52 / 167
旧友と殺と陽と
しおりを挟む「殺様、今回の取引は……とか言う前にその黒い服の方は一体?」
「嫁」
「明らかに男なのに嫁なのですね」
そうやってケラケラと殺の目の前の青に近い銀髪の男は笑う。
彼は今、よくわからないこの状況でもこれが面白いとでも言う風に笑う。
だが殺は呆れながら目の前で女性が注いだ酒を一杯浴びれば不機嫌な目で旧友、もとい取り引き相手の彼、真(しん)を睨んだ。
「何か悪いのですか?」
そう威圧的に話しを進めれば真は「すみませんね」と愛想笑いを浮かべて酒の一気飲みをした。
そしてこの場にとくに関係も無いのに呼び出された陽は未だに混乱をしていて、如何すればいいのか迷っている。
その中、殺は面倒くさそうな顔つきで取り引き内容を確認しながら陽の頭を撫でている。
こんな仕事をしながらの状況でも殺は陽に構う余裕があるのは流石としか言いようがない。
陽は照れ隠しで殺の頭を叩いたが殺にとっては癒しにしかならない。
そんな空気の中、真は陽をじっくりと見つめている。
まるで彼を品定めしているかのように。
「……良い嫁ですね」
「そうでしょう、自慢の嫁です」
陽の顔が茹でたタコのように真っ赤に染まっていく。
口をパクパクを開き、よほど恥ずかしかったのか若干だが涙目になっている。
それを見た真はまた愉快そうに笑う。
殺も陽を愛おしそうに見つめて笑顔を浮かべていた。
歳上の二人と接待の為に用意されていた色っぽい女性たちに囲まれた陽は逃げる道を徐々に塞がれていき、最終的に殺の背中に隠れてしまう。
それが殺を喜ばせると知らずに……。
真も陽を見て「おやまぁ、可愛らしい嫁ですね」などと殺に酒を注ぎながら語りかける。
彼らは酒を飲みながら進展も何もせずに、本当に仕事をする気なのか?やる気があるのか?と訊きたくなるくらい芸子さんたちと遊んでいた。
それに痺れを切らした陽は殺の袖を掴んでから酒を飲むのを一旦止めろと言おうとした。
だが……
「袖を掴んで上目遣いとは……なかなかの甘え上手ですね」
「えっ?ちょっ!違っ!」
そんなこと待ったなしで殺が陽を抱き締める。
その手は振り解けずに彼を力強く包んでいっている。
その光景を見た真や女性たちは固唾を飲みながらも、先の展開が如何なるかと期待に満ちた目で眼前の彼らを見届けようとする。
陽のすぐ目の前に殺の顔が迫っていく、それは接吻を懇願しているかのようにゆっくり……ゆっくりと近づいていった。
そうして、とうとう多人数の中で長くてねっとりとした濃い接吻を果たしてしまった。
陽は息が苦しかったのか涙目で息を乱して殺の腕に抱かれて、そのまま凭れかかっている。
殺は少し酔いが回っていたのだろう、ちょっとだけ赤い顔をあげれば満足したかのように、また酒を飲んでいた。
周りの女性たちは黄色い歓声を上げていて、真にいたっては固まってしまっている。
「……ははは、これは予想以上ですね」
「予想なんてするだけ無駄ですよ。毎回予想をぶっ飛んで来ますからね」
酒を飲んでいないのに赤く蕩けた顔つきの陽を真は思わずおかしな目で見てしまう。
本人も一瞬だけ何を考えているんだと勢いで床を破壊してしまった。
「……何をしているのですか」
「すいません、自分でもよく分かりません」
「弁償代は払いませんよ。それと取り引きの内容」
「……はい」
殺と真は仕事をようやく進めていく。
先ほどまでは仕事をなめているのでは?と思わせるような態度に反して順調に進んでいっている。
それにしても、いつも真面目な殺が仕事を後回しにしようとするとは……。
いや、むしろ旧友の前だったから気を張りすぎないようにした結果なのだろう。
陽は一人、殺を分析しながら用意されていたご飯を頬張っていく。
普段なら絶対に入れないほどの高い値で有名な老舗のご飯を幸せそうに頬張った陽は急に眠たくなって床に倒れこんでしまった。
「おやおや、まだ子供なのですねぇ」
「リスみたいに頬を膨らます姿は本当にレアなのですよ。チッ、仕事に夢中で気づかなかった……」
二人はお互いに微笑ましそうに眠っている陽を眺める。
彼は今、どんな夢を見ているのだろうか?その寝顔は柔らかく微笑みを浮かべていて口元が緩んでいる。
きっと幸せな夢に違いないのだろう。
規則正しい寝息を立てて丸まってゴロゴロと寝ている彼は可愛いの一言に尽きる。
殺と真は即座に携帯を取り出して連写機能を使い写真を大量に撮っていった。
写真を撮り終えれば殺は隣の真を睨んでいた。
「……私、何かやらかしました?」
「いや、何で貴方まで写真を撮っているのかな?と思って。まあ、陽が可愛すぎるのは認めます」
沈黙の時間が流れていく。
それはもう一方的に殺が捕食者としての目を光らせて真を睨みつけているだけだが……真はもはや殺に怯えて動けないでいた。
真と殺は確かに旧友で仲が良い、だからこそお互いに遠慮が無さすぎてお互いのものを勝手に取りあったりするのだ。
そのてんがあるから地味に信頼出来ないのである。
浮気など陽はしないと思うが、もし真が無理矢理に彼を手篭めにしたら……そう思うと殺はいてもたってもいられなかった。
そして真は何故、自分が陽に惹かれたのかを考えてしまって頭が混乱を起こしている。
だが友人の嫁を奪うわけにはいかない。
今までお互いものを奪いあったりしたが今、陽を無理矢理に奪えば確実に殺との喧嘩という名のリアルの殺し合い(一方的)が始まってしまう。
真はそう考えて殺の方向を向いてなるべく平和に終わる言葉を探した。
「……思わず写真を撮っちゃいました。流石は殺様の嫁、友人として嬉しいですよ」
「……ありがとうございます」
どうやら殺し合いは避けれたようだと真は安心をする。
彼は確かに殺とよく取り合いをしていたが流石に今回、陽を取り合えば絶対的に友情にヒビが入るとまともな判断をくだした。
一度でも欲しいと思えば我慢出来なくなるタイプだが今日は我慢出来たと一安心しながらまた仕事を進めていく。
