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親バカな兄
しおりを挟む殺は今、幸せの頂きに立たされていた。
何故にそんな状況になっているかって?
それは簡単にわかる、なんと陽が自分の下へ来て少しだが袖をつかんで不器用に甘え始めたのだ。
陽は今まで一人だったぶんと、姉が何も出来ないポンコツであったが故に人に甘えることが出来なくて今も甘え方が分からず、袖をつかんで甘えたいアピールをしているのだ。
それに対して殺は陽の甘えに応えなければと必死に彼の頭を撫でたり、愛の言葉などを囁いてみたり接吻を交わしてみたりしている。
陽は初めは接吻をすると恥ずかしかったのか殺の胸をポカポカと叩いていたが、今現在では接吻を交わせば服をつかんで少し赤い顔を覗かせて無言でもう一回とせがんでくる。
それが殺にとって最上級の幸せで彼を喜ばせる為なら何でもしたいと思わせてくるのだ。
彼らは二人の世界に入り込む、それはもうどんなお菓子にも勝る甘さで誰も入る隙など与えないくらい鉄壁の守りをもつ。
だがしかし……
「……殺ーー、ここ人殺し課の部屋ーー」
「それが?」
「公共の場ではあまりいちゃつくな……」
「公共の場ではいちゃつきませんよ。それに人殺し課では遠慮なくいちゃついていいって言っていたじゃありませんか」
「ぐっ……」
サトリは言葉に詰まった。
確かに殺は公共の場ではこのような行動を控えている。
そして人殺し課では遠慮なしでいいと言ったのも事実だ、何も反論が出来ない。
Mにいたっては顔がほころんでいてサトリは今にも殴りたいと考えてしまっていた。
それにしてもサトリがここまで苛つくとは……などと殺は呑気に考えていたら「サトリは嫉妬をしているのか?」という今、ここで発してはならない核弾頭なみの言葉が落とされる。
声の主は御影であった。
彼は呑気にケラケラ笑いながら「嫉妬は醜いぞ」と笑いとばしている。
殺はそれを見て陽を連れて今すぐ逃げたいと思いながらも、これから起こるであろう大喧嘩を見届ける覚悟を己の中で決める。
覚悟を決める暇があれば逃げればいいと思うだろうが実際は喧嘩に巻き込まれて逃げられないということは子供の頃から学習済みなのだ、最低限の被害で済むように見届ける方が建物の崩壊を避けられる。
殺は陽を抱き締めて悟ったような空虚な目をしていた。
陽は震えていて何が起こるのかわかっていないようだった。
殺はそんな彼を撫でながら落ち着かせることしかできないことに悔しさを感じながらも今、出来る最低限のことをしていた。
最低限のこと……陽の不安を取り除く。
殺は取り敢えず陽に耳栓と目隠しを施した。
その光景にMは「私にも!」と元気よく手を挙げるが殺は「喧嘩に巻き込まれてこい」と笑顔を見せながら毒を吐く。
なのでMは「はーい!」と楽しそうにこれから起こる喧嘩に備える。
「御影くーん?君は僕が嫉妬をしているって言っていたよね~?」
「そうじゃが?」
「嫉妬なんかしてませーん」
「嫉妬じゃろう」
サトリがいつもと違う口調で話しているが、それに気づかずに疑問符だけを抱いている御影の方がよほど恐ろしく思えてしまう。
今の御影はこの状況を確実に悪化させるに違いない。
殺は頭を抱えて暫くは人殺し課で甘い一時を過ごすことを諦めようとしていた。
だがその時……
「お主はリア充を見て嫉妬しているのではなくて親バカ的な意味で陽に嫉妬をしているのじゃろう?」
「……っ!?」
明らかにサトリがその言葉に反応を示した。
殺は自分たちが甘い空気を放っていたからサトリが苛ついていたと思っていたぶん、御影の言葉に反応をしたサトリに目が離せなかった。
「別に陽に嫉妬なんてしてねーよ!」
「儂は嫉妬をしているぞ」
「!?」
御影が嫉妬をしていると聞いて殺は正直なところを言うと実は全く御影が嫉妬していることに気づいていなかったのだ。
普通にお付き合いのことも祝ってくれていたぶん殺は驚きを隠せないでいた。
すると……。
「儂はこれから陽が儂らの知らない殺を見ていくのが羨ましい。だけどそのぶん殺が幸せになるのが嬉しいのじゃ。だから……」
「……だから何だよ」
「儂らは一緒だな!お主も殺を祝っていたじゃないか!ならばこれからも素直に祝おう!」
「……」
御影は純粋に笑顔でサトリに優しい声で語りかけた。
その声に、言葉にサトリは何も言えなくなったのか「……まぁ、祝ってはやるよ」などと小さな声で呟く。
これも長年の間、御影とサトリはずっと一緒に相棒でいたぶんお互いに素直でいると誓っているからこそ、すぐに嫉妬の本質を見抜いて真剣に解決が出来たのであろう。
いつもなら馬鹿みたいに喧嘩をしているが、真剣なときはこれほどまでに冷静なのかと殺は圧倒される。
御影はサトリに嬉しそうに抱きついて「親バカコンビ結成じゃ!」と騒いでいた。
「ちょっ!邪魔なんだけど!」
「いいじゃろー!儂らの仲なのじゃから!」
幸せそうな御影を見て何も言えなくなったサトリはお茶を飲みながら適当に彼の頭をワシャワシャと撫でていた。
その手つきは本当に雑である。
Mは大喧嘩を心待ちにしていたのか喧嘩が沈静化したことにより、やる気を無くして畳に寝そべっている。
それを見た殺は喧嘩を恐れて奥に隠れていた小夜子を呼び出しMに熱々のお茶をかけるように指示をくだす。
もちろんだが小夜子は躊躇などせずにお茶をMに浴びせて恍惚の悲鳴を聞くことになる。
殺は小夜子の躊躇のない姿を見て冥王の育てた娘はやはり強いなと感心しながら、皆に仕事に戻るように命令をくだす。
陽は目隠しと耳栓を外されて何があったのか分からずに「終わったのか?」と殺に質問をする。
殺は「いつも通りに戻りました」とだけ呟けば陽にMの惨劇を目の当たりにさせる。
彼はその光景を見て冷静にいつも通りと判断したのか普通に仕事に戻っていた。
「なぁ、陽」
「?」
御影が陽に話しかける。
彼は幸せそうな顔で陽の肩を叩きながら語りかけた。
「これから殺をよろしくな!たくさん愛されてこい!!」
「……ああ、分かった」
陽は静かに微笑んだ。
自分が祝福されるなんて今まで考えたことなどなかった彼は今、幸せを手に入れた。
それが嬉しくて絶対に手放したくないと、手放さないと決意を固めた。
すると御影だけではなくサトリまで陽に近づいて穏やかに佇む。
「……嫁として殺を支えてやってくれ」
「……!はっ、はい」
突然の嫁発言に戸惑いを隠せなかったが、サトリはいたって真面目だ。
陽は殺を支えることを真剣にサトリの前で誓った。
そんなサトリは陽の心も覗いたのか「まぁ、悪くないな」とぶっきらぼうに呟いて己の席へ去っていった。
「サトリー、心を覗くほど陽が信用ならなかったのか?」
「……信用は出来るけど、もしものことを考えればなぁ」
「別に大丈夫じゃろう」
「……そうだな、大丈夫だったよ」
サトリと御影は楽しそうに笑う。
彼らは親として、兄として殺の幸せを祝った。
その晩……
「前回は陽が飲み会に参加出来なかったから今日、飲み会を開くぞ!!」
「でも姉様が……」
「許可は取った!お付き合いを祝う会と言ったらお姉さんも来ると言ってたぞ!」
「なっ!……絶対にからかわれる」
陽は頭を抑えて項垂れる。
そんな彼の頭を殺は片手で撫でて笑顔を浮かべる。
「こんな日常も悪くはないですよ」
笑顔で話す殺に陽は「今日は前回飲めなかったぶんたくさん飲んでやる。……だから帰りは送れよ……」と言う。
「お姉さんがいるのに?」
殺は意地の悪い顔で陽をからかう。
陽は「姉様が送ってくれると思うなよ……」と悲壮感たっぷりの顔で答えた。
それで終わるかと思っていた殺は、次の言葉に己の欲望に負けることになる。
「それに……出来ればお前と少しでも長く居たい」
恥ずかしそうに答える彼に殺は限界を超えてしまう。
「ならば、帰りは私の家に直行しましょうか」
「なっ!?お前は何をっ!?」
「貴方が私と少しでも長く一緒に居たいと言ったからでしょう!?」
「それでもだなっ、まだ家に行くとか早すぎ「来たことありますよね?!」
「うっ!」
陽は己のデレ発言に後悔をするが殺は陽の手を取り、口付けて「私も一緒に居たいです」などと囁けば彼は思わずすぐに首を縦に振ってしまった。
「じゃあ決定ですね」
そう微笑む彼の目は誰が見ても明らかな捕食者の目をしていたという。
飲み会で陽が皆にからかわれるまであと一時間。
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