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大切なものの消失
しおりを挟む大切なものが消えていく日常……。
とうとう仲間まで巻き込んでしまった。
殺は一人で壊れたかの様に地面に足をつけた。
崩れ落ちていく……何もかもが無くなる。
そんな恐怖が今までずっと膨れ上がって来ていたことにようやく気づいた彼はただ、無表情になりいつまでも下を向いていた。
そんな殺を見兼ねた御影は彼に希望を捨てるなと叱咤する。
「殺!!まだ陽は無くなっていない!!犯人を見つけて取り返せばいいだけじゃ!」
「御影兄さん……!」
ここでやっと殺は理性を取り戻していき犯人という存在のことを考えながら陽の無事を祈る。
陽が消えたとはいえ、まだ死んだとは決まっていない。
希望を持って捜索を行わなければならないのだ。
じゃないと少しのことで己が崩れていきそうな感覚に陥り自分がどんどん壊れて静かに狂うような気がして。
殺は烈火の如く犯人を憎んでいた。
明らかに悪質を超えた犯行は確実に殺の狂気心を燻らせていき心を憎しみで溺れさせていく。
彼の目に映るのはまだ見ぬ犯人を甚振り殺す光景のみだった。
殺は普段は冷静だが偶に……ほんの偶にだ、まるで本能のままに行動しているのでは?と思うときがある。
そう思うときは基本何かが危機に瀕しているときだ。
彼は地獄に対する攻撃に本能で行動してしまったことがある。
その後は殺は「私はまだ未熟といったところですね」と発言をしているが、あれは未熟という言葉で済むような状態ではなかった。
あれは獣だ。
いや、化け物といったほうが正しいのか?
おぞましいほどの狂気は周りすらも狂わしていき怒りが広がり、やがて憎しみの海になる。
その海の中で溺れて死んでいくとも思わずに……。
「サトリ兄さん……」
「……何だ?」
サトリは少し殺に警戒をしながら用件を聞こうとする。
殺は相変わらず気味の悪い笑みを浮かべているだけで何も普段と変わらない態度だ。
態度だけは普通だ、普通。
だがやはり発言は物騒なもので……。
「殺しはしませんが、どのようなやり方が一番犯人が苦しむでしょうか?」
「いや、まず落ち着こう」
「落ち着いてますが?」
「うん、落ち着いてないな」
完全に落ち着いていない殺に対して冷静にサトリは突っ込みを返す。
これは誰か一人がおかしなテンションになると誰かが必ず冷静になる現象である。
サトリはその冷静な役を買って出てしまったことに後悔しかける。
だが御影もMも冷静に考えていて、サトリは(あ、別にこれは自分一人が考えなくてもいいやつだ)と一人で頭の中でまとめた。
サトリは少し肩の荷が下りて早めに捜索を開始しなければならないと発言をした。
「そうですね。探しましょう……」
にこりと笑うが周りの空気が明らかに凍っているのはもう突っ込まないと人殺し課の職員は固く誓って陽の捜索の為に外へ出ることにした。
「と言ってもな……どうやって捜索すればいいんだよ?」
「取り敢えず目撃情報を集めたり……」
「全然集まらんがのぅ……」
「夜は人が全然居ませんから……」
皆は目撃情報を集めて捜そうとしていたが予想以上に目撃情報が集まらないと言う最悪な状況に頭を悩ませる。
陽が通ったと思われる道は夜は人通りが無いと言っても過言でないほどで人が通ったところで街灯がない故に誰が誰か分からないのだ。
あまりにも絶望的な状況に殺は苛立ちを隠せていない……それどころか只管チョコレートを食べている。
これはストレスによる過食の一種だろう。
早く解決しなければ後が困る。
その時だった。
「わん!わん!」
「桜子?」
一応、捜索の為に連れていた桜子が何かに反応したのだ。
桜子は急いで走っていき、皆はそれを駆け足で追いかけていく。
ほんの少しの間だが全力疾走した所為で人殺し課の彼らは息切れでダウンしていた。