~~~~
「……あとはこれを購入したいですね」
「了解です。仕入れ次第、即座にお届けします」
緩やかに時間が流れる。
彼らは酒を飲みながら昔の話に花を咲かせる。
昔はあの場所で遊んだ、あんなことをした、そんないわゆる普通の思い出。
だがそれは殺にとって幸せな思い出、そんな昔を思い出しながら笑みを浮かべた。
~~~~
「……うーん」
眠りから覚める。
気がつくと先ほどまで宵闇に包まれていた空が光を灯し始めていた。
横たわっていた体を起こせば真が眠っている。
それを見てかなり酒を飲んでしまったのかと陽は呆れ果てていた。
そうして広い部屋を見渡せば殺の姿がない、彼の姿がないだけで陽は不安になってしまう。
不安を覚えた彼は廊下を出て殺を探しに向かった。
「殺!!」
彼は外をずっと見つめていた。
煙管を咥えながら陽の声がする方向へ向き直す。
陽はどんどん殺に近づいていく、それは不安そうな顔つきで。
やっと目の前に来た陽の腕を引っ張り自分の元へと抱き寄せる。
彼はいきなりのことに心拍数をあげながらも殺と目を合わせていた。
「貴方はずっと私から離れないでいてくれますよね……?」
「えっ?あっ、ああ!もちろん!」
「そうですか……良かった」
殺の突然の質問に動揺しながらもしっかりと答える。
殺は陽を抱き締めながら「良かった」と呟いていた。
「……僕はずっとお前の側にいてやる。だからお前もずっと一緒に……居てくれ」
「はい、ずっと一緒です」
彼らは朝日に照らされながら暫くその体を抱き寄せあった。
この幸せが永遠に続くようにと願いながら。
平和がこの世界に訪れるようにと想いながら。
いつか来る恐ろしい未来を変えることを考えて幸せが溢れる世界を望みながら。
0
あなたにおすすめの小説
私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。
MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
ボクが追放されたら飢餓に陥るけど良いですか?
音爽(ネソウ)
ファンタジー
美味しい果実より食えない石ころが欲しいなんて、人間て変わってますね。
役に立たないから出ていけ?
わかりました、緑の加護はゴッソリ持っていきます!
さようなら!
5月4日、ファンタジー1位!HOTランキング1位獲得!!ありがとうございました!
転生したら領主の息子だったので快適な暮らしのために知識チートを実践しました
SOU 5月17日10作同時連載開始❗❗
ファンタジー
不摂生が祟ったのか浴槽で溺死したブラック企業務めの社畜は、ステップド騎士家の長男エルに転生する。
不便な異世界で生活環境を改善するためにエルは知恵を絞る。
14万文字執筆済み。2025年8月25日~9月30日まで毎日7:10、12:10の一日二回更新。
【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。
三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎
長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!?
しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。
ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。
といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。
とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない!
フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!
扱いの悪い勇者パーティを啖呵切って離脱した俺、辺境で美女たちと国を作ったらいつの間にか国もハーレムも大陸最強になっていた。
みにぶた🐽
ファンタジー
いいねありがとうございます!反応あるも励みになります。
勇者パーティから“手柄横取り”でパーティ離脱した俺に残ったのは、地球の本を召喚し、読み終えた物語を魔法として再現できるチートスキル《幻想書庫》だけ。
辺境の獣人少女を助けた俺は、物語魔法で水を引き、結界を張り、知恵と技術で開拓村を発展させていく。やがてエルフや元貴族も加わり、村は多種族共和国へ――そして、旧王国と勇者が再び迫る。
だが俺には『三国志』も『孫子』も『トロイの木馬』もある。折伏し、仲間に変える――物語で世界をひっくり返す成り上がり建国譚、開幕!
バーンズ伯爵家の内政改革 ~10歳で目覚めた長男、前世知識で領地を最適化します
namisan
ファンタジー
バーンズ伯爵家の長男マイルズは、完璧な容姿と神童と噂される知性を持っていた。だが彼には、誰にも言えない秘密があった。――前世が日本の「医師」だったという記憶だ。
マイルズが10歳となった「洗礼式」の日。
その儀式の最中、領地で謎の疫病が発生したとの凶報が届く。
「呪いだ」「悪霊の仕業だ」と混乱する大人たち。
しかしマイルズだけは、元医師の知識から即座に「病」の正体と、放置すれば領地を崩壊させる「災害」であることを看破していた。
「父上、お待ちください。それは呪いではありませぬ。……対処法がわかります」
公衆衛生の確立を皮切りに、マイルズは領地に潜む様々な「病巣」――非効率な農業、停滞する経済、旧態依然としたインフラ――に気づいていく。
前世の知識を総動員し、10歳の少年が領地を豊かに変えていく。
これは、一人の転生貴族が挑む、本格・異世界領地改革(内政)ファンタジー。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる