地獄の日常は悲劇か喜劇か?〜誰も悪くない、だけど私たちは争いあう。それが運命だから!〜

紅芋

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動きだした狂気

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 嗚呼、大切な者の大切なものが欲しい。
 やがては俺様のものになるんだ。
 そう、俺様の嫁に。
 だから今奪っても問題はないよな。
 だって俺様のものだし。
 それくらいは皆は普通にやっているだろう?
 ならば俺様もやっていいんだ!
 殺は俺様のもの!
 だから全て俺様が奪い去っていってやるよ。
 それが普通ってやつだろう?


~~~~


「無い!無い!」

「どうしたのじゃ?殺」

「昔、誕生日に閻魔大王にプレゼントされたペンが無いのです!」

 殺はペンを探しながら密かに心に苛立ちを隠していた。
 何故かというと最近、殺の私物……しかも大切なものが中心的に無くなっていっているのだから。
 殺は管理能力が低いというわけでもない。
 むしろ管理能力は他の者より高いと言っておこう。
 そんな彼の私物が無くなっていっているのは異常な事態である。

 周りの者も疑問が消えずに殺の私物探しを手伝っているほどだ。
 殺は焦る。
 大切なものしか無くならない。
 これは明らかに泥棒がいることを現しているからだ。
 その泥棒を突き止めなければこの騒動はおさまらない。
 それに自分以外にも被害がいくかもしれない。
 だが殺には疑問があった。

 殺にとっては大切なものでも、周りの人にとっては要らないようなものもある。
 お金目当ての泥棒ではないかもしれないのだ。
 ならばいったい?
 殺は髪を手で梳きながら一人で悩みに耽る。


~~~~



 翌日もまた大切なものが無くなっていた。
 今度は皆との楽しい思い出をまとめたアルバムが……。
 殺は流石にこれはないだろうと寝起きの頭で考える。
 このまま盗まれ続けたら大切な思い出が失われてしまう。
 殺は犯人探しをすることに決めた。

「それにしても何故、私が?」

 殺は自分以外の人の大切な物が何故、奪われていないのかについて考える。
 だが考えても答えは出ない。
 彼は溜め息を吐く。
 苛つく精神を落ち着けようと煙草を取り出し火をつけた。
 煙草の煙を吸って気分を変えようとしていたその時だった。

 ヒュン。

 風切り音が聞こえた瞬間にライターも吸っていた煙草も無くなっていたのだ。
 殺は只々驚きを隠せなかった。
 まさか自分の目の前で、ものが盗まれるとは……。
 しかも大切でもない普通に吸っていた煙草が無くなるなんて……。

 気配に気づけなかった。
 殺は常に周りに敵が居ないかと警戒心を解いていない。
 そんな彼に気づかれずに目の前で盗みをするとは……。
 だいぶ自分に自信を持っている泥棒だ。
 それに実力もかなりあるといったところである。