皆がゼェゼェと息を切らして汗を流す……それは陽の為にだ、仲間の為に彼らは動く。
たとえどんなに生意気でも優しい大切な仲間なのだから……。
桜子はある一点をくるくる回って何かを知らせようとしている。
「何だ……!これは……!?」
そこには少量だが少し劣化した茶色に近い血痕がついていた。
桜子は明らかにこの不自然な血痕に反応している……まるでこの血痕が陽の血とでも言うように。
殺はただ呆然と血を眺める。
陽が簡単に連れ去られるということは陽自身にとってもあまりにも突然の出来事だったのだろう。
誰も予知が出来なかった事態、誰も責任を感じなくてもいいのに人殺し課の彼らは何故こんな時に一人にしてしまったのかと自責の念に駆られていく。
「御影兄さん……、少量ですが血があるのなら術を使って陽を捜せますよね?」
殺は突然だが冷静になっていた。
彼はいきなりだが成長したのだろう。
己が大切な者を守るが為に、皆の上に立つ者として彼はこの事件をきっかけに成長を遂げたのだ。
それを見てやっと皆は安心を覚える。
御影は落ち着いた殺に対して呪いのことを考えていた。
「血を使った術か……、よし!本気を出すか!」
「御影兄さん……ありがとうございます」
殺は静かに微笑んで礼を言う。
その姿は先程までの狂った鬼とは違う、それは神の頂点に立ち絶対王者だと思わせる。
彼は真剣な表情を浮かべて何故こんな事件が起きたのか考えていた。
(どれもこれも私関係のものだけだ……よほど私に執着して……!)
殺の体に悪寒が走る。
体が震えて脳が考えることを拒絶しようとし、ある『一説』を除けようとしていたがどうしても頭の中でそれが蔓延ってしまう。
拒絶が出来なかった反動で髪を少しだけ抜いてしまえば、また体が震える結果が待っていた。
(髪が……少しだけ黒ずんで?呪いが解けかけているのか……?)
呪いが解けかけている、このタイミングで……。
それに前回だが久遠は直接陽を殺そうとしていた。
奴はもういつでも動く気が満々だ。
呪いが解けかける意味は女に戻るという意味……。
体は女のままだから力は変わらない、だから強さの面では不安は殺には無かった。
だが、女に戻ると久遠は必ず動く……。
今回の事件はその時がもうすぐ来るということかと考えれば吐き気が押し寄せてくる。
「……御影兄さん、早く陽を探しましょう」
「ああ!もちろんだ!」
殺はいつもと変わらない表情で指示を出す。
吐き気を我慢して、怖い気持ちを我慢して……。
彼は明るく考えることにした。
これがもし本当に久遠が関係していたら久遠を倒して何もかも重荷を捨てようと。
「さあ、陽を助けましょう……」
殺はゆっくりと瞼を閉じていく、陽の無事を祈りながら……久遠をいつか絶対に倒そうと物騒なことを祈ってどんな結末でも受け入れる覚悟を決めて彼は成長していく。
「ん……、!?」
陽は目が覚めると見知らぬ場所……いや、一度だが見たことがある場所の柱に縛りつけられていた。
少し前に見た中国の文化が美しく体現されていて玉座が飾られているあの場所……。
「你好、目覚めはどうだ?」
「お前は……久遠!!」
そこにはニタニタと奇妙なほどご機嫌に笑っている久遠が立っていた。
彼の浮かべている笑みは今までに見たことがないかのような気持ちの悪い……胸糞が悪くなるような笑みであった。
「僕を攫ってどうするつもりだ……」
陽が強気に発言をした瞬間だった。
ドカッ!!
鈍い音がして陽はへたり込む。
久遠は刀の鞘で陽を殴ったのだ。
それもよっぽど楽しそうに殴っていた。
「ははは!殺を誑かした罰だぜ!!」
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久遠は気づいてなかった。
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