすぐに理解する。
今まで殺たちが短い時間であまりてこずらず混合者を倒せてきていたのは、普通の亡者と中級の妖の混合であり、呪符があったからこそだ。
妖には下級、中級、上級の者がいる。
それらは安易なはかりだが、強さで決まっているのだ。
少女が混合しているのは中級の妖。
だが今は呪符が無い上に、混合者であった少女は死神に取り憑いているのだ。
死神は仕事が肉体労働ではないから地獄内で働く獄卒たちには弱いと認識されている。
だが実際は死神の標準的な強さは、妖の上級に達する。
中級どころの話じゃない。
これでは今までとは比べ物にならないくらいに手強いではないか。
それと自称大将とは恐らく最後の敵のことだ。
陽を助けた後に最後の敵の力のことも訊かねば。
少女は刀をさっと抜く。
「さあ、時は来た!私の力を見せつけてやるの!その為の犠牲となれ!」
「させるか!」
殺が叫ぶと同時に刀同士が激しくぶつかり合い、キィィィンッと耳に障る金属音が鳴る。
一瞬で殺の頭上付近まで移動し柄を握りしめ、圧を従え真っ直ぐ振り下ろした少女の刀を殺は正面から受け止めた。
「「「殺(様)!」」」
殺はその場で刀を斜めに構え、より強い力で少女の刀を押し返す。
「こいつの相手は私にさせてください!」
「でも!」
御影は心配そうに言う。
だが殺は譲らない。
「私ならなんとか出来ます!」
「……ちっ、わかったわい!」
殺は一度物事を決めると最後まで、皆が止めてもやり通すことを御影は知っている。
だから今回も止められない、そう悟って戦いに一人赴く殺を止めなかった。
サトリも御影と同じ考えだ。
それはなんとなくだがMにもわかったから殺を止めるのを無駄と判断する。
だが窮地の時は殺を助けよう、そう思い皆は武器を構えていた。
「さぁ、返して貰おうか。陽を!」
「嫌だね~!貴方たちも大して役に立たない奴なんて要らないでしょう?」
少女は殺を煽る。
「陽は確かにビビりで辛党で文句も言う。
でも仲間のことは誰よりも大切に想っている良い方です!救助には真摯な姿勢で取り組み一生懸命助けようとする。そんな方が要らない訳がない!」
「なら私から取り戻してみなよ!出来るならね!きゃははは!」
「望むところだ!」
金属がぶつかり合う音が響き渡り、斬撃が繰り広げられる。
その光景は見る者を圧倒する力強さがあり、みな戦いに釘付けになる。
美しい紅き光を放つ殺の斬撃、殺の神気に満たされた刀はどこまでも荘厳な雰囲気であった。
殺にとって陽をかけたこの戦い、負ける訳にはいかないのだ。
「どうしたの!この程度?」
「……」
ヒュッ
「!?」
敵が目の前から消える。
そのことに殺は冷静に分析を巡らせた。
(敵が消えた!?いや、まさか)
「正解!後ろだよ!」
ザシュッと音が聞こえた。
殺の背中に大きな斬撃が入ったかと思えば、その直後に蹴りが入れられる。
「ガハッ!」
そのまま体育館の壁に減り込む。
壁に減り込んでしまうとは陽の脚力は並大抵のものではないことがわかってしまうものだ。
だがその瞬間に殺は体制を立て直し持ち前の瞬発力で斬りかかる。
「無駄だよ~」
殺は相手に攻撃を防がれるが、それをわかりきってたかの如く更に斬りかかる。目にも留まらぬ速さの斬撃が続いていく。
その時だった。
「だから無駄だって言ってんじゃん!」
死神の驚異的な脚力を利用した蹴りで殺は天井まで吹っ飛ばされる。一瞬のことだった。更に天井から落ちた殺を死神は攻撃する。
だが殺はそれを素手で防ぐ。
防ぎきれない攻撃はそのまま受けていてもうボロボロだ。
隙を見て攻撃を仕掛けるが避けられてしまった。
その際に足を払われかけたが、その前に床に刀を立てて防いだ。
死神は刀で足を防がれたことで足を負傷する。
「チッ!でもこの程度ならもうちょっとで……」
「殺!何故そいつに手加減するのじゃ!」
「なっ!?手加減だと!そんな馬鹿な!」
少女に取り憑かれた死神は手加減という言葉に動揺した。
何故、こいつは手加減をしているのか?
そして自分はそれなりに本気で殺そうともしていたのに手を抜かれて戦われ同等とは如何いうことかと少女は焦ってしまう。
「だって大切な仲間ですもの。無駄に怪我を増やしてほしくありません」
「じゃあ何で攻撃を!?」
「防がれることくらいわかりますよ。それに攻撃とかしないと私も殺られますし」
「うぐぐ!よそ見をするなぁぁぁぁぁぁ!!」
「「「「!?」」」」
迂闊だった。確かにこの少女が戦い慣れしてないといえどもよそ見は駄目だった。
目の前は真っ赤だ。
斬られたのだ広く深く。
意識が遠のいていく。
更に刺される。
ブスリと刀で体を刺されても何とも思わなかった。
痛みは確かに殺を襲ったがそれ以外は彼にとっては何もない。
そうして冷静にこれは死んだなと考えてしまう。
すると、ふと走馬灯の様なものが頭をよぎった。
いや、何かが違う。何かおかしい。
それは殺の記憶ではなかった。
~~~~
僕は一人だ。
何も出来ないから一人ぼっちなんだ。
なら、完璧になれば!完璧になれば誰かが居てくれる!一人じゃなくなる!
