地獄の日常は悲劇か喜劇か?〜誰も悪くない、だけど私たちは争いあう。それが運命だから!〜

紅芋

文字の大きさ
50 / 167

進展

しおりを挟む

『また少し成長出来ましたね』

 殺が自分の部屋でゆっくりとしていた時に不幸の鬼の声がした。
 不幸の鬼は優しい声で殺を子供扱いをして褒める。
 殺は子供扱いされるのが久々なので、なんとも言えない複雑な気分だ。

 殺は久遠に斬り刻まれた傷跡を見て吐き気を覚えながら傷薬を塗り込んでいく。

「何で私にしか貴方の声が聞こえないのですかね?」

『それは私の力を受け継いでしまったからですよ』

 鬼は嬉しそうに笑う。
 そんな声を聞いて殺は彼女が喜んでいるのがよく分かり面倒臭いものを受け継いでしまったと頭を悩ましていた。

 それにしても久遠がつけた傷跡は深いもので暫くは消えないのは誰が見ても明らかであった。
 殺は溜め息をついて上を向く。
 髪が黒色に戻るそのとき、彼は自分を迎えに来て多くのものを傷つけていくだろう。
 そう考えていても仕方がない、今は来る敵を迎え撃つ準備を整えなければ……。

 更には何事にも動じない自分を手に入れなければならない。
 普段は冷静だが仲間が絡んだ事件には冷静にいられなかった。
 これはまだ未熟という証拠である。
 だが、不幸の鬼が言うように殺は敵と向き合う能力は手に入れた。
 それは成長の証、未熟を少し脱した証である。
 それだけは誇りを持ってもいいだろう。

『ん?誰か来ますね』

「貴方は何でも分かるのですか、チートですね」

 殺は疲れているので不幸の鬼の扱いがだんだんとぞんざいになってくる。
 こんな怠いときに誰が来るのだ?
 一応であるが、殺は従者たちに自分の部屋に誰も入れるなと伝えてある。

 だが、それでも入らなければならないほどの用があったのか?それとも従者が逆らえないほどのお偉いさんが来たのか?
 そう殺が考えていると戸のむこうから従者の声が響いてきた。

「殺様、同僚の方がお見舞いに来ています」

 同僚といえば明らかに面倒臭い奴らしか浮かんでこない。
 だがここで拒めば後々疲れることになる……。
 殺は嫌々お見舞いを受け入れることにした。
 すると不幸の鬼は何かに気づいたのか楽しそうな声で『お邪魔虫は去りますね~~』と、どこかへ消えていった。
 殺は相変わらず不機嫌な声で「入って大丈夫ですよ」と低い音を響かせる。
 彼は目つきを喧嘩でも売っているかのように鋭く尖らせる。
 そこに入ってきたのはある一人の人物であった。

「……殺、大丈夫か?」

「陽……!」

 ドスの効いた声と鋭い目つきに怯えきった陽が殺に近づいてくる。
 陽は不安そうに殺の様子を窺っていて怪我のことも心配している。
 少しだけ泣きそうなその目を殺は見つめてしまい先ほどの己の態度を悔やんでしまう。
 何故、優しい声が出せなかったのかと……。

「殺……僕が弱いばかりにこれだけの大怪我をさせてしまってすまない……」

 陽は更に今にも泣きそうになる。
 殺はそんな彼を見て優しく頭を撫でる。
 顔を上げた陽は何故、自分が頭を撫でられているかが分かっていないようだった。

「何で……?僕はお前を危険な目に遭わせたんだぞ!?」

「そんなことはどうでもいいです。貴方の無事が私にとって一番なのです」

「……それでも!」

 その瞬間に殺は陽を自分のもとへと引っ張り抱き締める。
 陽は殺に抱き締められてその時に彼の体温を感じて、生きていることを確認して思わず泣いてしまう。
 殺は陽をずっと抱き締めていた。
 それは愛しいものがなくならなかったという安堵が混ざりながら。
 陽は殺の顔を見る。
 彼が見たものは余裕など何もない殺の表情だった。

 殺は陽が顔を上げたのに気づき彼の頬をつたっていた涙を舌で掬い取る。
 何が起きたかわからずに、理解した頃には陽は顔を真っ赤にしていた。

「お前っ……!何をしてい……んむ?!」

 その時、陽は言葉など話せなかった。
 殺は陽が話しきる前に自分の唇で彼の口を塞いでいた。
 陽はまた顔を真っ赤にして呆然とする。
 その時の殺はやはり余裕など何もなかった。

「すいません、もう我慢が出来なくて……。私のこと嫌いになりましたよね……。私を嫌ってもいいです。ですがせめて職場では話しを交わすのを願います……」

 殺はもう何もかも諦めた表情を浮かべていた。
 久遠のことがあり疲れていたのだろう。
 この接吻は久遠のものという傷を拭い捨てる為のものだったのだろう。
 陽はそんなことすぐにわかってしまった。
 そして殺が自分を選んでくれたことも……。

「……嫌いになるわけないだろう!」

 陽は声を荒げながら話しを続ける。

「僕はお前が……好きなんだ!いつも僕たちの為に動いてくれたり、全てを守る為に奮闘する姿をいつも僕は見てきたんだ!そんなお前を嫌いになるわけない……むしろ大好きだ!」

 陽は自分が告白をしたことに気づかずに殺に抱きついて泣いていた。

「告白は私の方からしようと思っていたのですがねぇ……」

「告白……」

 殺はまた静かに陽と接吻を交わす。
 陽は殺に身を任せていて接吻な集中する。
 長い間、口付けを続けていて陽は息切れを殺に伝えた。
 それに気づいた殺は口を離す。

「陽……、私も貴方のことが好きです。ですが、私のもとに居ればまた久遠に狙われる。それでもいいのですか?」

「……また守ってくれるくせに。だから僕がまた攫われないようにずっと側にいろ」

「……はい。いつまでも側にいますよ、貴方を守りぬきます」

 陽はそれに満足したかのように「それでいい」と笑う。
 殺はそれを見てやはり陽には勝てないなと少し笑みを浮かべて陽を抱き締めた。
 だがその微笑みはすぐに意地の悪い笑みに変わる。

「……私は貴方の側にずっといます。だから私に気をつけた方がいいですよ。私は貴方のことになればもう我慢出来ない。それほど私は貴方のことが好きなのですよ」

「……!」

 陽は殺の胸に顔を埋める。
 彼は声にならない声をあげていてずっと顔を見せないでいた。
 それが愛しくて仕方がない殺はまた意地悪に笑いながら囁く。

「いつまでも鬱陶しいほど愛しますよ」

 陽は顔を少し覗かせて「……それくらい当たり前だ」と林檎以上に顔を真っ赤に染めてそう呟いた。

 暫くの間ずっと陽を抱き締めていれば騒がしい声が聞こえてくる。
 ああ、面倒臭い奴らが来たかと二人は笑いあう。

「殺ーー!お見舞いに……うおっ?!」

 二人の雰囲気にサトリは「事後?」と訊ねるが殺に鉄拳制裁をくだされて黙るしかなかった。
 それをMと御影は笑いとばす。
 その光景がいつも通り騒がしくて面白くてたまらない。
 Mは「お二方はどこまで進んだのですか?」と興味津々に訊いてくる。
 殺は静かに笑い、答える。

「お付き合いを始めました」

 その瞬間にMは雄叫びを上げて御影とサトリは「きたぁぁぁぁぁぁ!」とガッツポーズを決めていた。
 陽は小さな声で「本当に僕でいいのか?」と不安そうに訊ねる。

「貴方だから良いのですよ」

 そう普通に言い放った殺に陽はまた顔を上げられないくらい真っ赤になり皆にからかわれる。
 その馬鹿みたいな日常を殺はこう語った。




『幸せな日常だ』
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

完結 辺境伯様に嫁いで半年、完全に忘れられているようです   

ヴァンドール
恋愛
実家でも忘れられた存在で 嫁いだ辺境伯様にも離れに追いやられ、それすら 忘れ去られて早、半年が過ぎました。

私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。

MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

ボクが追放されたら飢餓に陥るけど良いですか?

音爽(ネソウ)
ファンタジー
美味しい果実より食えない石ころが欲しいなんて、人間て変わってますね。 役に立たないから出ていけ? わかりました、緑の加護はゴッソリ持っていきます! さようなら! 5月4日、ファンタジー1位!HOTランキング1位獲得!!ありがとうございました!

転生したら領主の息子だったので快適な暮らしのために知識チートを実践しました

SOU 5月17日10作同時連載開始❗❗
ファンタジー
不摂生が祟ったのか浴槽で溺死したブラック企業務めの社畜は、ステップド騎士家の長男エルに転生する。 不便な異世界で生活環境を改善するためにエルは知恵を絞る。 14万文字執筆済み。2025年8月25日~9月30日まで毎日7:10、12:10の一日二回更新。

【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。

三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎ 長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!? しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。 ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。 といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。 とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない! フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!

扱いの悪い勇者パーティを啖呵切って離脱した俺、辺境で美女たちと国を作ったらいつの間にか国もハーレムも大陸最強になっていた。

みにぶた🐽
ファンタジー
いいねありがとうございます!反応あるも励みになります。 勇者パーティから“手柄横取り”でパーティ離脱した俺に残ったのは、地球の本を召喚し、読み終えた物語を魔法として再現できるチートスキル《幻想書庫》だけ。  辺境の獣人少女を助けた俺は、物語魔法で水を引き、結界を張り、知恵と技術で開拓村を発展させていく。やがてエルフや元貴族も加わり、村は多種族共和国へ――そして、旧王国と勇者が再び迫る。  だが俺には『三国志』も『孫子』も『トロイの木馬』もある。折伏し、仲間に変える――物語で世界をひっくり返す成り上がり建国譚、開幕!

バーンズ伯爵家の内政改革 ~10歳で目覚めた長男、前世知識で領地を最適化します

namisan
ファンタジー
バーンズ伯爵家の長男マイルズは、完璧な容姿と神童と噂される知性を持っていた。だが彼には、誰にも言えない秘密があった。――前世が日本の「医師」だったという記憶だ。 マイルズが10歳となった「洗礼式」の日。 その儀式の最中、領地で謎の疫病が発生したとの凶報が届く。 「呪いだ」「悪霊の仕業だ」と混乱する大人たち。 しかしマイルズだけは、元医師の知識から即座に「病」の正体と、放置すれば領地を崩壊させる「災害」であることを看破していた。 「父上、お待ちください。それは呪いではありませぬ。……対処法がわかります」 公衆衛生の確立を皮切りに、マイルズは領地に潜む様々な「病巣」――非効率な農業、停滞する経済、旧態依然としたインフラ――に気づいていく。 前世の知識を総動員し、10歳の少年が領地を豊かに変えていく。 これは、一人の転生貴族が挑む、本格・異世界領地改革(内政)ファンタジー。

処理中です...