地獄の日常は悲劇か喜劇か?〜誰も悪くない、だけど私たちは争いあう。それが運命だから!〜

紅芋

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歪みと望み

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 昔、私は何もかもが普通で順風満帆の日々を送っていた。
 その生活は自分にとってかけがえのない大切な時間であった。
 自分を慕ってくれる仲間の為に働く人生は幸せに満ち溢れていて、この生活が永遠に続くとそう思っていた。
 思っていたんだ。
 久遠様が現れるまでは……。





 遠い昔、日本から厄介な子供を預かることになった。
 それはもうその少年が放っている狂気じみた気だけで人を殺せそうな勢いだった。
 当時の私は上司に命令をされてその少年……久遠様の面倒を見ることになったのだ。
 新入りの少年と言えども日本にしか生まれない特別な力を持った存在である。
 自分より価値がある為に私はその少年を久遠様と呼ぶことにした。

 久遠様は確かに子供だったが、他の子供とは比べ物にならないほどの狂気が凄まじく私は彼の側にいるのが毎日怖くてたまらなかった。
 でもそれでも命令されたのならば成し遂げなくてはならない、それがたとえ永遠の任務だとしても……。

 私はいつ死ぬかも分からない日常に覚悟を決めて久遠様の側に居た。
 でもいつも彼は遠い目をして「殺……会いたい」などと呟いていた。
 殺……確か久遠様と一緒に産まれて久遠様を拒み呪われた者。
 そんな情報はとっくの昔に出回っていた。
 ただ、自分が気になるのはその少女のことである。

 少女は久遠様を拒んだが故に男として生きる呪いをかけられてしまった。
 今、その子は辛い毎日を送っているだろう。
 もし自分がその少女を救うことが出来れば……なんて出来もしないことを毎日考えてしまう。
 私が今しなければならないのは久遠様の面倒を見ることだ。

 それ以外は自分の仕事をこなすだけ。
 少女のことを考えていては全てが円滑に回らない。
 私は少女のことで苦しい胸を抑えながら久遠様の従者として過ごすこととなった。


~~~~


「ねえ、お前の名前は?」

「……」

 私は久遠様と過ごしている間は名前などなのっていなかった。
 いや、なのりたくないと言ったところが正しいのか?
 何せ彼は呪術に長けていて名前などなのれば彼が気にくわないことがあったとき腹いせで名前を使って呪われるかもしれないからだ。
 でも久遠様はしつこく名前を聞いてくる。

「ねーえ!なーまーえー」

 今のこの姿だけであったら普通の子供に見えるかもしれないが実際は想い人に呪いを躊躇なくかけた魔物だ。
 迂闊に名前などバラしたくもない。
 だが彼は今、自分の主なのだ……命令として聞かれたら答えるしかない。

 出来れば命令として聞かれないようにと祈る。
 でも結局は「命令だ!」と最終手段を使われて名前をなのることになってしまった。
 私は少しの間だが沈黙を通してしまう、それを見た久遠様は不機嫌な顔から急に水を得た魚のような顔つきになった。
 私はそれを見て疑問符が浮かんだその瞬間だった。

 バキッ。

 何かが折れる音がした。
 その瞬間に腕に鈍い痛みが走る。
 恐る恐るゆっくりと自分の腕に目をやれば、そこには目も当てられない光景が広がっていた。

「ぎゃぁぁぁぁぁぁぁ!?」

 全てを認識した瞬間、痛みは鋭いものに変わる。
 腕を見れば骨が折れ、肉を突き破り血がピチャリと音を立てて溢れ落ちていっていたのだ。
 久遠様は笑顔で私に近づいたと思えば私を突き破った骨を掴んで握りしめる。
 それが痛くて痛くてたまらない。
 悲鳴をあげても誰もこない現実が自分の胸に恐怖を焼き付ける。

 いくら悲鳴をあげても痛みは治らない。
 それにどんどん骨が曲がり崩れていく。
 私は地面に倒れて悶え苦しんだ。
 そんな私を見て久遠様は気味の悪い笑みを浮かべながら私の耳元で囁く。

「俺様はな、名前をなのられなくても呪いをかけることは楽勝なんだよ。分かったら名前を教えろよ。そうしたら治してやる」

 この子供……いや、魔物はあまりにも危険すぎる。
 私はこの時にまた別の覚悟を決めた。
 自分はどれだけ傷ついてもいい、周りを傷つけないようにすると……そう決めた。
 だから私は彼の機嫌を損ねない為に名をなのる。

「私は白蓮といいます。これからもどうぞ宜しくお願い申し上げます」

 名前をなのれば彼は満足そうに「よろしくな!」といい傷を治してから手を差しだす。
 その無邪気な笑顔が私の恐怖心を煽っていく、誰も私と久遠様に手出ししないようにという命令の所為で助けがこない日々がくる。
 思えばあの命令は私以外の被害者を出さないようにということだったのでは?
 つまり私は生贄?

 そんなことの所為で私の日常が崩される?仲間と一緒にいることすらも許されない?
 でも、たとえ二度と仲間と言葉を交わすことが出来なくなろうが大切な仲間だ、守りきってやる。
 この魔物の手から絶対に守り通してやる。
 この日から私の戦いは始まった。


