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迫り来る危機
しおりを挟む久遠様は殺様の大切なものを奪えと言った。
実は私は久遠様が最近わからなくなってきた。
でも半分死んでいる私でも久遠様は異常だということはわかる。
何故、大切な人に呪いをかけるのか?
何故、大切な人の大切なものを奪おうとするのか?
わからない。
でも命令は絶対だ。
久遠様の従者で友達である限りは逆らえない。
だから……殺様、すいません。
貴方の大切なものを奪わせていただきます。
~~~~
「考えても答えは出ないのぅ」
「こうなれば早く犯人を取っ捕まえて動機を吐かせなければいけませんわ!」
人殺し課はかつてないほどに本気になっていた。
今までも本気ではあったが今度は身内に起こった事件だ。
しかも異常性を感じる。
殺も若干だが気持ち悪さを感じてきたほどだ。
だが、仲間が護衛についてくれるのなら話は別で安心感が膨大に膨れ上がる。
殺は良き仲間を自分は持ったと言う感情に少しだけ嬉しさが隠せずに微笑みを浮かべてしまう。
その笑みを見た人殺し課の者は「何を笑ってんの~~?」と殺をからかいにかかる。
もちろん彼はからかったサトリの頭を叩く。
サトリは涙目で「痛い~~」と嘆いている。
まあ、もうお馴染みだが全員に無視を決め込まれていた……。
早速、人殺し課の職員は殺の護衛をしていた。
していたが……
「厠にまでついてこないでください!!」
「えーー?何でーー?」
サトリが口笛を吹きながら厠の個室に居る殺に問いかける。
Mは何故か男子の厠に入るのを躊躇していない。
御影にいたっては悪気は全くもってないから余計にタチが悪い。
「殺様~~!安心して用を足してくださ~い!」
「安心が出来る状況に思えますか?!」
殺は一人個室の中で叫ぶ。
だがそこに待ち望んでいた救世主が現れる。
全てをまとめて持ち直してくれる常識を持った者……。
「少し離れただけでお前らは何をやってるんだ!!」
やっと来てくれた救世主……陽!!
だが厠の前で叫ばれるのも辛いものがあると殺は一人で悶々と頭を抱える。
陽は説教に夢中でまだ個室の前ということに気づいていない。
彼は常識を持ってはいるが残念な存在だ。
「陽……取り敢えず場所を移動して説教をしてください……」
個室の中だから気づかれてないが殺の目はもはや死んだ魚の様な目になっていた。
陽は殺の声に気づき慌てて「あ、ああ。すまない!」そう急いで言葉を返した。
言葉通りに場所を変えて説教をしてくれた陽に感謝をして殺は用を足す。
彼は厠から出た後に惨劇を目にした。
「こ……れは……?」
ホラー展開の方がまだ良かった。
厠を出て彼が目にしたものはぐるぐる巻きに縛られて天井に吊るされている陽であった。
彼は口から泡を吹いて気絶している。
そしてそんな彼をお構いなしに厠にあった掃除道具で突く御影とサトリ、鞭で甚振るM……。
正に地獄絵図だ。
そういえば悲鳴が聞こえていた様な……。
まさかあの甲高い悲痛な悲鳴は陽のものだったのか?
そう暫く呆然と考える。
だが、ずっと呆然としている訳にはいかない。
こんな酷い状況は放っておけない。
殺は急いで陽を助けにいく。
「貴方たち!!何をやっているのですか!?」
「げっ!殺!!」
今度は殺が陽に変わって説教をする。
殺は本気で怒りながら陽を縛っていた縄を解く。
陽は少し気を失っていただけであった。
完全にご立腹の殺は何故こうなったのかと問う。
サトリと御影とMは悪びれることもなく「だってー」と呟く。
「だってじゃない!」
「説教が温かったから指導したまでですわ!」
Mが真剣な表情で答える。
本当に悪意すらない純粋な瞳で見つめてくる。
あとの二人にいたってはただの馬鹿であった。
つまり本当にタチが悪い全員が悪意無しという結論にいたった。
「貴方たちは……はぁー」
殺は呆れる。
その間に陽は起き上がっていた。
陽は噎せながら「何があったんだ?」と訊ねてきた。
彼の中では先ほどの記憶は消去されているようだ。
そりゃそうだ。
あの無残な地獄は忘れた方がいい。
殺は陽に唯一言「何もありませんでしたよ」そう答えた。
そして陽は唯、正座させられている三人を見つめるという異様な状態に立たされることになった。
~~~~
「殺の説教は長いのぅ」
「なー!長いよなーー!」
「最高の言葉責めですわよね!!」
「貴方たちが悪いから説教が延びるのですよ!!あとMは論外!!」
「あぁん」
(本当に何があったのだろうか……?)
説教が終わった後、人殺し課は食堂に向かっていた。
まだ昼ご飯の時間より少し早いがこのくらいの時間で向かわないと満席になってしまう。
何せここの食堂はご飯が美味しいことで有名だ。
地獄の街に店が出たほどである。
「早く席を確保しますよ」
「「「はーい」」」
「返事を伸ばすな!」
「「「「はい!!」」」」
殺は馬鹿三人に呆れながらも何も悪いことをしていないのに返事を慌てて返す陽を見てだいぶ胃の回復が進んでいた。
本当に癒しが側にいると回復力があがると実感させられる出来事である。
けれど殺は暫く鼻血が出ない様にと鼻をつまんで上を向く。
胃は回復出来ても失血死をしたら洒落にならない。
命を守る為に彼はずっと上を向いていた。
「席は確保したから何か早く飯を食おうぜ!」
「ご飯ですわ~!」
Mの顔がにやけきっている。
彼女は最近、自分でお弁当を作らなくなった。
理由は皆とご飯が食べたいというものだったが最近では食堂のご飯を気に入っていつも食べに来ているのだ。
今日も嬉しそうな顔で何を食べようか迷っている。
「私は頼み終わりましたし、お先にいただきまーす」
殺はご飯を一口食べる。
やはりいつも通り美味しい。
皆の幸せそうにご飯を頬張る姿は見ていてほのぼのとする。
殺は陽に一口どうぞと焼き魚をほぐしてから箸でつまんで陽の口元に運ぶ。
完全に無意識……ではない。
明らかに陽の焦った表情を楽しそうに見つめている。
陽は顔を真っ赤にしながらも殺が差し出した魚を食べる。
下を向いて「美味しい……」と言っている姿は可愛らしくて皆にからかわれる。
すると陽は……
「こっちのご飯も一口やる!!」
そうやってご飯のおかずを箸でつまんで殺の口元に運んだのだ。
殺は予想外の展開に一瞬だけ何が起きたかわからないでいたが、すぐに理解して躊躇なくおかずを食べる。
「新婚さんみたいですね」
そう囁く殺に陽はもうお手上げ状態になる。
そんな陽を馬鹿共はからかいながらご飯を食べる。
ここまでは普通の日常と変わらない。
この日常が続けば……。
殺はそうやってまた一人で悩む。
「今は美味しいご飯に集中しようぜ」
「サトリ兄さん……」
また心を読まれていた殺は文句を言いたい気分であったが、もう気力がない。
今は美味しいご飯に集中することにしよう。
そう心の中で考えた。
~~~~
「ぁぁぁぁぁぁ!仕事終わり!!」
「五月蝿いです、御影兄さん」
一日の仕事を早めに終わらせ欠伸をする。
もう皆が疲れきっていてグダグダである。
地獄の仕事は面倒くさいものばっかりだ。
彼らは休日など貰えるのは滅多にないと認識して生きている。
ならば仕事を早めに終わらすまで。
そうやって休む方法を作っていく。
その時、開かずの間の戸が大きな音と共に開かれる。
「たーのもー!!」
「閻魔大王……」
入ってきたのは閻魔だ。
殺は仕事を早めに終わらせたのに面倒なことが降り注ぐのでは?と考えて疲れた風に項垂れる。
だがしかし閻魔は笑いながら話し始める。
「これから飲み会だけど参加しなーい?」
「参加します」
殺は閻魔関係ならば即答だ。
更にサトリと御影とMが飲み会に参加すると嬉しそうに騒ぎ始める。
そんな中……。
「すまない。姉様の世話をしなければならないから参加出来ない」
陽は姉のことがあり飲み会に参加出来なかった。
彼は寂しそうに本当は参加したそうにしていたが結局は 姉をとることになる。
「じゃあ、殺の護衛は任せた」
「おう!任せろ!」
そうやって別れていった。
~~~~
「……参加したかったな」
陽は一人で帰りながら呟く。
静かな紅色の夜。
だが今日は静かすぎて不気味だ。
少しだけ……少しだけ後ろを振り返ろう。
「……そりゃ誰も居ないよな」
そう安堵した瞬間だった。
「わかります。わかります」
また、背後へ振り返るとそこには目から血を流した足の無い男が佇んでいた。
足が無い、浮いているという感じだ。
男は手に刀を持ち、こちらの様子をずっと窺っているみたいだ。
「自分の思い通りにならない人生は辛いですよね」
「なんだ……お前は!」
そう言った瞬間だった。
「ごめんなさい」
気づいたときには男は陽の後ろで刀を振り被っていた。
その時に陽は気づいた。
彼が殺の私物を持っていることに。
ああ、こいつが殺の事件の犯人かと……。
~~~~
次の日のことだった。
「見事に二日酔いですね、サトリ兄さん」
「うるせぇ……うっぷ」
彼らの日常はまだ変わっていなかった。
だがすぐにその日常は終わる。
一本の電話によって……。
プルルルル。
「はい、人殺し課の殺ですが何か?」
「あら、殺様!うちの馬鹿はそっちに居ないかしら?」
「え?」
殺に嫌な予感がよぎった。
「昨日……家に帰って行きましたよ……」
手が震える。声が震える。
「……何かありそうね。こっちも調べるからよろしく」
それだけで電話が切れた。
殺は真っ青な顔でその言葉を振り絞った。
「陽が……無くなりました……」
大切なものが消え去る恐怖……
貴方には耐えられますか?
~~~~
ああ、憎い。
よりによって殺の大切なものはこいつか。
どうしようか……
ゆっくりと甚振り殺そうか?
いや……、少しお痛をはたらいた殺に罰を与えなきゃな……。
殺の目の前で殺してやろう。
「はははははは!!」
彼は狂った様に笑っていた。
それを見た彼の友達がどんな思いかも知らずに……。
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