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進展
しおりを挟む『また少し成長出来ましたね』
殺が自分の部屋でゆっくりとしていた時に不幸の鬼の声がした。
不幸の鬼は優しい声で殺を子供扱いをして褒める。
殺は子供扱いされるのが久々なので、なんとも言えない複雑な気分だ。
殺は久遠に斬り刻まれた傷跡を見て吐き気を覚えながら傷薬を塗り込んでいく。
「何で私にしか貴方の声が聞こえないのですかね?」
『それは私の力を受け継いでしまったからですよ』
鬼は嬉しそうに笑う。
そんな声を聞いて殺は彼女が喜んでいるのがよく分かり面倒臭いものを受け継いでしまったと頭を悩ましていた。
それにしても久遠がつけた傷跡は深いもので暫くは消えないのは誰が見ても明らかであった。
殺は溜め息をついて上を向く。
髪が黒色に戻るそのとき、彼は自分を迎えに来て多くのものを傷つけていくだろう。
そう考えていても仕方がない、今は来る敵を迎え撃つ準備を整えなければ……。
更には何事にも動じない自分を手に入れなければならない。
普段は冷静だが仲間が絡んだ事件には冷静にいられなかった。
これはまだ未熟という証拠である。
だが、不幸の鬼が言うように殺は敵と向き合う能力は手に入れた。
それは成長の証、未熟を少し脱した証である。
それだけは誇りを持ってもいいだろう。
『ん?誰か来ますね』
「貴方は何でも分かるのですか、チートですね」
殺は疲れているので不幸の鬼の扱いがだんだんとぞんざいになってくる。
こんな怠いときに誰が来るのだ?
一応であるが、殺は従者たちに自分の部屋に誰も入れるなと伝えてある。
だが、それでも入らなければならないほどの用があったのか?それとも従者が逆らえないほどのお偉いさんが来たのか?
そう殺が考えていると戸のむこうから従者の声が響いてきた。
「殺様、同僚の方がお見舞いに来ています」
同僚といえば明らかに面倒臭い奴らしか浮かんでこない。
だがここで拒めば後々疲れることになる……。
殺は嫌々お見舞いを受け入れることにした。
すると不幸の鬼は何かに気づいたのか楽しそうな声で『お邪魔虫は去りますね~~』と、どこかへ消えていった。
殺は相変わらず不機嫌な声で「入って大丈夫ですよ」と低い音を響かせる。
彼は目つきを喧嘩でも売っているかのように鋭く尖らせる。
そこに入ってきたのはある一人の人物であった。
「……殺、大丈夫か?」
「陽……!」
ドスの効いた声と鋭い目つきに怯えきった陽が殺に近づいてくる。
陽は不安そうに殺の様子を窺っていて怪我のことも心配している。
少しだけ泣きそうなその目を殺は見つめてしまい先ほどの己の態度を悔やんでしまう。
何故、優しい声が出せなかったのかと……。
「殺……僕が弱いばかりにこれだけの大怪我をさせてしまってすまない……」
陽は更に今にも泣きそうになる。
殺はそんな彼を見て優しく頭を撫でる。
顔を上げた陽は何故、自分が頭を撫でられているかが分かっていないようだった。
「何で……?僕はお前を危険な目に遭わせたんだぞ!?」
「そんなことはどうでもいいです。貴方の無事が私にとって一番なのです」
「……それでも!」
その瞬間に殺は陽を自分のもとへと引っ張り抱き締める。
陽は殺に抱き締められてその時に彼の体温を感じて、生きていることを確認して思わず泣いてしまう。
殺は陽をずっと抱き締めていた。
それは愛しいものがなくならなかったという安堵が混ざりながら。
陽は殺の顔を見る。
彼が見たものは余裕など何もない殺の表情だった。
殺は陽が顔を上げたのに気づき彼の頬をつたっていた涙を舌で掬い取る。
何が起きたかわからずに、理解した頃には陽は顔を真っ赤にしていた。
「お前っ……!何をしてい……んむ?!」
その時、陽は言葉など話せなかった。
殺は陽が話しきる前に自分の唇で彼の口を塞いでいた。
陽はまた顔を真っ赤にして呆然とする。
その時の殺はやはり余裕など何もなかった。
「すいません、もう我慢が出来なくて……。私のこと嫌いになりましたよね……。私を嫌ってもいいです。ですがせめて職場では話しを交わすのを願います……」
殺はもう何もかも諦めた表情を浮かべていた。
久遠のことがあり疲れていたのだろう。
この接吻は久遠のものという傷を拭い捨てる為のものだったのだろう。
陽はそんなことすぐにわかってしまった。
そして殺が自分を選んでくれたことも……。
「……嫌いになるわけないだろう!」
陽は声を荒げながら話しを続ける。
「僕はお前が……好きなんだ!いつも僕たちの為に動いてくれたり、全てを守る為に奮闘する姿をいつも僕は見てきたんだ!そんなお前を嫌いになるわけない……むしろ大好きだ!」
陽は自分が告白をしたことに気づかずに殺に抱きついて泣いていた。
「告白は私の方からしようと思っていたのですがねぇ……」
「告白……」
殺はまた静かに陽と接吻を交わす。
陽は殺に身を任せていて接吻な集中する。
長い間、口付けを続けていて陽は息切れを殺に伝えた。
それに気づいた殺は口を離す。
「陽……、私も貴方のことが好きです。ですが、私のもとに居ればまた久遠に狙われる。それでもいいのですか?」
「……また守ってくれるくせに。だから僕がまた攫われないようにずっと側にいろ」
「……はい。いつまでも側にいますよ、貴方を守りぬきます」
陽はそれに満足したかのように「それでいい」と笑う。
殺はそれを見てやはり陽には勝てないなと少し笑みを浮かべて陽を抱き締めた。
だがその微笑みはすぐに意地の悪い笑みに変わる。
「……私は貴方の側にずっといます。だから私に気をつけた方がいいですよ。私は貴方のことになればもう我慢出来ない。それほど私は貴方のことが好きなのですよ」
「……!」
陽は殺の胸に顔を埋める。
彼は声にならない声をあげていてずっと顔を見せないでいた。
それが愛しくて仕方がない殺はまた意地悪に笑いながら囁く。
「いつまでも鬱陶しいほど愛しますよ」
陽は顔を少し覗かせて「……それくらい当たり前だ」と林檎以上に顔を真っ赤に染めてそう呟いた。
暫くの間ずっと陽を抱き締めていれば騒がしい声が聞こえてくる。
ああ、面倒臭い奴らが来たかと二人は笑いあう。
「殺ーー!お見舞いに……うおっ?!」
二人の雰囲気にサトリは「事後?」と訊ねるが殺に鉄拳制裁をくだされて黙るしかなかった。
それをMと御影は笑いとばす。
その光景がいつも通り騒がしくて面白くてたまらない。
Mは「お二方はどこまで進んだのですか?」と興味津々に訊いてくる。
殺は静かに笑い、答える。
「お付き合いを始めました」
その瞬間にMは雄叫びを上げて御影とサトリは「きたぁぁぁぁぁぁ!」とガッツポーズを決めていた。
陽は小さな声で「本当に僕でいいのか?」と不安そうに訊ねる。
「貴方だから良いのですよ」
そう普通に言い放った殺に陽はまた顔を上げられないくらい真っ赤になり皆にからかわれる。
その馬鹿みたいな日常を殺はこう語った。
『幸せな日常だ』
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