地獄の日常は悲劇か喜劇か?〜誰も悪くない、だけど私たちは争いあう。それが運命だから!〜

紅芋

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敵の存在と不幸の鬼の真実

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 とても昔のこと、俺は五人の英雄の一人の赤髪の子供に祓われて生肝を食いっぱぐれてしまった。
 その後は自分の住処に戻り、ずぅーっと怒りで満たされ胃に穴でもあくんじゃないのかと思う程の剣幕だったそうな。
 嗚呼、思い出しただけでも腹がたつ。
 苛々しながら刀を研いでいるとある人物が話しかけてくる。
 そう、とても鬱陶しい女が……。

「罪く~~ん」

 ねっとりとした気持ち悪い声。
 俺は無視を決め込むが、そんな抵抗をしてもしつこさのあまり思わず無意識に殴りかかってしまう。
 だが女はいとも簡単に攻撃を避けて殴りかかった腕を掴み「腕、折ろうかな~~?」などと脅してくる。
 勿論、この女に力も技術も敵う筈がない。
 俺は溜め息を一つ吐いて女と目を合わせた。

「邪先輩、すいませんでした」

「わかればよろしい~~!」

 邪先輩はご機嫌そうにクルクル回る。
 普段は機嫌が悪いのに何故か今日は絶好調といった感じで周囲の仲間もギスギスとした一触即発の空気に包まれていない。
 何かあったのだろうか?
 そう疑問に思っていれば邪先輩が「あ、ごっめ~~ん!情報を回し忘れてたわ!」とウザいテンションで顔を近づけてきた。

「何で俺に情報が回らないんですか!?一応幹部ですよ!?」

「五人の英雄の子供に祓われる幹部」

「うっ……!」

 馬鹿にされているが事実だから何も言えない。
 仕方なく俺は下手に回り俺のもとに回らなかった情報を静かに聞くことにした。
 邪先輩がにんまりと口角を上げる。
 切り裂かれたかのように広がる口はまるで化け物だ。

「翠様が蘇られたの~~!!」

「なっ!それ重大なことじゃないですか!!」

「あ、蘇ったのは意識だけよ~~!それでも大収穫よね!!」

「如何やって蘇らせたんですか?」

「簡単よ~~、私の血を捧げたのよ」

 邪先輩は笑う。
 そういえば封印にもいろんな種類がある……強者の血を捧げれば少し弱まるタイプのだったのだろうか?
 だが、封印されていた翠様は行方不明だった。
 誰が探し当てたのか……?

「僕が見つけました」

 か細い声が聞こえた。
 声の方を向くと華奢で小柄な可憐な少女が佇んでいた。
 其の少女のあまりの美しさに俺は声が奪われてしまう。

「俺も協力したんだけどなぁ」

 少女の背後から大人の男が現れた。
 黒いコートに身を包み栗色の髪が存在感を主張する。
 そういえば少女も栗色の髪だ、顔立ちもどこかこの男に似ている……双子か?
 そう考えていれば二人が自己紹介をしてくる。

「初めまして、俺は砲牙。以後よろしく」

「僕の名前は龍牙……一応だけど僕たちは貴方の上司……」

 嘘だろ。
 上司が増えるなんて……。
 プライドがズタズタに引き裂かれる。
 怒りが込み上げて顔に出かかったそのとき、更に嘲笑と煽りが周りから向けられる。
 邪先輩も「そんなに苛つくなら実力を示したら~~?嗚呼、そんな実力もないの?赤髪の子供にやられた程だもんね~~」と調子に乗って煽ってきた。

 俺は怒りに身を焼かれて力を発動させる。
 その瞬間、幹部でもない雑魚共は焦り始めた。
 あれだけ俺を煽っておいていざ攻撃準備をすりゃあそれだけで慌てふためくなんて人を馬鹿にする暇があったら強くなれっての。

「あら~~!本当は強いじゃない!それだけあれば充分すぎるわ!」

「ふむ、まだ本気を出してないようだね……。それでも周りの者が立ってられなくなる程の風の力、最高じゃないか!」

「僕でもなかなかお目にかかれない程の実力の持ち主だな……ならば何故に子供なんかに?」

 龍牙が質問してくる。
 それに対し俺は大声で叫んだ。

「あんたらは初対面だから知らないだろうが、邪先輩は知ってますよね!?あのとき様々な妨害術を受けていて力が出なかったって!!」

「なんかそんな話……聞いたような~~?」

「すっとぼけ!?」

 俺は一旦力を抑える。
 まさかここまで先輩が駄目な馬鹿女だったなんて……そんな奴が上司っていうのも腹がたつ。

「罪先輩……」

 幹部の中で唯一の後輩、悪クンが俺に話しかけてくる。
 疲れた顔は俺には似合わないし、それに後輩の前ではかっこよくいなければならない。
 どこぞの馬鹿女上司と俺は違うんだ、後輩に苦労はかけてやらない。
 可愛い子には旅をさせろではなくて、可愛い子はずっと可愛がれっていうタイプが俺だ。

「何だよ?悪クン」

「罪……強くなったな。我は誇らしいぞ」

 とても懐かしい声が響いた。
 ずっと聞きたかった大好きな声が響く。

「この声は翠様!?どこですか!?」

「あの、罪先輩、俺ちゃんが持ってる水晶の中に翠様が宿っているんですよ……まだ実体がないので」

「なるほどな」

 一人納得しながら水晶を覗き込む。

「可愛い我が子の顔が近づいてきてるな」

 水晶の中から声が出てくる、間違いなく翠様はこの中に居るんだろうな。
 お体が滅ぼされるなんて……あの忌々しい女鬼め!憎い!
 あの女鬼が全て悪いんだ!翠様の妹のくせに勝手に翠様の世界を略奪するなんて!

 俺たちが住んでいた時代、遥か昔の時代は完全完璧が集う世界だった。
 だがあの女鬼は兄である翠様を裏切って不完全という人間や神を創った。
 あの女鬼は翠様に許されたのに何を思ったか、翠様をズタボロにする。

 俺たちはそんな女鬼を止められなかった……。
 だが翠様は封印される直前に立派なことをなさってくれた!
 それはあの女鬼に罰を与えたことだ。
 女鬼が創った女鬼にとって大事な世界。
 それを破滅へと導く呪い。
 女鬼め!ざまあみろ!
 これでお前は正真正銘の不幸を呼ぶ鬼、不幸の鬼になったんだ!

 でもそれだけでは許せない。
 俺たちの体や翠様の体を奪い、世界を、大切なものを奪った不幸の鬼を許せない。
 俺は……昔の皆が笑顔だった時代を取り戻したいんだ……!

「罪……そんなに顔を歪めるな」

「ですが翠様!」

「あの妹は少し間違えただけだ。反省はしているだろう。今度は逆襲の時間……奴等を皆殺して世界を創り直そうぞ、我が子等よ!!」

 翠様はあの鬼をまだ信じている。
 なんと優しいことか……。

「はい~~!奴等を殺して完全な存在しかいない世界を手に入れましょう」

「僕も……完全な存在……しかいない世界……がいい……」

「龍牙と一緒の考えでありまーす!」

「俺ちゃん頑張りまっす!」

 そう、この世界は翠様が望む通り完全な存在しか要らない。
 俺たちが知らないところで人間という存在を創り招き入れて『完全なんて要らない。悩み、苦しみ、間違った答えを出しても、それでも生きる存在こそ私は生きていると思う』などと馬鹿みたいな言葉を残したあの女鬼はもういないんだ。

 もう、不完全な神や人間も滅ぼして完全な世界を創りあげる。
 この世界には翠様と、その子供の俺たちしか要らない。
 世界は翠様が再び統一するんだ。
 邪魔ではあるが五人の英雄なんて一瞬で蹴散らせる。
 まあ、精々足掻いてみせろって感じだな。

 ところで、龍牙と砲牙は一体何者だ?

「あれも我が子だ」

 翠様はそう答えた。

「我の妹の所為で生まれることが出来なかったのだ。お前の妹と弟だ、可愛がってやれ」

 ……言えない、あの二人が上司になったとは言えない。
 取り敢えず俺は静かに頷いてその場を去った。

 忙しくなるこれからに備える為に……。
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