これは……陽の記憶?
これじゃ駄目なのかなぁ……。
もっと完璧に!!
完璧?彼は何を求めているんだ?
何もかも完璧になった!!これで皆が僕を見てくれる!一人じゃなくなる!
一人だった?陽……?
何で?何で!完璧になったのに!どうして皆は僕を見てくれないんだ!!どうして、どうして……。
……。
そうか……僕は永遠に一人なんだ。
だったら傷つかないように、何も求めずに……
ふざけるな……ふざけるな……。
「ふざけるなぁぁぁぁぁ!!」
バキッ!
周りは何が起こったかわからない様子だ。
只わかることは殺が死神を殴ったことだけだ。
少女が取り憑いている死神は焦って叫ぶ。
「何故だ!あれだけ斬ったのに何故動ける!?」
殺はその目に紅い鋭い光を灯す。
その姿は誰が見ても強く勇ましい絶対的な王者の姿だ。
殺は大声を死神に向ける。
「傷つかないように?求めずに?……馬鹿か貴方は!傷つかない生き方が何処にある!?求めない生が何処にある!?甘ったれんな!」
「こいつに言っているのか?無駄だこいつにはもう自我は無い!」
「うるさい!」
今まで一人だったのなら欲しいものはもうわかる、やるべきことはもうわかる。
だから殺は覚束ない足を運びながらも……。
陽を抱きしめた。
そして己の妖力を限界まで出した。
「ぎゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!?」
少女が叫ぶ。紅い光が包む。
殺はわかっていた、呪符の力の再現の仕方を。
あれは桁外れな強力な妖力で強制的に混合者を分離しているのだ。
ならば自分の妖力を最大限に活用すれば呪符は必要ない。
「呪符が無いからって強行手段にでた!?でもあんなことしたら命が危ないぞ!助けよう!」
サトリが慌てて殺の方へ行こうとする。
実際、サトリが慌てるくらい殺のやっていることは危険だった。
妖力は自身の命の塊。
それを限界まで使うということは、死ぬ可能性もあるということだった。
だが御影はサトリを止める。
「待つのじゃ!」
「御影!?でもこれじゃあ殺が!」
「もう手出しは無用じゃ。見よ、あれを」
「ぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!?」
死神の断末魔は続く。
だが殺は穏やかに死神に語りかけていく。
「陽……私たちは傷つくように産まれてきたのですよ。ですがその先も在ります。傷つくことだけが人生じゃない。その先を見せてあげますから。戻ってきてください。私は貴方に興味があるし、喧嘩相手が居ないと寂しいんですよ。だから一緒に居てください、陽……」
「ぁぁぁぁぁぁ……」
「分離されていくだと!?そんな馬鹿な!?」
少女は己が体と陽の体が分離されていくことに戸惑って何も出来なかった。
「一人じゃない……?僕は一人じゃない?」
「ええ、一人じゃありません。みんな付いてます」
「本当?」
「はい、それはもう煩いほどに」
「ははは……良かった。僕はもう一人じゃないんだ」
微かだったが、陽は少し殺に腕をまわした。
其のことに殺は微笑みを浮かべた。
紅い光が消える。
二人は抱きしめあったまま倒れこんでいた。
殺に至っては妖力を限界ギリギリまで使っていたから男装が崩れてしまっていた。
「大丈夫か!二人共!」
サトリが必死に呼びかける。
それに応えるかの如く殺は手をひらひらさせる。
「良かった!生きてた!みんな妖力を二人に分けるのじゃ!」
「あいよー!」
「了解ですわ!」
~~~~
少女の亡者はまた別に避難者を救助することを任されていた警察に捕まり妖も無事で廃校の件は何とかなったと殺は自負する。
警察は本来なら非番だった者も居たのだろう。
青の制服ではなく私服の者も多数いた。
殺はぼーっとしながら隣の陽を見る。
すると陽は殺の方を見て己の疑問を投げかけた。
「何でお前が僕を助けたんだ?絶対に助けないと思ってた」
「失礼ですね。大切な仲間を助けない馬鹿が何処にいますか。それに貴方と私は似てる様な気がして……」
「それはどういう意味で?」
「いつも冷たい態度を人前でとっては素直になれない。これ以上の親近感はありません」
「それだけかよ」
「それだけです」
「……」
「……」
「プッ……あははは!」
「しょうもない理由で悪かったですね!」
彼らは笑いあう。
それも幸せそうに。
陽はきっと大事なモノを手に入れたのだろう。
もう一人ではない。
それに殺が一人になんて絶対にさせない。
「うるさいなぁー」
「賑やかで良いじゃないかのぅ!ははは!」
「良いでございますー!」
「俺も……」
「儂も……」
「私も……」
「「「話に混ぜろーー!!」」」
あぁ幸せだ。
ありがとう、皆。
本当にありがとう。
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【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎
長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!?
しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。
ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。
といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。
とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない!
フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!
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