地獄の日常は悲劇か喜劇か?〜誰も悪くない、だけど私たちは争いあう。それが運命だから!〜

紅芋

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冥王VS殺

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「姫は返してもらいます」

 冥王と小夜子は絶望する。
 特に小夜子は同情してくれると思ってあったからこそ絶望が大きかった。
 式神が認めたからこそあの世界から出られた筈なのにと小夜子は嘆く。

 冥王は虚ろな瞳を浮かべる。
 瞬間に冥王の手のひらから光りの玉が現れた。
 人殺し課職員に向けて飛ばされた光りを避けると光りとぶつかった壁が壊れる。
 いきなりの先制攻撃……。
 それは人を殺すのには充分だった。
 殺は一人で冥王の前に立つ。

「私が相手ですよ、冥王様!」

 殺が勢いよく冥王を斬りつける。
 だがそれは冥王の力技で防がれてしまいすぐに殺は殴り飛ばされた。
 冥王は大きな大剣を異空間から取り出し振り乱す。
 彼は狂っていた。
 自分たちの幸せが壊されることが怖くて狂っていた。
 冥王は剣を殺に向ける。

「邪魔をしないでくれ……」

 瞬間に殴り飛ばした殺の下へとほんの一秒程で詰め寄り刃を振り下ろす。
 金属が擦れる音が響いた。
 冥王は力強く剣を振り回す。
 其のあまりの勢いに殺は少し……否、だいぶ恐れ慄いてしまった。
 それでも殺は恐れに負けず、声を荒げる。

「貴方たちは同情が欲しいのでしょうが私たちは同情しませんね!姫は返してもらいます、それが仕事ですから!」

 冥王は顔を憤怒に歪める。
 自分から姫を、小夜子を奪う存在が憎くて顔を歪める。

「それならば……死ねぇぇぇぇぇえ!」

 剣撃に意識を集中させていた殺の足に何かが絡みつく。
 それは硬く鎖の様な物だった。
 鎖は冥王の手のひらに繋がっていることから殺は嫌な想像をする。
 だがそれはすぐに現実となった。

「はぁぁぁぁぁぁ!!」

「ぐっ!」

 鎖に繋がれた所為で冥王にぐるぐると振り回される。
 頭が回って吐き気を覚えてしまう。
 散々振り回されて殺は壁へ、床へと減り込んでいく。

「がっ……は!」

 小さな呻き声が殺の生きている証だった。
 だがそれでも人殺し課の職員は動かなかった。
 いや、殺が自分で戦うと先に言ったからこそだ。
 殺が真剣に冥王と戦いたいと願ってしまい、それを叶えたまでの話である。
 だが、心配していないと言えば嘘になるものだ。

「殺!大丈夫か?!」

 陽の必死な声に殺は手をあげて無事を知らせた。
 だがそう簡単には終わらない。

「うォォォォォォォ!!」

 金色の光りと鎖が殺に向かって飛んできたのだ。
 殺は冷静に光りを避けていく。
 避けられた光りは壁や床を破壊して、命中すればひとたまりもないことを証明する。
 そんな恐怖が襲い来る中で殺は瞬間的に冥王の背後をとる。

「背後はとらせてもらいますよ」

 紅い闇が殺の刀を包む。
 冥王は急いで背後を振り向き防御の体制を取るが少しだけ傷を受けた。
 受けた傷から紅い闇が入り込み冥王は苦しんでいく。
 それを見ていた小夜子は冥王を庇おうとするがサトリと御影に取り押さえられた。

「何で?!冥王様が苦しんでる!」

「なら殺が苦しんでもいいのか?」

 サトリの一言に小夜子は動けなくなる。
 それに追い打ちをかける様に殺が言葉を放っていった。

「貴方たちは自分だけのことしか考えてない様ですね。姫様、貴方は自分から冥王様のもとへ行ったのでしょう?そして冥王様に匿ってもらっていた」

 姫の家は外からの気配に気がつくが中から出ることには気づかない作りだった。
 それが姫の家出を物語っていた。

「冥王様はおそらく貴方に汚名が被らない様にと自分が攫った形にしたのでしょうが、本当にくだらないですね。貴方たちの自分勝手な行動でどれ程の者が混乱したかわかっているのですか?」

 殺は冥王の身体に深く傷をつける。
 大きな悲鳴があがる、それは正に地獄絵図だった。
 小夜子は昔の様に泣き続ける。
 お願い、もうやめてと……。
 だが殺は冥王を斬り刻む手を止めない。
 本来ならとても強い冥王だが、今回は怒りで攻撃が大雑把だった。
 だからこそ殺はすぐに優勢になれたのだ。

「貴方の我儘が冥王様を傷つけたのですよ、貴方が悪い!」

「私は……私が……!」

 小夜子は嘆く。
 自分が悪いと言われれば否定は出来なかった。
 自分の我儘で冥王を傷つけたことは嘘ではなかった。
 冥王に涙を流させてしまった、彼を敵だらけにしてしまった。
 小夜子は一人で泣き続ける。

「小夜子は……悪くない!」

 冥王は殺の手首を掴み壁へと放り投げる。
 勢いよく投げられた殺の身体は壁を破壊して悲鳴をあげる。

「ぐふっ……!」

 少しだけ唇を噛み切ってしまい端から血が溢れ出る。
 鉄の匂いが鼻につき殺は顔を歪めた。

「小夜子は悪くない!いつも必死で頑張っていて優しい!誰よりも立派な子だ!」

 冥王は殺に斬り刻まれた傷を気にすることなく立ち上がる。
 その姿は正しく偉大なる王様の姿だった。
 殺は冥王のもとへ走り殴ろうとする。
 だが冥王の拳は殺よりも早かった。

 殺の腹に拳が入る。
 殺は苦悶の表情を浮かべるがすぐさま攻撃に切り替えた。
 だって、もう冥王は立ち上がることしか出来なかったのだら。
 きっと最後の力を振り絞って殺を殴ったのだろう。
 殺に斬られた身体はもう限界だった。
 紅い闇が彼の身体を蝕んでいて立つのもやっとだった。

「貴方の負けです、冥王様。姫はうちの課で預かります」

 殺は「貴方が怒りに身を任せなければ良かったのですが」と冷静に分析する。
 刀を突きつけられた冥王はそれでも最後まで諦めない姿を見せていて立派としか称賛が出来なかった。
 それを悪足掻きという者は誰もいないだろう。

「我は諦めない……!小夜子は我が!」

「……生憎、うちの課は独立していて他の者は関われないのですよ。それに仕事をサボる馬鹿も沢山……そんな援軍の居ない課にまた冥王が来たら困りますね」

 殺は「どうしましょう」と頭を抱える振りをする。
 冥王は少し黙ってから殺の真意に気づく。
 小夜子も殺の言葉の意味に気づき、また涙を流す。

「ありがとうございます……」

 小夜子は幸せそうに笑いながら泣く。
 その姿を他の者が見たら美しいというのだろうと殺は静かに思った。

「……小夜子をまた攫いにいくから覚悟しろ」

「精々、バレない様に来てくださいね。お土産も待ってます」

 手をひらひらと振りながら殺は冥王の城から去っていった。
 人殺し課の者も手を振りながら別れの挨拶をする。

「本当にありがとうございます……!」

 広い宮殿に小夜子のお礼の言葉が響いたが、過ぎ去っていった彼らには聞こえなかった。







「……冥王様、昨日の今日で来るのですね」

「傷はすぐに癒したからいいかなと思って!」

 昨日、斬り刻んだ傷が全て癒えている冥王を見て殺は治癒力を分けてもらおうかと本気で悩む。
 冥王はお土産に手作りのパウンドケーキを持ってきて皆に振舞っていた。
 だが殺は疑問を投げかける。

「いつになったら帰るのですか……?」

「仕事道具は持ってきてるから長居する気だ!」

 堂々と答える冥王に殺は疲れを感じる。
 また馬鹿が増えてしまったことに悩みながらも殺はパウンドケーキを口にする。

「美味い……」

 こんなお土産がくるのなら冥王は少しだけ歓迎しよう、そう殺は密かに笑った。







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