「なんで煙草まで盗まれるのですか……」

 殺は項垂れる。
 眼前で起こった出来事を受け止めて疲れ果てる。
 何故だ?
 何故に自分なのか?
 殺は只管、自分に聞いたが答えは出なかった。



~~~~



「何で殺なんだろうなー」

「本当にそれですよ。サトリ兄さん……」

 殺は人殺し課で朝に起こった煙草が消えちゃった事件を話していた。
 皆は口々に殺ほどの実力者が何故、犯人の気配に気づかなかったんだろうかと議論をしていた。
 だが皆は結局は分からずじまいだ。
 殺も細工など何も無かったと述べている。
 すると陽があることに気づき、呟く。

「生きていると気配があるが死んでいると気配がない……」

「……!」

 陽の発言に殺は少し推理が進む。
 この世界は死ぬことは一応だが出来る……いや、本来なら死が当たり前の世界なのだ。
 神も時の流れには逆らえずに朽ちていく。
 それを変えたのが閻魔だったというだけの話だ。
 死んでいるものは気配を感じない。
 死んだら無になるが、半分だけ。
 半分だけ死んでいる場合は気配も半減される。
 つまり気づかれにくくなるのだ。

「半分だけ死んでいる者の報告例は過去に何件かありましたね……」

「つまりはそう言うことなのですわね」

 Mが納得したかのようにドヤ顔を披露する。
 そんなMの頭に御影がチョップをお見舞いする。
 彼女は悶えながらも、もう一回を強請った。
 だが御影は放置プレイとやらで対応した。
 それにしても半分死んでいるのは気配に気づきにくくて厄介である。
 だがその反面、死にかけだから倒しやすいかもしれない。
 半死人を相手に戦ったことがない殺は呑気に考えた。
 だがそれを読んだサトリは……

「強さは半分死んでいても変わらないぞ」

 そうやって言い放った。
 殺は面倒くさい事実を知ったうえに勝手に心まで読まれるということに少しだけ機嫌を損ねる。

「それに相手は複数人かもしれないしな」

 その考えも含めて考えなければならない。
 出来るだけ多くのことを想定していたらある程度のことは対応が出来るからだ。
 備えあれば憂いなしという感じである。
 殺は複数人の場合はどうすればと考えていく。

「俺たちが監視をすれば良くね?」

 サトリの監視宣言に殺は若干だが固まる。
 何せこのメンバーでずっと側に居られたら面倒くさいことが起きるに違いない。
 部屋だけでなく屋敷を吹き飛ばされるくらいなら泥棒の方を我慢するかと一人で悩むが、やはり思い出が盗まれていくのが我慢出来ず人殺し課の全員に護衛と監視を頼んだ。

「よし!そうと決まれば早速監視じゃ!」

「うぇーい!泥棒でも半死人でもなんでもかかってこいやぁぁぁぁぁぁ!」

「楽しそうですわぁ!!」

「ふん、まあ守ってやるのも悪くない……というか側にいてやるから安心しろ……」

 無駄にハイテンションの馬鹿と可愛いツンデレとで極端な差がでる。
 殺は取り敢えず陽に向かって「よろしくお願いします」と護衛を頼んだ。

「「「あれ、こっちには?」」」

 無視された馬鹿共は「何でー?」とブーイングをかましてきているが殺は更に華麗に無視を決め込んだ。


~~~~


「それにしても中々の変態的な泥棒だよなぁ」

「?」

「普通なら吸いかけの煙草なんか盗まねえだろ」

「確かに……」

 変態が相手とか最悪だ。
 それとも何かの術に使うのだろうか?
 ターゲットの髪の毛や爪、血が術に使われる場合が多い。
 ならば自分は術をもうすぐかけられるのだろうか?
 呪いをかけられればひとたまりはない。
 呪い、それは神でさえも殺す凶器、だからこそ危険だ。
 それを考えたのは殺だけではなかったようだ。
 人殺し課の全員がそのことも考えにいれた。
 だからこそ早く犯人を突き止めなければならなくなった。

「呪いか……。御影は分かるか?」

「呪いは使えるが……。煙草を盗ったということは唾液が必要な呪いか?」

「術さえ分かれば呪いは何とかなりますけど……」

 人殺し課は取り敢えず呪いをかけられたことを想定して呪いが解除出来るか考える。
 結局はそのときにならねばわからないだろうが、考えなければ何も始まらない。
 彼らは必死に考えた。
 殺が無事に居られるようにと。

 結局、本当の危機が誰に迫ったか知らずに……。


~~~~



「久遠様……」

「ご苦労」

 にこやかに笑うのは紅い夜を起こした者……。
 彼は殺の吸いかけの煙草を甦らして、煙を吸う。
 その表情は狂気を孕んでいてまるで化け物だ。

「これが殺の唾液……。最高だ……!」

 瞳孔が開いた目は何も映していない。
 只々、自分の中の殺しか映さない。
 彼は煙草を執拗に味わう。
 その光景を殺が見たら恐怖で顔が引きつるだろう。
 そんなこと久遠はわかっている。
 だがわかっているからこそ、殺の色んな表情が見たいと欲望を膨らませていくのだ。

「久遠様……。今度は何をすれば?」

 久遠の手下……否、友は問う。
 彼は笑いながら命令した。

「殺の一番大切なものを盗ってこい」

「はっ!」

 彼は残酷だ。
 愛する者の全てを手中に収めなければ気がすまない。
 こうしてまた大切なものが失われていく。

 さて、本当に大切なものが失われているのはどちらでしょうかね?

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