~~~~



「久遠様、この服は如何ですか?なかなかかっこいいと思うのですが?」

「それ良いな!!今日はそれ着て仕事して~散歩して~麻婆豆腐を食べて~~杏仁豆腐~~を~~」

「ふふっ、食べ物ばかりですね」

「む~~!別にいいだろ!」

「はいはい、良いですね」

 おかしなことに私は久遠様との日常を普通だと思うようになっていた。
 実際あの時以来、久遠様は私に呪いを使っていない。
 それどころか久遠様は私を唯一の友人として大切に私を扱ってくださっている。

 彼は毎日、必ず一回はこう話している「縁とは大切なものだ、人と人を繋ぐ縁を俺様は大切にしたい」そうやって彼は笑う。
 その笑顔が優しくて私の中の希望となってゆく。
 久遠様はいつも私を抱きしめて「お前は俺様とずっと一緒にいてくれるよな?」と確かめてくる。
 私はその度に笑顔で「もちろん、いつまでも一緒ですよ」と答える。

 それを彼は確認したら嬉しそうに更に抱きついてくる。
 私はそれが幸せで仕方がない。
 久遠様と仕事をして、一緒に散歩して、ご飯やお菓子を食べる日常が楽しくて仕方がなかった。

「久遠様、杏仁豆腐を作ってみましたよ」

「お前!料理も出来たのか?」

「貴方の喜ぶ顔が見たくて練習しました」

「お~~!!ありがとう!!」

 私は今の人生も幸せだと思える。
 だってたとえ狂気に満ち溢れていても彼は素直に生きていて私を頼り大切なもののように扱ってくれる。
 これほど幸せなことはない。
 だから私はまた決めごとをした。
 久遠様の幸せを守ると……。

「久遠様……私は貴方を裏切りません。だから久遠様も私の側から離れないでください……」

「白蓮……もちろん離れないぜ」

 ああ、私は久遠様と共に生きるんだ。
 彼が望むことは叶えてみせなければならない。
 久遠様は私と永遠に生きてくれる。
 それ以上の幸せはない。




「殺……」

「久遠様……」

 ある時、久遠様はいつになく暗い顔つきで下を向いていた。
 私はそれが気になり彼にどうしたのか聞いてみた。
 久遠様は真面目に「殺の髪が黒くなれば迎えに行くんだけど……まだなんだよ。もう少しだけど我慢が出来なくて……」そう呟いた。

 私は久遠様の為に動きたいと思い彼に私が出来ることは?と訊ねてしまった。
 私が動くのが嬉しかったのか急にパァと笑顔を見せてお願いごとを頼んできた。
 内容は「殺の大切なものを奪え」ただそれだけだった。
 私はそれをお安い御用と願いを受けてしまった。

 殺様の大切なものを盗む……。
 あの方はきっと私の気配に気づいてしまう。
 だから私は久遠様に頼んで半分だけ自分を殺してもらった。
 彼は「ここまでさせて悪いな」と申し訳なさそうに答えるが私は笑顔で久遠様に抱きついて「大丈夫ですよ」と囁いた。
 久遠様は笑顔を浮かべて「よろしく頼む」と一言だけ答えて私を日本に送ってくれた。


~~~~



 最初は殺様の大切なものを盗むことは順調であった。
 だが暫くすると殺様の辛そうな顔を毎日見るようになり昔、殺様を心配していた感覚が蘇ってしまっていた。
 その感覚が戻れば久遠様の「殺の大切なものを奪え」という命令がどれだけ歪んでいたかがようやっと理解出来てしまった。

 でも、もう後戻りは出来ない。
 久遠様を裏切ることはしたくないんだ。
 彼は私にとって大切な人なんだ。
 だから、私はどうすればいいか分からない。
「殺の一番の大切なものを奪え」
 それが久遠様にとっての幸せなのか?

 もう分からない……。
 私は久遠様の為に動かなければ……。
 久遠様、私に答えをください。
 じゃないと私はおかしくなりそうです……。



 私は久遠様と幸せに過ごしたいだけなのです……。
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